春の里山で、タラの芽と並んで山菜採りの人が心待ちにするのがコシアブラの若芽です。「山菜の女王」と呼ばれ、ニンニクにも似た独特の芳香と上品なほろ苦さで、天ぷらにもパスタにも合う。学名は Eleutherococcus sciadophylloides、ウコギ科の落葉小高木で、樹高は8〜15m、条件がよければ20mにもなります。じつは食材としてだけでなく、樹皮から採れる樹脂が古代の塗料「金漆」として使われた歴史も持つ、奥行きのある木です。
「山菜の女王」と呼ばれる春の若芽
若芽の採取期は4月中旬〜5月下旬。標高や緯度で1ヶ月以上の幅があり、東北・北陸ではゴールデンウィーク前後、標高1,000m級なら5月中旬以降が目安です。指先大から手のひら大の若芽がいちばん評価されます。定番は天ぷら。中温でさっと揚げると、硫黄系の芳香とほろ苦さが際立ちます。さっと茹でてお浸しや和え物にする山形・新潟の郷土食もあれば、近年はペペロンチーノの青菜代わりやピザのトッピングなど洋風アレンジも人気で、バジルのような使われ方をします。
卸売価格は1kgあたり3,000〜10,000円。最高等級は1万円を超え、量販店向けの一般等級でも3,000〜5,000円が相場です。山形・新潟・長野・福島・秋田・岩手などが主産地で、中山間地の特用林産物として地域経済を支えています。
名前の由来は塗料「漉油」
「コシアブラ」という名は、樹皮から採った樹脂を布で「漉して」精製した塗料「漉油(こしあぶら)」に由来するとされます。漢字では「漉油」または「金漆(こんぜつ)」。金色に輝く樹脂だったことから「ゴンゼツノキ(金漆木)」とも呼ばれ、若芽の独特な香りから「ニンニクノキ」という地方名もあります。
この金漆、漆とちがってかぶれ成分(ウルシオール)を含まないため安全で、輝度の高い黄金色を出せました。古代から刀剣や甲冑の塗装に使われ、10世紀の「延喜式」や正倉院文書にも調達記録が残ります。1本の木から採れる樹脂はわずか年間数十〜数百gと希少な高級素材でした。漆器産業の発達で需要は廃れましたが、現在も文化財修復や復元プロジェクトの文脈で細々と作られています。
似た山菜との見分け方
山菜採りで間違えやすいウコギ科の仲間と並べてみます。決め手は葉とトゲです。
| 種名 | 葉 | 若芽・特徴 | トゲ |
|---|---|---|---|
| コシアブラ | 掌状複葉5小葉、葉柄が長い | 芳香強く上品、「女王」 | なし |
| タラノキ | 2回羽状複葉、大型 | 野性的で力強い、「王」 | 鋭いトゲ多数 |
| タカノツメ | 3出複葉(3小葉) | マイルドで食べやすい | なし、冬芽が鷹の爪状 |
タラノキはトゲがあるので一目で違います。タカノツメとはまぎらわしいですが、葉がコシアブラは5小葉、タカノツメは必ず3小葉。冬芽もタカノツメは鋭く尖り、コシアブラは卵形で丸みがあります。コシアブラのほうが香りが強く、タカノツメは初心者にも食べやすい味です。
原発事故後の放射能の問題
避けて通れないのが放射性セシウムの問題です。野生の山菜は森林土壌のセシウムを根から吸い上げて若芽に蓄積する性質があり、コシアブラはとくに蓄積しやすい樹種として知られます。2011年の福島第一原発事故後、福島・宮城・栃木・群馬・茨城の一部市町村で出荷制限がかかり、事故から10年以上たった現在も基準値(一般食品100Bq/kg)を超える検出例が報告されています。半減期30年のCs-137の影響は中長期的に続く見込みです。
市場に流通している検査済みの製品は基準値以下が確認されており安全です。野生個体を自分で採る場合は、必ず現地自治体の採取・摂取指針を確認してください。林野庁や各県のサイトで最新の制限状況が公開されています。汚染リスクの低い北海道道南・道央では、植林型の試験産地づくりも進められています。
木材としては
材は気乾比重0.35〜0.50の軽軟材。加工しやすく狂いも少ない一方、耐朽性が低く屋外には使えません。軽くて刃当たりがよいのでまな板、升や桶などの容器、細工物や楊枝に小ロットで使われてきました。ただし山菜採取のほうが経済価値が高いため、用材としての流通は現代ではごくわずかです。秋には鮮やかな黄〜橙に黄葉し、ブナ・ナラ二次林の秋景色を彩る役回りも担います。
よくある質問
家庭で栽培できますか?
苗木から日陰〜半日陰の湿った場所で育てられます。ただし採取できるようになるまで5〜10年かかり、1本あたりの若芽は年間数十g程度と限られます。家庭で楽しむぶんには可能ですが、商業生産には数十〜数百本規模の植栽が必要です。
採取時の注意点は?
私有林・国有林を問わず、所有者の許可なく採るのは違法です。地域の入山ルールを必ず確認してください。また一本の木から全部の若芽を採らず、頂芽は残すのがマナー。シカの食害で資源が減っている地域も多いため、採りすぎは禁物です。

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