ヒートアイランドと木材利用|都市の冷却効果

ヒートアイランドと木材利用 | 森と所有 - Forest Eight

ヒートアイランド現象は、都市部の気温が周辺地域より2〜3℃高くなる気象現象で、夏季の熱中症リスク増大、冷房需要急増、大気汚染悪化、生態系撹乱など多面的な問題を引き起こしています。気象庁の観測では、東京都心の年平均気温は1900年から2020年までに約3.2℃上昇しており、地球温暖化分(約1℃)を差し引いた残り約2℃がヒートアイランド寄与と推計されています。本稿では、街路樹の蒸散による冷却効果(1本あたり日中約12kWh相当)、木造建築の蓄熱緩和、屋上・壁面緑化と木質外装の組合せによる表面温度3〜10℃低減などを、環境省・東京都環境局・国立環境研究所の数値に基づき網羅的に整理します。

この記事の要点

  • 東京都心の100年気温上昇:約3.2℃。うちヒートアイランド寄与は約2℃。
  • 街路樹1本の蒸散冷却:日中約12kWh/日。エアコン4〜6台分に相当。
  • 木質外装の表面温度低減:3〜10℃。コンクリート・金属外装比較。
  • 屋上緑化+木質デッキ:表面温度差15℃。アスファルト面比較で実測。
  • 木造校舎の室内温度:RC比較で2〜3℃低。文部科学省・木造校舎研究。
  • 都市部木材利用拡大:CO₂固定+冷却+景観の三重便益
都心100年気温上昇 3.2 ℃(東京) 温暖化 約1.0℃ ヒートアイランド 約2.0℃ 街路樹1本の蒸散 12 kWh/日 エアコン4〜6台分 に相当する 冷却効果 木質外装の表面温度 −3〜10 ℃低減 コンクリート・ 金属外装比較 夏季日射時実測 木造校舎室内温度 −2〜3 ℃(RC比) 文科省研究 空調効率向上 同時実現
図1:ヒートアイランドと木材活用の主要数値(出典:気象庁、環境省、東京都環境局、文部科学省)
目次

ヒートアイランド現象の基本構造

ヒートアイランドとは、都市部が周辺の郊外・農地・森林より高温になる現象で、等温線が島のように都心を取り囲むことから命名されました。気象庁の長期観測によれば、東京都心(大手町)の年平均気温は1900年の13.6℃から2020年の16.8℃へ、約3.2℃上昇しています。同期間の日本全国平均気温上昇は約1.3℃ですから、東京の上昇幅のうち約1.9〜2℃が都市化に伴うヒートアイランド寄与と分離されます。これは札幌・仙台・名古屋・大阪・福岡など他の主要都市でも同様の傾向で、都市規模・人口集中度・緑被率の差で寄与幅が変わります。

原因は複合的で、主に以下の5要因が指摘されます。第1に地表面被覆の変化(森林・農地・水面が舗装・コンクリート・建物に置換)、第2に人工排熱(冷暖房・自動車・工場・厨房)、第3に建物形状の変化(高層化による天空率低下と日射反射の都市キャニオン効果)、第4に土壌・植生の蒸発散減少、第5に大気汚染・温室効果ガスの局所濃集です。これらが複合して、都心では夏季の最低気温が郊外より5〜7℃高い事例も観測されています(環境省『ヒートアイランド現象の実態解析と対策のあり方について』)。

木材・植生による冷却メカニズム

木材と樹木が都市冷却に寄与する経路は、物理的に4つに整理されます。

1. 蒸散冷却:樹木は根から吸い上げた水を葉から蒸発させ、気化熱(1g当たり約2,260J、約540cal)を周囲から奪います。中型街路樹(樹高8〜12m、葉面積指数3〜5)1本の蒸散量は夏季日中で200〜400L/日に達し、これは約450〜900MJ(約125〜250kWh)の熱を吸収することに相当します。実用換算では1本あたり日中12kWh、エアコン(消費電力2.5kW)4〜6台分の冷却効果と試算されます(東京都環境局『街路樹の冷却効果調査』)。

2. 日射遮蔽:樹冠は日射の70〜90%を遮り、地表面・建物外壁・歩行者への直達日射を低減します。樹冠下の路面温度は直射下より10〜25℃低いことが多く、路面からの再放射熱も大幅に減少します。

