日本の林業がなかなか採算に乗らない理由のひとつに、山に道が少ないことがあります。林道・作業道の密度は2022年度で民有林15.0m/ha、国有林24.0m/ha。これに対しドイツは100m/ha、オーストリア45m/haと、欧州先進国とは桁違いです。道が少なければ、伐った木を道路まで運ぶ距離が伸び、それだけコストがかさみます。この路網をどこにどう通すか――その計画・設計・施工を、LiDARで取った高精度の3次元地形データで電子化するのがICT林道測量です。林道整備5箇年計画では年1,200〜1,500kmの新設が続いており、その計画の高度化にICTの活用が標準になりつつあります。
日本の道は、なぜこんなに少ないのか
路網密度の低さは、日本の林業生産性が欧州に劣る最大の構造要因のひとつです。集材距離が長くなるほど生産コストは上がります。林野庁は民有林の路網密度を25m/haへ引き上げる長期目標を掲げていますが、地形の制約と用地買収の難しさから、達成には数十年を要します。
欧州先進国の多くは緩傾斜地中心で道を通しやすいのに対し、日本の人工林の約3割は傾斜30度以上の急傾斜地。林道作設に大規模な切土・盛土が必要で、コストが跳ね上がります。1mあたりの作設費は緩傾斜地で3,000円規模、急傾斜地では5,000〜8,000円。林道1km当たりの土工量も、緩傾斜地で5,000〜10,000m³に対し急傾斜地では30,000〜50,000m³に達します。土工単価が500〜1,500円/m³であることを踏まえると、路線選定の最適化で土工量を10〜20%削れれば、1km当たり数百万〜1,000万円のコスト削減になる――ここにICT林道測量の経済的な根拠があります。
地形を立体でつかむ――LiDAR測量
すべての出発点は、計画地の高精度な3次元地形データです。国土地理院の航空LiDAR整備で全国95%以上が分解能50cm(5mDEM)でカバーされており、これを基本データとして無償で使えます。さらに細かい測量が要る区域には、ドローンLiDAR(5〜15cm分解能)を追加。森林では木の葉に隠れた地表面(DTM)の把握がカギで、これはLiDARでなければ取れません。ドローンのRGB写真だけでは樹冠下の地形図化はできないのです。
実務では、いきなり高精度測量をかけるのではなく、段階的に解像度を上げます。まず無償の5mDEMで予備の路線を検討し、航空LiDARで概略設計、有望な候補路線にドローンLiDARで詳細測量、橋梁など構造物の箇所だけ地上LiDAR(TLS)――という多層運用です。これで不要な高精度測量を省き、トータルコストを抑えられます。1〜3km規模の林道設計なら、測量・設計のトータルコストは300〜800万円程度で、従来手法(500〜1,500万円)に比べ30〜50%の削減が確認されています。
3D-CADで線を引く
取得した3次元地形データに対して、3D-CAD(Civil3DやTrimble Business Centerなど)で線形・縦断・横断・土工量を一気に計算するのが標準になりつつあります。最大縦断勾配(標準10〜12%)や最小曲率半径(10〜15m)といった幾何条件を制約として、土工量・橋梁・カルバートを総合判定しながら最適路線を探索します。
最新ツールでは、AIによる線形最適化も一部実装されています。土工量・橋梁数・最大勾配などを目的関数に、遺伝的アルゴリズムで複数の候補路線を自動生成し、最後は人間の設計者が選ぶ――という形です。完全自動化はまだ研究段階ですが、設計時間を50〜70%削減する効果が確認されています。今のところ最も成果が出ているのは、CAD技術者と林業現場経験者が協働する設計プロセス。AIが「候補を生成」し、人間が「最終判断」する役割分担が標準的です。
設計から施工まで、データを途切れさせない
3D-CADの設計データは、国土交通省のi-Construction(公共土木の3次元設計データ標準化)の枠組みに乗せられます。林道工事も公共工事の一環として、林野庁の公共測量作業規程と国交省i-Constructionの整合化が進み、設計から施工管理まで一貫したデジタル工程が標準化しつつあります。工程ごとに、従来手法とICT手法でどれだけ時間が変わるかを並べると、その効果がよく見えます。
| 工程 | 従来手法 | ICT手法 | 時間削減 |
