「第一生命京橋キノテラス」竣工――高さ56mの木造ハイブリッド、オフィスビルとして日本一に

第一生命京橋キノテラス 高さ56mの木造ハイブリッドビル | Forest Eight
📌 この記事のポイント

  • 第一生命保険と清水建設が東京都中央区京橋二丁目に建てた木造ハイブリッド構造の賃貸オフィスビル「第一生命京橋キノテラス」が2025年7月18日に竣工。地上12階・地下2階、高さ56m、延床面積16,151.25㎡で、木造ハイブリッド構造のオフィスビルとして竣工時点で日本一の高さ
  • 要求耐火時間は建築基準法施行令第107条が階数だけで決める。設計当時の区分では8階から地下2階までの10層に2時間耐火が必要で、この一点のために清水建設は「ハイウッドビーム 2時間耐火仕様」を新規開発した。着工3か月前の2023年4月に同条は30分刻みへ改正され、現行の区分なら中間の5層は90分で足りる。
  • 梁はH形鋼を芯材にして木で覆う「耐火木鋼梁」、柱は木を芯材にして石膏で守る「スリム耐火ウッド」。木と鉄のどちらが構造を担うかが部材ごとに違うのが、この建物の設計上の勘所。
  • 17mスパンの大梁と、外周の梁をなくした細柱によって40m×17mの無柱空間を確保。耐震壁はCLT+鋼材ブレース、床はCLTを型枠兼化粧材にしたRC合成スラブという構成。
  • 国産材約1,100m³約740t-CO2を固定し、鉄骨材の約70%を電炉材に。同規模鉄骨造比約37.5%のCO2削減とするが、算定条件は非公表。統一の物差しは2028年度開始予定のライフサイクルカーボン評価制度を待つことになる。

高さ56m、地上12階建て。鉄骨造やRC造ならさほど驚かない規模ですが、この建物は木造と鉄骨造のハイブリッド構造です。第一生命保険と清水建設が東京都中央区京橋で建設していた「(仮称)京橋第一生命ビルディング」が、「第一生命京橋キノテラス」として2025年7月18日に竣工しました。木造ハイブリッド構造のオフィスビルとしては、竣工時点で国内最高の高さです。第一生命にとっては、2022年度竣工の「TDテラス宇都宮」に次ぐ2例目の木造ハイブリッド建築にあたります。

竣工リリースは「木材使用量」「CO2削減率」といった数字を前面に出しますが、この建物の面白さはもっと構造の内側にあります。なぜ2時間耐火が必要だったのか。梁と柱で木の使い方がまったく違うのはなぜか。40m×17mの無柱空間は、何がどう効いて成立しているのか。本稿はそこを、断面図と法令の条文にまで降りて解きほぐします。

この記事の流れ
① 建物の概要 → ② なぜ2時間耐火だったのか(法令の話) → ③ 柱と梁の断面はどうなっているか(部材の話) → ④ 40m×17mの無柱空間の成立(架構の話) → ⑤ 構造・設備から見た難所(実務の話) → ⑥ 大臣認定という制度 → ⑦ 環境性能の数字 → ⑧ 高さの位置づけと編集部の視点
目次

建物の概要

名称 第一生命京橋キノテラス
所在地 東京都中央区京橋二丁目4-12(東京メトロ銀座線「京橋」駅直結)
事業者 第一生命保険株式会社(管理:株式会社第一ビルディング)
設計・施工 設計=清水建設一級建築士事務所/施工=清水建設・日本建設共同企業体(技術協力=清水建設)
規模 地上12階・地下2階、建物高さ56m
敷地面積/延床面積 1,322.24㎡/16,151.25㎡
構造 鉄骨造、一部木造(清水建設「シミズ ハイウッド®」を適用)
主要用途 オフィス、店舗(基準階に40m×17mの木質無柱空間、各階にテラス、1〜2階に屋外ピロティ)
工期 2023年7月着工/2025年7月18日竣工(工期約2年)
木材使用量 約1,100m³(東京都多摩産材を含む国産材/オフィスビルとして国内最大級)
補助事業 国土交通省「令和4年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」採択(保険業界初)

