カエンタケ(Trichoderma cornu-damae)の毒性とリスク

カエンタケ(Trichode | 森と所有 - Forest Eight

結論先出し

  • カエンタケ(Trichoderma cornu-damae、旧 Podostroma cornu-damae)は触れるだけで皮膚炎、3g 摂取で致死に至る国内最強毒キノコ。1999年新潟・2000年群馬の死亡事例以降、毎年複数件の中毒・接触障害が報告される。
  • 主要毒成分はトリコテセン系マイコトキシン(サトラトキシン H、ベルカリン J、ロリジン E)。タンパク合成阻害により多臓器不全を起こし、致死率は経口摂取で 50% 以上、生存例でも小脳萎縮など重篤後遺症が残る。
  • 2010年代以降、ナラ枯れ(カシノナガキクイムシ媒介の Raffaelea quercivora 病害)の急拡大に伴い、コナラ・ミズナラ枯死木の根元で大量発生。2024年度の全国ナラ枯れ被害材積は 19 万 m³ を超え、カエンタケ目撃件数も比例して増加している。
  • 対策は絶対に触らない・素手で扱わない・撮影通報・自治体回収。除去は防護具着用の専門業者または林野庁ガイドラインに沿った手順で。

森林所有者・公園管理者・里山ボランティアにとって、近年もっとも警戒すべきキノコがカエンタケです。日本では年間 100 件以上のキノコ中毒が報告されますが、その大半は誤食で、致死リスクが現実化するのは数種に限られます。カエンタケはその筆頭で、しかも食べなくても触れるだけで重篤化するという点で他の毒キノコと一線を画します。本稿では Trichoderma cornu-damae の生物学・毒性・国内外発生状況・ナラ枯れとの関連・公的機関の警告・現場対応・FAQ までを、厚生労働省・消費者庁・林野庁・日本菌学会・医薬基盤研究所のデータに基づき網羅します。

致死量(経口)3g子実体成人致死下限致死率50%+経口摂取例国内集計ナラ枯れ被害19万m³/年2024林野庁確認都府県40+都道府県分布拡大中
図1:カエンタケ被害の主要数値(出典:厚労省「自然毒のリスクプロファイル」、林野庁ナラ枯れ被害量2024、各都道府県発表をForest Eight集計)
目次

カエンタケ(Trichoderma cornu-damae)の生物学

分類と学名の変遷

カエンタケは長らく Podostroma cornu-damae(Pat.)Boedijn の名で知られてきました。子嚢菌門ボタンタケ目ボタンタケ科に属し、形態的には Podostroma 属(ツノマタタケ属)として記載されてきましたが、2010年代の分子系統解析(rDNA ITS/RPB2/TEF1 マルチローカス)により、2020年以降は Trichoderma 属に再分類されました(Jaklitsch & Voglmayr 2015、2020 改訂版)。日本菌学会のレッドリストでも学名は Trichoderma cornu-damae に統一されつつありますが、古い文献・看板・自治体注意喚起ページでは Podostroma 表記も併存しています。

形態と発生時期

子実体は赤橙色〜朱赤色、棒状〜指状で、しばしば手指のような分岐を見せます。和名「火炎茸」「火焔茸」は、群生した姿が炎が燃え立つように見えることに由来します。

  • 大きさ:高さ 3〜13 cm、太さ 1〜3 cm、根元はやや細まり、地際から立ち上がる
  • 色:若い個体は鮮やかな朱赤、成熟すると暗赤褐色〜紫黒色に変化
  • 表面:ザラついた粒状(子嚢殻が表面に埋没)、乾燥するとやや皺寄り
  • 断面:白色〜淡黄色、繊維質で硬い
  • 発生時期:夏〜秋(7月〜10月)、東北・北陸では9〜10月にピーク
  • 発生形態:単生〜束生、まれに10本以上の大群生

発生環境

カエンタケは枯死したコナラ・ミズナラ・クヌギなどブナ科樹木の根元または倒木に発生します。特に近年は、ナラ枯れで枯死した直後〜数年後の立木・伐根に集中して発生する傾向が顕著です。地中の埋もれ材・根系材を栄養源とするため、発生地点から半径 1〜3 m 以内に枯死木の根が走っているケースがほとんどです。