3. 木材外装の低蓄熱性:木材の熱伝導率(0.10〜0.15W/m·K)はコンクリート(1.6W/m·K)の約10分の1、金属(鋼0.05鋼50W/m·K、アルミ200W/m·K)と比べると桁違いに低く、表面温度が日射に応じて急上昇しにくい性質を持ちます。夏季日中の壁面温度実測では、木質外装は40〜45℃に対し、コンクリート外装は50〜60℃、金属外装は60〜70℃に達することが報告されています。

4. アルベド(反射率):明色木材のアルベドは0.30〜0.45で、コンクリート(0.20〜0.30)・アスファルト(0.05〜0.15)より高く、太陽光を効率的に反射します。これにより、都市表面の熱吸収を低減できます。

街路樹の冷却効果:数値で見る

東京都環境局・国土交通省・各自治体の街路樹冷却効果調査を統合すると、以下の代表値が得られます。

樹種・規模 蒸散量(L/日) 冷却効果(kWh/日) 備考
大型樹(樹高15m以上、ケヤキ・クスノキ) 400〜600 15〜25 公園・大通り中心
中型樹(樹高8〜12m、イチョウ・トウカエデ) 200〜400 8〜15 主要街路樹
小型樹(樹高5〜8m、ハナミズキ・サクラ) 100〜200 4〜8 住宅街・公園
低木(樹高1〜3m、ツツジ・サツキ) 20〜80 1〜3 植え込み・歩道脇
芝生(1m²あたり) 2〜5 0.05〜0.1 地表面冷却

東京都全体の街路樹は約79万本(2024年都統計)で、平均的な中型樹想定で年間合計約2,000GWhの冷却効果が発揮されている計算です。これは原発1基(年発電量約7,000GWh)の約30%に相当する規模で、街路樹がいかに重要なインフラかが分かります。

木造建築のヒートアイランド緩和効果

木造建築自体も、コンクリート造(RC)・鉄骨造(S造)と比較して、都市熱環境に対し有利な特性を多く持ちます。

項目 木造 RC造 S造
外壁表面温度(夏季日中) 40〜45℃ 50〜60℃ 60〜70℃
熱伝導率(W/m·K) 0.10〜0.15 1.6 50(鋼材)
蓄熱量(kJ/m³·K) 500〜700 2,000 3,500
夜間放熱の継続時間 2〜4時間 8〜12時間 4〜6時間
体感温度への影響 大(熱帯夜要因)
CO₂固定量(kg-C/m²) 200〜350 0 0

RC造のビル群が密集する都心では、昼間に蓄熱した熱が夜間に長時間放出され、最低気温の低下を妨げる「熱帯夜の発生源」となります。これに対し、木造建築は蓄熱量が小さく、夜間に速やかに放熱が完了するため、街区全体の最低気温低下に寄与します。文部科学省の木造校舎研究では、夏季の校舎内平均温度は木造がRC造より2〜3℃低く、空調コストが20〜30%低減することが実測で示されています。

屋上緑化・壁面緑化と木質デッキの組合せ

都市の屋上・壁面に植栽と木質仕上げを組合せる「複合緑化」は、ヒートアイランド対策として近年急速に普及しています。東京都は条例で1,000m²以上の敷地での屋上緑化20%以上を義務化しており、2024年時点で都内屋上緑化面積は累計約580haに達しています。

仕上げ・緑化タイプ 夏季表面温度(℃) 断熱効果(W/m²·K) 備考
裸アスファルト屋上 60〜70 蓄熱・放熱量大
白色塗装屋上 40〜50 反射率向上のみ
木質デッキ屋上 40〜45 蓄熱抑制+断熱
芝生屋上 35〜40 蒸散・断熱両方
樹木屋上+木質デッキ 30〜35 複合効果最大
壁面緑化+木格子 30〜40 夏季西面に有効

裸アスファルト屋上と樹木+木質デッキ屋上では表面温度差35℃に達し、これは下階の冷房負荷を10〜25%削減する効果を持ちます(環境省・国土交通省『屋上緑化の効果に関する技術資料』)。複合緑化は、ヒートアイランド緩和、CO₂固定、生物多様性保全、雨水流出抑制、利用者の快適性向上、不動産価値向上など多面的便益を発揮するため、新築・改修両方で導入が拡大中です。

