「木造って、せいぜい2〜3階建ての家まででしょう?」――そう思っている方は多いはず。ところが今や、法律上は木造で10階建て・延床1万㎡規模のビルが建てられる時代です。実際、横浜には純木造11階建てのオフィスが建っています。これを可能にしたのが、建築基準法の度重なる緩和でした。この記事では、木造をめぐる60年の法改正の流れと、火に強い木造を実現する技術を、できるだけかみくだいて整理します。
木造を縛り、そして解いた60年
1950年に制定された建築基準法は、当初は戦後の都市火災対策として木造を厳しく制限し、防火地域・準防火地域では3階建て以上の木造を実質禁止していました。流れが変わり始めたのが1987年改正で、延床3,000㎡超の大規模木造が初めて法制上認められます。さらに2000年改正は「性能規定化」と呼ばれる大改革でした。それまでの仕様規定(材料・寸法の指定)から、火災時に所定の耐火時間(30分〜3時間)を満たせば材料を問わない方式へ転換し、木造で耐火認定を取る道が一気に開けたのです。
2018〜2019年の改正は、中層木造の本格解禁といえる節目でした。準耐火構造で建てられる規模が拡大し、共同住宅や宿泊施設などの特殊建築物も準耐火相当で建設しやすくなりました。あわせて告示改正で1時間準耐火の木造仕様や、耐火認定を取得した集成材・CLT構造が公示され、設計実務の選択肢が大きく増えました。こうして「法制度のキャップ」はどんどん上がっていったのです。
耐火・準耐火・防火、3つの階層
火災に対する構造区分は、耐火構造(1〜3時間)、準耐火構造(45分〜1時間)、防火構造(30分)の3階層に整理されます。それぞれ火災発生から崩壊・延焼までの時間で定義され、建物の規模・用途・立地によって適用区分が変わります。木造でこれを満たす方法には、後で詳しく見る「燃えしろ設計」と「被覆型耐火構造」の2方式があります。
| 構造区分 | 耐火時間 | 対応規模 | 木造での実現方式 |
|---|---|---|---|
| 耐火構造(特定) | 3時間 | 15階建て以上の主要構造部 | 被覆型(厚石膏ボード3層) |
| 耐火構造(一般) | 2時間 | 5〜14階建て主要構造部 | 被覆型(石膏ボード2〜3層) |
| 耐火構造(一般) | 1時間 | 3〜4階建て主要構造部 | 被覆型・燃えしろ併用 |
| 1時間準耐火 | 1時間 | 特殊建築物・3階建て対応 | 告示1380号、燃えしろ45mm |
| 45分準耐火 | 45分 | 2〜3階建て木造の主流 | 告示1358号、燃えしろ35mm |
| 防火構造 | 30分 | 外壁・軒裏(防火地域内) | サイディング・モルタル |
耐火構造は、柱・梁・床・壁などの主要構造部が火災終了まで荷重を支え続けることが要件で、火災後の使用継続を前提とする最も厳格な区分です。準耐火構造は所定時間の間、延焼防止と避難確保ができればよく、最終的な構造保持までは問いません。防火構造は外壁・軒裏に対する区分で、隣の建物からの延焼を防ぐのが目的です。この3階層を組み合わせて、防火地域は耐火構造、準防火地域は準耐火または防火構造、というように地域・規模・用途ごとの規定が組み立てられています。
木は「燃えながら守る」――燃えしろ設計
意外に思われるかもしれませんが、木は火に対して計算しやすい素材です。木材は燃えると表面に炭化層を作り、その層が内部への熱の伝わりを遅らせます。この性質(炭化速度0.6〜0.8mm/分)を利用するのが、木造ならではの「燃えしろ設計」です。所要耐火時間ぶんだけ表面が燃えても、内部の構造材が荷重を支え続けるよう、あらかじめ断面に余裕(燃えしろ)を持たせて設計します。
燃えしろ設計の魅力は、木の構造をそのまま見せる「あらわし」で活用できること。集成材・CLT・無垢材で所要寸法以上の断面を確保すれば、被覆材なしで準耐火、場合によっては耐火構造を実現できます。耐火等級ごとに必要な燃えしろの目安を整理しておきます。
| 耐火等級 | 炭化速度 | 必要燃えしろ(片面) | 適用例 |