なぜ「2時間耐火」でなければならなかったのか

要点:耐火時間は用途でも構造でもなく、最上階から数えた階数だけで決まる。しかもその区分は、この建物の着工の3か月前に木造のために作り替えられた

木造の高層化を語るとき「何階まで建てられるか」という言い方をしますが、設計者が実際に向き合うのは階数そのものではなく、建築基準法施行令第107条が定める要求耐火時間です。主要構造部(壁・柱・床・はり)に求める耐火時間を、最上階から数えて何層目かだけで機械的に決める条文です。

ここで押さえておきたい点が二つあります。一つは地階の扱い。同条の表の備考には、この表の階数の算定については施行令第2条第1項第八号の規定にかかわらず、地階の部分の階数は全て算入すると明記されています。地下2階は最上階から数えて13層目・14層目として扱われ、当然に上層より厳しい側に入ります。逆に、階数に算入されない屋上部分(塔屋)は、最上階に含めて数えます。

もう一つは2023年の改正です。令和5年政令第34号により、2023年4月1日から要求耐火時間の区分が60分刻みから30分刻みへ精緻化されました。国土交通省が挙げた理由は「木造による耐火設計ニーズの高い中層建築物に適用される耐火性能基準を合理化することで木材利用の促進を図る」こと。まさにキノテラスのような建物のための改正です。これにより、最上階から数えて5〜9層目には1.5時間=90分、15〜19層目には2.5時間という区分が新設されました。

令107条の要求耐火時間を当てはめる 2023年4月に区分が30分刻みへ精緻化された 改正前 現行 12F 11F 10F 9F 8F 7F 6F 5F 4F 3F 2F 1F B1 B2 1時間 2時間 8F〜B2の10層 この要求に対して 新技術が開発された 1時間 12F〜9F 1.5時間(90分) 8F〜4F 2時間 3F〜B2の5層 条文で押さえる3点 ・地階は全て算入する(表の備考二)。地下2階は上から13・14層目。 ・階数に算入されない屋上部分(塔屋)は最上階に含める(備考一)。 ・柱とはりは20層以上で3時間。壁と床は2時間で頭打ちになる。
図1:建築基準法施行令第107条第1項第一号の表(令和5年政令第34号による改正後)と、本建物への当てはめ。

現行の区分に当てはめると、地上12階・地下2階=全14層のこの建物は、上から4層(12〜9階)が1時間、次の5層(8〜4階)が1.5時間=90分、残る5層(3階〜地下2階)が2時間になります。2時間耐火が要るのは下の5層だけです。ちなみに柱とはりで3時間が要求されるのは20層目以降なので、この規模では出てきません。

ところが、この改正の施行は2023年4月1日。本物件の着工は同年7月1日で、確認申請はそれ以前に出ています。設計と改正の時期がほぼ重なっており、公表資料からはどちらの区分で設計されたかは読み取れません。ただ、清水建設が本計画のために「ハイウッドビーム 2時間耐火仕様」をわざわざ新規開発したという事実は、改正前の区分――すなわち5層目から14層目までが一律2時間、この建物でいえば8階から地下2階までの10層に2時間が要求される――のもとで設計が進んだことを示しています。

つまりこの建物は、制度が緩む数か月前に、緩む前の要求を技術で越えたことになります。木質耐火部材のコストと断面は被覆の厚みにほぼ比例しますから、2時間と90分の差は小さくありません。技術と制度が同じ方向へ動いていて、たまたま技術のほうが数か月早かった。「日本一の高さ」という結果は、この2時間耐火の壁を越えたことの言い換えでもあります。

なお、そもそもこの建物が耐火建築物である理由は立地にもあります。中央区は浜離宮恩賜庭園(準防火地域)を除く全域が防火地域に指定されており、建築基準法第61条により、防火地域内で階数3以上または延べ面積100㎡超の建築物は耐火建築物(または同等以上の延焼防止性能をもつ建築物)とすることが求められます。耐火関連の法改正を時系列で整理した記事で触れたとおり、木造の要求は「規模(第21条)・用途(第27条)・立地(第61条)」の3軸で決まります。都心の商業地に建つ12階建てオフィスは、木造か否かに関係なく最初から耐火建築物一択です。

