改正建築基準法と木造|耐火・準耐火基準の変遷

改正建築基準法と木造 | 森と所有 - Forest Eight

建築基準法は1950年制定以来、木造建築物の耐火・準耐火基準を段階的に緩和し、木造で建てられる範囲を拡大してきました。1987年改正で大規模木造(延床3,000㎡超)の許容、2000年改正で性能規定化と1時間準耐火の体系整備、2018〜2019年改正で耐火構造の木造化(中層木造)と公共建築物等木材利用促進法(2010年施行・2021年「都市の木造化推進法」に改正)が連動し、2024年現在では木造10階建て・延床1万㎡規模の建築物が法制度上可能になっています。本稿では建築基準法における木造関連規定の60年史、耐火・準耐火・防火構造の階層構造、CLT(直交集成板)・燃えしろ設計・被覆型耐火構造の技術整理を行います。

この記事の要点

  • 建築基準法の木造関連規定は1987・2000・2018・2019年の4回の主要改正で段階的に拡大、現行法では延床1万㎡・10階建て規模の木造が可能。
  • 耐火構造(1〜3時間)・準耐火構造(45分〜1時間)・防火構造(30分)の3階層に加え、燃えしろ設計(CLT・集成材の自己消火型)と被覆型耐火構造(石膏ボード等で被覆)の2方式が併存。
  • 2010年公共建築物木材利用促進法から2021年「都市の木造化推進法」への改正で対象が公共→民間に拡大、2030年中層・大規模木造10万㎡/年規模を政策目標。
目次

クイックサマリー:建築基準法と木造の主要数値

指標 数値・年 出典・備考
建築基準法制定 1950年 建築基準法第1条以下
大規模木造解禁 1987年 3,000㎡超対応
性能規定化 2000年 耐火認定の自由度向上
中層木造解禁 2018-2019年 耐火構造の木造化
耐火構造1時間 3階建て対応 告示195号等
耐火構造2時間 5〜14階対応 主要構造部
耐火構造3時間 15階以上対応 超高層
準耐火構造45分 2階建て木造の主流 告示1358号
公共建築物木材利用促進法 2010年 全公共3階建て以下木造化
都市の木造化推進法 2021年改正 民間も対象
公共建築物木造化率 14.5% 2022年度・低層89%
非住宅木造比率 3階建て16% 2022年・国交省統計
CLT国内年間生産量 約2万m³ 2022年・林野庁

建築基準法における木造規定の60年史

建築基準法は1950年制定で、当初は戦後の都市火災対策として木造を厳しく制限し、防火地域・準防火地域では3階建て以上の木造を実質禁止していました。1959年改正で耐火構造概念が整備され、1987年改正で延床3,000㎡超の大規模木造が初めて法制上認められました。2000年改正は「性能規定化」と呼ばれる大改革で、それまでの仕様規定(材料・寸法・構造の指定)から、火災時の所定耐火時間(30分・45分・1時間・2時間・3時間)を満たせば材料を問わない方式に転換し、木造の耐火認定取得の道を大きく開きました。

建築基準法における木造規定の改正年表 1950年から2024年までの建築基準法および関連法の主要改正を時系列で示す 建築基準法・関連法における木造規定の改正史 1950 1970 1987 2000 2010 2018 2021 2024 1950 制定 耐火構造 概念 1987 大規模 3000㎡超 2000 性能規定 耐火認定 2010 公共木材 利用法 2018-19 中層木造 緩和 2021 都市木造 推進法 2024-30 10階木造 普及加速 青:建築基準法本体改正、緑:関連法(木材利用法)、橙:将来政策目標
図1:建築基準法と関連法における木造規定の改正年表(出典:国土交通省「建築基準法の改正経緯」、林野庁「木材利用促進」)

2018〜2019年の改正は中層木造の本格解禁として位置付けられます。建築基準法第21条改正で「準耐火構造で建てられる建物の規模拡大」、第27条改正で「特殊建築物の主要構造部の制限緩和」、令第109条の8追加で「燃えしろ設計の明確化」が行われ、結果として4階建て1,000〜1,500㎡規模、特殊建築物(共同住宅・宿泊施設等)でも準耐火相当で建設可能なケースが拡大しました。さらに2018年告示改正で1時間準耐火構造の木造仕様、2019年告示改正で耐火認定取得済みの集成材・CLT構造が公示され、設計実務上の選択肢が大きく増えました。

