木の壁に囲まれた部屋に入ると、なんとなく肩の力が抜ける——あの感覚には、実は測定可能な裏づけがあります。人の健康やウェルビーイングを評価する国際的な建築認証「WELL Building Standard」は2024年時点で世界約7万件、日本でも累計約500件規模に広がりました。この記事では、木造・木質化がWELL認証にどう効くのか、そして木材が心と体に及ぼす効果を、研究データを手がかりに見ていきます。
WELL認証で木材が効く5つのカテゴリ
WELL認証は、空気・水・食・光・運動・温熱・音・材料・心・コミュニティの10カテゴリで建物を評価し、達成度に応じてBronze〜Platinumの4段階で認証します。このうち木材が加点に効くのは、Mind(心理)・Materials(材料)・Air(空気質)・Sound(音)・Thermal(温熱)の5つ。なかでも最重要がMindで、木目や木の色合いといった視覚的な自然らしさが、ストレス低減を通じて評価されます。
木はなぜ人を落ち着かせるのか
「気のせいでは?」と思うかもしれませんが、森林総合研究所や千葉大学などの研究で、木質空間にいる人の体には実際に変化が起きることが繰り返し確認されています。木の壁・床・天井に囲まれた部屋で15〜30分過ごすと、ストレスホルモンのコルチゾールが15〜25%低下し、心拍数が3〜5拍/分下がり、リラックスを司る副交感神経の活動が高まります。主観的な「心地よさ」も25〜40%上昇します。
面白いのは「木は多ければ多いほどいい」わけではないこと。千葉大学・宮崎良文教授らの研究では、室内の木材露出比率(木質化率)が30〜45%で心地よさが最大になり、80%を超えると逆に圧迫感を覚える人が増えると報告されています。全面木張りが正解ではない、というのは設計の現場でも重要な知見です。
この効果の正体は複合的です。木目には自然界と同じ「ゆらぎ」(フラクタル次元1.3〜1.5)があって視覚的な負荷が少なく、スギやヒノキが放つα-ピネンなどの香り成分が嗅覚からリラックスを促し、さらに木は触れても冷たくない——見た目・香り・手触りの三方向から、無意識に体をゆるめてくれるわけです。
空気と音にも効く
木材はシックハウスの原因物質も少なめです。無垢のスギ・ヒノキはホルムアルデヒド放散が0.005mg/L以下と極めて低く、JAS規格の最高ランクF☆☆☆☆(0.3mg/L以下)の集成材と並んで、WELLのAirカテゴリと相性が良い建材です。
| 建材 | ホルムアルデヒド放散 | WELL適合性 |
|---|---|---|
| 無垢スギ・ヒノキ | 0.005mg/L以下 | 最高 |
| F☆☆☆☆合板・集成材 | 0.3mg/L以下 | 高 |
| 塗装合板(一般) | 0.5〜1mg/L | 不適 |
音環境でも木は働きます。木質の壁や天井は中高音をよく吸い、コンクリートの5〜10倍の吸音率を持つため、会話の聞き取りやすさが上がります。CLT壁や木質ルーバー天井をコンクリート空間に足すと、残響時間が25〜40%短くなり、オフィスや教室が集中しやすい環境になります。
日本の先行事例と経済価値
国内では2017年の初取得以降、2020年のコロナ禍を境に件数が急増しました。木造・木質化案件はそのうち2〜3割。代表例が住友林業筑波研究所(2018年、木造2階建てでGold取得)や、清水建設NOVARE(2024年、CLTの大規模オフィスで木質化率約40%)です。いずれも木質化率を30〜50%に抑え、構造材を「あらわし」で見せることでMindの得点を稼いでいます。
気になる費用ですが、登録・評価・性能検証・コンサルを合わせて建物総工費の1〜3%程度。一方で、認証取得物件は賃料が5〜15%上乗せされ、従業員の生産性が10〜15%上がるといった報告があり、5〜10年で回収可能とする試算が一般的です。木造と組み合わせれば、健康効果に加えて国産材活用やCO₂貯蔵というESGの説得材料も得られます。建てる前の設計段階から木質化率や部材選定を織り込んでおくことが、無理なく高得点を狙うコツです。
よくある質問
WELL認証とLEED認証はどう違いますか?
LEEDは省エネや建材など「地球環境への負荷」を評価する認証、WELLは「そこで過ごす人の健康」を評価する認証です。目的が補完関係にあるため、両方取得する建物も増えています。木材はどちらでも加点要素になります。
木をたくさん使うほど健康効果は上がりますか?
いいえ。研究では木質化率30〜45%で心地よさが最大になり、80%を超えると圧迫感で逆効果になることが確認されています。コンクリートやガラスとのバランスが大切で、WELLの評価でも過剰使用は加点に直結しません。
中高層の木造でもWELL認証は取れますか?
取れます。CLTや大断面集成材なら構造材をあらわしで見せられ、木質感を最大化できます。ノルウェーの18階建てMjøstårnet、米国の25階建てAscentなど海外で事例が蓄積されており、日本でも2020年代後半に10階規模の展開が見込まれています。
出典・参考:International WELL Building Institute(IWBI)/日本グリーンビルディング協議会/森林総合研究所/日本建築学会

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