木材内装|オフィス・商業施設の木質化

木材内装 | 森と所有 - Forest Eight

オフィス・商業施設の木質内装市場は2010年代以降急速に拡大し、国内市場規模は年間約1,200億円に達します。WELL認証・LEED認証等の環境・ウェルビーイング認証の普及、コロナ禍以降の「居心地のよい職場」需要、公共建築物等木材利用促進法(2010年・2021年改正)による公共施設の木質化推進が3大ドライバーです。本稿ではオフィス・商業施設の木質化トレンド、認証制度との関係、心理生理効果のエビデンス、施工コストを、国交省・林野庁・大手設計事務所のデータをもとに10,000字規模で解剖します。

この記事の要点

  • オフィス・商業施設の木質内装市場は年約1,200億円、新築・大規模リニューアルの内装工事費の約8〜12%を占める。
  • 木質壁面・床仕上で集中力15〜20%向上、ストレス指標(コルチゾール)20〜30%減少のエビデンスが日本・欧州研究で蓄積。
  • WELL認証Materials項目で木材使用が加点対象。LEED v4.1ではFSC・SGEC認証材で1〜2点獲得可能。
目次

クイックサマリー:オフィス木質化の主要数値

指標 数値 出典・備考
オフィス木質内装市場 約1,200億円 日本建材産業協会推計
商業施設木質内装 約800億円 推計
公共建築物木造化率 約13.5% 国交省2022年
公共建築物木質化率 約42% 内装木質化含む
WELL認証取得施設 約180件 日本2024年累計
LEED認証取得施設 約500件 日本2024年累計
木質壁面平均価格 15,000〜35,000円/m² 材種・仕様による
木質床(フローリング) 8,000〜20,000円/m² 無垢・複合フロア
木質天井 12,000〜25,000円/m² パネル・ルーバー
国産材使用比率 約35% 公共建築70%超

オフィス木質化のトレンドと背景

オフィス内装の木質化は2010年代後半から急速に拡大しました。背景には3つの要因があります。第1に「働き方改革」を契機とするオフィス再設計の波で、画一的・閉鎖的なオフィスから「居心地」「コラボレーション」「ウェルビーイング」を重視する設計へのシフト。第2に大手企業のESG経営戦略で、CO2固定・サステナビリティ訴求の素材として木材が選好。第3にコロナ禍を経た「リアルオフィスの価値」再定義で、自宅では得られない空間体験として木質環境が評価されるという流れです。

主要事例:本社オフィスの木質化

主要な事例として、ヤフー(東京・紀尾井町、2017年)、メルカリ(東京・六本木、2018年)、リクルート(東京・グラントウキョウ、2020年)、楽天(東京・二子玉川、2015年)、サイバーエージェント(東京・渋谷、複数年)、コクヨ(東京・品川、2021年)等の本社・ラボ・コワーキングスペースが知られています。これらに共通するのは、ロビー・カフェ・会議室・集中ブースに集中的に木質要素を配置し、執務エリア(デスクワーク中心)も部分的に木質壁面・木質床を採用するパターンです。

オフィス木質内装の3大ドライバー 働き方改革・ESG・WELL認証の3要素が市場拡大を牽引 オフィス木質内装市場の拡大ドライバー 働き方改革 ウェルビーイング ESG経営 CO2・SDGs WELL/LEED 認証取得 健康 環境 オフィス木質化年率8〜12%成長 出典:日本建材産業協会/JLL「The Workplace Book」/IWBI WELL Building Standard
図1:オフィス木質化の3大ドライバー(出典:日本建材産業協会/JLL/IWBI)

WELL認証・LEED認証と木材利用

WELL認証(IWBI、International WELL Building Institute)は、ビル利用者の健康・ウェルビーイングに焦点を当てた認証で、2014年に米国で創設、日本では2018年以降の認証取得が増加しています。Air・Water・Nourishment・Light・Movement・Thermal Comfort・Sound・Materials・Mind・Communityの10カテゴリで評価され、木材は主にMaterials・Mindの2カテゴリで加点対象となります。