耐火・準耐火・防火構造の3階層

建築基準法上の火災に対する構造区分は、耐火構造(1〜3時間)、準耐火構造(45分〜1時間)、防火構造(30分)の3階層に整理されます。各区分は火災発生から崩壊・延焼までの時間で定義され、建物の規模・用途・立地(防火地域・準防火地域)により適用区分が変わります。木造の場合、各区分を満たす方法として「燃えしろ設計」(自己消火型)と「被覆型耐火構造」(石膏ボード等で被覆)の2方式が併存します。

構造区分 耐火時間 対応規模 木造での実現方式
耐火構造(特定) 3時間 15階建て以上の主要構造部 被覆型(厚石膏ボード3層)
耐火構造(一般) 2時間 5〜14階建て主要構造部 被覆型(石膏ボード2〜3層)
耐火構造(一般) 1時間 3〜4階建て主要構造部 被覆型・燃えしろ併用
1時間準耐火 1時間 特殊建築物・3階建て対応 告示1380号、燃えしろ45mm
45分準耐火 45分 2〜3階建て木造の主流 告示1358号、燃えしろ35mm
防火構造 30分 外壁・軒裏(防火地域内) サイディング・モルタル

耐火構造は柱・梁・床・壁・屋根の主要構造部が火災終了までに自重・積載荷重を支持し続けることが要件で、火災終了後の建物の使用継続を前提とする厳格な区分です。準耐火構造は火災開始から所定時間(45分・60分)の間、延焼防止と避難確保ができれば良く、最終的な構造保持は問いません。防火構造は外壁・軒裏に対する区分で、隣接建物からの延焼防止が目的です。これら3階層により、防火地域では耐火構造、準防火地域では準耐火構造または防火構造、それ以外では制限なし(住宅)と、地域・規模・用途別の規定が組み立てられます。

燃えしろ設計:木の自己消火性を活用

燃えしろ設計は、木材が燃焼すると表面に炭化層を形成し、内部への熱伝達を遅らせる性質(炭化速度0.6〜0.8mm/分)を利用した木造特有の耐火設計手法です。所要耐火時間に対し、必要な構造断面積を「炭化深さ+構造必要断面」で計算し、外周の燃えしろ部分が燃え尽きても内部の構造材が荷重を支え続ける設計を行います。45分準耐火で燃えしろ35mm、1時間準耐火で45mm、ターゲットの集成材・無垢材・CLTで適用されます。

燃えしろ設計の概念図 燃焼前と燃焼45分後の柱断面における燃えしろ層と荷重支持断面の関係を示す 燃えしろ設計:45分準耐火の柱断面 設計断面 300×300 集成材柱 燃焼前 健全木材300×300 残断面 230×230 荷重支持 45分燃焼後 炭化層35mm形成 炭化層 35mm 45分 炭化速度約0.8mm/分。45分で35mm炭化、内部230×230mmが残り荷重を支持。
図2:燃えしろ設計の概念(建築基準法施行令第109条の8、告示1358号を参考に作成)

燃えしろ設計の利点は、木材の構造を露出(あらわし)で活用できることで、デザイン上の木質感を損ないません。集成材・CLT・無垢材を選び、所要寸法以上の断面を確保すれば、被覆材なしで準耐火・場合により耐火構造を実現できます。一方で1時間を超える耐火時間(2時間・3時間)の認定取得は燃えしろだけでは困難で、被覆型耐火構造との組合せ、ハイブリッド型(鉄骨芯木被覆等)が選ばれます。

被覆型耐火構造とCLT・集成材の選択

被覆型耐火構造は、石膏ボード・ロックウール・ケイ酸カルシウム板等の不燃材料で木質構造材を覆い、所要時間の耐火性能を確保する方式です。木材は構造的役割を担い、外側の被覆材が火災時の熱遮断を担う2層構造となります。1時間耐火で石膏ボード強化型2層、2時間耐火で3層程度が目安で、被覆厚さ・材質・施工精度が認定要件となります。耐火認定(大臣認定)は構造種別・部位(柱・梁・床・壁)ごとに取得が必要で、2010年代以降にCLT・集成材の認定取得が急増しました。