柱と梁で、木の役割がまるで違う

要点:梁はH形鋼が構造を担い木が仕上げ兼耐火被覆。柱は集成材が構造を担い石膏が守り手。同じ「木質耐火部材」でも中身は正反対。

「シミズ ハイウッド®」は、木材・鉄骨・コンクリートを適材適所に組み合わせる木質ハイブリッド構法の総称です。本計画では新開発の3技術に加え、既存の耐火部材「スリム耐火ウッド」が適用されています。部材ごとに整理すると次のようになります。

部位 技術名 構造を担うのは 木の役割
大梁
(17mスパン)
ハイウッドビーム
(耐火木鋼梁・2時間耐火仕様)
H形鋼(鉄骨) 耐火被覆+化粧材
(17mスパンに適用)
柱・その他の梁 スリム耐火ウッド
(柱・梁/1・2時間耐火)
構造用集成材(木) 芯材そのもの
(燃え止まり層で保護)
耐震壁 ハイウッドウォール
(CLTハイブリッド耐震壁)
CLT+鋼材ブレース 圧縮力を負担
(引張は鋼材ブレース)
ハイウッドスラブ
(RC-CLT合成床・サポートレス工法)
鉄筋コンクリート 型枠兼化粧材
(打設後もそのまま残す)

上の2行を見比べると、この建物の設計思想が浮かび上がります。17mを飛ばす大梁では鉄が構造を担い、木が守る側にまわる。柱では木が構造を担い、石膏が守る側にまわる。同じ「木質耐火部材」という言葉でくくられていても、断面の中身は真逆です。

断面で見る「木と鉄の役割分担」 大梁:ハイウッドビーム(耐火木鋼梁)――芯材はH形鋼 上フランジ 下フランジ ウェブ 梁成 木製被覆材=燃えしろ層(木の現し仕上げ) 強化せっこうボード=燃え止まり層 H形鋼=芯材(構造耐力を負担) 曲げモーメントはフランジ、せん断力はウェブが 主に負担する。梁成が大きいほど長スパンに強い。 本物件では17mスパンの大梁に適用された。 柱:スリム耐火ウッド――芯材は構造用集成材 燃えしろ層 15mm 燃え止まり層 55mm 構造用 集成材 燃えしろ層 15mm(集成材の現し) 燃え止まり層 55mm(強化せっこうボード2枚+耐火シート) 芯材=構造用集成材(構造耐力を負担) 耐火シートは常温で2mm。約250℃に達すると 20倍程度に発泡し、薄い被覆のまま2時間耐火を 成立させる。柱が太らないので貸室面積が減らない。 公表されている仕様の数値 ・ハイウッドビーム1時間耐火認定(2020年)の適用範囲=梁成350〜1,000mm、ウェブ厚12mm以上、  フランジ厚19mm以上、能登ヒバ集成材80mm被覆。2時間耐火仕様の寸法条件は非公表。 ・スリム耐火ウッド柱の2時間耐火認定(2018年)=燃え止まり層55mm・燃えしろ層15mm。 ・「ハイウッドビーム2時間耐火仕様」は木製被覆材+燃え止まり層のせっこうボードで構成。
図2:清水建設の公表資料をもとに編集部作成の概念図。層厚・断面寸法は認定仕様により異なり、本物件で実際に採用された寸法は公表されていない。
用語ミニ解説

  • H形鋼――断面がアルファベットのHの形をした鋼材。上下の水平部分をフランジ、それをつなぐ垂直部分をウェブと呼ぶ。曲げモーメントはフランジが、せん断力はウェブが主に負担するため、材料を効率よく使えて長スパンの梁に向く。梁の高さ(梁成)が大きいほど曲げに強い。
  • 燃えしろ設計――木の表面が燃えて炭になっても、内部は健全なまま残る性質を使い、あらかじめ「焼けてもよい厚み」を断面に上乗せしておく設計法。
  • 燃え止まり層――炭化の進行そのものを止めるための層。石膏ボードやモルタルなど不燃・準不燃の材料を使う。燃えしろ設計が「時間を稼ぐ」のに対し、燃え止まり層は「止める」。
  • CLT――ひき板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層接着した厚型パネル。面内・面外ともに強く、壁や床として使える。

木は「燃えるから使えない」のではなく「燃え方が計算できるから使える」

木質耐火部材は、外側から燃えしろ層/燃え止まり層/芯材の3層で考えるのが基本形です。この3層モデルを理解すると、なぜ木が耐火建築物の主要構造部になれるのかが見えてきます。

