CLT(直交集成板、Cross-Laminated Timber)は、ひき板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層・接着した大判の木質構造パネルです。日本の年間CLT生産能力は2024年時点で約5万m³、実生産量は約3万m³規模と推計されます。1995年にオーストリアで発祥した比較的新しい構造材で、日本では2014年のJAS規格制定、2016年の建築基準法告示制定(CLT関連告示)を経て本格普及期に入りました。中大規模木造(オフィス・商業施設・公共建築・共同住宅)の構造体として位置づけられ、年率20〜30%のペースで需要拡大が続いています。本稿ではCLT生産能力5万m³の現在地を、製造設備の地域分布、生産能力と実生産量のギャップ、中大規模木造市場との連動、欧州市場との比較という4軸から解剖します。
この記事の要点
- CLT生産能力5万m³(2024)、実生産量約3万m³規模。設備稼働率は60%前後で、需要拡大と能力増強が並行して進む発展期。
- 製造工場は岡山・北海道・宮城・宮崎・鹿児島等に約11社が立地。年産1〜2万m³級の中規模工場が主流。
- 欧州CLT市場は年100万m³超で日本の20倍規模。中大規模木造の普及度・建築基準対応の差が市場規模差を生む。
クイックサマリー:CLT産業の基本数値
| 指標 | 数値 | 出典・備考 |
|---|---|---|
| CLT生産能力2024 | 約5万m³ | 日本CLT協会推計 |
| 実生産量2023 | 約3万m³ | 推計 |
| 設備稼働率 | 約60% | 需要拡大と能力増強の並行期 |
| CLT工場数 | 約11社 | 全国分布 |
| JAS規格制定 | 2014年 | 直交集成板JAS |
| 建築基準法告示 | 2016年 | CLT関連告示制定 |
| 原料ラミナ国産材比率 | 約95% | スギ・ヒノキ主体 |
| パネル標準厚さ | 90〜210mm | 3層〜7層 |
| パネル最大寸法 | 3.0×12.0m | 標準的工場の最大対応 |
| CLT建築物累積 | 700件超 | 2023年累積 |
CLT生産能力5万m³の現在地
日本のCLT生産能力5万m³(2024)は、2014年のJAS規格制定時点のほぼゼロから10年で構築された新興産業です。製造工場約11社、設備稼働率60%前後で実生産量3万m³程度と推計されます。残り40%の余剰能力は、中大規模木造市場の拡大に応じた段階的な稼働率向上に充当されており、需要拡大に応じた設備増強投資も並行して進行中です。2030年代には生産能力10万m³規模への到達が視野に入っています。
製造工場の地域分布
CLT工場は全国に約11社が立地し、地域分布は岡山県(2社)、北海道(2社)、宮城県(1社)、栃木県(1社)、広島県(1社)、愛媛県(1社)、宮崎県(1社)、鹿児島県(1社)、その他(1社)の構成です。代表的工場は銘建工業(岡山県真庭市、年産能力2万m³級)、山佐木材(鹿児島)、サイプレス・スナダヤ(愛媛)、協同組合柱材センター(北海道)、ティンバライズ等が挙げられます。
銘建工業(岡山県真庭市)の事例
銘建工業はCLT国産化のパイオニアで、年産能力2万m³級のCLT工場を運営し、全国シェアの30〜40%を占めます。岡山県真庭市の集成材一貫工場(製材→ラミナ→集成材→CLT→大断面構造材)として、原料調達から構造材製造まで統合型のサプライチェーンを構築しています。同社のCLTは三井ホーム、住友林業等の大型木造プロジェクト、商業施設、公共建築等で広く採用されており、CLTパビリオン(東京・有楽町)、銘建工業本社CLT棟、真庭市役所等の代表事例があります。
地域CLT工場の戦略
北海道・愛媛・宮崎・鹿児島の地域CLT工場は、地域木材ブランド(道産材CLT、東予CLT、宮崎・鹿児島スギCLT等)として地域材活用と連動した事業展開を行っています。地域工務店・地元自治体・地方建設会社との連携で、公共建築(庁舎・学校・図書館)、地域商業施設、共同住宅等のプロジェクトに供給する戦略が定着しています。
原料ラミナの構成
CLTの原料ラミナは2024年時点で約95%が国産材です。樹種構成はスギが約65%、ヒノキが約20%、カラマツが約12%、その他針葉樹が3%程度。スギラミナの強度等級はE65〜E105、ヒノキはE90〜E110、カラマツはE105〜E120と樹種により差があり、CLTパネルの設計強度に応じて使い分けられます。原木1m³からCLT0.4m³前後(歩留まり40%)と、製材(55%)・集成材(45%)より歩留まりは低めです。
| 樹種 | CLTラミナ比率 | 強度等級 | 主要用途 |
|---|---|---|---|
| スギ | 約65% | E65〜E105 | 壁・床・屋根(汎用) |
| ヒノキ | 約20% | E90〜E110 | 高強度・耐朽性必要部位 |
| カラマツ | 約12% | E105〜E120 | 高強度床・大断面構造 |