CLT(Cross Laminated Timber、直交集成板)は2014年の建築基準法告示制定で構造材料として認められた新世代材料で、ラミナ(厚さ20〜30mm)を直交方向に重ねて接着した板状材料です。一般的に厚さ60〜210mm、最大幅3m・長さ12mの大型パネルで、壁・床・屋根を一体化した「箱型」構造を実現します。日本のCLT年間生産量は2014年の数百m³から2022年の約2万m³へと拡大していますが、国際比較ではドイツ・オーストリアの30〜50万m³規模に対し依然として小規模です。

耐火認定取得方式の比較 燃えしろ設計、被覆型耐火構造、ハイブリッド型の3方式の特性を比較 木造耐火認定の3方式比較 燃えしろ設計 対応:45分〜1時間 対応階数:〜3階 材料:集成材・CLT あらわし:可能 コスト:中 木質感最大 設計自由度高 被覆型耐火 対応:1〜3時間 対応階数:〜14階 材料:木+石膏ボード あらわし:不可 コスト:高 高層対応 大臣認定多数 ハイブリッド型 対応:1〜3時間 対応階数:〜14階 材料:鉄骨+木被覆 あらわし:部分可 コスト:高 中高層適合 構造合理的 対応する階数・耐火時間に応じて選択。低層は燃えしろ、中高層は被覆型・ハイブリッドが主流。
図3:木造耐火認定の3方式比較(国土交通省・林野庁の認定情報を整理)

ハイブリッド型は、構造軸力を鉄骨が受け持ち、外周の木材が意匠・断熱・耐火被覆を兼ねる方式で、中高層オフィス・共同住宅で採用が進んでいます。鉄骨を表しにせず木で覆うことで、純木造のような視覚的木質感を実現しつつ、構造性能・施工性は鉄骨の利点を活かす折衷案です。三井ホーム・大林組・竹中工務店等の大手ゼネコン・住宅メーカーが2018年以降、相次いでハイブリッド型の実大耐火実験・大臣認定取得を進め、2020年代の中層木造建設の主力技術となりました。

都市の木造化推進法と政策連動

2010年制定の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」は、低層公共建築物(3階建て以下)を原則木造化することを国・地方公共団体の責務としました。施行から10年で公共建築物の木造化率は2010年度の8.3%から2022年度の14.5%に上昇、低層公共に限れば89%が木造で建設されています。一方で4階以上の中層公共建築物の木造化率は依然として低く、ここに改正後の政策的焦点が移りました。

2021年の同法改正(「都市の木造化推進法」と通称される)では、対象が公共建築物から民間建築物・住宅・木材利用全般に拡大され、「木材の利用の促進に関する基本方針」が改訂されました。同年の建築物用木材利用促進協定(事業者と国・地方自治体の自主的協定)創設、内閣府・国交省・農水省・林野庁の連携による「ウッド・チェンジ・ネットワーク」の活動が本格化しています。木造化が進めば、年間住宅着工床面積(約7,000万㎡)と非住宅着工床面積(約4,000万㎡)の合計1.1億㎡規模のマーケットに国産材需要が浸透する経路が確保されます。

非住宅・中大規模木造の動向

住宅分野ではすでに木造率57%(2022年・床面積ベース)が定着していますが、非住宅分野(事務所・店舗・倉庫・教育・福祉施設等)の木造率は床面積で約20%、3階建て以下に限れば16〜18%程度で、中層・大規模になるほど木造比率は急減します。建築基準法上は前述の通り中層10階建てまで法制度上対応可能であるにもかかわらず、実装は遅れている、というギャップが日本の木造化政策の核心課題です。

このギャップを埋める要因として、第1に設計事務所・ゼネコン・工務店の木造設計知識・経験の不足、第2にCLT・大断面集成材のサプライチェーン未整備(年生産量2万m³vs需要見込み20万m³規模)、第3に総建設コストの差(中層木造は鉄骨造比1.1〜1.3倍)、第4にBCP・地震・耐久性に対する施主側の不安、の4つが構造的障害として認識されています。林野庁・国交省は設計者向け研修、CLT工場補助、実証建築(モデルプロジェクト)等を通じてこの障害の段階的解除を進めています。

