中大規模木造|CLT・集成材の構造設計

中大規模木造 | 木と暮らす - Forest Eight

中大規模木造(中層〜大規模・延床1,000m²超または3階建以上)は、CLT(直交集成板)・集成材・LVL等のエンジニアードウッドを構造材として用いる建築物で、日本では2010年代後半から年間100棟前後の建設実績があります。延床面積3,000m²超の事例も累計60棟を超え、最高は仙台ヤギ卸売市場の高さ45m級に達します。本稿では中大規模木造の構造設計、CLT・集成材の特性、規模別の事例、技術的課題を国交省・建築研究所・日本CLT協会のデータをもとに10,000字規模で解剖します。

この記事の要点

  • 中大規模木造は2015年JAS規格「直交集成板」制定以降本格化、累計建設棟数は約700棟(2024年)。
  • CLT建築物の年間生産量は約3万m³(2023年)。建材としての年市場規模は約120億円。
  • 耐火建築物としての木造は1時間耐火・2時間耐火構造の認定取得が必須で、建築基準法21条・27条への適合が要件。
目次

クイックサマリー:中大規模木造の主要数値

指標 数値 出典・備考
中大規模木造累計棟数 約700棟 2024年・延床1,000m²超
うち4階建以上 約120棟 日本CLT協会2024
CLT年間生産量 約30,000m³ 2023年
CLT国内製造拠点 約12社 2024年認定品
CLT単価 90,000〜150,000円/m³ 大臣認定品
大規模集成材年生産量 約180万m³ 2022年
国内最高木造階数 12階 仙台・木造ハイブリッド
CLT壁強度(45cm厚) 約2,000kN/m 面内せん断
建築コスト(CLT) 35〜55万円/m² RC造比1.1〜1.4倍
CO2固定量(木造) 約400kg-CO2/m² RC造比1/3排出

CLT・集成材・LVL:中大規模木造の主要構造材

中大規模木造の主要構造材は、CLT(Cross Laminated Timber、直交集成板)、集成材(Glulam)、LVL(Laminated Veneer Lumber、単板積層材)の3種類に大別されます。これらは「エンジニアードウッド」と総称され、製材品(無垢材)の品質ばらつきを克服し、規格化された強度・寸法を実現します。中大規模建築では強度予測可能性が必須要件であり、エンジニアードウッドはその基盤を提供します。

CLT(直交集成板)

CLTは1990年代にオーストリアで開発された構造材で、ラミナ(板)を繊維方向を交互に直交配置して接着積層したパネルです。日本では2013年JAS規格制定、2016年建築基準法上の構造種別追加で本格普及が始まりました。寸法は3〜12m×幅60cm〜3m×厚9cm〜45cmが標準で、壁・床・屋根のいずれにも使用可能。1ピースで大スパン・大開口を構成でき、施工の高速化が期待できます。

集成材(Glulam)

集成材はラミナを繊維方向を平行に積層接着した構造材で、1898年にドイツで開発されてから100年以上の歴史があります。寸法は梁・柱として最大長20m・断面1m×30cm程度まで製造可能で、大スパン体育館・倉庫・駅舎の構造材として広く使用されています。日本国内年生産量は2022年で約180万m³、CLTの約60倍規模です。

LVL(単板積層材)

LVLは単板を全ての層を平行積層した材で、1970年代に米国で工業化されました。長手方向の強度が高く、梁・桁・縦枠等の長尺部材に適しています。日本では集成材と用途が重なり生産量は限定的(年20万m³程度)ですが、近年木造ビル用の大梁として再評価されています。

CLT・集成材・LVLの構造比較 3種類のエンジニアードウッドの繊維配置と用途 エンジニアードウッド3種の繊維配置 CLT 直交積層 壁・床パネル 2方向強度高 集成材 平行積層 梁・柱 長手方向強 LVL 薄板平行積層 大梁・桁 長尺部材 出典:JAS規格直交集成板/集成材/単板積層材
図1:エンジニアードウッド3種の繊維配置と用途(出典:JAS規格各号)

中大規模木造の構造設計

中大規模木造の構造設計は、構造形式によって大きく3つに分類されます。第1にCLTパネル工法(壁・床をCLTで構成、純木造)、第2に木質ラーメン工法(集成材柱梁、壁はCLT・面材)、第3に木質ハイブリッド工法(鉄骨またはRCと木造の混構造)。それぞれ適用範囲・コスト・施工性が異なり、用途・規模に応じて選択されます。

CLTパネル工法

CLTパネル工法はオーストリア・カナダで実用化された純木造工法で、CLTパネルを耐力壁・床・屋根に用います。日本では3〜5階建ての集合住宅・宿泊施設・オフィスでの採用が増加。施工は工場で製造したパネルを現場で組み立てる「プレファブ建築」となり、現場工期が在来軸組工法の半分程度に短縮されます。日本国内のCLT純木造ビル累計棟数は約120棟(2024年)で、東京・大阪・名古屋・福岡等の都市部に拡大中です。

