「林業で働く人」と聞いて、何人くらいを思い浮かべますか。じつは全国でわずか約4万4,000人。2020年の国勢調査時点の数字で、農業の172万人、漁業の13万人とくらべると、第1次産業のなかでもかなり小さな存在です。しかも、戦後ピークの1960年には約44万人いました。55年で10分の1——これが日本の林業就業者がたどってきた道のりです。
けれど、この4万4,000人は全国に均等に散らばっているわけではありません。北海道、高知、宮崎、岩手、長野といった「林業県」に色濃く集中しています。なぜそこに集まるのか。そして同じ林業県でも、その姿はずいぶん違います。この記事では、都道府県ごとの分布から、その構造を読み解いていきます。
44万人から4.4万人へ、半世紀の坂道
まず、この縮小がどれほど急だったかを振り返っておきましょう。1950年に約30万人だった林業就業者は、拡大造林期の1960年に約44万人でピークを迎えます。ところがその後は一直線の下り坂。1970年に26万人、1990年に11万人、2010年に5.1万人、そして2020年には4.4万人——戦後最低水準に沈みました。
背景にあるのは、ひとつの理由ではありません。拡大造林の終了、1964年の木材輸入自由化、国産材価格の下落、機械化による省人化、若者の都会への流出、そして森林経営そのものの採算悪化。これらが重なって、人を森から押し出していったのです。ただ、2010年以降は緑の雇用事業(2003年開始)や森林経営管理法(2019年)の効果で減少ペースが鈍り、若手比率もじわりと上がってきました。長く続けてきた政策が、ようやく統計に顔を出し始めた段階と言えます。
上位10県を並べてみると
では、その4.4万人はどこにいるのか。2020年国勢調査による上位10県を見てみましょう。注目してほしいのは就業者数だけでなく、右端の「森林1万haあたり何人いるか」という就業密度です。
| 都道府県 | 就業者数 | 森林面積 | 就業者/森林1万ha |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 約4,400人 | 554万ha | 7.9人 |
| 高知 | 約2,700人 | 59万ha | 45.8人 |
| 宮崎 | 約2,500人 | 59万ha | 42.4人 |
| 岩手 | 約2,400人 | 117万ha | 20.5人 |
| 長野 | 約2,300人 | 106万ha | 21.7人 |
| 福島 | 約2,000人 | 97万ha | 20.6人 |
| 大分 | 約1,800人 | 45万ha | 40.0人 |
| 秋田 | 約1,700人 | 84万ha | 20.2人 |
| 岐阜 | 約1,600人 | 86万ha | 18.6人 |
| 鹿児島 | 約1,500人 | 59万ha | 25.4人 |
就業者数では北海道が4,400人で断トツです。ところが森林1万haあたりの就業密度を見ると、北海道はわずか7.9人。高知の45.8人、宮崎の42.4人、大分の40人とくらべると、3分の1から6分の1の薄さです。同じ「林業県」でも、中身がまったく違うことがここに表れています。北海道は広い森を機械で大規模・集約的にこなし、九州・四国は人手をかける伝統林業が中心——この対照こそ、日本の林業の地域性を象徴しています。
地域でくくると、6つの個性が見えてくる
県別を地域単位でまとめると、それぞれの林業の性格がさらにはっきりします。
| 地域 | 就業者数 | 森林面積 | 主要樹種 | 地域特性 |
|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 約4,400人 | 554万ha | トドマツ・カラマツ | 大規模機械化 |
| 東北 | 約9,500人 | 505万ha | スギ・カラマツ | 戦後造林・森林組合 |
| 関東・甲信 | 約4,500人 | 270万ha | スギ・ヒノキ | 都市近郊・小規模 |
| 中部・北陸 | 約5,500人 | 402万ha | ヒノキ・カラマツ | 木曽・飛騨銘木 |
| 近畿 | 約3,000人 | 156万ha | ヒノキ・スギ | 吉野林業伝統 |
| 中国・四国 | 約6,000人 | 261万ha | ヒノキ・スギ | 四万十・吉野 |
| 九州・沖縄 | 約8,000人 | 248万ha | スギ・ヒノキ | 大規模スギ林・宮崎 |
規模が大きいのは東北(約9,500人)と九州(約8,000人)。どちらも戦後造林期にスギ・ヒノキを大量に植えた集中地で、いまちょうど伐期を迎え、人手のニーズが高まっています。北海道は森林面積こそ最大ですが、機械化が進んでいるぶん就業者あたりの面積が最も広い。同じ4.4万人でも、地域ごとにこれだけ表情が違うのです。
担い手は若返り、女性はまだ少ない
縮小産業というと高齢化一辺倒のイメージですが、若手については明るい兆しもあります。35歳以下の就業者は全体の約20%。2000年の約11%から着実に上がってきました。緑の雇用事業や森林環境譲与税、地域おこし協力隊、スマート林業への期待——こうした追い風が、若者を森へ呼び戻しつつあります。とくに岩手・宮崎・高知・長野といった林業県では若手比率が20〜25%に達し、林業が地域の若者の受け皿として機能している様子がうかがえます。
一方で、なかなか変わらないのが女性比率です。林業はわずか約7%で、農業の45%、漁業の15%にくらべて際立って低い。伐採作業の体力的なハードルや、山林という作業環境、女性向けの装備・施設の不足、そして昔ながらの男性中心の職場文化が壁になってきました。ただ、機械化が参入の敷居を下げ、「林業女子」のネットワークや女性経営者の登場で、少しずつ多様化の芽は出ています。事務や育苗、木工、ベンチャー経営など、活躍の場も広がりつつあります。
就業者数より「生産性」で見ると、また違う顔がある
最後に、就業者数と素材生産量をあわせて見てみましょう。両者は強く相関しますが、きれいに比例はしません。1人あたりどれだけ生産できているか——生産性で並べると、地域モデルの違いがくっきりします。
| 都道府県 | 年間素材生産(万m³) | 就業者 | 生産性(m³/人) |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 約400 | 4,400 | 909 |
| 宮崎 | 約170 | 2,500 | 680 |
| 秋田 | 約120 | 1,700 | 706 |
| 岩手 | 約140 | 2,400 | 583 |
| 大分 | 約105 | 1,800 | 583 |
| 長野 | 約75 | 2,300 | 326 |
| 高知 | 約65 | 2,700 | 241 |
北海道の909m³/人が圧倒的。機械化大規模林業の効率がそのまま数字に出ています。逆に長野や高知は就業者数こそ多いものの、急傾斜地や銘木林、小さな林分が中心で生産性は低め。これは「効率が悪い」というより、高級材や特殊用途材といった付加価値型の林業を選んでいる、という見方が正確です。量で勝負する北海道・宮崎・秋田型と、質で勝負する長野・高知型——どちらも日本の林業を支える、れっきとした戦略なのです。
まとめ:多様だからこそ、続けられる
日本の林業就業者4.4万人は、戦後ピークの10分の1まで減ったとはいえ、北海道型の機械化大規模林業、九州・四国型の人材集約的な伝統林業、東北型の戦後造林集中地——それぞれの地域モデルが、産業の多様性を支えています。緑の雇用による若手参入(若手比率20%)、女性比率の緩やかな上昇、スマート林業による生産性向上、外国人材の活用。こうした要素を組み合わせ、4〜5万人規模で持続的かつ効率的な林業労働力を確保していくことが、これからの森林国・日本の大きな課題です。県別の分布を見れば見るほど、林業が「全国一律の産業」ではなく、土地ごとの顔を持つ営みであることが伝わってきます。

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