「日本の林業は衰退した」とよく言われますが、実は丸太(素材)の生産量は静かに底を打ち、回復に転じています。戦後最盛期の1967年に約5,200万m³あった生産量は、2002年には約1,600万m³まで落ち込みました。それが近年は約2,200万m³へ。1990年の水準まで戻ってきたのです。なぜV字回復できたのか、その中身を数字で読み解きます。
最盛期・どん底・回復——3つの時代
戦後の生産量の動きは、大きく3つの時代に分けられます。天然林を伐り出した最盛期、輸入材に押されて沈んだ長い不況期、そして人工林が育って戻ってきた回復期です。
| 年次 | 生産量(万m³) | 主要動向 |
|---|---|---|
| 1967年 | 約5,200 | 戦後最高記録・天然林伐採ピーク |
| 1980年 | 約3,300 | 輸入材急増・国産材価格低迷 |
| 1990年 | 約2,200 | 住宅減速・国産材衰退 |
| 2002年 | 約1,600 | 戦後最低記録・木材自給率18.8% |
| 2010年 | 約1,800 | 国産材政策強化・需要回復 |
| 近年 | 約2,200 | 主伐期到来・需要拡大 |
| 2035年(目標) | 国産材利用量4,200 | 木材自給率49%見込み |
生産量はちょうど1990年の水準まで戻りましたが、数字が同じでも中身は様変わりしています。2026年に改定された森林・林業基本計画は、2035年に国産材の利用量を4,200万m³へ、木材自給率を49%へ引き上げる目標を掲げています。
回復を生んだ最大の理由は「森が育ったから」
回復の最大の原動力は、意外にシンプルです。戦後の拡大造林期(1950〜80年)に大量に植えられたスギ・ヒノキが、いよいよ主伐に適した樹齢を迎えたのです。現在の人工林(約1,000万ha)の約6割は50年生を超えており、立木の蓄積は令和4年3月末で約56億m³。近年もおおむね年6,000万m³前後のペースで純増しています。
つまり、年に2,200万m³伐っても、それは毎年増える蓄積の量よりずっと少ない。資源の観点では「まだ使い切れていない」のが実情です。国が国産材利用の拡大目標を据えるのは、森林を持続的に使いながら、高齢林の主伐と若齢林の育成で森を若返らせ、CO2吸収力も高めようという狙いがあります。
もちろん供給側だけでなく、需要側の後押しもありました。住宅メーカーの国産材活用拡大、公共建築の木造化(2010年の公共建築物等木材利用促進法、2021年の改正で対象を民間建築物まで拡大)、合板の国産化(合板用素材の国産材比率が数%だったものが2023年には94.5%へ)、バイオマス発電所の急増です。こうして国産丸太の使い道が建築用材だけでなく、合板・パルプ・燃料・CLTなどへ広がり、安定した需要基盤ができてきました。
樹種はスギが6割、産地は北海道・九州・東北
何が、どこで採れているのか。まず樹種を見ると、スギが圧倒的で、素材生産量のおよそ6割を占めます。続いてヒノキ、カラマツ、トドマツ。スギは人工林面積でも最大(約444万ha、全人工林の約44%)で、拡大造林期の植栽林が主伐適期を迎えています。ヒノキは高級材ですが面積・生産量ともスギの4分の1ほど。カラマツは北海道・東北・中部で合板原料・構造材として需要が伸びています。
地域別では、北海道・九州・東北の三つの地域に生産が集中しているのが特徴です。2022年には、それまで30年以上1位だった宮崎県を北海道が抜いて全国1位になりました。北海道はカラマツ・トドマツの大規模造林地が伐りごろを迎え、機械化も進んでいます。九州(宮崎・大分・熊本・鹿児島)は温暖多雨な気候で育つスギと、製材・合板工場の集積、木材輸出の拠点という強みが揃っています。詳しくは都道府県別素材生産量トップ10で扱っています。
残された課題
回復基調とはいえ、課題は少なくありません。とくに気がかりなのが主伐後の再造林率で、全国平均は3〜4割にとどまります。再造林費(補助後でも1haあたり数十万円)が山主の負担となるため、伐ったまま植え直さない「再造林放棄」が進む地域もあるのです。低密度植栽やコンテナ苗によるコスト削減で改善が図られています。
担い手の確保も正念場です。林業就業者は約4.4万人で、1990年代の8万人から半減し、高齢化も進行中。「緑の雇用」制度で新規参入を支えていますが、退職者を補いきれていません。だからこそ、レーザ計測・GIS・高性能林業機械・電子取引といったデジタル林業による省人化と生産性向上が鍵を握ります。
国産材利用4,200万m³という目標は、単なる増産ではありません。人材育成、路網整備、機械化、需要拡大、地域連携、デジタル化を束ねて初めて届く数字です。そして森を若返らせることはCO2吸収力の向上にもつながり、伐った木を建築物として使えば、その中に炭素を数十年単位で固定できます。補助金頼みの産業から、持続可能性の時代の成長産業へ——日本の林業は、いままさにその転換点に立っています。

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