CLT(直交集成板)は、ひき板を繊維の向きが交互に直交するよう貼り重ねた、大きな木の構造パネルです。1995年にオーストリアで生まれた比較的新しい材料で、日本の年間生産能力は近年およそ10万m³規模(2020年時点の約6万m³から拡大)。ただし実際の生産量はその一部にとどまり、設備が需要に先回りして増えている段階です。数字はまだ控えめですが、中大規模木造(オフィス・公共施設・共同住宅)を木で建てるための主役材料として着実に広がっています。この記事では、その「いま」を生産設備・産地・原料・世界との差という角度から見ていきます。

10年でゼロから年10万m³規模へ
日本のCLT産業は、ほぼゼロからの出発でした。2014年にJAS規格、2016年に建築基準法の関連告示が整い、ここからが本格普及の起点です。10年で生産能力は年10万m³規模に。ただし実生産量はその一部にとどまり、稼働率は低め。設備が需要に先回りして増えている、いわば助走中の産業です。政府は「CLTの普及に向けたロードマップ」で年50万m³の生産能力を目標に掲げていますが、達成時期は先送りが続いています。下のグラフが、その能力と実生産の伸びを示しています。
工場は8社前後、産地ブランドと結びつく
普通合板や集成材と同じく、CLTも数少ない工場に生産が集まる装置産業です。JAS認定を受けたCLT製造工場は全国で8社前後。岡山・北海道・宮城・栃木・広島・愛媛・南九州など、スギ・ヒノキ・カラマツの主産地に分かれて立地し、それぞれ地域木材ブランドの戦略と結びついています。新設には数十億円規模の投資と広い用地が必要で、参入障壁は高い産業です。
とくに存在感が大きいのが、岡山県真庭市の銘建工業です。国産CLTのパイオニアで、製材からラミナ、集成材、CLTまでを一貫してこなす工場。CLTパビリオン(東京)や真庭市の関連施設など代表的な建物に材を供給してきました。北海道の道産材CLT、愛媛の東予CLT、南九州のスギCLTといった地域ブランドも育ちつつあり、地元の木を地元の工場でパネルにし地元で建てる、という地産地消の流れが各地に広がっています。
原料はほぼ国産材
CLTのいちばんの強みは、原料の自給度です。ラミナはほぼ国産材でまかなわれ、主力はスギ、これにヒノキ、カラマツ、トドマツが続きます。スギは汎用品として主力、ヒノキは耐久性を求める部位、カラマツは強度の高い床や大断面に、と樹種ごとに役割が分かれます。合板やLVL同様、戦後に植えた人工林が利用期を迎えたことが、この高い国産率を支えています。ラミナ段階の欠点除去があるぶん原木からの歩留まりはやや低めですが、それでもまるごと国産材で構造材を賄える、数少ない成功例です。
1,700件超の建物、主役はオフィスと公共施設
2014年以降、CLTを活用した建築物は累計で増え続け、2025年度末には1,700件を超えました。用途を見ると、事務所と公共建築(庁舎・学校・図書館)で全体の半分前後。商業施設や共同住宅がそれに続きます。戸建てより、中層・大規模の建物で「面で支える構造材」として根付いているのが特徴です。
「木造は地震に弱いのでは」と思われがちですが、CLTは面で力を受け止めるため耐震性能は高く、実大の振動実験でも震度7クラスに構造的損傷なく耐えることが確かめられています。コスト面では、構造体だけ見れば鉄筋コンクリートより2〜4割高いものの、工期が3〜5割短縮でき、軽量化で基礎も安く済むため、総額では1.0〜1.2倍程度に収まります。脱炭素やSDGsへの対応というプレミアムを考えれば、十分に選ばれる理由のある選択肢になってきました。
世界とはまだ大きな差
とはいえ、世界に目を向けると差は歴然です。世界のCLT生産能力は年100万m³を超え、発祥地オーストリアをはじめ欧州が中心。日本の生産能力(年10万m³規模)でも一桁の開きがあり、実生産量ベースではさらに差が広がります。木造高層建築でも、ノルウェーのミョーストーネット(18階・85m)、米国ミルウォーキーのアセント(25階)などが先行。日本では11階・約44mの純木造耐火建築(横浜)が代表例で、これを上回る計画も進行中です。
| 指標 | 日本 | 欧州 |
|---|---|---|
| CLT生産能力 | 年10万m³規模 | 年100万m³超 |
| 建築基準への対応 | 2016年〜 | 1990年代〜(EN規格) |
| 木造高層の到達点 | 11階・約44m(純木造) | 18階・85m(ノルウェー) |
差の理由ははっきりしています。欧州は建築基準への対応が30年ほど先行し、中層住宅やオフィスを木で建てる文化が根づいている。木材産業の集約度も高く、少数の大手が市場の多くを握る。さらに陸続きで広域に運べる物流の利が大きい。日本は基準対応からまだ10年、海上輸送中心で物流コストもかさみます。これらが市場規模の差として表れているわけです。
これからの10年
それでも、追い風は確かに吹いています。生産能力はさらに拡大し、稼働率も上がっていく見通しです。CLT建築は鉄筋コンクリートに比べ施工時のCO2を抑えやすく、木材自体が炭素を蓄える働きも持つため、脱炭素やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の流れに合います。原料をほぼ国産材で賄えるという自給度の高さも、ほかの建材にはない強み。世界との差はまだ大きいものの、日本の木材産業のなかで伸びしろの大きい分野として、これからの動きに注目したいところです。

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