木の柱や梁を見て「これは炭素のかたまりだ」と思う人はあまりいないかもしれません。でも実は、木材1m³には約260kg-C、CO2に換算すると約950kgもの炭素が閉じ込められています。これは乗用車1台が半年で出すCO2に相当する量。木造住宅1棟(延床150m²)なら構造材だけで約12〜14t-CO2を抱え込んでいる計算になります。建てているあいだじゅう、家が大気からCO2を預かってくれている――木造建築のCO2固定とは、そういう話です。
木材1m³に260kg-Cが入る理由
木材の炭素貯蔵量は「容積密度×炭素含有率」で決まります。容積密度(乾燥重量÷体積)はスギで0.38、ヒノキで0.41t/m³ほど。炭素含有率は針葉樹でおよそ0.50です。樹種を混ぜた平均として「約260kg-C/m³」がよく使われ、CO2換算(×3.67)で約950kg-CO2になります。IPCCのガイドラインも製材の炭素含有率を0.50と定めており、この桁感は国際的に共通の数字です。
樹種差はそのまま容積密度の差です。ブナやナラのような広葉樹は密度が高く、同じ体積でも多くの炭素を抱えます。とはいえ建築の構造材はスギ・ヒノキ・カラマツの針葉樹が主役。広葉樹は内装や家具で活躍し、住宅1棟の貯蔵量を2〜3割上乗せします。
1棟でどれだけ貯まるか
木造戸建(延床150m²、在来軸組)の構造材使用量は約12〜15m³、CO2貯蔵は約11〜14t。造作材や下地合板まで含めると総木材量は20〜25m³になります。住宅はまだ序の口で、中大規模の建物になると桁が変わります。
| 建物タイプ | 延床面積 | 構造材使用量 | CO2貯蔵量 |
|---|---|---|---|
| 戸建住宅(在来軸組) | 150m² | 約13m³ | 約12.4t-CO2 |
| 3階建木造アパート | 300m² | 約30m³ | 約28.5t-CO2 |
| 木造保育所 | 700m² | 約65m³ | 約62t-CO2 |
| CLT中層オフィス(5階) | 2,500m² | 約400m³ | 約380t-CO2 |
| CLT高層ビル(10階) | 5,000m² | 約1,000m³ | 約950t-CO2 |
| 17階木造ハイブリッド | 10,000m² | 約1,500m³ | 約1,400t-CO2 |
中層オフィス1棟で住宅約30棟分、高層ビルなら80棟分。つまり、温暖化対策として木造化のインパクトがいちばん大きいのは、戸建ではなく中大規模の建物なのです。
新築と解体、差し引きの行方
日本の住宅着工は2023年度で約80万戸、うち木造は約46万戸。1戸12t貯蔵として、新築だけで年約550万t-CO2が新たに固定されます。森林吸収量4,500万t-CO2の1割を超える規模です。ただし解体される木造住宅(年約40万戸)からは年約400万t-CO2が放出されるため、差し引きのネット貯蔵は年150万t-CO2前後にとどまります。
ここで効いてくるのが「住宅をどれだけ長く使うか」です。日本の住宅平均寿命は約30年で、欧米の55〜77年に比べてかなり短い。長く使えば解体による放出が後ろ倒しになり、貯蔵期間も延びます。長期優良住宅の普及が、地味ながら大きな鍵を握っています。
公共建築物の木造化が一気に進んだ
2010年に施行された公共建築物木材利用促進法は、低層の公共建築物を原則木造とする画期的な法律でした。施行前の2010年度に8.3%だった低層公共建築物の木造化率は、2022年度には47.0%へ。12年で5.7倍という急拡大です。2021年の改正では中高層木造や内装木質化まで対象が広がり、法律名も「都市の木造化推進法」と改められました。
次の課題は4階建て以上の中高層です。鍵になるのが、CLT(直交集成板)と耐火集成材という2つの技術。CLTはコンクリート床版の代わりになる大型木質パネルで、年間生産量は2014年の3,000m³から2023年に約20万m³へと急増しました。耐火集成材は火災時に1〜3時間の耐火性能を確保でき、これまで鉄骨やRC一択だった大規模建築に木材を入れられるようになりました。東京・京橋の17階建ハイブリッドビルは、その代表例です。
RC造と比べた本当の削減効果
木造の純CO2効果は「貯蔵+代替効果−建材製造排出」で測ります。代替効果とは、鉄やコンクリートを木で置き換えることで、それらの製造に伴う大量のCO2を出さずに済む分のこと。戸建1棟ならネットで約29t、中層オフィスでは約940tもの削減になります。
戸建のライフサイクルで比べると、建材製造のネットCO2は木造約11t、RC造約47t、鉄骨造約34t。木造はRC比で約36t、鉄骨比で約23tも少なくて済みます。この差は中大規模になるほど10〜20倍にスケールします。
森林は枯れないのか、という疑問
木造化を進めると森林が枯渇するのでは、と心配になるかもしれません。でも、持続可能な間伐主体の生産であれば話は逆です。日本の森林蓄積は約55億m³、年成長量は約7,000万m³。これに対して伐採量は約3,500万m³で、成長量の半分も使えていないのが現状です。むしろ国産材の需要が増えることで、間伐の遅れや林業の衰退を防ぎ、森の健全さを保つことにつながります。木材を使い、伐ったあとに植え直す――このサイクルを回すことこそが本質です。
建築物分野は日本のCO2排出のおよそ3割を占めます。住宅の長寿命化と非住宅の木造化が進めば、2030年で年1,000〜1,500万t-CO2、2050年には2,500〜3,500万t-CO2の削減が見込まれています。木造化は、CO2の貯蔵・建材の代替・国産材自給率の向上という三つの効果を同時に持つ、森林・林業・建築・気候政策の交差点にある戦略領域なのです。
よくある質問
木造住宅1棟と植林の効果はどちらが大きいですか?
木造住宅1棟(CO2貯蔵12t)は、人工林約0.5haが約10年で吸収する量に相当します。住宅は「即時固定」、植林は「長期累積吸収」と性質が違うので単純比較はできませんが、両方を組み合わせて初めて効果が最大になります。木材生産・木造化・再造林を一続きのサイクルとして回すことが大切です。
木造建築のCO2貯蔵は永続的ですか?
いいえ、製品寿命に応じて減衰します。IPCCの既定半減期は製材で35年。伐採後35年で貯蔵の50%、70年で25%まで減ります。「永続」ではなく「長期」貯蔵ですが、再利用と再造林をセットで運用すれば、サイクル全体としては持続的なCO2削減効果を保てます。
CLTや耐火集成材で何階まで建てられますか?
世界では18〜25階の高層木造が実現しており(ノルウェーMjøstårnet 18階、米ミルウォーキーAscent 25階)、日本でも17階建のハイブリッドビルが竣工しています。建築基準法上は耐火認定を受ければ高さ制限はなく、防耐火・耐震・遮音・コストの折り合いがつく範囲で中高層化が進みます。20階建以上の純木造も、今後10年以内に国内で実現する可能性があります。

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