木質耐火部材の3層モデル 火災 火災 燃えしろ層 木(現し) 燃え止まり 芯材(構造耐力を負担) 集成材、または鉄骨(H形鋼) 燃え止まり 燃えしろ層 木(現し) ① 燃えしろ層 表面が炭化する。炭化層は熱伝導率が低く、断熱材として働く。 告示の燃えしろ設計では、構造用集成材で45分準耐火に25〜30mm、 1時間準耐火に45〜60mmを見込む。毎分およそ0.6〜1.0mm相当。 ② 燃え止まり層 炭化の進行をここで止める。強化せっこうボードや耐火シート。 2時間耐火では層厚が増える。薄くできるかが技術競争の焦点。 ③ 芯材 構造耐力を負担する部分。ここが加熱されなければ倒れない。 スリム耐火ウッドは集成材、ハイウッドビームはH形鋼が芯材。 鋼材は500〜600℃で耐力が大きく落ちるので被覆は必須になる。
図3:木質耐火部材の一般的な3層構成。燃えしろ寸法は平成12年建設省告示第1358号(45分準耐火)および令和元年国土交通省告示第195号(1時間準耐火)による。

ここで押さえておきたいのは、燃えしろ設計と燃え止まり型耐火構造は別物だということです。燃えしろ設計は準耐火構造までの手法で、告示に数値が書かれています。一方、耐火構造(1時間以上)で求められるのは加熱終了後も自然に鎮火し、内部で燃え続けないこと。試験では加熱をやめたあとの温度追跡まで行われ、ここを通すために燃え止まり層が要ります。木を耐火建築物に使う難しさは、燃えている最中よりむしろ「火を消したあと」にあるわけです。

40m×17mの無柱空間は、何で成立しているか

要点:17mを飛ばすのは鉄骨の大梁。外周は梁をなくして細柱に。地震力はCLT耐震壁が引き受ける。

基準階(5〜12階)の執務空間は、南北に視線が抜ける40m×17mの無柱空間です。第一生命・清水建設のリリースは、この空間について「引張力に強くロングスパンに対応可能な鉄骨材と、圧縮力に強い木材の強みを活用」と説明しています。教科書的な言い回しですが、実際の部材配置に落とすと次のようになります。

役割分担を整理すると、鉛直荷重(人・什器・床の重さ)は17mスパンの耐火木鋼梁と木質耐火柱が水平力(地震・風)はCLTハイブリッド耐震壁が受け持ちます。床は、CLTを型枠兼化粧材として敷いた上にコンクリートを打つRC-CLT合成スラブ。柱・梁・壁・床のそれぞれで、木と鉄とコンクリートの担当が入れ替わる構成です。

注目したいのは外周部の扱いです。清水建設は本物件について「外周部の梁をなくし、細柱を採用することで、高い開放性と眺望をもつ窓廻りを実現」と説明しています。通常、外周に梁を回せば構造的には楽になりますが、窓の上に太い梁型が出て眺望が犠牲になる。ここを17mスパンの大梁で内側から支える構成に切り替えたことで、「木を見せる」ことと「外を見せる」ことが両立しています。隣接する大型再開発「東京スクエアガーデン」のオープンスペースに面するという立地が、この判断を後押ししたと読めます。

ちなみにCLTを鉄骨架構に組み込んで耐震壁にするという考え方は、清水建設だけのものではありません。日本建築学会では「CLT耐震パネルを組み込んだ鉄骨ハイブリッド構造の設計事例と抽出された課題」(技術報告集、2020年)が、鉄骨フレームはCLT耐震壁がなくても鉛直荷重を支持できるため長スパン梁が使える、という組み合わせの利点を整理しています。実大の架構実験による検証も「CLT壁と鉄骨架構によるハイブリッド構造システムの提案と架構実験による耐震性能の検証」(構造工学論文集B、2024年)などで積み重ねられてきました。

