ICTタワーヤーダ|自動運転集材の実証段階

ICTタワーヤーダ | Forest Eight

急傾斜地の集材といえば、長らく熟練オペレータが何本ものウィンチを手で操る職人技の世界でした。ICTタワーヤーダは、その自走式架線集材機にウィンチ自動制御・GNSS・荷重センサー・遠隔操作を組み込んだ次世代機です。日本の人工林の約3割は傾斜30度以上の急傾斜地に分布し、車両系機械が入れない区域での主伐・再造林を支えるのがこの架線集材。林野庁のスマート林業構築実践事業では2018年度以降、Konrad社(オーストリア)KMSなどの自動運転対応機を中心に実証が続き、2024年時点で15道県・約30事業体での試験導入が確認されています。国内のタワーヤーダ保有は約160台。ここでは、その現況と「どこまで自動化が進んだのか」を整理します。

目次

タワーヤーダとは何か、なぜICT化するのか

タワーヤーダは、伸縮式の鉄塔(タワー)にメインケーブル・ホールバックライン・搬器昇降ラインを備えた自走式の集材機です。構造そのものは従来型と変わりません。違いは制御で、これまで荷重・搬器位置・速度のすべてを熟練オペレータの感覚に委ねていた部分を自動化した点にあります。従来型は運転・地組・荷外し・先柱担当で最低3〜4名が必要でしたが、ICT化により運転手1名と地組(伐倒木に搬器を掛ける作業者)1名の2名体制で回せるようになります。慢性的な人手不足の現場では、この差は決定的です。

ICTタワーヤーダの構造模式図 タワーヤーダのタワー・搬器・ケーブル系統と各種センサー配置を模式的に示す ICTタワーヤーダの基本構造 元柱 タワー(20m) 先柱 メインケーブル(搬器走行) 搬器 荷重センサ GNSS位置 傾斜30〜45度の急傾斜地(人工林300万ha) 架設距離 400〜600m 操作PC
図1:ICTタワーヤーダの構造とセンサー配置(出典:林業機械化協会「架線系集材機械活用テキスト」2023年)

従来型では、運転手がキャビンの操作レバーで5〜6本のウィンチを手動制御し、過負荷時のケーブル切断や搬器の暴走が事故原因になることもありました。ICT機では各ウィンチにロードセル(荷重センサー)と回転エンコーダが付き、PLC(制御装置)がリアルタイムで張力と速度を監視します。Konrad社のKMS制御では、地組作業員が手元コントローラで搬器の発進・停止・荷上げを自分で操作でき、運転手の介入は緊急時のみ。架設距離は主流機で400〜600m、最大搬器荷重は2.5〜3.5t、日生産量は実証平均で35〜60m³というのが現在の標準的なスペック感です。

自動運転は「レベル4手前」まで来ている

林野庁の実証では、タワーヤーダの自動運転を4段階で定義しています。レベル0が完全手動、レベル1が荷重監視のみ自動、レベル2が搬器走行制御の自動、レベル3が荷掛け・荷外しを除く全工程の自律、レベル4が完全自動です。2024年時点ではレベル2が国内主流で、レベル3の実証が秋田・大分で始まったところ。完全自動のレベル4は2030年代の目標という位置づけです。

レベル 自動化範囲 必要人員 国内到達状況
L0 完全手動 4名 従来型機の主流
L1 荷重監視自動 3〜4名 2010年代後半標準化
L2 搬器走行自動 2〜3名 2024年現在の主流
L3 荷掛け以外自律 2名 秋田・大分で実証
L4 完全自動 1名 2030年代の目標

欧州はもう一歩先にいます。オーストリア・スイスではKonrad・Mayer・Valentiniの機種が普及し、2020年代前半からレベル3の現場運用が始まっています。スイス連邦森林・雪・景観研究所(WSL)の実証では、レベル3運用で従来比45%の人員削減と日生産量1.3倍が報告されました。日本は5〜10年遅れですが、急傾斜地比率の高さを考えれば、本来の必要性はむしろ欧州以上です。

主要機種と導入コスト

国内で導入されているのは、Konrad Forsttechnik(オーストリア)KMS Falke、Valentini(イタリア)V850、Mayer Melnhof(オーストリア)Syncrofalke、国産では岩崎機械工業のスイングヤーダMST-2200改などです。スマート林業構築実践事業の補助件数(2018〜2023年累計)ではKonrad製が最多で約20件、Valentini約10件、その他約8件という構成でした。

国内主要ICTタワーヤーダ機種比較 Konrad KMS、Valentini V850、Mayer Syncrofalkeの最大架設距離と搬器荷重を比較 主要機種別 最大架設距離(m) Konrad KMS Falke 600m Mayer Syncrofalke 600m Valentini V850 500m Konrad KMS 12tHD 800m 岩崎MST-2200改 400m Wyssen W3 700m 青:欧州主流機 / 橙:国産機 急傾斜地での集材半径は搬器荷重と一体で設計される。
図2:主要ICTタワーヤーダの最大架設距離比較(出典:林業機械化協会機種別カタログ集2024年・各社公開仕様)

本体価格は8,000万円〜1.5億円規模で、ハーベスタの2〜3倍という高額設備です。林野庁の高性能林業機械等導入支援事業(補助率1/2以内、上限3,000〜5,000万円)が使えるほか、急傾斜地対応の特例で補助率が上乗せされることもあります。減価償却7年、年1,500時間稼働で台時単価は1〜1.5万円。要は十分な作業量を年間で確保できるかが、採算の分かれ目になります。

