集約化施業|1団地100ha以上の集約事例分析

細切れの山を束ねる

日本の私有林は、所有規模が驚くほど細かく刻まれています。5ha未満の小規模所有者が大多数を占め、10ha未満まで広げれば所有者の大半がそこに収まります。これだけ小さいと、高額な高性能林業機械を効率よく回すことも、路網を整備することも採算に合いません。この壁を乗り越える仕組みが「集約化施業」です。複数の所有者の山をまとめて1つの団地として施業計画を立て、間伐・主伐・路網整備・再造林を一体で進めます。林野庁は「1団地100ha以上」の団地化を目標に掲げており、集約化された施業面積は近年30万ha規模まで積み上がっています。

目次

細切れの山を束ねて、規模の経済を取り戻す

集約化の発想はシンプルです。8〜10人の所有者の山を束ねて100haにすれば、機械を連続して動かせるようになり、路網整備の費用対効果も跳ね上がる。団地規模が大きくなるほど、ha当たりの伐出費は下がり、ha当たりの収益は上がるのが一般的な傾向です。所有権はそのままに、施業の段階だけを一体化して規模のメリットを得る――そこが集約化の巧みなところです。

集約化施業の仕組み 細分所有から集約化団地への転換イメージを図解 集約化施業の仕組み 集約化前(細分所有) 8人で30ha 1人3〜8haの細分所有。機械化・路網整備が困難 集約化後(1団地100ha以上) 集約化団地 100〜200ha 複数所有者を統合管理 統一施業計画・路網一体整備・連続機械稼働 推進主体が所有者と長期施業委託契約を締結し、森林経営計画(5年)の認定で補助を優先採択 素材生産単価の低減・機械稼働率の向上が見込める
図1:集約化施業の仕組み(林野庁 森林経営計画制度資料をもとに作成)

進め方はこうです。まず森林組合などの推進主体が地域の所有者を洗い出して施業の意向を聞き、合意した所有者と5〜10年の長期施業委託契約を結んで山を1団地に束ねます。次に5年間の施業計画=森林経営計画を作って市町村長の認定を受け、それに沿って路網整備・間伐・主伐・再造林を実施。伐採で得た収入は、経費を引いたうえで所有者ごとの立木材積比または面積比で按分されます。所有者は山を手放さずに、安定した施業と収益を受け取れる仕組みです。

なぜ「100ha」なのか

「100ha以上」という線引きは、機械化と路網整備が採算に乗る最小規模として引かれています。高性能林業機械を1セットそろえるには数千万円規模の投資と相応の維持費がかかり、これを高い稼働率で回すには、5〜10年計画のなかで100ha以上の連続した伐採対象地が欠かせません。路網も同じで、団地がまとまっているほど適切な密度を確保しやすく、平均集材距離が短くなって初期投資を回収しやすくなります。これより小さいと集材距離の短縮効果が出ず、整備の費用対効果が立ちません。

その差は単価にも現れます。散在した小規模地の生産費に比べ、100ha以上の連続地では素材生産費が明確に下がるという事例調査が林野庁から示されています。機械の連続稼働で待機ロスが減り、集材距離が縮まり、作業員の移動時間も減る――その積み重ねです。

団地規模別の素材生産単価 5haから300haまでの団地規模別の素材生産単価を棒グラフで表示 団地規模と素材生産単価の関係(イメージ) 高い 5ha以下 やや高い 5〜30ha 30〜100ha やや低い 100〜300ha 低い 300ha以上 団地規模が大きいほど素材生産単価は下がる傾向(数値は概念的なもの)。
図2:団地規模と素材生産単価の関係(林野庁の事例調査・森林・林業白書の傾向をもとにした概念図)

効果は単価だけではありません。細切れの現場では低かった機械の実稼働率が、集約化団地では大きく上がります。人日あたりの伐出量も、連続稼働と集材距離の短縮で目に見えて改善します。林業の生産性を縛っていたボトルネックが、大きくほどけます。

森林組合・認定事業体・市町村の三者分業

推進主体は森林組合が約6割(団地数約1,200)で主役。約150万人の組合員ネットワークを通じて所有者情報を持ち、長年の信頼関係で施業委託契約を結びやすいのが強みです。各組合には「森林施業プランナー」という専門スタッフが置かれ、所有者調査から団地化提案、契約交渉、収益分配ルールの設定までを一手に担います。認定を受けたプランナーは全国で数千人規模です。