都市木造化政策と冷却効果

2010年「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(2021年改正で「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に題名変更)以降、都市部での中大規模木造建築が増加しています。

主要な木造化事例として、東京都では「銀座Kビル」(地上12階・国産材CLT・2018年)、「南青山Mビル」(地上7階・木造軸組+CLT・2020年)、「日本橋木造ハイブリッド」(地上18階・木造ハイブリッド・2026年予定)、関西では「大阪木造商業ビル」(地上8階・2023年)、海外では「ミョルニル」(ノルウェー、地上18階)など、超高層木造の事例が相次いでいます。これらの建築は、CO₂固定(建物1棟で500〜2,000t-CO₂)に加え、外装の低蓄熱性により街区の熱環境改善にも寄与します。

建物用途 木造化のヒートアイランド効果 備考
住宅(戸建・低層集合) 外壁表面温度−10〜15℃ 普及効果大
学校・保育施設 室内温度−2〜3℃、空調−20〜30% 木造校舎研究
商業施設・オフィス 外装・内装の蓄熱抑制 大規模木造増加中
公共建築(庁舎・図書館) 象徴的+熱環境改善 木材利用促進法
道路施設(バス停・歩道橋) 歩行者の体感温度−3〜5℃ 都市の小さな冷却点

木材利用拡大の現状と目標

林野庁の木材需給統計(2024年)によれば、日本国内の木材需要量は年約8,300万m³、うち建築用材は約2,800万m³です。建築用材のうち木造住宅・小規模建築が大半を占め、中大規模木造の比率は5%程度に留まりますが、年率10〜15%で拡大中です。林野庁は「2030年度に公共建築物の木造化率45%(2024年実績13.9%)」を目標に掲げ、設計支援・補助金・防火基準緩和などの施策を講じています。

都市部の木材使用拡大は、(1)森林吸収源対策(2030年CO₂削減目標の約3.8%相当を森林吸収で達成)、(2)国産材需要創出(林業活性化)、(3)ヒートアイランド緩和、(4)地域材ブランディング、(5)CO₂固定の長期化、と多面的な政策効果を持ちます。一方、防火・耐震・耐久性・コスト・調達体制など実装面の課題も残されており、木質構造設計者・木材調達ネットワーク・防火技術の蓄積が必要です。

東京都・大阪・名古屋の対策事例

東京都:『ゼロエミッション東京戦略』(2019年策定、2022年・2024年改訂)でヒートアイランド対策を明示。屋上緑化義務化(1,000m²以上の20%)、街路樹拡大、保水性舗装、クールスポット整備、公共建築の木造化推進、都有林管理など多面的施策を展開。都内街路樹は約79万本、屋上緑化累計約580ha、保水性舗装約410km

大阪市:『大阪ヒートアイランド対策推進指針』に基づき、御堂筋などの街路樹拡充、うちなる緑化、商業施設での木質外装義務化検討。市内街路樹約20万本、屋上緑化累計約110ha

名古屋市:『なごや戦略計画』でクールアイランド形成を都市計画に組込み、堀川・庄内川緑地連続整備、栄エリアの木質都市デザイン推進。市内緑被率は23.4%と政令市中位だが、街路樹の樹齢分布が高齢化しており、植替え+若木植栽の循環体制構築中。

ヒートアイランドと熱中症リスク:木材活用の社会便益

厚生労働省の人口動態統計によれば、日本の熱中症死亡者数は2010年代は年800〜1,500人、2020年代は年1,500〜2,500人に達しています。屋外労働者・高齢者・低所得層・地下街利用者が特に高リスクで、都市部のヒートアイランド緩和は公衆衛生上の最重要課題の一つです。

対策 WBGT低減効果(℃) 熱中症リスク低減
街路樹の樹冠下歩行 2〜4 40〜60%
木質ベンチ・休憩スペース 1〜2 20〜30%
木質シェード・パーゴラ 3〜5 50〜70%
公園内クールスポット 4〜6 60〜80%
水辺+樹木+木質デッキ 5〜8 70〜90%

WBGT(湿球黒球温度)は熱中症リスクの基準指標で、31℃以上で危険、28〜31℃で厳重警戒です。樹冠下+木質設計の組合せは、街路・公園・通学路の安全性向上に直結します。日本気象学会は2030年に向けて都市部の夏季WBGTを平均で2℃低下させる目標を掲げ、自治体の対策計画策定指針を提供しています。

FAQ:ヒートアイランドと木材活用

Q1. 木造建築に変えるだけで都市は涼しくなるのですか?