| その他 | 約3% | E70〜E120 | トドマツ・エゾマツ等 |
CLTの構造特性と建築用途
CLTの構造的特徴は、ラミナを直交方向に積層することで、二方向曲げ・面内せん断・面外曲げの3つの応力に対応できる点です。これにより、壁・床・屋根の構造体として機能し、大判パネル化(最大3.0×12.0m)による大空間・短工期施工を実現します。CLTパネル1枚で数十m²の壁・床を構成可能で、工場で製作・組立し現場で吊り込むプレファブ施工が標準工法です。
建築基準法対応とJAS規格
CLTの建築基準法対応は、2014年のJAS規格制定(直交集成板)と2016年の建築基準法告示制定(CLT関連告示)で大きく前進しました。これらの制度整備で、CLTパネルを構造耐力上主要な部分として使用する建築物の設計基準・許容応力度設計法・限界耐力計算法・告示計算法の3経路が整備され、設計者が標準的な計算でCLT建築物を設計できる環境が整いました。2018年には大臣認定型のCLT建築工法も拡大され、4階建て以上のCLT建築物の設計が容易になりました。
建築基準法のCLT関連告示
建築基準法告示611号(2016年)等のCLT関連告示は、CLT建築物の構造計算、耐火性能、防火地域等の規制への適合方法を定めます。これにより、3〜5階建ての中規模木造、商業施設・公共建築等への適用が標準化されました。準耐火構造の標準化により、防火地域・準防火地域での建設も可能となり、CLT建築物の用途拡大が進みました。
CLT建築物の累積実績
2014年のJAS規格制定以降、日本のCLT建築物は累積で700件超に達したと推計されます。代表的事例として、銘建工業本社CLT棟(岡山)、高知県森林研修センター(高知)、東京都庁の木質化エリア、CLTパビリオン(有楽町)、ヤマトホールディングスの物流センター、共同住宅の事例(東京・大阪・福岡)等が挙げられます。用途別では事務所建築・公共建築(庁舎・学校・図書館)が最大、続いて商業施設、共同住宅、戸建住宅の順です。
欧州CLT市場との比較
欧州のCLT市場は年100万m³超の規模で、日本(実生産3万m³)の20倍以上の差があります。主産地はオーストリア(年約50万m³)、ドイツ(年約25万m³)、スイス・チェコ・スウェーデン・フィンランド・ノルウェー等。発祥地のオーストリアでは1990年代から建築基準対応が進み、4〜10階建ての中大規模木造建築でCLTが標準的な構造材として位置づけられています。最近は20階建てを超える木造建築(カナダ・ノルウェー・米国)も実現し、CLT・GLT(集成材)併用の超高層木造が世界的潮流となっています。
| 指標 | 日本 | オーストリア | 欧州合計 |
|---|---|---|---|
| CLT実生産量 | 3万m³ | 50万m³ | 100万m³超 |
| 主要メーカー | 11社 | 10社超 | 50社超 |
| 最大級工場規模 | 2万m³級 | 10万m³級 | 15万m³級 |
| 建築基準対応 | 2016年〜 | 1990年代〜 | EN規格 |
| 最高層木造 | 11階 | 8階 | 21階(ノルウェー) |
| 輸出比率 | 5%未満 | 70%超 | 域内取引活発 |
規模差の構造的要因
欧州と日本の20倍以上の規模差は、4つの構造要因によります。第1に建築基準対応の歴史的早さ(欧州30年、日本10年)。第2に中大規模木造の市場規模(欧州は中層住宅・オフィスの木造化が進む、日本は鉄筋コンクリート中心)。第3に木材産業の集中度(欧州は数社で市場の半分、日本は11社で生産能力5万m³)。第4に輸送コストの優位性(欧州は陸路で広域流通可能、日本は海上輸送主体で物流コスト負担大)。これらが日本のCLT市場の規模を制約しています。
CLT普及の今後10年
CLT産業の今後10年は、能力増強と需要拡大の並行進展が見込まれます。生産能力は2024年5万m³から2030年代に10万m³規模、実生産量は3万m³から6〜8万m³規模への拡大が想定されます。需要側では中大規模木造の本格普及(オフィス・商業・物流・公共)、共同住宅の木造化、低層耐火建築物・準耐火建築物のCLT活用、海外輸出(東南アジア・北米向け)が展望軸となります。脱炭素・SDGs・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)対応の流れも、CLT建築の追い風となる構造要因です。
CLTの環境性能
CLT建築物は鉄筋コンクリート造・鉄骨造に比べて、施工時CO2排出量が30〜60%削減できるとされます。さらに木材自体がCO2を貯蔵する炭素ストックとしての機能を持ち、1m³のCLTで約260kgの炭素を貯蔵します。中大規模建築への木造化が進むと、年間数十万t-CO2規模の排出削減効果が見込まれ、脱炭素政策との整合性が高い建材として位置づけられています。
よくある質問(FAQ)
Q1. CLT生産能力5万m³は世界的に見てどの位置ですか?