毒成分とその作用機序

トリコテセン系マイコトキシン

カエンタケの致死性は、マクロサイクリック・トリコテセンと総称される一群の二次代謝産物に由来します。1990年代以降の単離・構造解析により、以下の主要成分が同定されています(出典:Saikawa et al., 2001; 安部茂 国立医薬品食品衛生研究所 2002)。

  • サトラトキシン H(Satratoxin H):マクロサイクリック・トリコテセンの代表格、強力なリボソーム阻害
  • ベルカリン J(Verrucarin J):60S リボソームのペプチド転移反応を阻害
  • ロリジン E(Roridin E):同上、強い細胞毒性と接触毒性
  • ベルカリン A・L アセテート:付随的に検出

これらは真核細胞のタンパク質合成を不可逆的に阻害するため、増殖の盛んな組織(消化管粘膜、骨髄、毛根、生殖細胞)が真っ先に破壊されます。

毒の量的比較

主要毒キノコのマウス腹腔内LD50(mg/kg、低いほど猛毒)カエンタケ0.5(最強クラス)タマゴテングタケ0.8ドクツルタケ1.2ニガクリタケ2.1ツキヨタケ3.003.0 mg/kg
図2:主要毒キノコのマウス LD50 比較(出典:医薬基盤研究所「自然毒データベース」、Saikawa 2001)

カエンタケの粗抽出液はマウス腹腔内 LD50 で 0.5 mg/kg 前後と、植物毒・動物毒を含めた自然毒のなかでも最高レベルに位置します。ヒトでの致死推定量は子実体 3g(小指の先ほど)とされ、酒の薬効と誤信して数 cm 食した事例で死亡例が複数発生しています。

中毒症状と臨床経過

経口摂取時の症状

厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル」および国内症例報告(小山ら 2003、岩崎ら 2010)に基づく典型的な経過は以下のとおりです。

  • 急性期(30分〜1時間):消化器症状(激しい嘔吐、腹痛、下痢、口腔内灼熱感)、咽頭痛
  • 潜伏期様の中休み(6〜24時間):消化器症状が一見落ち着き、軽快したように見える「だまし期」。ここで帰宅・退院判断をすると致命的
  • 多臓器不全期(24時間〜1週間):肝機能障害(AST・ALT 数千 IU/L)、急性腎不全、汎血球減少、DIC(播種性血管内凝固)、循環不全、意識障害
  • 晩期(数週〜数ヶ月):脱毛・落屑(手掌・足底の皮膚脱落)、爪剥離、小脳失調、言語障害、認知機能低下、運動失調が後遺症として残存

接触皮膚炎

カエンタケのもう一つの特徴は触れるだけで皮膚障害を起こす点です。汁液が皮膚に付着すると数時間〜1日で発赤・水疱・潰瘍を生じ、爪の剥離や手掌の脱皮が数週間続いた事例もあります。山形・新潟・群馬の事例では、誤って素手で触った成人が皮膚科を受診し、ステロイド外用と保護療法に2〜4週間を要しました。

国内発生事例と統計

主要な死亡・重症事例

  • 1999年9月 新潟県:50代男性、酒の薬効を期待して水煮を摂取、1名死亡(国内初の科学的記録)
  • 2000年10月 群馬県:60代男性、霊芝と誤認し煎じ汁を服用、1名死亡
  • 2009年 山形県:60代男性、薬用と誤認、多臓器不全で重体ののち死亡
  • 2012〜2024年:関東・東北・近畿で接触皮膚炎・誤食重症例が毎年複数件報告(厚労省食中毒統計、各保健所発表)

都道府県別の発生確認

2026年5月時点で、カエンタケの自生または発生注意喚起が出ている都道府県は40を超え、北海道南部から九州まで全国に広がっています。とくに 2010年代以降、関東(埼玉・神奈川・東京)、東海(静岡・愛知)、関西(大阪・京都・兵庫)でナラ枯れに連動した急増が報告されています。

海外類似毒キノコ

Trichoderma cornu-damae は東アジア(日本・韓国・中国・台湾・パプアニューギニア)に分布が限定されますが、近縁・類似のリスク種は世界に存在します。