|---|---|---|---|
| 準耐火30分 | 0.65mm/分 | 約20mm | 小規模3階建以下 |
| 準耐火45分 | 0.65mm/分 | 約30mm | 3階建中規模・特定木造 |
| 準耐火1時間 | 0.65mm/分 | 約40mm | 4階建・延床3,000㎡ |
| 耐火1時間 | 0.65mm/分 | 約45mm+被覆 | 中層オフィス・店舗 |
| 耐火2時間 | 0.65mm/分 | 約75mm+被覆 | 5〜10階建中高層木造 |
ただし1時間を超える耐火(2時間・3時間)になると、燃えしろだけでは難しくなります。そこで登場するのが「被覆型耐火構造」です。石膏ボードやロックウールなどの不燃材で木質構造材を覆い、外側の被覆材が熱を遮断する2層構造。木が構造を、被覆材が防火を担います。さらに、構造軸力を鉄骨が受け持ち外周の木で覆う「ハイブリッド型」もあり、こちらは中高層オフィスや共同住宅で採用が進んでいます。低層は燃えしろで木を見せ、中高層は被覆型・ハイブリッドで安全を確保する――この使い分けが基本です。
純木造11階建ても登場、でも普及は道半ば
2010年の公共建築物木材利用促進法により、低層公共建築物(3階建て以下)の木造化が国・地方の責務とされ、公共建築物の木造化率は2010年度の8.3%から2022年度の14.5%へ上昇。低層公共に限れば89%が木造です。2021年にはこの法律が改正され(通称「都市の木造化推進法」)、対象が公共から民間建築物・住宅全般へと広がりました。年間の住宅・非住宅着工床面積を合わせた1.1億㎡規模の市場に、国産材需要が浸透する経路が用意されたわけです。
実際の建物も育っています。横浜Port Plus(2022年・大林組)は11階建て・高さ44m・延床3,255㎡の日本初の純木造11階建てオフィスで、施工期間は同規模RC造比で約20%短縮、CO2排出量は約75%削減を実現しました。2025年時点で4階以上の中層木造プロジェクトは累計約200件に達し、2014年の30件から年率20%以上で拡大しています。
とはいえ、課題もはっきりしています。住宅の木造率は約57%と高い一方、非住宅分野の木造率は床面積で約8%にとどまり、中層・大規模になるほど木造比率は急減します。法律上は10階建てまで可能なのに実装が追いつかない――この「ギャップ」こそが日本の木造化の核心課題です。理由は、設計者の経験不足、CLT・大断面集成材のサプライチェーン未整備、鉄骨造比1.1〜1.3倍という総建設コスト、耐震・耐久性への施主の不安の4点。国産CLTの生産能力は2024年で年約12万m³まで拡大し、価格も輸入材とほぼ同水準に近づきました。設計合理化と工場稼働率の向上でコスト差が1.0〜1.1倍まで縮めば、量的展開が一気に進むと見られています。
木造で何階建てまで建てられる?
建築基準法上は10階建て以上も可能です。1〜2階建ては防火地域以外で原則木造可、3階建ては45分準耐火、4階建てから1時間準耐火・耐火構造、5〜14階は2時間耐火、15階以上は3時間耐火で建設できます。横浜の純木造11階建てオフィスなど、実例も増えています。
燃えしろ設計と被覆型はどう使い分ける?
耐火時間で使い分けます。45分〜1時間の準耐火は燃えしろ設計(木をあらわしにできる)、1時間以上の耐火構造は被覆型(石膏ボードで覆う)が主流です。木を見せたい低層は燃えしろ、高層で安全を確保したいときは被覆型、両立させたいときはハイブリッド型を選びます。
大規模木造のコストは鉄骨・RCより高い?
2024年時点で中層木造の総建設コストは鉄骨造比1.1〜1.3倍が目安です。CLT・大断面集成材のサプライチェーンが未成熟なことが主因。設計の規格化と国産CLT工場の稼働率向上で1.0〜1.1倍まで縮めば、普及が一気に進む見通しです。ライフサイクルでのCO2削減や木質意匠による生産性向上まで含めれば、すでに合理性が成立するケースも増えています。

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