A. 木造建築単独の効果は限定的ですが、外壁表面温度低下・蓄熱抑制・夜間放熱低減で街区の熱環境改善に寄与します。街路樹・屋上緑化・水辺整備など複合的対策との組合せで効果が最大化されます。

Q2. 街路樹はなぜ重要なのですか?

A. 蒸散冷却・日射遮蔽・歩行者の体感温度低減・大気浄化・景観形成・生物多様性保全など多面的便益を持ち、都市冷却インフラの中核です。中型樹1本で日中エアコン4〜6台分の冷却効果を発揮します。

Q3. 屋上緑化は本当に効きますか?

A. はい。裸アスファルト屋上と樹木+木質デッキ屋上の表面温度差は35℃に達し、下階の冷房負荷を10〜25%削減します。雨水流出抑制・断熱・生物多様性などの便益もあります。

Q4. 木質外装は雨や紫外線で劣化しませんか?

A. 適切な樹種選定(ヒノキ・スギ・カラマツ・サワラ等)と防腐・撥水処理、定期的な塗装更新(5〜10年周期)で20〜50年以上の耐用が可能です。経年変化(シルバーグレー化)も意匠として評価されます。

Q5. 木材は燃えるので都市部に向かないのでは?

A. 現代の木造建築は防火被覆・耐火構造・スプリンクラー・燃え代設計などで、RC造・S造と同等以上の耐火性能を実現できます。建築基準法の改正により都市部での木造化が大幅に拡大しています。

Q6. 街路樹を増やすと落ち葉・倒木のリスクは?

A. 樹種選定(落葉樹・常緑樹のバランス)、剪定・倒木リスク管理、根上り対策舗装、地下インフラ調整などで管理可能です。維持管理コストはかかりますが、便益が遥かに上回ります。

Q7. CLT・集成材を使う中大規模木造はヒートアイランド対策に有効?

A. 有効です。外装木質化による表面温度低下、蓄熱量減少、CO₂固定、街区の景観性向上など、複数の効果を同時実現できます。2030年公共建築物木造化率45%目標との整合も取れます。

Q8. 個人住宅でできる対策は?

A. 外壁の木質化、屋根・庭の緑化、ウッドデッキ+日除けの組合せ、敷地内樹木の植栽、雨水浸透・保水舗装などが有効です。自治体の助成制度(屋上緑化・壁面緑化・植樹助成)も活用できます。

Q9. 海外のベストプラクティスは?

A. シンガポール(City in Nature計画、2030年に緑被率50%目標)、メルボルン(Urban Forest Strategy、2040年に樹冠被覆40%目標)、コペンハーゲン(カーボンニュートラル+木造化)などが先進事例です。日本も学ぶべき要素が多くあります。

Q10. 個人レベルでできる支援は?

A. 国産材の建材・家具を選ぶ、地域の植樹活動への参加、街路樹の維持管理ボランティア、自治体への政策提言、住宅改修時の木質化選択など、多様な参加機会があります。

2030・2050年に向けた都市像

気象庁・国立環境研究所の予測では、温暖化が2℃シナリオで進んだ場合、東京都心の年平均気温は2050年に18〜19℃(現在比+1.5〜2℃)まで上昇し、夏季日中の最高気温が40℃を超える日数も年10〜20日に増加する可能性があります。これに対し、ヒートアイランド対策の徹底と木材活用拡大により、都市部の体感温度を2〜4℃低減することが理論上可能とされています。

2030年・2050年に向けた都市像は、(1)街路樹密度2倍化、(2)公共建築の木造化率50%以上、(3)屋上・壁面緑化の標準化、(4)木質外装比率の倍増、(5)都市内クールスポット網の整備、(6)水循環・蒸散インフラの再構築、を統合した「クール・ウッド・シティ」と表現できます。これは森林吸収源対策、林業振興、ヒートアイランド緩和、健康増進、景観形成、地域経済活性化を同時に達成する包括戦略であり、政府・自治体・企業・市民の協働が不可欠です。