設計法の整備も進んでいます。日本CLT協会は2026年2月に「鉄骨造に用いるCLT耐震壁 設計指針(案)」をまとめており、せん断力は鋼板挿入ドリフトピン接合で梁とCLTパネルのあいだを伝え、圧縮力は鉄骨梁に設けた受けブラケットで伝える、壁脚部には約30mmのクリアランスを設けて無収縮モルタルで充填し施工誤差を吸収する――といった納まりのレベルまで踏み込んでいます。同協会は2024年2月に「鉄骨造の床にCLTを用いる設計ガイドブック」(仮称)も出しました。耐震壁と床については、部材レベルの設計法の標準化が耐火より一歩先に進んでいると言えます。

施工面ではハイウッドスラブ・サポートレス工法が効いています。CLTを床型枠として使う場合、従来はCLTを下から支える支保工を階下に立てる必要があり、下階の作業が止まりました。新工法では梁にLアングルの支持材を取り付けてCLTを載せるため、支保工が要らない。工期2年でこの規模の木質ハイブリッドを成立させた背景には、こうした施工技術の積み上げがあります。

構造・設備の実務から見ると、どこが難所か

要点:木を現しにするほど、天井裏と法規のやりくりが厳しくなる。木質ハイブリッドの勝負どころは、耐火認定を取ったあとにある。

ここまでは公表資料で追える範囲の話でした。ここからは視点を変えて、この構法でオフィスを成立させるとき、構造設計と設備設計にどんな負荷がかかるのかを整理します。本物件が個々の課題を具体的にどう解いたかは公表資料からは読み取れないため、以下は一般的な論点として読んでください。

構造:柱を減らすことは、壁で持つことの裏返し

外周に梁を回さないという選択は、眺望と引き換えに構造的な負担を内側へ寄せます。外周構面がラーメンとして水平力を負担しにくくなる分、地震力と風圧力はコアとCLTハイブリッド耐震壁に集中します。壁の位置と量が平面計画をそのまま拘束するため、「柱を減らす」判断は「壁で持つ」判断とセットです。テナントの間仕切り自由度は柱ではなく壁で決まる、という言い方もできます。

次に17mスパンの床の振動です。スパンが長いほど床の固有振動数は下がり、歩行による揺れが居住性の問題になります。この建物の床がCLT単体ではなくRC-CLT合成スラブである点は、耐火・遮音だけでなく、コンクリートの質量と剛性で振動を抑えるうえでも理にかなっています。「木造化=軽量化」は床については必ずしも正解ではありません。

三つ目は耐火被覆が断面を太らせることです。ロックウール吹付なら数十mmで済む被覆が、木製被覆+せっこうボードでは一回り大きくなります。梁成1,000mm級の大梁に被覆が付けば、その分だけ天井内に使える寸法が減る。木を見せる判断は、階高というもっとも高価な資源を使う判断でもあるわけです。加えて、木質耐火部材は継手・仕口が弱点になりやすく、令和元年国交省告示第195号でも接合部の燃えしろが本体とは別に規定されています。部材単体で2時間耐火であることと、接合部まで含めて建物として成立させることは別の設計です。

なお、「木造化すると建物が軽くなって地震に有利」という一般論を、この構法にそのまま持ち込むのは危うい。鉄骨に木を巻く構法である以上、鉄骨造より軽くなるとは限りません。軽量化のメリットを語れるのはPort Plusのような純木造の側であって、木質ハイブリッドの利点はむしろ「長スパンと耐火を両立しながら木を見せられる」ことにあります。

設備:天井を張らないビルで、ダクトはどこを通るのか

第一生命のリリースには「主要構造部の天井や梁に使用した木材を積極的に内装デザインにも活用」とあります。設備設計の立場でこれを読むと、意味するところは一つ――通常のオフィスが当たり前に使っている天井裏が、そのぶん使えないということです。

論点 何が起きるか 解き方の選択肢
天井懐 梁を現しにすると天井が張れず、空調ダクト・スプリンクラー配管・ケーブルラック・照明配線の行き場がなくなる OAフロア側へ寄せる/露出配管を意匠として取り込む/梁と梁の間だけ部分的に天井を張る
内装制限 事務所でも階数3以上・延べ面積500㎡超なら施行令第128条の5の内装制限がかかる 大臣認定の内装材/スプリンクラー等の設置による適用除外/避難安全検証法
高層区画 11階以上は施行令第112条により原則100㎡ごとに区画。面積緩和の条件が内装の不燃化なので、木を見せる面積と競合する 内装を準不燃で200㎡・不燃で500㎡まで緩和/スプリンクラー設置部分は床面積を1/2で算入
湿度管理 木の現し面は含水率の変化で干割れや目地の開きが出る。冬季の過乾燥がとくに効く 加湿を含めた空調運用。ただし個別空調のオフィスではテナント側の運用に委ねられる部分が大きい
更新性 空調・照明はおおむね15〜20年で更新期を迎える。天井のない空間では更新のたびに木の現し面に手が入る 長期修繕計画に意匠の保全を組み込む/更新頻度の高い機器を露出部から外す

