木造建築のWELL認証|木材の心理生理効果

木造建築のWELL認証 | Forest Eight

木の壁に囲まれた部屋に入ると、なんとなく肩の力が抜ける——あの感覚には、実は測定可能な裏づけがあります。人の健康やウェルビーイングを評価する国際的な建築認証「WELL Building Standard」は2024年時点で世界約7万件、日本でも累計約500件規模に広がりました。この記事では、木造・木質化がWELL認証にどう効くのか、そして木材が心と体に及ぼす効果を、研究データを手がかりに見ていきます。

目次

WELL認証で木材が効く5つのカテゴリ

WELL認証は、空気・水・食・光・運動・温熱・音・材料・心・コミュニティの10カテゴリで建物を評価し、達成度に応じてBronze〜Platinumの4段階で認証します。このうち木材が加点に効くのは、Mind(心理)・Materials(材料)・Air(空気質)・Sound(音)・Thermal(温熱)の5つ。なかでも最重要がMindで、木目や木の色合いといった視覚的な自然らしさが、ストレス低減を通じて評価されます。

WELL認証10カテゴリと木材の関連性 10カテゴリのうち木材が貢献する5カテゴリを示す WELL Building Standard v2 10カテゴリと木材の貢献度 Air VOC低減 Water Nourishment Light Movement Thermal 断熱性 Sound 吸音特性 Materials 再生可能材 Mind ストレス低減 Community 木材が貢献するカテゴリ:5/10 最重要:Mind(心理生理効果) 主要:Materials(再生可能・低VOC) 関連:Thermal・Sound・Air 木材の効果は「Mind」カテゴリで最大、認証取得の重要差別化要素となる。
図1:WELL認証10カテゴリと木材の貢献領域(出典:IWBI WELL v2 Standard、日本グリーンビルディング協議会資料)

木はなぜ人を落ち着かせるのか

「気のせいでは?」と思うかもしれませんが、森林総合研究所や千葉大学などの研究で、木質空間にいる人の体には実際に変化が起きることが繰り返し確認されています。木の壁・床・天井に囲まれた部屋で15〜30分過ごすと、ストレスホルモンのコルチゾールが15〜25%低下し、心拍数が3〜5拍/分下がり、リラックスを司る副交感神経の活動が高まります。主観的な「心地よさ」も25〜40%上昇します。

木質空間と非木質空間の生理指標比較 コルチゾール・血圧・心拍数・主観快適感の比較 木質空間における生理指標の改善幅(非木質空間との比較) コルチゾール -20% 収縮期血圧 -4mmHg 心拍数 -4拍/分 副交感神経HF +15% 主観快適感 +30% 作業効率 +8% 複数研究の中央値。木質化率30-45%で効果最大、過度な木質化(80%超)では逆効果も報告。
図2:木質空間における生理指標の改善幅(出典:森林総合研究所、日本建築学会論文集、複数研究の中央値)

面白いのは「木は多ければ多いほどいい」わけではないこと。千葉大学・宮崎良文教授らの研究では、室内の木材露出比率(木質化率)が30〜45%で心地よさが最大になり、80%を超えると逆に圧迫感を覚える人が増えると報告されています。全面木張りが正解ではない、というのは設計の現場でも重要な知見です。

この効果の正体は複合的です。木目には自然界と同じ「ゆらぎ」(フラクタル次元1.3〜1.5)があって視覚的な負荷が少なく、スギやヒノキが放つα-ピネンなどの香り成分が嗅覚からリラックスを促し、さらに木は触れても冷たくない——見た目・香り・手触りの三方向から、無意識に体をゆるめてくれるわけです。

空気と音にも効く

木材はシックハウスの原因物質も少なめです。無垢のスギ・ヒノキはホルムアルデヒド放散が0.005mg/L以下と極めて低く、JAS規格の最高ランクF☆☆☆☆(0.3mg/L以下)の集成材と並んで、WELLのAirカテゴリと相性が良い建材です。

建材 ホルムアルデヒド放散 WELL適合性
無垢スギ・ヒノキ 0.005mg/L以下 最高
F☆☆☆☆合板・集成材 0.3mg/L以下
塗装合板(一般) 0.5〜1mg/L 不適

音環境でも木は働きます。木質の壁や天井は中高音をよく吸い、コンクリートの5〜10倍の吸音率を持つため、会話の聞き取りやすさが上がります。CLT壁や木質ルーバー天井をコンクリート空間に足すと、残響時間が25〜40%短くなり、オフィスや教室が集中しやすい環境になります。

日本の先行事例と経済価値

国内では2017年の初取得以降、2020年のコロナ禍を境に件数が急増しました。木造・木質化案件はそのうち2〜3割。代表例が住友林業筑波研究所(2018年、木造2階建てでGold取得)や、清水建設NOVARE(2024年、CLTの大規模オフィスで木質化率約40%)です。いずれも木質化率を30〜50%に抑え、構造材を「あらわし」で見せることでMindの得点を稼いでいます。

日本のWELL認証件数推移 2017年から2024年までのWELL認証累計件数 日本のWELL認証累計件数推移(プロジェクト数) 600 400 200 50 0 2017 5 2018 12 2019 35 2020 80 2021 170 2022 280 2023 400 2024 500 2020年以降急増(コロナ後の健康志向)。木造・木質化案件は20-30%。
図3:日本のWELL認証累計件数推移(出典:日本グリーンビルディング協議会、IWBI公開データに基づく概算)

気になる費用ですが、登録・評価・性能検証・コンサルを合わせて建物総工費の1〜3%程度。一方で、認証取得物件は賃料が5〜15%上乗せされ、従業員の生産性が10〜15%上がるといった報告があり、5〜10年で回収可能とする試算が一般的です。木造と組み合わせれば、健康効果に加えて国産材活用やCO₂貯蔵というESGの説得材料も得られます。建てる前の設計段階から木質化率や部材選定を織り込んでおくことが、無理なく高得点を狙うコツです。

よくある質問

WELL認証とLEED認証はどう違いますか?

LEEDは省エネや建材など「地球環境への負荷」を評価する認証、WELLは「そこで過ごす人の健康」を評価する認証です。目的が補完関係にあるため、両方取得する建物も増えています。木材はどちらでも加点要素になります。

木をたくさん使うほど健康効果は上がりますか?

いいえ。研究では木質化率30〜45%で心地よさが最大になり、80%を超えると圧迫感で逆効果になることが確認されています。コンクリートやガラスとのバランスが大切で、WELLの評価でも過剰使用は加点に直結しません。

中高層の木造でもWELL認証は取れますか?

取れます。CLTや大断面集成材なら構造材をあらわしで見せられ、木質感を最大化できます。ノルウェーの18階建てMjøstårnet、米国の25階建てAscentなど海外で事例が蓄積されており、日本でも2020年代後半に10階規模の展開が見込まれています。

出典・参考:International WELL Building Institute(IWBI)日本グリーンビルディング協議会森林総合研究所日本建築学会

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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