結論:木材は都市冷却の戦略インフラ

ヒートアイランド対策において、木材と樹木は単なる「装飾的な緑」ではなく、都市の温度環境を制御する戦略インフラです。街路樹1本の蒸散冷却(12kWh/日)、木造建築の蓄熱抑制(外壁表面温度−10〜15℃)、屋上緑化+木質デッキの組合せ(表面温度差35℃)など、定量的に大きな効果が実証されています。気候変動の進行で熱ストレスが拡大する2030年代以降、木材活用の社会的価値は加速度的に高まります。

政府・自治体は、(1)公共建築の木造化、(2)街路樹拡充、(3)屋上・壁面緑化義務化、(4)保水性舗装、(5)水辺整備、(6)市民への支援、を統合した包括計画を策定・実装する必要があります。森林・林業・木材産業・建築・都市計画・公衆衛生・環境政策の連携により、日本の都市は「熱の島」から「クール・ウッド・シティ」へと転換できます。出典:気象庁、環境省『ヒートアイランド対策大綱』、東京都環境局『街路樹の冷却効果調査』、文部科学省『木造校舎の特性』、林野庁『木材需給統計2024』、国立環境研究所『都市気候研究報告』。

気象観測データから見るヒートアイランドの拡大

気象庁の地上気象観測データを長期的に分析すると、日本の主要都市におけるヒートアイランドの拡大は明確に観測されています。年平均気温の上昇幅(1900年から2020年までの120年間)を主要都市別に整理すると、東京の3.2℃を筆頭に、名古屋3.0℃、大阪2.8℃、福岡2.5℃、札幌2.4℃、仙台2.2℃と、人口集中度・都市規模・コンクリート被覆率に対応した上昇傾向が確認されます。これらの数値から地球温暖化分(約1.0〜1.3℃)を差し引いた残差が、純粋な都市化要因によるヒートアイランド寄与であり、東京の場合は約2℃に達します。これは郊外(八王子・つくば等)の同期間の上昇幅0.8〜1.2℃と比較すれば、都市化が気温に与える影響の大きさが定量的に確認できます。

さらに細かく見ると、ヒートアイランドは単に平均気温を押し上げるだけでなく、気温分布の形状そのものを変化させています。東京の最低気温の分布は、過去30年で夜間20℃以下の日数が年100日減少し、熱帯夜(最低気温25℃以上)が年30〜50日に倍増しています。この変化は、夜間の人体冷却機会を奪い、睡眠の質低下、循環器疾患リスク増大、熱中症発症リスク(特に高齢者)の急増として顕在化しています。木材活用と街路樹拡充による夜間冷却機能の強化は、この問題への直接的な処方箋になります。

木材の熱物性詳細:なぜ木は涼しいのか

木材が建築外装・内装として優れた熱環境性能を持つ物理的理由は、以下の5つの物性値に集約されます。

物性値 木材(スギ) コンクリート 鋼材 意義
熱伝導率(W/m·K) 0.10〜0.12 1.6 50 低いほど断熱性能高い
比熱(J/kg·K) 1,300〜1,700 880 460 木は温度変化に鈍感
密度(kg/m³) 350〜450 2,400 7,850 軽量で蓄熱量小さい
蓄熱容量(kJ/m³·K) 500〜700 2,000 3,500 夜間放熱を抑制
表面放射率 0.85〜0.92 0.90〜0.95 0.10〜0.30 木は夜間放熱効率高

この組合せにより、木材外装は「日中は太陽熱を吸収しすぎず、夜間は素早く放熱する」という都市熱環境にとって理想的な動的特性を示します。コンクリート外装が「日中に大量蓄熱し、夜間に長時間放熱する」のと真逆の振舞いです。鋼材外装は熱伝導率が極めて高いため、外壁内部への熱伝達が早く、夏季の冷房負荷を増大させる傾向があります。これらの物理特性に基づき、近年の都市建築では「外装に木材、構造躯体に鉄骨またはRC、内装に木材」というハイブリッド構成が冷却・耐震・耐火・コストを統合的に最適化する解として採用されています。

都市の風通しと木材活用の関係

ヒートアイランド緩和の重要な要素として、「都市の風通し」が挙げられます。海風・川風・山風などの自然風が市街地に流入することで、蓄熱した熱気が排出され、都心部の気温が低下します。東京湾岸地域では、夏季の海風(南南東〜南西、平均風速2〜4m/s)が日中に内陸へ侵入し、新宿・渋谷・池袋など都心部の気温を最大2〜3℃低下させる効果が観測されています。