この課題を先に引き受けた建物があります。竹中工務店が2021年に銀座へ建てたHULIC &New GINZA 8――日本初の耐火木造12階建て商業施設です。耐火集成材の柱・梁に加えてCLTを現しの天井面として見せる構成で、床のCLTがそのまま下階の天井になるという考え方はキノテラスのRC-CLT合成床と同じです。ただし編集部が現地で見たかぎり、そのCLTの天井面には空調やスプリンクラーの設備が取り付いており、せっかくの木質面の魅力はかなり隠されていました。天井を張らないことと、天井面が美しく見えることは、自動的にはつながりません。

キノテラスがこの点をどう解いたかというと、床吹き出し空調です。公表されている基準階の断面図には「床吹き出し空調」と明記され、床側から空気が立ち上がる矢印が描かれています。清水建設は「フロアフロー」という床吹出し空調技術を持っており、OAフロアそのものを風洞として使うことで、天井側のダクト工事そのものを減らせる。空調機とダクトが天井から降りてこなければ、木質面は素直に見えます。

同じ断面図には、天井に見えている梁が「スリム耐火ウッド」として示され、窓廻りは「開放性の高い窓廻り」と注記されています。執務室の天井高は約2,800mm。天井を張らずに梁を見せながら、なおこの天井高を確保できているのは、設備を床側へ回した効果と読めます。設備を後から納めるのではなく、木を見せるために設備方式を先に選んだ――この順序こそ、キノテラスのいちばん実務的な達成かもしれません。

記録をつくるのは構造ですが、木を見せ続けられるオフィスにするのは設備です。「木造で何mまで建てられるか」の次に来るのは、実務的にはこちらの問いのほうだと思います。

2時間耐火はどう認められたのか――大臣認定という制度

要点:2000年施行の性能規定化で個別認定の道が開いた。ただし認定の中身は各社の技術情報として非公開のまま。

「木は燃える」という直感と、「木造で2時間耐火の12階建てが建つ」という事実。この橋渡しをしているのが、建築基準法に基づく国土交通大臣認定です。仕様規定(決められた作り方どおりなら適合)に加え、実験と検証で要求性能を満たすことを個別に認定する経路が、1998年改正・2000年6月施行の性能規定化で明確に開かれました。木造の耐火建築物が現実的な選択肢になった出発点です。

その後、2時間耐火の認定は各所で積み上がってきました。

時期 できごと
2000年6月 改正建築基準法施行(性能規定化)。大臣認定による個別技術の道が開く
2015年 清水建設が木質耐火柱「スリム耐火ウッド」を発表(菊水化学工業と共同開発)
2017年3〜5月 日本木造住宅産業協会が2時間耐火構造の性能評価試験に合格(3月)、4月からマニュアル講習会を開始し、5月に大臣認定を取得。最上階から14階以下の設計が可能に
2018年 スリム耐火ウッド柱が2時間耐火認定を取得(燃え止まり層55mm・燃えしろ層15mm)
2020年 清水建設が能登ヒバ集成材80mm被覆の耐火木鋼梁で1時間耐火認定。梁成350〜1,000mmに対応
2024年12月 日鉄エンジニアリングが野村不動産と共同開発した木鋼ハイブリッド梁で2時間耐火認定(集成材+高耐熱性無機繊維フェルト)
2025年7月 ハイウッドビーム2時間耐火仕様を適用した本物件が竣工

ただし、公表資料を確認するかぎりハイウッドビーム2時間耐火仕様の大臣認定番号や試験条件、実際に採用された断面寸法は開示されていません。認定番号自体は確認申請図書に記載される情報ですから秘密ではありませんが、各社が広報で番号や仕様の詳細まで出すことは稀です。裏を返せば、「2時間耐火」という数字だけを見て他社技術と横並び比較することはできず、どの部位(柱・梁・床・接合部)にどの仕様が、どの寸法範囲で適用されているかを設計者・発注者が個別に確認する必要がある、ということでもあります。

