集約化施業|1団地100ha以上の集約事例分析

集約化施業 | Forest Eight

日本の私有林は、所有規模が驚くほど細かく刻まれています。保有5ha未満の所有者が全体の約74%、10ha未満まで広げると約87%。これだけ小さいと、高額な高性能林業機械を効率よく回すことも、路網を整備することも採算に合いません。この壁を乗り越える仕組みが「集約化施業」です。複数の所有者の山をまとめて1つの団地として施業計画を立て、間伐・主伐・路網整備・再造林を一体で進めます。林野庁は「1団地100ha以上」を目標に掲げ、2022年時点で集約化面積は約30万ha、団地数は約2,000、1団地平均は約150haと、すでに目標水準に届いています。

目次

細切れの山を束ねて、規模の経済を取り戻す

集約化の発想はシンプルです。8〜10人の所有者の山を束ねて100haにすれば、機械を連続して動かせるようになり、路網整備の費用対効果も跳ね上がる。林野庁の試算では、団地規模が5haから100haへ広がると、ha当たり伐出費は約25%下がり、ha当たり収益は約40%上がります。所有権はそのままに、施業の段階だけを一体化して規模のメリットを得る――そこが集約化の巧みなところです。

集約化施業の仕組み 細分所有から集約化団地への転換イメージを図解 集約化施業の仕組み 集約化前(細分所有) 8人で30ha 1人3〜8haの細分所有。機械化・路網整備が困難 集約化後(1団地100ha以上) 集約化団地 100〜200ha 複数所有者を統合管理 統一施業計画・路網一体整備・連続機械稼働 推進主体が所有者と長期施業委託契約を締結し、森林経営計画(5年)の認定で補助を優先採択 素材生産単価20〜30%低減・機械稼働率2倍以上の効果
図1:集約化施業の仕組み(出典:林野庁森林経営計画制度資料)

進め方はこうです。まず森林組合などの推進主体が地域の所有者を洗い出して施業の意向を聞き、合意した所有者と5〜10年の長期施業委託契約を結んで山を1団地に束ねます。次に5年間の施業計画=森林経営計画を作って市町村長の認定を受け、それに沿って路網整備・間伐・主伐・再造林を実施。伐採で得た収入は、経費を引いたうえで所有者ごとの立木材積比または面積比で按分されます。所有者は山を手放さずに、安定した施業と収益を受け取れる仕組みです。

なぜ「100ha」なのか

「100ha以上」という線引きは、機械化と路網整備が採算に乗る最小規模として引かれています。高性能林業機械1セットの投資は約7,000万円、年間の運用コストは1,500万円規模。これを稼働率8割で回すには、5〜10年計画のなかで100ha以上の連続した伐採対象地が欠かせません。路網も同じで、100ha団地なら適切な密度(30m/ha前後)を確保すると平均集材距離が100〜150mまで縮まり、5〜8年で初期投資を回収できます。これより小さいと集材距離の短縮効果が出ず、整備の費用対効果が立ちません。

その差は単価にはっきり現れます。林野庁の事例調査では、5〜10haの散在地で1m³あたり12,000〜14,000円かかっていた生産費が、100ha以上の連続地では9,000〜11,000円程度まで下がっています。機械の連続稼働で待機ロスが減り、集材距離が縮まり、作業員の移動時間も減る――その積み重ねです。

団地規模別の素材生産単価 5haから300haまでの団地規模別の素材生産単価を棒グラフで表示 団地規模別の素材生産単価(円/m³) 0 10,000 14,000 5ha以下 12,500 5〜30ha 10,500 30〜100ha 9,500 100〜300ha 8,500 300ha以上 5ha以下14,000円→100〜300ha 9,500円で約32%低減。
図2:団地規模別の素材生産単価(出典:林野庁事例調査・森林・林業白書からの推計)

効果は単価だけではありません。細切れの現場では40〜50%だった機械の実稼働率が、集約化団地では80〜90%まで上がります。人日あたりの伐出量も3〜5m³/人日から8〜12m³/人日へと2〜3倍。林業の生産性を縛っていたボトルネックが、大きくほどけます。

森林組合・認定事業体・市町村の三者分業

推進主体は森林組合が約6割(団地数約1,200)で主役。約150万人の組合員ネットワークを通じて所有者情報を持ち、長年の信頼関係で施業委託契約を結びやすいのが強みです。各組合には「森林施業プランナー」という専門スタッフが置かれ、所有者調査から団地化提案、契約交渉、収益分配ルールの設定までを一手に担います。全国で約4,000人が登録されています。

