【アラカシ/粗樫】Quercus glauca|西日本山林の代表カシ、農具・薪炭の戦略樹種

アラカシ | Forest Eight

西日本の山地林、里山、神社の境内、住宅地の生垣──常緑のカシ類でいちばん身近に出会えるのが、このアラカシ(学名 Quercus glauca)です。和名のとおり葉のふちの鋸歯が「粗い」のが特徴で、裏返すと粉を吹いたように白っぽい。種小名の glauca もラテン語で「粉青色」を意味し、まさにこの葉裏の白さを言い表しています。農具の柄や薪炭として里山の暮らしを千年以上支え、いまも生垣や街路樹として私たちのすぐそばにある木です。

気乾比重0.83広葉樹で重硬上位耐摩耗・耐衝撃樹高15-20m直径30-60cm常緑高木葉裏灰白色glauca = 粉白識別ポイント堅果2cm輪状殻斗アカガシ亜属
図1:アラカシの主要スペック(含水率15%基準・代表値)

分類上はブナ科コナラ属の「アカガシ亜属」に入ります。殻斗(ドングリの帽子)に同心円状の輪状の彫紋が入るのがこのグループの目印で、日本にはアラカシ・シラカシ・アカガシ・ウラジロガシ・イチイガシなどが自生します。そのなかでアラカシは標高0〜1,000mと垂直分布がいちばん広く、海岸近くから低山まで顔を出す「何でも屋」的な存在。本州は宮城・新潟県あたりを北限に、四国・九州・沖縄、さらに朝鮮半島南部から中国南部、ヒマラヤ東部まで広く分布します。

目次

重くて粘る、柄物の代表材

アラカシ材は気乾比重0.80〜0.90(代表値0.83、森林総合研究所データ)の重硬材です。心材は赤褐色〜暗赤褐色で、いちばんの持ち味は衝撃に強いこと。叩いても折れにくく潰れにくいので、昔から鍬・鋤・鎌・斧といった農具の柄、製材や伐木に使う楔(くさび)に重宝されてきました。別名「ボウガシ(棒樫)」は、六尺棒や薙刀の柄に使われたことに由来します。

高比重ゆえに薪炭材としても優秀で、ナラ・クヌギと並ぶ高級薪。西日本ではシイタケの原木としても伏せ込まれ、近年は無垢フローリングやカウンター材に使う事例も増えています。なお縄文時代の遺跡からはアラカシのドングリが貯蔵穴いっぱいに出土しており、アク抜きして粉にする食料源でもありました。柄・楔・薪・食料と、形を変えながら一万年以上も人と関わってきた木です。

近縁カシ5種、葉裏と鋸歯で見分ける

樹種 葉鋸歯 葉裏色 主分布 用途
アラカシ 粗・上半分 灰白色 関東以西〜九州 農具柄・薪
シラカシ 細・全縁近い 淡緑色 関東平地に多い 生垣・防風林
アカガシ 無(全縁) 淡緑色 太平洋側暖地 木刀・船舵
ウラジロガシ 細・上半分 白色(粉白) 山地・尾根 結石民間薬
イチイガシ 細・上半分 淡褐色短毛 西日本社叢林 船材・建築

コツは2段階。まず葉を裏返して、白っぽい組(アラカシ・ウラジロガシ)か緑っぽい組(シラカシ・アカガシ・イチイガシ)かを分けます。白っぽい組のなかでは鋸歯の粗さで判別でき、ふちが粗くギザギザならアラカシ、細かければウラジロガシ。これだけで関東以西の里山で出会うカシのほとんどは葉だけで言い当てられます。

生垣・社叢の名脇役

アラカシは人の暮らしと深く結びついてきました。神社の鎮守の森ではスダジイ・タブノキとともに社叢林をつくり、御神木としてしめ縄を巻かれた個体も西日本に点在します。四国の一部には、家の鬼門にアラカシを植えて魔除けにする風習も残っています。

住宅地では刈り込みに極めて強い性質を生かして生垣に仕立てられ、ベニカナメモチ(レッドロビン)と並ぶ定番樹種。萌芽力が強く、古い枝からの吹き直しも旺盛なので、多少切りすぎても回復してくれるのがありがたいところです。さらに耐潮性・耐大気汚染性・常緑による年間の緑陰を兼ね備え、東京都・大阪府・福岡市などで街路樹としても採用されています。生垣仕立てなら、新葉が固まる6月下旬〜7月と、夏枝が落ち着く9月下旬〜10月の年2回の剪定で十分に整います。

見分け方のポイント

  • 葉:長楕円形7〜13cm、ふちの上半分だけに粗い鋸歯、裏が灰白色(最大の決め手)
  • 殻斗:同心円状の輪状彫紋(5〜7環、アカガシ亜属共通)
  • 樹皮:暗灰褐色〜黒褐色で不規則に細かく裂ける
  • 分布:関東以西の山林・里山に普通、住宅地や社叢にも頻出
アラカシの主用途1農具柄2楔・工具3薪炭材4シイタケ原木5生垣・社叢6街路樹
図2:アラカシの主用途

よくある質問

アラカシとシラカシはどう違う?
葉を裏返すのが早道です。アラカシは灰白色で鋸歯が粗く、関東以西の山林・里山に多い。シラカシは葉裏が淡緑色で鋸歯が細かく、関東平地の屋敷林に多く見られます。

薪に向いていますか?
とても向いています。重量級のカシ材なので火持ちがよく発熱量も大きい。ナラ・クヌギと並ぶ高級薪として薪ストーブ・暖炉で人気です。

ドングリは食べられますか?
渋み(タンニン)が強いので生では食べられませんが、水にさらしてアク抜きすれば団子や粉として食用になります。縄文時代の重要な食料の一つでした。

ナラ枯れの心配は?
ミズナラ・コナラほど顕著ではないものの、近年は常緑カシ類への被害報告も出ています。幹にカシノナガキクイムシの穿入孔がないか確認し、被害木はビニール被覆で羽化脱出を防ぐ処理が有効です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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