メーカー 主力機種 最大架設距離 搬器荷重 特徴
Konrad Forsttechnik KMS Falke 600〜800m 3.5〜12t L3自動運転対応
Valentini V850・V1100 500〜700m 2.5〜4t マルチパーパス
Mayer Melnhof Syncrofalke 600〜700m 3〜4t 高精密集材
Wyssen(スイス) W3・W5 700m〜1km 3.5〜5t 超長距離特化
岩崎機械工業(日本) MST-2200改 300〜400m 2t 機動性・低価格

センサーで何を見て、どこまで遠隔操作できるか

ICTタワーヤーダの中核は、荷重センサ・回転エンコーダ・GNSS受信機・カメラを束ねる組み込みPLCです。Konrad KMS Falkeでは4本のウィンチドラム(メイン・ホールバック・上昇・下降)それぞれに2系統のセンサーが付き、毎秒10〜20回のサンプリングで張力と速度を監視。設定値を超えると自動でブレーキがかかります。

ICTタワーヤーダの制御系統図 ウィンチセンサー・GNSS・カメラ・操作PCの統合制御フローを示す ICTタワーヤーダ制御アーキテクチャ 荷重センサ×4 10Hz/系統 GNSS搬器位置 ±2m精度 カメラ×2 先柱・搬器監視 PLC制御 統合演算 運転手キャビン 操作PC・モニタ 手元コントローラ 地組用・無線 遠隔監視 クラウド連携
図3:ICTタワーヤーダの制御アーキテクチャ(出典:林野庁スマート林業構築実践事業報告書2022年・Konrad技術資料)

2023年度の実証では、4G/5G回線を使ってオペレータが事務所からタワーヤーダを遠隔操作する試みが北海道・島根で行われました。映像遅延を200〜400ミリ秒以下に抑えるエッジ処理と、緊急時の自動停止フェイルセーフが鍵で、現状は「現場応援要員1名+遠隔操作員1名」での部分運用にとどまります。完全無人のレベル4まで進むには、現場の安全確認手段をどう高度化するかが残された壁です。

導入効果は人員・生産性・安全の3軸で出ている

スマート林業構築実践事業(2018〜2022年度)の事業体報告では、従来型と比べて次のような改善が出ています。とりわけ目を引くのが安全面で、林業の労働災害は他業種の約12倍という高さ。集材作業はケーブル切断・搬器落下・転倒による重大災害の発生源でもあり、自動荷重制御と手元コントローラ運用で安全な位置から操作できることが、労災頻度の▲30〜40%に効いています。

指標 従来型 ICT型 改善率
必要人員 4名 2〜3名 ▲25〜50%
日生産量 25m³ 35〜60m³ +40〜140%
サイクル時間 8〜10分 5〜7分 ▲30%
m³当たりコスト 9,000〜11,000円 7,000〜9,500円 ▲15〜20%
労働災害頻度 基準 ▲30〜40% 改善

もう一つ、稼働ログ(毎秒の張力・速度・GNSS位置・サイクル時間)の活用も進んでいます。生産日報の自動化はもちろん、森林研究整備機構の実証では5事業体・累計2万サイクルのデータから、ベテランと新人の運転手でサイクル時間に平均15%の差があることが定量化されました。この優良運転パターンを学習データにした運転支援AIの開発が進めば、新人の育成期間を従来の3年から1.5年程度に縮められる可能性があります。

FAQ

Q. 導入コストの回収にはどれくらいかかりますか

本体1.2億円・補助1/2活用で実質負担6,000万円、年間生産量1万m³規模の事業体ならm³当たり▲2,000円のコスト改善で年2,000万円のキャッシュフロー改善、回収期間は約3年が標準値です。ただし年間稼働が1,000時間を下回ると回収は難しくなります。要は仕事量の確保が前提条件です。

Q. 急傾斜地以外でも有効ですか

緩傾斜地ではフォワーダ・ハーベスタ系が圧倒的に優位で、タワーヤーダはコスト的に不利です。傾斜30度以上、または路網密度50m/ha未満の路網が疎な区域でこそ真価を発揮します。日本の人工林の急傾斜地比率約3割を考えれば、地域偏在のある主力装備という位置づけが妥当です。

Q. 自動運転レベル3はいつ実用化されますか

2024年時点で秋田・大分の実証現場でレベル3の試験運用が始まっています。荷掛け以外の全工程自律化は2026〜2028年に商用展開段階へ入る見込みで、完全自動のレベル4は2030年代の目標です。

まとめ

ICTタワーヤーダは、急傾斜地林業の生産性と安全性をまとめて引き上げる装備です。国内約160台のうち約20%がICT対応化し、Konrad KMS FalkeやValentini V850など欧州機が主流ながら、国産機の機動性も侮れません。自動化は現状レベル2が主流で、レベル3が秋田・大分で実証中、レベル4は2030年代の目標。導入により人員▲25〜50%・生産量+40〜140%・労災▲30〜40%という効果が確認されており、急傾斜地30度以上の人工林300万ha超を抱える日本では、ハーベスタと並ぶスマート林業の二大装備といえます。残る課題は、遠隔操作技術と運転データ集約による技術標準化です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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