学会ではまだ「発展途上」の技術領域

この分野は、日本建築学会でもいま研究が進んでいる現在進行形のテーマです。学会の防火本委員会のもとには「木質構造の耐火性能小委員会」が置かれ、木質部材の燃焼・燃え止まり性状や、構造体・接合部の火災時性能評価手法の整理が続けられています。

論文集にも、「2時間耐火性能を有する燃え止まり型木質耐火構造梁における燃え止まり層の材積の最小化」(2021年)や、「木造高層化に向けた燃え止まり型木質耐火構造梁の耐火性能の高度化と断面制御の両立」(2024年)が発表されています。後者の副題は「難燃薬剤処理スギを用いて3時間耐火性能を確保する断面構成の把握及び軽量化の検討」。2時間の先、3時間耐火と部材の軽量化がすでに研究の射程に入っているわけです。

逆にいえば、キノテラスの2時間耐火仕様は学会研究の最先端がようやく実務に降りてきた段階の技術であり、汎用的に確立した「枯れた工法」ではありません。「竣工時点で日本一」という記録が付いてまわるのは、技術がまだ発展途上であることの裏返しでもあります。

数字で見る環境性能――計画値と竣工値のあいだ

1,100
木材使用量(多摩産材を含む国産材)
オフィスビルとして国内最大級
約740t-CO₂
木材利用によるCO2固定化量
約37.5%
同規模鉄骨造比のCO2排出削減率
約70%
使用鋼材に占める電炉材
(リサイクル鋼材)の比率

約37.5%という削減率は、木材によるCO2固定化(約740t分)鋼材の脱炭素化(電炉材の高比率採用)を合算した数字です。木材を鉄骨に置き換えるだけでなく、残る鉄骨部分でもリサイクル鋼材の比率を上げる「両にらみ」になっている点は、木造化一辺倒ではないアプローチとして評価できます。

興味深いのは、計画発表時(2023年2月)の数字から竣工時にすべて上振れしていることです。

項目 計画時(2023年2月) 竣工時(2025年7月)
木材使用量 約1,000m³ 約1,100m³
CO2固定化量 約710t 約740t-CO2
CO2削減率 約20%以上 約37.5%

削減率が20%以上から37.5%へ大きく動いたのは、木材量の増加だけでは説明がつきません。竣工リリースが挙げる電炉材の約70%採用が、計画段階の見込みには十分織り込まれていなかったと考えるのが自然です。つまりこの数字の増分の相当部分は、木ではなく鉄の側の脱炭素によるものである可能性が高い。「木造化でCO2が4割近く減った」と読むのは、やや踏み込みすぎです。

そしてもう一点。算定方法(原単位・計算範囲)が公表資料に示されていません2026年7月24日に成立した改正建築物省エネ法により、延べ面積5,000㎡以上の事務所などは着工の14日前までにライフサイクルカーボンの評価結果を国へ届け出る義務を負い、国が統一の算定ルールを定めます(制度開始は2028年度を予定)。延床16,151.25㎡のキノテラスは、制度が動いていれば当然に対象規模です。「約37.5%削減」のような数字が、任意の環境アピールから、統一ルールに基づく届出上の数字に置き換わっていくのがこれからの数年になります。

高さ56mはどの位置にあるか

木造・木質ハイブリッド建築の高さ比較 90m 60m 30m 0m 86.6m Ascent MKE 米・2022 85.4m Mjostarnet ノルウェー・2019 56m 京橋キノテラス 日本・2025 44m Port Plus 日本・2022 木質ハイブリッド(今回) 純木造(主要構造部をすべて木で構成) 海外の木造高層(コアや床にRCを併用) ※60mの破線は建築基準法第20条第1項第一号の境目。 これを超えると時刻歴応答解析と大臣認定が必要になる。
図4:各社公表資料およびCTBUHの発表をもとに編集部作成。高さの定義は事業者・国により異なる場合がある。