木材建築の今後:2030年・2050年の展望

森林・林業基本計画と公共建築物等木材利用基本方針の組合せで、政策は2030年に中層・大規模木造の累計建設床面積100万㎡規模、CLT国内生産量年20万m³規模、非住宅着工木造率25%超を目標として掲げています。2050年カーボンニュートラル実現に向けた炭素貯蔵建築物(HWP, Harvested Wood Products)の累積効果は、年間CO2貯蔵量で換算すれば数百万トン規模に達する可能性があり、林業・木材産業・建築産業の連動した発展を必要とします。

木造建築の規制緩和は、用途・規模・耐火性能の3軸で2018年以降毎年のように進化しており、2024年時点で「法制度のキャップ」と「実装のギャップ」の双方が変化中です。建築基準法本体・告示・大臣認定の三層構造で運用される耐火関連規定は今後も改正が続くと見込まれ、木材産業・建築産業の関係者は最新動向を継続的に追跡する必要があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 木造で何階建てまで建てられますか?

建築基準法上は10階建て以上も可能です。1〜2階建ては防火地域以外で原則木造可、3階建ては45分準耐火で対応、4階建てから1時間準耐火・耐火構造、5〜14階は2時間耐火、15階以上は3時間耐火で建設可能です。実例としては仙台市の10階建てオフィス(高惣ビル、2024年)、東京都江東区の11階建て木造オフィス(W350計画は将来構想)等があります。

Q2. 燃えしろ設計と被覆型耐火構造はどう使い分けますか?

耐火時間で使い分けます。45分〜1時間の準耐火は燃えしろ設計(木材あらわし可能)、1時間以上の耐火構造は被覆型(石膏ボード覆い)が主流です。意匠上「木を見せたい」場合は低層で燃えしろ、構造上「高層で安全を確保」する場合は被覆型、両立させたい場合はハイブリッド型を選びます。

Q3. CLTとは何で、何が画期的ですか?

CLT(直交集成板)は厚さ20〜30mmのラミナを直交方向に重ねて接着した大型パネルで、最大3m×12mの一体パネルを供給できます。壁・床・屋根を一体構造化でき、施工速度・剛性・耐火性能で従来の軸組構造を凌駕する場面が多く、中層木造の主力構造材料として位置付けられています。日本のCLT年生産は2万m³規模で、ドイツ・オーストリア比は1/15程度です。

Q4. 公共建築物の木造化率はどう推移していますか?

2010年度8.3%→2022年度14.5%と10年強で1.7倍に上昇、低層公共では89%が木造化されています。一方で中層・大規模公共は依然として低く、4階以上の公共建築物の木造化率は2022年度で4%程度です。改正法(2021年)後は民間建築物にも対象が広がり、2030年に向けて加速が想定されています。

Q5. 大規模木造のコストは鉄骨造・RC造と比べて高いですか?

2024年時点で中層木造の総建設コストは鉄骨造比1.1〜1.3倍が目安で、CLT・大断面集成材のサプライチェーンが未成熟なことが主因です。スパンが大きい・天井高が高い設計でメリットが薄れる傾向があり、設計合理化(モジュール統一・規格化)と国産材CLT工場稼働率向上で1.0〜1.1倍まで縮小すれば、量的展開が一気に進む見通しです。

関連記事

まとめ

建築基準法の木造関連規定は1950年制定、1987年大規模化、2000年性能規定化、2010年公共建築物木材利用促進法、2018〜2019年中層木造緩和、2021年都市の木造化推進法と段階的に拡大し、現行法では10階建て・延床1万㎡規模の木造が法制度上可能になりました。耐火構造(1〜3時間)・準耐火構造(45分〜1時間)・防火構造(30分)の3階層に対し、燃えしろ設計・被覆型耐火構造・ハイブリッド型の3方式で対応する技術体系が整い、CLT・大断面集成材のサプライチェーン整備が次のボトルネックです。法制度のキャップは緩み、実装のギャップ縮小が2030年に向けた政策・産業の中心課題となっています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次