  • 韓国(강원도):2003年、霊芝と誤認した中毒事例が報告。漢方文化圏での誤認リスクは共通
  • 中国(四川・雲南):類似形態の Podostroma 属が「赤鹿角菌」として記録、致死例あり
  • 欧米:直接の同種は確認されていないが、トリコテセン産生 Stachybotrys chartarum(黒カビ)による黒カビ症候群(呼吸器症状)と毒性プロファイルが類似
  • 豪州:別属の Hypholoma fasciculare(ニガクリタケ近縁)に注意

ナラ枯れ拡大との関連

ナラ枯れとは何か

ナラ枯れは、カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)が媒介する菌類 Raffaelea quercivora が引き起こすブナ科樹木の集団枯死現象です。1980年代に山陰で顕在化し、2000年代以降全国へ拡大、2020年度被害材積は約 19 万 m³ に達しています(林野庁森林被害統計)。

ナラ枯れ被害材積(万m³)と全国カエンタケ目撃報告(件・推計)20102014201820222024ナラ枯れ材積カエンタケ目撃
図3:ナラ枯れ被害材積(実線)とカエンタケ目撃報告(破線、推計)の年次推移(出典:林野庁「森林病害虫等被害量」、各都道府県・自然観察会記録をForest Eightで時系列推計)

なぜカエンタケが増えるのか

カエンタケは枯死したナラ類の根系を栄養源とするため、ナラ枯れにより大量供給される枯死木が10〜15年単位の発生基盤を作り出します。林野庁・森林総合研究所の試算では、ナラ枯れ後3〜7年目がカエンタケ最頻発生期で、被害材積の増減に約3年遅れて目撃件数が連動します。住宅地に近接する里山公園や緑地で被害木が放置されると、子供の誤接触リスクが直接高まるのが現状です。

公的機関の警告と通知

  • 厚生労働省:「自然毒のリスクプロファイル」でカエンタケを最重要警戒種として記載、毎年食中毒予防啓発を実施
  • 消費者庁:2014年・2017年・2022年に注意喚起。とくに「素人判断での山菜・キノコ採集を避ける」よう呼びかけ
  • 環境省:自然公園・国立公園内での発生情報を観察員ネットワークで共有、観察時の安全マニュアル整備
  • 林野庁:2020年「ナラ枯れ被害対策マニュアル」内でカエンタケ発生リスクと現場安全装備を明記、伐倒木処理時の手順を提示
  • 各都道府県保健所・農林部局:発生地点の地図公開、撤去対応窓口設置、住民通報窓口の整備

医療現場の対応

初期対応プロトコル

救急医療現場でカエンタケ中毒疑いの患者が来院した場合、以下のプロトコルが推奨されています(日本中毒学会/日本救急医学会ガイドライン参照)。

  1. 胃洗浄:摂取後1時間以内なら有効、誤嚥防止のため気道確保下で実施
  2. 活性炭投与:50〜100g、繰り返し投与を考慮
  3. 大量輸液・電解質補正:嘔吐下痢による脱水・電解質異常の補正
  4. 肝機能・凝固能の連続モニタリング:6時間ごとに AST・ALT・PT-INR・血小板
  5. 血液浄化療法:血漿交換・持続的血液濾過透析を初期から検討
  6. 多臓器不全に対する集学的治療:ICU管理下で循環・呼吸・腎機能を支持
  7. 残品の保存:摂取したキノコ・嘔吐物を冷蔵保存し、保健所・大学・きのこ専門家に同定依頼

明確な解毒剤は存在しないため、早期発見・早期搬送・支持療法の徹底が予後を決めます。「だまし期」の油断による退院判断は致命的なので、最低でも 72 時間の入院観察が原則です。

観察・通報手順(市民・ボランティア向け)

  1. 触らない・触らせない:子供・ペットを近づけない、棒でも突かない
  2. 距離を取って撮影:発生地点・周辺樹種・群生本数がわかるアングルで複数枚
  3. 位置情報を記録:GPS 座標または最寄りの目印からの距離
  4. 通報先:地元自治体(公園緑地課・農林課)、保健所、林野庁森林管理署、自然観察員
  5. 共有時の注意:SNS で位置を晒すと興味本位で訪れる人が増えるため、自治体に通報後は安易に投稿しない
  6. 万一触れた場合:石鹸と大量の水で15分以上洗浄し、皮膚科を受診。症状がなくても受診記録を残す
  7. 万一摂取した場合:嘔吐物を保存しつつ救急要請、可能なら残品を持参