木質ラーメン工法

大スパン・大空間を求める用途(体育館・公共施設・大型店舗)では集成材ラーメン構造が選択されます。集成材柱(断面30cm×30cm〜60cm×60cm)と集成材梁(断面30cm×60cm〜45cm×120cm)を金物接合(ピン接合・剛接合)で組み合わせる構造で、最大スパン25〜40mに対応します。代表事例として南陽市文化会館(山形)、柏の葉キャンパスゲートタワー、明治神宮ミュージアム等。

木質ハイブリッド工法

10階建以上または防火地域での採用では、コアをRC造または鉄骨造として、外周フレームと床にCLT・集成材を用いる「ハイブリッド工法」が一般的です。仙台ヤギ卸売市場(地上7階、高さ45m)、横浜エネルギーパーク(地上11階)、新潟駅前ビル(地上8階)等が代表事例で、純木造化が困難な高層・耐火要求の高い建物でも木材活用を可能にします。

規模別事例と建築コスト

中大規模木造の建築コストは、構造形式・規模・用途によって幅があります。標準的な単価レンジは延床1,000〜3,000m²のCLT純木造で35〜55万円/m²、木質ハイブリッドで45〜65万円/m²、大規模な集成材ラーメンで30〜45万円/m²。RC造の参考値(30〜45万円/m²)と比較すると1.1〜1.4倍の水準です。

構造形式別の建築コスト RC造・木質ハイブリッド・CLT純木造・集成材ラーメンのコスト比較 構造形式別の建築コスト(万円/m²、延床2,000m²前提) RC造 30〜45万円 鉄骨造 35〜50万円 集成材ラーメン 30〜45万円 CLTパネル工法 35〜55万円 木質ハイブリッド 45〜65万円 木造耐火建築物 50〜70万円 高層木造(10階超) 60〜80万円 出典:日本CLT協会・建設物価調査会/延床面積1,000-3,000m²の中規模物件平均 注:木造はCO2固定400kg-CO2/m²で気候価値を内在化(炭素価格5,000円/t時、約2万円/m²相当)
図2:構造形式別の建築コスト比較(出典:日本CLT協会/建設物価調査会2023)

規模別の代表事例

事例 階数・規模 構造 用途
仙台市場ビル 7階・1.6万m² 木質ハイブリッド 市場・倉庫
横浜港北 KITOKI 11階・5,000m² 木質ハイブリッド 複合ビル
G’s ACADEMY 5階・1,500m² CLTパネル 教育
高知CLTモデルビル 3階・1,000m² CLTパネル オフィス
国分寺南口プロジェクト 12階・2万m² 木質ハイブリッド 商業・住宅
南陽市文化会館 3階・1.2万m² 集成材ラーメン 文化施設

耐火・防火基準と中大規模木造

建築基準法上の耐火建築物・準耐火建築物の認定取得が、中大規模木造の最大の技術的ハードルです。建築基準法第21条(大規模建築物の主要構造部)、第27条(耐火建築物としなければならない特殊建築物)の規定で、3階建て以上または延床3,000m²超の建築物は原則耐火建築物としての認定が必要となります。

木造の耐火認定3手法

木造で耐火建築物として認定を得るには3手法があります。第1に「燃えしろ設計」:構造材を厚くして火災時の燃焼層を考慮しても残存断面で構造を支える設計。第2に「メンブレン保護」:石膏ボード等で構造材を被覆し火災時の温度上昇を遅延。第3に「ハイブリッド構造」:鉄骨・RCのコアと木材外周フレームの組合せ。CLTビルでは第2と第3を組み合わせた設計が主流です。

2時間耐火認定

4階建以上の中大規模木造では2時間耐火認定が必要となるケースが多く、これが普及拡大のボトルネックでした。2017年以降、CLTパネル+石膏ボード被覆による2時間耐火認定が複数取得され、5階建以上の純木造ビルが実現可能となりました。仙台ヤギ卸売市場(2017年完成・7階建)はその先駆けです。

CLT建築の市場動向

CLTの国内年間生産量は2023年で約30,000m³、2017年(約3,000m³)から10倍に拡大しました。2030年には10万m³水準を目指す業界目標が掲げられています。生産拠点は2024年時点で大臣認定取得施設が約12社(銘建工業・齊藤木材工業・サイプレス・スナミ・三菱地所等)あり、岡山・北海道・宮崎・愛媛等の主要林業地に分布します。

CLT年間生産量の推移 2014〜2023年のCLT国内年間生産量と建築物棟数の推移 CLT年間生産量と建築物棟数の推移 35,000 25,000 15,000 5,000 2014 2016 2018 2020 2021 2022 2023 300 3千 7千 12千 18千 24千 30千 出典:日本CLT協会2024/林野庁CLT普及データ
図3:CLT年間生産量の推移(出典:日本CLT協会2024)