WELL認証における木材加点

WELL認証で木材が直接的に加点対象となるのは以下のクレジット:Materials M01(Material Restrictions)、M03(Materials Source Documentation)、M07(VOC Restrictions)、Mind X05(Restorative Spaces)、X06(Restorative Programming)等です。FSC・SGEC・PEFC認証材の使用、Cradle to Cradle評価、低VOC仕上げの木材製品が高評価されます。日本国内のWELL認証取得は2024年時点で累計約180件で、その大半が木材を内装材として活用しています。

LEED認証における木材加点

LEED認証(USGBC、米国グリーンビルディング協会)はWELLより歴史が長く、日本国内累計取得件数は約500件。木材関連クレジットはMR(Materials and Resources)クレジットでBuilding Product Disclosure and Optimization項目があり、FSC認証材使用、再利用木材使用で1〜2点獲得可能です。LEED v4.1(2019年版)以降は環境製品宣言(EPD)取得材も加点対象に追加されました。

木質内装の心理生理効果

木質内装の心理生理効果は、千葉大学・東京大学・森林総合研究所等の研究で2000年代以降エビデンスが蓄積されています。木材の視覚・嗅覚・触覚刺激が自律神経系・内分泌系に及ぼす影響として、以下のような数値が報告されています。

主要研究と数値

千葉大学・宮崎良文研究室の一連の研究:木材視覚刺激(壁面)への暴露で副交感神経活動(HF成分)が約10〜15%上昇、交感神経活動が低下、唾液中コルチゾール(ストレスホルモン)が約20〜30%低下するという結果。森林総合研究所の研究:木材の床・壁面採用オフィスで、被験者の集中力(反応時間・正答率)が無機質オフィス比で15〜20%向上。同志社大学の研究:木質会議室で議論の発言量・発言者多様性が10〜15%増加するという結果。

木質内装の心理生理効果 無機質オフィスとの比較で集中力・ストレス・発言量等の指標差 木質内装オフィスの効果(無機質オフィス比) 集中力 +18% 作業効率 +13% 発言量(会議) +12% 副交感神経 +12% 心拍数 -5% 血圧 -7% コルチゾール -25% 出典:千葉大宮崎研/東大/森林総合研究所/同志社大の各研究のメタ分析
図2:木質内装の心理生理効果(出典:宮崎良文編「木材と健康」2018他)

木質化の建築要素と工法

オフィス・商業施設の木質化は5つの建築要素で構成されます。

1. 木質壁面(ウォール)

パネル化された木質壁面は最も汎用的な木質化要素です。仕様は無垢パネル貼(厚10〜15mm、価格20,000〜35,000円/m²)、突板貼合板(厚6〜9mm、価格15,000〜25,000円/m²)、ルーバー型(縦リブ型、価格15,000〜30,000円/m²)の3パターンが主流。色調・木目で空間演出を担い、防火地域では準不燃・難燃処理品(薬剤含浸)を使用します。

2. 木質床(フローリング)

商業オフィスでは複合フローリング(合板基材+木質化粧層、厚12〜15mm)が主流で、価格は8,000〜15,000円/m²。エントランス・カフェ等の意匠重視区画では無垢フローリング(厚15〜30mm、価格15,000〜25,000円/m²)が採用されます。耐荷重・歩行音・摩耗対策で、土足エリアではナラ・タモ・ブナの硬質広葉樹、執務エリアではスギ・ヒノキ・パイン等の軟材も使用されます。

3. 木質天井

天井の木質化はパネル化(CLT風集成材パネル、ルーバー、有孔木質パネル)が主流。価格は12,000〜25,000円/m²で、設備(空調・照明・スプリンクラー)との取合いで施工難易度が上がります。吸音目的の有孔パネル(穿孔率15〜30%)は会議室・カフェで多用され、音響環境の改善にも寄与します。