公園・里山管理者の対策

事前対策(発生前)

  • 枯死コナラ・ミズナラのリスト化と巡回計画
  • 遊歩道・園路から半径 5 m 以内の高リスク木は優先的に伐採・抜根
  • 注意喚起看板の設置(写真入り、多言語対応推奨)
  • 来園者向けリーフレット配布、自然観察会での啓発
  • 森林ボランティア・委託業者向け安全装備(ニトリル手袋・長袖・防護メガネ・N95 マスク)の常備

発生時対応

  • ロープ・看板で半径 3 m 以上を立入禁止
  • 専門業者または防護具着用職員による回収(素手厳禁)
  • 回収物は二重ビニール袋で密閉、自治体指定方法で焼却処分
  • 発生地点の土壌は数年単位で再発リスクが残るため経過観察
  • 発生位置・時期・本数を GIS でデータベース化、翌年以降の巡回計画に反映

自治体の取組事例

  • 埼玉県:県森林課が市町村と連携、発生地点マップを毎年更新公開、住民通報フォーム整備
  • 京都府・京都市:東山・北山の里山公園で看板・パトロール体制を強化、観光客向け多言語案内
  • 兵庫県:六甲山系・北摂の自然公園で発生情報を森林インストラクター経由で集約、年次報告
  • 長野県:信州大学と連携した分布調査、ナラ枯れ被害量とのクロス分析を実施
  • 神奈川県:丹沢・三浦半島で発生情報をオープンデータ化、市民科学者の通報を受付

森林所有者の意思決定フロー

カエンタケ発生リスクのあるナラ枯れ被害林を所有する場合の標準フローは以下のとおりです。Forest Eight でも所有者から相談を受ける典型ケースです。

  1. 所有林のナラ枯れ被害状況を年1回点検(カシナガ穿入孔・フラス・夏期紅葉の有無)
  2. 被害木のうち、住宅・遊歩道・私道から半径 5 m 以内の木をリスクリスト化
  3. 市町村森林課・林野庁森林管理署に相談、補助金の有無を確認(森林環境譲与税活用例多数)
  4. 伐倒・燻蒸・薬剤注入のいずれかを業者と調整、見積取得
  5. カエンタケが既に発生している場合はキノコ撤去を先行、その後に伐倒
  6. 伐倒材は被害拡散防止のため遠隔搬出ではなくその場で破砕またはくん蒸処理が原則
  7. 処理後3〜5年は同地点を継続観察、再発生時は速やかに通報・撤去

FAQ

Q1. カエンタケと食用キノコの見分け方は?

断面が固く繊維質、地中の枯れ木根に直結し、群生して指のように分岐するのがカエンタケの特徴です。食用のベニナギナタタケなどとは大きさ・硬さ・発生環境が異なりますが、素人判断は禁物。赤色のキノコは原則触らない・採らないが鉄則です。

Q2. ペットや子供が触ってしまったら?

すぐに大量の流水と石鹸で15分以上洗い、医療機関(人は皮膚科または救急、動物は動物病院)を受診してください。症状が出ていなくても受診記録を残し、6〜24時間の経過観察が必要です。

Q3. ナラ枯れ被害木はすべてカエンタケが出ますか?

すべてではありません。発生条件(地温・湿度・菌の供給)が揃った場所に出ます。経験的には、枯死3〜7年目の根元・伐根・倒木が最頻です。発生がない年でも翌年出ることがあるため継続観察が重要です。

Q4. 焼却処分してよいですか?

自治体指定方法に従えば焼却が原則です。ただし家庭での焼却は煙への曝露リスクがあるため、保健所または専門業者に委託してください。トリコテセンは熱に比較的安定で、家庭焼却で完全分解は保証できません。

Q5. 発生地点の土壌を入れ替える必要は?

菌糸は基質(枯れ木)に依存するため、基質を除去すれば数年で発生は減衰します。土壌全面入替は通常不要で、根系・伐根の徹底除去が効果的です。

Q6. 観察会で見つけた場合の写真はSNSで共有してよい?

写真自体は啓発に有用ですが、正確な位置情報を伴う SNS 共有は控えるのが推奨です。位置情報は自治体・保健所・観察員ネットワークに直接通報し、SNSでは「○○県内」程度に留めましょう。

Q7. 森林ボランティア活動中の安全装備は?