欧州(年100万m³超)の20分の1規模、米国(年20万m³前後)の4分の1規模で、世界的にはなお小規模です。ただし、東アジアでは最大級で、韓国・中国・台湾を上回ります。発展期にあたり、年率20〜30%のペースで生産能力・需要が拡大しており、2030年代に10万m³規模への到達が見込まれます。
Q2. CLTの主な用途は何ですか?
事務所建築(30%)、公共建築(25%)、商業施設(15%)、共同住宅(15%)、物流・工場(10%)、戸建住宅・その他(5%)です。中大規模木造の構造体(壁・床・屋根)としての位置づけが明確で、特に3〜10階建ての中層建築物での需要が中心です。鉄筋コンクリート造・鉄骨造に対する木造代替材として位置づけられます。
Q3. CLTのコストは鉄筋コンクリート造より高いのですか?
建築コストは構造体だけ見ると鉄筋コンクリート造より20〜40%高い水準ですが、施工期間短縮(鉄筋コンクリート比で30〜50%短い)、資材軽量化(基礎コスト低減)、内装仕上げ簡素化(CLT現しデザイン)等を含めたトータルコストでは1.0〜1.2倍程度で、追加コストは10〜20%レンジに収まります。脱炭素・SDGs対応のプレミアムを考慮すると、十分競争力ある選択肢となります。
Q4. CLTの原料ラミナはどの樹種ですか?
スギ約65%、ヒノキ約20%、カラマツ約12%、その他針葉樹3%です。スギは強度等級E65〜E105の汎用ラミナとして主力、ヒノキは耐朽性プレミアムで土台周辺・耐久部位、カラマツは強度等級E105〜E120の高強度ラミナとして床・大断面部位に使われます。国産材比率は約95%で、CLTは国産材活用の代表的成功事例として位置づけられます。
Q5. CLT建築物は耐震性能がありますか?
CLTは面材として高い耐震性能を持ち、剛床・耐力壁としての機能で建築基準法の耐震基準に対応します。E-ディフェンス(兵庫県南あわじ市)等での実大振動実験で、震度7クラスの地震動でも構造的損傷なく機能を保つことが実証されており、阪神・東日本大震災相当の地震動への耐性が確認されています。中大規模木造の耐震構造材として安全性は十分担保されています。
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- 製材出力規模別構成|年間1万m³以上大型化の進度
- 改正建築基準法と木造|耐火・準耐火基準の変遷
- 木材内装|オフィス・商業施設の木質化
まとめ
CLT生産能力5万m³(2024)は、2014年JAS規格制定・2016年建築基準法告示制定を経て10年で構築された新興産業です。実生産量3万m³規模、稼働率60%前後の発展期にあり、岡山・北海道・宮城・栃木・広島・愛媛・宮崎・鹿児島等の11社で生産が分散しています。原料ラミナは国産材比率95%(スギ65%・ヒノキ20%・カラマツ12%)で、国産材活用の成功事例として位置づけられます。建築物実績は累計700件超で、事務所・公共建築・商業施設・共同住宅を中心に中大規模木造の構造体として定着しつつあります。欧州(年100万m³超)と比較すれば日本市場は20分の1規模ですが、年率20〜30%の成長ペースで2030年代の生産能力10万m³到達が視野に入る発展軌道にあります。

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