4. 家具・什器の木質化

デスク・テーブル・椅子・収納家具の木質化も内装と一体的に設計されます。国産無垢材家具(カリモク家具・天童木工・飛騨産業等)が使用される事例が増え、ESG・地域経済貢献の文脈で大手企業が採用するパターンが定着しつつあります。

5. 構造材露出(あらわし)

木造ビル・木質耐火構造のオフィスでは、CLT・集成材の構造材を露出させる「あらわし設計」が採用されます。これは内装材とは別の意味を持ち、構造そのものが意匠を構成します。後述の中大規模木造ビル(国分寺南口プロジェクト・木材会館等)の代表事例で見られます。

商業施設の木質化

商業施設(百貨店・専門店・ホテル・レストラン等)の木質化は、ブランド表現と顧客体験の両面で機能します。市場規模は推計年800億円で、特に高級ホテル・カフェ・物販店で先行採用されています。

主要事例:商業施設の木質化

主な事例として、伊勢丹新宿店リモデル(無垢材壁面・天井)、星野リゾート全国施設、ブルーボトルコーヒー国内店舗、無印良品旗艦店(東京・池袋など)、スターバックスリザーブロースタリー東京(中目黒、隈研吾設計)、虎屋赤坂店(内藤廣設計)等。これらに共通するのは、構造的木質化(CLTや集成材の構造材露出)と仕上げ的木質化(壁面・床・家具)を組み合わせた多層的アプローチです。

地域材活用と物語性

商業施設の木質化では、地域材の使用が「物語性」「ブランド差別化」のツールとして活用されます。例えば、奈良ホテルリノベーションでの吉野ヒノキ、北海道ニセコ高級ホテルでの道産材、九州サテライトオフィスでの九州産スギ等、地域材を「土地と結びついた素材」として位置付ける設計が増えています。

用途別 市場規模 主要採用部位 国産材率
オフィス 1,200億円 壁・床・家具 35%
公共施設 600億円 構造・壁・床 75%
ホテル・宿泊 350億円 客室・ロビー 30%
商業店舗 300億円 カウンター・什器 25%
飲食店 150億円 テーブル・カウンター 40%

公共建築物の木質化:法律と政策

公共建築物の木質化は、公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(2010年施行、2021年改正で対象を全建築物に拡大)が政策的後押しとなっています。国の整備する低層公共建築物は原則木造とすること、公共発注時に木材使用比率を評価項目に組み込むこと等が定められています。

達成状況:木造化13.5%、木質化42%

農林水産省の集計(2022年)では、公共建築物の木造化率(構造体が木造)は13.5%、内装木質化を含む広義の木質化率は約42%です。低層公共建築物(3階建て以下、延床3,000m²未満)に限定すれば木造化率は約30%まで上昇します。学校・福祉施設・市町村庁舎で木造化が進んでおり、特に庁舎建替時に木造を選択する自治体が増加しています。

主要公共建築事例

注目される公共建築事例:南陽市文化会館(山形、2014年、新国立競技場の隈研吾設計)、ユニバーサルこども館(高知、2014年)、住田町役場庁舎(岩手、2014年、木造2階建)、伊万里市民図書館等。学校建築では木造校舎の新築・改築事例が年間50〜100件規模で続いています。

公共建築の木造化・木質化率推移 2010〜2022年の公共建築物木造化・木質化率の推移 公共建築物の木造化・木質化率推移(%) 50 40 30 20 0 2010 2014 2017 2019 2021 2022 42%(木質化) 13.5%(木造化)
図3:公共建築物の木造化・木質化率推移(出典:農水省・国交省2022)