純木造の国内記録は、大林組が横浜に建てたPort Plus(2022年、地上11階・高さ約44m、木材約2,000m³)です。キノテラスの56mはそれより高いものの、「木質ハイブリッド構造」というカテゴリーでの記録であり、純木造の記録を塗り替えたわけではありません。海外にはノルウェーのMjøstårnet(85.4m)やアメリカのAscent MKE(86.6m)といった80m級が既にあり、絶対値では海外の先行事例に届いていないのが実情です。

もうひとつ、設計上の意味を持つのが60mという線です。建築基準法第20条第1項第一号により、高さ60mを超える建築物は時刻歴応答解析による構造計算と大臣認定が必要になります。56mはその一歩手前。木質ハイブリッドで60mの壁を越えるとき、耐火の課題に加えて構造計算のルートそのものが変わることになります。次の「日本一」は、単に4m積み増すだけの話ではありません。

編集部の視点

まず率直に言って、木・鉄・コンクリートをそれぞれの得意分野に割り振りながら建てる木質ハイブリッドは、いい手法だと思います。長スパンは鉄骨に飛ばさせ、圧縮に強い木を柱と耐震壁に効かせ、床は木を型枠兼化粧材にしてコンクリートで質量と剛性を稼ぐ。木で全部やろうとすると無理が出るところを、素直に材料の性質で割り切っている。「純木造か木質ハイブリッドか」を優劣で語る意味はあまりなく、どこに木を効かせたかで見るほうが実態に合っています。

一方で、この手法はまだ「普及した技術」になっていません。ハイウッドビームもスリム耐火ウッドも清水建設が独自に開発・認定した技術で、他社が汎用的に使えるカタログ製品ではありません。木住協や2×4建築協会の耐火認定のように、業界団体が仕様を公開して複数の事業者が横展開できる形になって初めて、この種の技術は「記録」から「標準」に変わります。日本CLT協会の設計指針のように標準化が動き出した部分もありますが、耐火部材の側はまだ各社各様です。今後に期待したい部分のほうが多い、というのが正直なところです。

次に、環境性能の見せ方が会社ごとに揃っていない問題です。KiGi AKIHABARAは「鉄を何t木材に置き換えたか(約59.1t)」を軸に説明し、キノテラスは「木材固定化量+電炉材比率」を軸に説明しています。どちらも間違いではありませんが、物差しが違えば数字の大小比較はできません。しかも本稿で見たとおり、キノテラスの37.5%には鉄側の脱炭素が相当量含まれています。いま出ている「◯%削減」は各社独自の物差しによるものという前提は、読み手として手放さないほうがいい。ライフサイクルカーボン評価制度の統一ルールが動き出せば、この霧はかなり晴れるはずです。

最後に、この規模の実験を可能にしたのが都市部の民間オフィス開発と公的補助の組み合わせであることも見落とせません。令和4年度サステナブル建築物等先導事業(保険業界初の採択)のような支援がなければ、新技術3種を同時投入するプロジェクトは経済的にもっと難しかったはずです。制度の側も、令107条を30分刻みに精緻化するなど木造に寄せてきています。技術が「補助なしで回る標準工法」になれるかどうかは、この先の追随プロジェクトの数と、認定技術の他社への開放度にかかっています。

4行でおさらい

  • 設計当時の令107条では下層10層に2時間耐火が必要で、それが「ハイウッドビーム2時間耐火仕様」を生んだ。着工3か月前に同条は30分刻みへ改正され、いまなら中間5層は90分で足りる。
  • 梁はH形鋼を木で被覆し、柱は集成材を石膏で守る。同じ「木質耐火部材」でも構造を担う材料は正反対。
  • 柱を減らした分は壁が持ち、木を見せた分は天井裏が減る。木質ハイブリッドの難所は耐火認定の先にある。
  • 約37.5%のCO2削減には電炉材の寄与が相当量含まれる。統一の物差しは2028年度のLCA評価制度を待つ。
出典・参考

※ 本記事は各社の公表資料、法令および学術文献をもとに編集部が整理したものです。大臣認定の番号・試験条件・本物件で実際に採用された部材寸法は公開資料に記載がなく確認できていません。図中の断面・架構は概念図であり実施設計図とは異なります。CO2削減率等の数値は各社発表時点の算定条件によるもので、統一された基準に基づくものではない点にご留意ください。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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