|---|---|---|---|
| 予備測量 | 現地踏査・1/5,000図 | 5mDEM活用 | ▲70〜80% |
| 本測量 | トータルステーション | 航空・ドローンLiDAR | ▲50〜70% |
| 線形設計 | 2D-CAD・手作業 | 3D-CAD・自動最適化 | ▲40〜60% |
| 土工計算 | 横断面手計算 | 3D差分自動 | ▲80〜90% |
| 施工管理 | 手測・写真 | ICT建機・GNSS | ▲30〜50% |
とくに効くのが土工計算で、横断面の手計算が3D差分で自動化され、80〜90%の時間削減です。設計データはマシンコントロール搭載のバックホウやブルドーザ(コマツPC200i、CAT D61PXiなど)に直接入力でき、オペレータがGPS位置をもとに設計どおりに切土・盛土を実行できます。これらICT建機のリース料は1日3〜8万円規模で、林業事業体と建設会社の共同リースが一般化し、年1〜2kmの小規模工事でも経済的に成立する水準まで下がってきました。年1,200〜1,500kmの整備のうち、2024年時点で20〜30%程度がICT施工の対象です。
環境への配慮も同じ画面で
路網計画は技術・経済の評価だけでは済みません。水源涵養機能、希少動植物の生息地、景観保全、文化財・遺跡、住居近接の騒音・粉塵――これらは自然公園法や文化財保護法、水源涵養保安林指定といった法規制に関わるため、計画初期での確認が欠かせません。ありがたいことに、3D-CADと連携したGIS分析なら、こうした制約条件を空間レイヤーとして重ね合わせ、避けるべき区域を可視化できます。生態系・文化財のデータベースは環境省・文化庁・都道府県が公開しており、API取得できるものも増加中。技術・経済・環境の三軸を統合した路網計画が、従来より格段に効率よく行えるようになりました。
導入と運用、そして広がり
導入には、3D-CADソフト(年60〜150万円)、LiDAR点群処理のスキル、i-Construction準拠の研修、そして発注者・受注者双方の理解が要ります。中小の県・市町村は外注活用、大規模県は社内チーム育成というパターンが多く、林野庁の補助制度で初期投資の半額程度を補填できます。運用は、県・市町村の林務担当(発注者)、測量・設計コンサル、林業事業体・建設会社(施工)、検査機関の4者連携が標準で、クラウド上の共通データプラットフォーム(CDE)の整備が望まれます。
林野庁のスマート林業構築実践事業では、2018年度以降、全国の重点地域で実証が続いています。代表的な結果は、設計コスト平均35%削減、設計期間45%短縮(4〜6カ月→2〜3カ月)、土工量精度の向上(誤差10%以内→3%以内)、災害復旧時の被害把握の短縮(1〜2週間→2〜3日)など。北海道・長野・岐阜・宮崎・大分といった先行県の知見が全国に展開され、技術移転と人材育成が進んでいます。2019年施行の森林経営管理法による市町村主導の路網計画とも連動し、森林環境譲与税を使って路網計画策定・LiDAR取得・3D-CAD設計を一体で実施する事例が増加中。ICT施工の対象は、今後5年で過半に拡大する見込みです。
よくある疑問
国土地理院の5mDEMだけで設計できる?
予備計画レベルなら可能ですが、本設計には分解能25cm以下のLiDAR点群が標準で必要です。5mDEMは概略の起伏把握、航空LiDARは概略設計、ドローンLiDARは詳細設計、と段階的に解像度を上げる多層運用が一般的です。
既設林道の維持管理にも使える?
はい。とくに災害復旧や崩壊危険箇所のモニタリングに有効です。定期的に取得した3次元データを比較すれば、土砂崩壊・洗掘・路面変形を早期に発見でき、災害時の迅速な被害把握にも役立ちます。点群差分の自動化やAIによる路面ひび割れ検出など、研究開発も並行して進んでいます。
補助金にはどんな制度がある?
林野庁の林道整備事業(補助率1/2が標準)、スマート林業構築実践事業(ICT測量・設計の実証費用補助)、森林環境譲与税(市町村事業として活用)、都道府県独自の補助などが併用可能です。補助率は事業内容・地域で異なるため、市町村林務窓口や都道府県森林整備課への事前相談がおすすめです。

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