「日本の木材自給率は42%」とか「木材需要は8,500万m³」といった数字は、ニュースでもよく目にします。その大もとになっているのが、林野庁が毎年まとめている「木材需給表」です。日本の木材市場の全体像を、供給量・需要量・自給率という形で一望できる、いわば家計簿のような統計。ただ、いざ読もうとすると区分や用途が入り組んでいて、どの数字が何を指すのか迷いがちです。この記事では、その読み方のコツを整理してみます。
まず大きな枠組みから。木材需給表は「用材」「燃料材」「しいたけ原木」の3つに分かれています。2023年でいうと総供給量は約8,500万m³。その内訳が下の図です。
この統計、じつは1955年からずっと続いています。当時の総供給量は約3,000万m³。高度経済成長期に住宅・建築需要が爆発し、1973年には1.2億m³まで膨らみました。その後は住宅着工の減少などで縮小し、いまの8,500万m³に落ち着いています。70年近い時系列があるおかげで、戦後の木材需給の移り変わりがまるごと追えるのが、この表の何よりの強みです。
「用材」は4つの用途に分かれている
一番大きな「用材」は、需要側で見ると4つの用途に分かれます。製材用材(住宅構造材・造作材・梱包材)が約2,400万m³、合板用材が約650万m³、チップ用材(パルプ・MDF等)が約3,800万m³、そして電柱や足場丸太などのその他用材が約450万m³。ここで意外なのが、量的に一番大きいのはチップ用材で、用材全体の半分強を占めること。住宅でおなじみの製材用材は3分の1ほどなんですね。だから「木材」と一口に言っても、文脈によって指しているものがまるで違う。これが需給表を読むときの最初の落とし穴です。
さらに面白いのは、同じ用材でも用途ごとに自給率がぜんぜん違うことです。下の図を見ると一目瞭然で、合板用材は国産材が85%なのに、チップ用材は逆に輸入材が74%。同じ「木材」でも、国産か輸入かの色分けが用途で正反対になっています。
合板用材の自給率85%は、ここ20年の大きな成功例です。2000年代までは南洋材の丸太や合板に頼っていたのが、2007〜2015年の合板工場新設ラッシュでカラマツ合板・スギ合板の生産能力が一気に拡大し、構造用合板はほぼ完全に国産材化しました。一方、チップ用材は紙の原料(パルプ)が主で、ベトナムのアカシア・ユーカリ、チリや豪州のユーカリといった海外の植林木に頼る構造が続いています。製材用材は国産材と輸入材がほぼ拮抗、というのが2023年の姿です。
新顔の「燃料材」と、縮む「しいたけ原木」
燃料材は、2014年から独立した区分として集計されるようになった比較的新しい仲間です。それまでは「薪炭材」として細々と数えられていたものが、2012年のFIT制度(再エネ固定価格買取)を機に木質バイオマス発電が拡大し、独立させる必要が出てきました。2014年の約410万m³が2023年には約1,200万m³へ。9年でおよそ3倍に膨らみ、いまや用材に次ぐ第2の区分になっています。国産未利用材・国産一般材がそれぞれ350万m³ほど、これに輸入PKSと木質ペレットが加わる構成です。
逆に静かに縮んでいるのが、しいたけ原木です。クヌギ・コナラなどの広葉樹を使う区分で、いまは約20万m³。1990年代までは年70万m³水準だったのが、おがくずなどを使う菌床栽培の普及で、ここまで小さくなりました。原木で育てたしいたけは贈答用や乾しいたけの高級市場で根強い人気がありますが、需要そのものは構造的に縮小傾向です。それでも独立区分として残しているところに、この統計の几帳面さがうかがえます。
「自給率42%」は、どの自給率?
ニュースでよく聞く「木材自給率42.4%」は、じつは用材だけの自給率です。国産材の用材3,100万m³を用材総供給量7,300万m³で割った値ですね。ところが燃料材やしいたけ原木まで含めた総量で計算すると約45%と、少し高くなります。燃料材は国産材比率が高いからです。つまり「自給率」と一口に言っても、何を分母に入れるかで数字が変わる。議論の前提として、どの自給率の話をしているのかを確認するのが大事です。下の表に主な自給率を並べてみました。
| 自給率の種類 | 2023年 | 計算式 |
|---|---|---|
| 用材自給率(公式) | 42.4% | 国産材用材÷用材総供給量 |
| 総量自給率 | 約45% | 国産材総量÷総供給量(燃料材含む) |
| 製材用材自給率 | 約55% | 国産材製材÷製材総量 |
| 合板用材自給率 | 約85% | 国産材合板÷合板総量 |
| チップ用材自給率 | 約26% | 国産材チップ÷チップ総量 |
| 燃料材自給率 | 約58% | 国産燃料材÷燃料材総量 |
住宅構造材の話なら製材用材の55%、合板の話なら85%、紙の話ならチップ用材の26%が適切な指標です。林業政策や貿易の議論では、用途別と全体の自給率を併記するのが基本になっています。なお需給表のすべての数字は丸太換算(実体積m³)でそろえられていて、製材1m³=丸太約2m³、チップ1t=丸太約2.5m³といった換算率を使い、形態の違う木材を一つの物差しで比べられるようにしてあります。
長い目で見ると、半減してきた
長期トレンドを見ると、1973年の1.2億m³から2023年の8,500万m³へ、総量はおよそ3割縮みました。主因は住宅着工戸数の激減(1973年の約190万戸から2023年は82万戸)ですが、電子化による紙パルプ需要の減少や、産業用木材のプラスチック・金属への置き換えも効いています。それでも縮小ペースが緩んでいるのは、燃料材区分の急成長が下支えしているからです。グラフの緑の点線(国産材)が1990年代に底を打って反転しているのも見どころで、輸入材の縮小と国産材の回復が、自給率の改善につながってきました。
実務での使い方としては、自給率の進度をモニタリングする(第6次森林・林業基本計画では2030年代の60%自給率が目標)、用途別の需給バランスを見て製材所やパルプ工場の経営判断に役立てる、そしてバイオマス発電の影響を市場全体の文脈でとらえる、といったところです。ただし需給表には限界もあって、価格情報は含まれず(別に「木材価格統計」がある)、地域別や流通経路の詳細も載りません。だから実際の分析では、需給表を軸に貿易統計や価格統計など複数の資料を組み合わせて使うのが定石です。木材をめぐる議論の前提を共有する、最初の一歩としてこの表を開いてみる――それが上手な付き合い方だと思います。

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