推進主体 団地数 面積 特徴
森林組合 約1,200 約18万ha 組合員ネットワーク活用
認定林業事業体 約600 約9万ha 施業実施が中心
市町村・公社等 約200 約3万ha 経営管理制度活用

実際の現場では、森林組合が所有者調整と団地化を担い、伐出・搬出は機械力に勝る認定林業事業体が請け負う分業がよく見られます。そこに2019年施行の森林経営管理制度が加わりました。市町村が経営意思のない所有者から経営管理権を取得し、認定事業体へ再委託する仕組みで、所有者不明・経営放棄の森林を集約化に組み込める唯一の手法です。意向調査では「市町村に委ねたい」「無回答」を合わせて約5割が潜在的な対象とされ、これをどれだけ取り込めるかが2030年目標50万haの鍵を握ります。

本当の壁は、合意形成にある

集約化の最大の難所は、所有者の合意づくりです。100ha団地には10〜30人の所有者がかかわり、全員から長期委託契約の同意を得るまで平均1〜3年。プランナー1人が年に担当できるのは約500haが目安で、新規団地では数十人規模の交渉を並行して進めることになります。

壁の中身は、所有者の高齢化と相続未登記による所有権の曖昧さ、林業所得への期待が低く長期契約に乗り気でないこと、収益分配の透明性への不安、そして境界未確定地での隣接者間の調整です。これに対し推進主体は、森林情報のデジタル化、GPS・ドローンによる境界確認、標準契約書と分配ルールの定型化、地域単位の説明会といった手段で応じています。収益分配は、施業前の立木材積調査で各所有者の立木量を確定し、販売収入から経費を引いた純収益を材積比・面積比で按分。調査結果と経費明細を開示し、収益分配書として個別通知するのが標準です。

先行地が示す、いくつものかたち

各地に手本となる事例があります。岡山県西粟倉村の「百年の森林構想」は、村が所有者と50年契約を結び、認定事業体「百森」に施業を委託する三層構造。約580haを統一管理し、立木材積に応じた分配に村財政からの基本管理料を組み合わせて参加意欲を保っています。岐阜県の郡上森林組合は、専任プランナー8名を置いて年約400haペースで集約化を進め、生産単価を13,000円/m³から9,500円/m³へと27%下げ、組合員配当も2〜3割増を実現しました。宮崎県諸塚村では、村内5つの事業体が機械や人材の得意分野に応じて団地内の作業を分担する協働モデルで、約1,500haを集約しています。

集約化施業面積の推移と目標 2010年から2030年目標までの集約化施業面積を折れ線グラフで表示 集約化施業面積の推移と2030年目標(万ha) 0 30 60 2010 2015 2020 2025 2030 4 25 30実績 50(目標) 2010年4万ha→2022年30万haで約7.5倍。2030年目標50万haは私有林の35%。
図3:集約化施業面積の推移と2030年目標(出典:林野庁森林・林業白書・森林・林業基本計画)

補助制度が背中を押す

集約化は補助制度と深く結びついています。森林整備事業の標準補助率は1/2ですが、森林経営計画の認定団地では2/3に引き上げられ、路網整備や再造林の加算も上乗せされます。ha当たり約100万円かかる再造林経費も、認定団地なら最大8割がカバーされ所有者負担はha当たり20万円程度まで圧縮。非集約化団地では負担が50〜70万円規模になるため、再造林に踏み切れるかどうかが集約化の有無で大きく分かれます。2019年度に始まった森林環境譲与税(2024年度の市町村への譲与額は約500億円)も、意向調査や経営管理権の集積に充てられ、集約化を財源面から支えています。

残された課題

とはいえ前途は平坦ではありません。私有林の約25%(約360万ha)に所有者不明・連絡不能の問題があり、集約化交渉そのものが難しい。林業所得の低迷で長期契約に応じる所有者は減少傾向にあり、交渉を担うプランナーも不足しています。所有者不明への対応としては、2024年4月施行の改正不動産登記法で相続登記が義務化され、長期的には新規発生の抑制が期待されますが、既存の不明森林には効きにくく、当面は市町村による経営管理権取得の運用拡大が頼みです。プランナーは現在の約4,000人を2030年に約6,000人へ増やす目標ですが、就業者の高齢化を考えると容易ではなく、GISやドローン、計画策定支援AIといった業務のデジタル化が突破口になりそうです。所有権を守りながら施業を一体化するこの仕組みは、相続による細分化が止まらないなかで、いよいよ重みを増しています。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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