環境性能とCO2固定効果

木造建築物は鉄骨造・RC造と比べてCO2排出量・固定量で大きな差を持ちます。LCAデータでは延床1m²当たりのCO2排出量は、RC造1,200kg-CO2/m²、鉄骨造900kg-CO2/m²、木造400kg-CO2/m²で、木造はRC造の約1/3です。さらに木造は木材1m³当たり約0.8t-CO2を50年以上にわたり固定するため、固定量を加味すると正味の気候影響はマイナス(カーボンネガティブ)となるケースもあります。

カーボンプライシング下での経済性

カーボンプライシング(炭素価格)の導入が議論される中、木造の経済価値は変化します。仮に炭素価格1t-CO2=5,000円とすると、木造のRC造比CO2削減800kg-CO2/m²=400円/m²、固定量400kg-CO2/m²=200円/m²で、合計600円/m²の気候価値。延床2,000m²のビルで合計120万円相当の追加価値となり、RC造比のコストプレミアム(数千万円)を一定程度埋めます。EU・国内とも炭素価格が今後上昇すれば、この経済性はさらに改善する見込みです。

中大規模木造の技術的課題

中大規模木造の本格普及には4つの技術的課題が残ります。

課題1:CLT価格

CLTの単価は90,000〜150,000円/m³で、RC躯体単価に比べ高額です。生産規模拡大によるコスト低減は進んでいますが、欧州CLT(オーストリア産で50,000〜80,000円/m³)と比較すると依然2倍水準。生産規模10万m³到達時に欧州並みコスト達成という業界目標が設定されています。

課題2:構造設計者・施工者

CLT・大規模木造の設計に習熟した構造設計者は全国で数十名規模、施工対応可能なゼネコン・工務店も限定的です。日本CLT協会が技術者育成プログラムを展開していますが、年間数千棟への拡大には数千人規模の技術者育成が必要です。

課題3:耐火認定の選択肢

2時間耐火認定取得品の選択肢は依然限定的で、設計の自由度に制約があります。仕様規定(梁・柱・壁の各部位)と性能規定(実大火災試験)の両面で認定品を増やすことが、設計柔軟性向上の鍵となります。

課題4:保険・金融

木造ビル特有のリスク(火災・水損・シロアリ等)を踏まえた損害保険商品が限定的で、保険料率もRC造より割高なケースがあります。金融機関の物件評価でも木造ビルの担保価値算定基準が確立しておらず、開発融資の難航が事業推進のボトルネックとなることがあります。

FAQ:中大規模木造に関する質問

Q1. 何階建てまで木造で建設可能ですか?

建築基準法上、木造での階数制限は撤廃されており、技術的には20階以上も可能です。日本では2024年時点で12階建て(仙台・横浜の事例)が最高階数。海外では18〜25階の純木造ビルが既に存在します。実際の選択は耐火認定・コスト・施工性で判断されます。

Q2. CLT建築は地震に強いですか?

強いとされています。CLTパネルは面内せん断力に対する耐力が高く、構造実験で震度7相当の揺れにも倒壊なしの結果が複数得られています。重量がRC造の1/4〜1/5と軽いことも地震時の慣性力低減に寄与し、構造的な合理性が認められています。

Q3. CLT建築のコストはRC造より高いですか?

初期建築コストは現状RC造の1.1〜1.4倍ですが、施工期間がRC造の60〜70%と短いため、金利・現場経費・テナント先行収益で総事業費差は10〜15%程度に収束します。CO2価格を加味すれば実質コスト差はさらに縮小します。

Q4. CLTは雨に濡れても大丈夫ですか?

施工時の一時的な濡れは構造性能に影響しませんが、長期暴露は厳禁です。施工中はシート養生、完成後は外装で完全に保護されることが前提です。維持段階で水漏れが発生した場合は速やかな乾燥・補修が必要となります。

Q5. 国産材だけで中大規模木造は建てられますか?

建てられます。国産CLTはスギ材中心で、国内認定取得品は全て国産材使用が条件。集成材も国産スギ・カラマツ・ヒノキ集成材で対応可能です。仙台ヤギ卸売市場・南陽市文化会館等は国産材100%の事例として知られます。

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まとめ

中大規模木造はCLT・集成材・LVL等のエンジニアードウッドを構造材とする建築物で、累計700棟・うち4階建以上120棟(2024年)に達しました。CLT年間生産量は約3万m³、市場規模120億円規模で、2030年には10万m³到達が目標。建築コストはRC造の1.1〜1.4倍ですが、CO2排出量1/3・施工期間60〜70%短縮の優位性があります。耐火認定拡充・技術者育成・コスト低減の3点を進めることで、中大規模木造は2030年代に主要建築選択肢の1つとして定着すると見込まれます。

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