木質化の課題

木質化の普及拡大には4つの課題があります。

課題1:施工単価が高い

木質壁面・床・天井の単価は、ビニル系仕上げの2〜3倍水準です。例えばビニルクロス壁面は1,500円/m²、木質壁面(突板貼)は20,000円/m²と13倍。床も同様で、Pタイル4,000円/m²、複合フローリング12,000円/m²と3倍程度。新築・大規模リニューアル時は予算配分で吸収可能ですが、テナント入替の標準内装更新では選択しにくい構造があります。

課題2:防火・耐火制限

建築基準法・消防法上の内装制限で、特定用途・規模の建築物では準不燃以上の内装材が義務化されます。木材は本来可燃材で、薬剤含浸処理(不燃材認定)を施さないと使用できないケースが多く、認定品の単価は通常品の1.5〜2倍に上昇します。

課題3:維持管理

木質壁面・床は経年劣化(変色・摩耗・凹み)が無機質仕上げより進みやすく、5〜10年での部分張替・補修が必要です。ライフサイクル費用で見ると初期投資の差を埋めきれないケースもあり、維持管理計画の事前設計が重要となります。

課題4:認証材調達

WELL・LEED認証取得を目指す案件では、FSC・SGEC認証材の安定調達が必要です。日本国内の認証材供給は徐々に拡大していますが、希望樹種・寸法・量を即時調達することは依然として困難で、設計段階での認証材調達計画が必要となります。

FAQ:オフィス・商業施設の木質化に関する質問

Q1. 木質化はROI(投資対効果)に見合いますか?

定量的ROI試算は難しいものの、いくつかの研究では木質化により従業員生産性10〜18%向上、離職率15〜20%低下、ストレス休職30%減等が報告されており、人件費1人当たり600万〜1,000万円のオフィスでは初期投資(追加100〜500万円/100m²)を3〜5年で回収する計算になります。

Q2. WELL認証取得には何が必要ですか?

WELL v2では10カテゴリ・約100クレジットから24点以上(Silver)、50点以上(Platinum)等の段階認証があります。木材関連はMaterials・Mindで合計5〜10点獲得可能で、空気質・照明・運動設備等と組み合わせて総得点を稼ぐ構造です。取得費用は申請料・コンサル費等で500〜2,000万円規模が一般的。

Q3. 国産材を使ったオフィス木質化は可能ですか?

可能です。スギ・ヒノキ・カラマツ・ヒバ等の国産材は壁面・床・天井・家具のいずれにも対応できます。SGEC(緑の循環認証)取得国産材は2024年時点で約220万ha・年間生産量推定1,500万m³規模で、十分な供給力があります。地域材補助金活用で実質コスト軽減も可能。

Q4. 木質化はテナント入替時にどう扱われますか?

標準的なオフィスビルではテナント退去時に内装スケルトン化が一般的で、木質内装も同様に撤去対象となります。ただし共有部(エントランス・廊下・トイレ等)の木質化は保持され、テナント間で活用されます。長期使用前提の自社オフィスでは20〜30年の使用を想定した設計が一般的です。

Q5. 木質化と防火安全性は両立できますか?

両立可能です。準不燃・難燃処理木材(薬剤含浸または薄板複合)の使用、要所への耐火板配置、スプリンクラー設備の充実等で建築基準法・消防法を満たします。コストは通常木材の1.5〜2倍ですが、設計段階で計画すれば問題ありません。

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まとめ

オフィス・商業施設の木質内装市場は年1,200〜2,000億円規模に拡大し、WELL認証・LEED認証・公共建築物等木材利用促進法を3大ドライバーとして年率8〜12%で成長しています。木質化により集中力15〜20%向上、ストレス指標20〜30%減のエビデンスが蓄積され、人材投資としてのROIも見込まれます。施工単価・防火・維持管理・認証材調達の4課題を克服しつつ、構造的木質化(CLTビル)と仕上げ木質化(壁・床・家具)の組合せで、ビル建築への木材導入は次の10年でさらに拡大すると見込まれます。

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