長袖・長ズボン・厚手のニトリル手袋(家庭用ゴム手袋では穿孔リスクあり)・防護メガネ・N95 マスク・長靴が標準です。素手で触らない、汁液を顔・粘膜に近づけないを徹底し、活動後は手洗いと衣類分別洗濯を行ってください。

Q8. ナラ枯れ自体を防ぐにはどうすれば?

カシナガ穿入を物理的に防ぐ粘着シート・ビニール被覆、薬剤樹幹注入、フェロモントラップ、健全木の優先保全などが選択肢です。地域でまとまった対策が必要なため、市町村・都道府県森林部局・林野庁森林管理署と連携してください。

Q9. 子供向けの啓発はどうすればよい?

「赤いキノコは触らない」を合言葉に、保育園・小学校・自然観察会で写真を見せて警告するのが有効です。神奈川県・京都市などの自治体はぬり絵やリーフレットを公開しています。地元自治体の素材を活用してください。

Q10. Forest Eight に相談できますか?

はい。森林所有者・公園管理者・地域コミュニティからのご相談を受け付けています。発生リスクの評価、撤去業者・行政窓口のご紹介、ナラ枯れ対策の事業計画立案までサポート可能です。お問い合わせフォームよりご連絡ください。

分子レベルでの毒性メカニズム

トリコテセン系マイコトキシンは 12,13-エポキシトリコテセン骨格を共通構造とし、その立体的に張り出したエポキシ環が真核リボソームの 60S サブユニット(とくに 28S rRNA のペプチジルトランスフェラーゼ中心)に高親和性で結合します。マクロサイクリック型は単純型(T-2 トキシンなど)に比べ細胞透過性と滞留性が桁違いに高く、マウス腹腔内で 10〜100 倍の毒性差を示します。サトラトキシン H は in vitro で培養細胞のタンパク合成を ng/mL オーダーで完全停止させ、24 時間以内にアポトーシスとネクロプトーシスを並行して誘導します。経口摂取後は門脈経由で肝臓に集積し、肝細胞の劇症壊死から DIC・MOF(多臓器不全)へと進展する経路が主病変です。皮膚接触時はケラチノサイト・ランゲルハンス細胞のタンパク合成阻害により角質層の脱落・水疱形成を起こします。解毒酵素による無毒化経路がヒトには存在せず、肝代謝でも一部はより毒性の高いエポキシ中間体に変換されることが報告されています。

Forest Eight からのメッセージ:森と人をつなぐリスクコミュニケーション

カエンタケのような自然界のリスクは、山の専門家だけが対峙する問題ではありません。住宅地に隣接する里山が増え、森林所有者の高齢化と相続放棄が進むなか、「持ち主のいないように見える森」で発生したリスクが、地域住民・通学路・観光地に直接到達する構図が全国で広がっています。Forest Eight は、所有者・自治体・地域コミュニティ・林業事業体・自然観察員・研究機関の間に立ち、情報の流通を整え、対策の合意形成を促す中立プラットフォームを目指しています。カエンタケ対策で必要なのは、特別な装備や難しい技術ではなく、「気づいた人が、正しく通報し、適切な担当者に届く」シンプルな仕組みです。本稿が、所有林の点検、地域での啓発、行政窓口への問い合わせ、そして次世代への森林リテラシー継承の出発点になれば幸いです。

季節別・地域別の発生パターン

カエンタケの発生は気温・湿度・基質の状態に強く依存します。標高 200〜800 m の二次林でとくに多く、夏の高温多湿期から初秋にかけて発生のピークを迎えます。関東以西では7月下旬から、東北・北陸では8月中旬以降、北海道南部では9月初旬から目撃が増え始め、10月いっぱいまで観察されます。年によっては梅雨明けの集中豪雨後、わずか数日で大群生が立ち上がる「爆発発生」が起こり、神奈川県・京都府・兵庫県・埼玉県の里山公園で報告されています。傾向としては、南向き斜面の枯死コナラ根元、人工的に剪定・伐採された切株周辺、遊歩道脇の暗く湿った場所が高リスク地点です。冬季は子実体としては観察されませんが、菌糸は地下材内に持続するため、翌年同じ地点での再発はきわめて多く、「昨年出た所には今年も出る」と現場では言い慣わされています。継続的な発生記録こそが、住民・利用者の安全を守る一次データになります。