しかし、超高層ビル群の密集や東西軸の高層建築物の障壁化により、海風の侵入経路が阻害されているのが現状です。木造中高層建築は、RC造高層と比較して建物床面積あたりの躯体重量が小さく、開放的な構造(中庭・吹抜・木格子壁)を採用しやすいため、街区の通風確保に有利です。風の道(ウィンドコリドー)の確保は都市計画上の課題ですが、木質都市デザインの導入によって街区の通風性を再設計することが可能です。

政策パッケージの統合:森林・建築・都市計画

ヒートアイランド対策と森林資源活用を統合的に進めるためには、複数の政策分野の連携が不可欠です。林野庁の森林・林業政策、国土交通省の都市政策・建築政策、環境省の気候変動・ヒートアイランド対策、文部科学省の教育施設整備、厚生労働省の熱中症対策、経済産業省の産業政策が、それぞれ独立に施策を講じるのではなく、共通の数値目標とKPIを共有して連動する必要があります。

政策分野 主要施策 2030年KPI
森林吸収源対策 主伐再造林・間伐促進・国産材需要創出 CO₂削減目標の3.8%相当
公共建築の木造化 低層公共建築の原則木造化 木造化率45%(現在13.9%)
都市緑化 街路樹拡充・屋上壁面緑化義務化 緑被率30%以上
ヒートアイランド対策 表面温度低減・通風確保・水循環 都心夏季気温−2℃
熱中症予防 クールスポット整備・高齢者支援 熱中症死者半減
地域経済振興 地域材ブランディング・林業雇用 林業就業者15万人

これらの政策が連動することで、森林・木材・都市・気候・健康・地域経済の各領域が相互に強化される好循環が生まれます。地方自治体レベルでも、市町村森林整備計画、地域材活用計画、緑の基本計画、地球温暖化対策実行計画、健康増進計画など個別計画を統合した「森林ウェルビーイング計画」のような包括戦略の策定が望まれます。

市民・企業の参加機会と社会変革

ヒートアイランド対策と木材活用は、政府・自治体だけでは実現できません。市民・企業の参加と消費行動の変化が不可欠です。具体的な参加機会としては、(1)国産材住宅・家具の選択購入、(2)植樹活動・里山保全ボランティア、(3)街路樹維持管理への市民参加、(4)地域材使用の建築依頼、(5)ESG投資・グリーンボンドの活用、(6)環境配慮型企業との取引選好、(7)森林吸収J-クレジットの購入、などが挙げられます。

企業レベルでは、事業所ビルの木造化・木質改修、社員食堂・休憩室の木質化、敷地内緑化・屋上緑化、地域材使用の建築調達基準、サプライチェーンでのCO₂削減、CSR活動としての森林保全パートナーシップ、などが実践されつつあります。これらの企業活動は、CO₂削減・ヒートアイランド緩和・社員のウェルビーイング向上・ESG評価向上・地域経済貢献を同時実現できる戦略的取組として位置付けられます。

木材活用と健康都市デザイン

WHO(世界保健機関)と日本公衆衛生学会の研究では、緑地・水辺・木質環境へのアクセス頻度が、住民のストレス指数・うつ症状リスク・循環器疾患リスク・睡眠の質と統計的に有意な関連を示すことが明らかになっています。具体的には、住居から500m以内に公園・並木道・木質広場などの「都市の癒しの場」がある住民は、そうでない住民と比較して、年間医療費が平均5〜8%低い、自己申告幸福度が10〜15%高い、平均寿命が0.7〜1.2年長いといった効果が確認されています。

これは、ヒートアイランド緩和という気候変動対策の枠を超え、木材活用と都市緑化が健康増進・社会保障費削減・生産性向上といった社会経済的な便益をもたらすことを意味します。経済産業省の試算では、都市部の緑化と木質化を統合的に進めることで、2030年に年間約3兆円規模の社会便益(医療費削減・生産性向上・観光振興・不動産価値向上の合計)が見込まれます。これは林業・建築・造園・観光・健康産業の連携によって実現可能な、次世代の都市政策の中核テーマとなります。

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