日本の山から伐り出される木材のおよそ4分の3を、たった5%の事業者が手がけている——そう聞くと驚くかもしれません。その担い手が「認定林業事業体」です。林業経営体は全国に約3.4万あるのに、認定を受けているのは1,832(2022年)だけ。なのに、国産材の素材生産量シェアは約75%に達します。この記事では、なぜこれほど少数に集約されているのか、認定とは何を意味するのかを、数字で読み解きます。
「ちゃんとした経営体」を選び出す仕組み
認定林業事業体制度は、1996年改正の林業経営基盤強化法(旧・林業労働力確保法)でできました。事業体が5年分の「事業改善計画」をつくり、都道府県知事の認定を受けると、補助事業の優先受託や税制・融資の優遇が受けられる、という仕組みです。狙いは明確で、季節労務に頼ってきた林業現場を、社会保険・通年雇用・機械装備を備えた近代的な経営体へと引き上げること。零細・休眠状態の経営体をふるい落とす「政策的フィルター」として機能してきました。
認定の主な条件は、従事者3名以上の常勤雇用、年間素材生産1万m³以上または造林100ha以上の事業規模、安全衛生体制の整備、機械装備の充実など。とりわけ実質的なハードルになるのが「通年雇用」と「社会保険加入」です。認定事業体は雇用者の7割以上を通年雇用にする目標が課され、労災は原則100%、雇用保険98%以上の加入が求められます。社会保険加入率が約60%にとどまる非認定の零細事業体とは、ここではっきり線が引かれます。認定の有効期間は5年で、実績審査を経て更新する必要があります。
組織の形は、会社が約1,000(55%)、森林組合系が約580(32%)、任意組合やNPOなどその他が約250(14%)。株式会社などの会社が過半を占めるのが特徴です。
少数の大手に、さらに集中する
面白いのは、認定事業体のなかでも生産がさらに上位に偏っていること。1事業体あたりの平均素材生産は約9,000m³ですが、規模別に見ると、1万m³未満が約1,400(76%)と数では大多数。一方で生産量のシェアでは、わずか100ほどの3万m³以上の事業体が国産材生産の約3割を担います。
10万m³を超える超大規模事業体は全国に約15。その多くは北海道と九州(宮崎・大分)に集中し、1社で製材・合板工場まで川下を取り込んだ垂直統合型です。年商数十億円、雇用80〜200人という地域雇用の中核。1〜3万m³の中堅約330は、地域の主伐再造林や間伐を回す現場の主力で、施業集約化の執行装置になっています。そして1万m³未満の約1,400は、家族経営から脱して通年雇用と社会保険加入を達成した「中小法人化」段階。林業基盤の弱い県では、5,000m³規模でも地域唯一の施業者として欠かせない存在です。
林業県に偏る分布
事業体がどこに多いかを見ると、林業の歴史が色濃く出ます。
| 地域ブロック | 事業体数 | 構成比 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 約170 | 9.3% | 大規模事業体集中 |
| 東北6県 | 約340 | 18.6% | スギ主産地 |
| 関東 | 約110 | 6.0% | 中小事業体中心 |
| 中部・北陸 | 約260 | 14.2% | 長野・岐阜中心 |
| 近畿 | 約180 | 9.8% | 奈良吉野材集中 |
| 中国 | 約220 | 12.0% | 広島・岡山多い |
| 四国 | 約130 | 7.1% | 高知が中心 |
| 九州・沖縄 | 約290 | 15.8% | 宮崎・大分・熊本 |
東北6県(約340)と九州・沖縄(約290)が二大集積地です。九州は製材一貫の垂直統合が多く、主伐後の再造林率も全国平均より高い(4〜6割超)先進地。コンテナ苗の普及も早く、再造林コストの削減で先行しています。東北はスギの主伐ピーク到来が九州よりやや遅く、地域の主伐転換を事業体が主導する立場。冬の積雪期にどう通年雇用を保つかが課題で、除雪や育林、木材加工と組み合わせて稼働日数を確保しています。県別の最多は岩手県(約100)です。
5%が補助事業の8〜9割を回す
この集約構造には、はっきりした政策的な意味があります。素材生産の75%を認定事業体が担うということは、補助金の交付対象をここに絞れば、政策効果を効率よく集約できるということ。実際、造林補助・路網整備補助・主伐再造林補助の8〜9割は認定事業体を通じて執行されています。
補助金の優先採択率は認定事業体で90〜95%、非認定では60〜70%と明確な差があります。受給額も大きく、中堅(1万m³規模)で年1,500〜3,000万円、3万m³規模で5,000〜8,000万円、10万m³級では1〜2億円規模。これが経常損益を補う安定剤になっています。というのも、認定事業体の経常利益率は2〜4%と低く(製造業平均は5〜7%)、スギ立木価格が1980年比で4〜5割の水準に沈んだまま、燃料費・機械リース費・人件費は上がるという厳しい収支だからです。補助金を含めてようやく黒字を保っている、というのが実情です。
処遇も安全も、ワンランク上
認定事業体で働く人の年収は、現場作業員(経験5〜10年)で350〜420万円、現場リーダーで450〜550万円、管理職で600〜750万円が標準。非認定の零細事業体(250〜320万円)より2〜4割高い水準です。安全面でも、労災発生率(千人率)は約25と林業全体平均(約30)より低く、KY活動の毎日実施、防護具の装着義務、特別教育の年1回以上実施が標準化されています。とはいえ製造業(約3)と比べればまだ10倍前後。死亡災害も全国の林業で年約30件起き、うち10〜15件は認定事業体です。安全はまだ道半ばです。
これからの宿題
認定事業体が抱える課題は、大きく三つに整理できます。第一に人材。雇用する従事者約2.7万人のうち35歳未満は約20%にとどまり、若手の確保と育成が急務です。創業世代の経営者が引退期を迎え、事業承継やM&Aも年20〜40件と増えてきました。第二に収益性。補助金頼みから抜け出すには、素材価格の回復か、長伐期材・大径材といった付加価値の高い施業への転換が要ります。第三に再造林。木を伐った後にまた植える再造林率は全国平均で4〜5割にとどまり、ここを引き上げる責務が認定事業体に集まっています。九州ではコンテナ苗や低密度植栽、植栽の機械化で再造林率6割超を達成する事例も出てきました。森林経営管理制度で市町村から委託される森林が増えるなか、認定事業体は「政策と現場をつなぐ実務担当」として、ますます中心的な役割を担っていきそうです。

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