推進主体 団地数 面積 特徴
森林組合 約1,200 約18万ha 組合員ネットワーク活用
認定林業事業体 約600 約9万ha 施業実施が中心
市町村・公社等 約200 約3万ha 経営管理制度活用

実際の現場では、森林組合が所有者調整と団地化を担い、伐出・搬出は機械力に勝る認定林業事業体が請け負う分業がよく見られます。そこに2019年施行の森林経営管理制度が加わりました。市町村が経営意思のない所有者から経営管理権を取得し、認定事業体へ再委託する仕組みで、所有者不明・経営放棄の森林を集約化に組み込める唯一の手法です。意向調査では「市町村に委ねたい」「無回答」を合わせた層が相当部分を占め、これをどれだけ集約化に取り込めるかが鍵を握ります。

本当の壁は、合意形成にある

集約化の最大の難所は、所有者の合意づくりです。100ha団地には十数〜数十人の所有者がかかわり、全員から長期委託契約の同意を得るまでに数年かかることも珍しくありません。プランナーが同時に担当できる面積にも限りがあり、新規団地では多人数の交渉を並行して進めることになります。

壁の中身は、所有者の高齢化と相続未登記による所有権の曖昧さ、林業所得への期待が低く長期契約に乗り気でないこと、収益分配の透明性への不安、そして境界未確定地での隣接者間の調整です。これに対し推進主体は、森林情報のデジタル化、GPS・ドローンによる境界確認、標準契約書と分配ルールの定型化、地域単位の説明会といった手段で応じています。収益分配は、施業前の立木材積調査で各所有者の立木量を確定し、販売収入から経費を引いた純収益を材積比・面積比で按分。調査結果と経費明細を開示し、収益分配書として個別通知するのが標準です。

先行地が示す、いくつものかたち

各地に手本となる事例があります。岡山県西粟倉村の「百年の森林構想」は、村が所有者と長期契約を結び、地域の事業体に施業を委託する仕組みで、村内の民有林の相当部分を統一管理し、立木材積に応じた分配に村独自の管理料を組み合わせて参加意欲を保っています。岐阜県の郡上森林組合は、専任プランナーを複数配置して計画的に集約化を進め、規模化によって生産単価を下げ、組合員への還元にもつなげています。宮崎県諸塚村では、村内の複数の事業体が機械や人材の得意分野に応じて団地内の作業を分担する協働モデルが定着しています。

集約化施業面積の推移と目標 2010年から2030年目標までの集約化施業面積を折れ線グラフで表示 集約化施業面積の推移と2030年目標(万ha) 0 30 60 2010 2015 2020 2025 2030 4 25 30実績 拡大へ 2010年ごろの数万haから近年は30万ha規模へ。基本計画はさらなる拡大を掲げる。
図3:集約化施業面積の推移(林野庁 森林・林業白書・森林・林業基本計画をもとに作成。数値は概数)

補助制度が背中を押す

集約化は補助制度と深く結びついています。森林整備事業の標準補助率は1/2ですが、森林経営計画の認定団地では2/3に引き上げられ、路網整備や再造林の加算も上乗せされます。ha当たり100万円を超える再造林経費も、認定団地なら補助率が高くなって所有者負担が大きく圧縮され、再造林に踏み切れるかどうかが集約化の有無で分かれます。2019年度に始まった森林環境譲与税(2024年度以降は年600億円規模)も、意向調査や経営管理権の集積に充てられ、集約化を財源面から支えています。

残された課題

とはいえ前途は平坦ではありません。私有林の2割超で所有者不明・連絡不能の問題があるとされ、集約化交渉そのものが難しい。林業所得の低迷で長期契約に応じる所有者は減少傾向にあり、交渉を担うプランナーも不足しています。所有者不明への対応としては、2024年4月施行の改正不動産登記法で相続登記が義務化され、長期的には新規発生の抑制が期待されますが、既存の不明森林には効きにくく、当面は市町村による経営管理権取得の運用拡大が頼みです。プランナーの増員も課題で、就業者の高齢化を考えると容易ではなく、GISやドローン、計画策定支援AIといった業務のデジタル化が突破口になりそうです。所有権を守りながら施業を一体化するこの仕組みは、相続による細分化が止まらないなかで、いよいよ重みを増しています。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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