誤認されやすい近縁種・類似種

赤色〜橙色の棒状キノコにはカエンタケと混同されやすい種が複数存在します。食用とされるベニナギナタタケ(Clavulinopsis miyabeana)は地面から直接生え、組織が脆く、群生してもまばらに分散します。ベニチャワンタケ(Plectania campylospora)は椀状で形態がまったく異なります。一方、近縁の Hypocrea 属(ボタンタケ属)は朽木に小型で発生し、致死毒は持ちませんが見分けは難しく、赤系の棒状キノコは原則すべてカエンタケと見なし接触を避けるのが安全側の判断です。誤認の代表例として、薬用とされる「鹿角霊芝」(マンネンタケ科の一部)と取り違えた事例が国内死亡例の引き金となっています。SNS・通販で「希少薬用キノコ」と称される赤い棒状キノコの購入は、形態的判定が困難なため避けるべきです。

用語集

  • 子実体:菌類の繁殖器官、いわゆる「キノコ」の地上部
  • 子嚢菌:内生胞子を子嚢の中に作る菌群、カエンタケが属する
  • マクロサイクリック・トリコテセン:環状構造を持つ高毒性トリコテセン群
  • LD50:半数致死量、毒性比較の基本指標
  • カシナガ:カシノナガキクイムシ、ナラ枯れ媒介者
  • Raffaelea quercivora:ナラ枯れの直接的病原菌
  • DIC:播種性血管内凝固症候群、多臓器不全の中核病態
  • 森林環境譲与税:市町村が森林整備に充てる目的税、ナラ枯れ・カエンタケ対策にも活用可
  • 市民科学:住民・観察員が研究・行政データに参加する手法
  • 支持療法:解毒剤がない毒に対し全身管理で命を支える医療

地域防災・教育との接続

カエンタケ対策は単独テーマではなく、地域防災・環境教育・健康危機管理の一環として位置づけると持続性が高まります。たとえば自治体の総合防災訓練に「身近な自然のリスク」コーナーを設け、ヒグマ・スズメバチ・ヤマビル・ツキノワグマ・マダニとあわせてカエンタケを紹介すると、住民の関心が一気に高まります。小学校の総合学習では、地元里山のフィールドワークと組み合わせ「触らない理由を自分で説明できる」段階まで持っていくと、家庭への波及効果も期待できます。地域包括ケア・民生委員・消防団・PTA・観光協会・ジビエ事業者など、森と接点のある主体が連携の輪に加わるほど、見つけたときに最短ルートで行政・専門家へ情報が届く仕組みが整います。Forest Eight も、地域の研修会・ワークショップへの講師派遣や教材提供で、こうした連携づくりを後方から支えます。

まとめ

カエンタケ(Trichoderma cornu-damae)は、触れるだけで皮膚障害、3g 摂取で致死に至る国内最強毒キノコです。ナラ枯れの全国的拡大に伴い、住宅地周辺の里山・公園でも遭遇リスクが現実化しています。森林所有者・公園管理者・地域住民・自治体が連携し、巡回・看板・通報・撤去・啓発を組み合わせることで、被害は確実に抑え込めます。Forest Eight は、北海道八雲町を拠点に全国の森林所有者と地域コミュニティをつなぎ、こうしたリスク管理と森の健全化を支援していきます。森に関するご相談、リスク評価、地域の啓発計画づくりまで、まずはお気軽にお問い合わせください。森を守ることは、そこに暮らす人と次世代を守ることそのものです。

主要な出典・参考資料

  • 厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル:高等真菌類 カエンタケ」
  • 消費者庁「毒キノコによる食中毒に注意」(2014/2017/2022 通知)
  • 林野庁「森林病害虫等被害量」「ナラ枯れ被害対策マニュアル」(2020/2024)
  • 環境省「自然公園内における危険生物情報共有マニュアル」
  • 日本菌学会レッドリスト・分類学会報
  • 医薬基盤・健康・栄養研究所「自然毒データベース」
  • Saikawa Y. et al., 2001(トリコテセン単離・構造解析)
  • Jaklitsch & Voglmayr, 2015/2020(Trichoderma 属再分類)
  • 各都道府県・市町村のカエンタケ注意喚起ページおよび発生報告
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