「日本の林業は衰退した」とよく言われますが、実は丸太(素材)の生産量は静かに底を打ち、回復に転じています。戦後最盛期の1967年に約5,200万m³あった生産量は、2002年には約1,600万m³まで落ち込みました。それが2024年には約2,200万m³へ。1990年の水準まで戻ってきたのです。なぜV字回復できたのか、その中身を数字で読み解きます。
最盛期・どん底・回復——3つの時代
戦後70年の生産量の動きは、大きく3つの時代に分けられます。天然林を伐り出した最盛期、輸入材に押されて沈んだ長い不況期、そして人工林が育って戻ってきた回復期です。
| 年次 | 生産量(万m³) | 主要動向 |
|---|---|---|
| 1967年 | 5,200 | 戦後最高記録・天然林伐採ピーク |
| 1980年 | 3,300 | 輸入材急増・国産材価格低迷 |
| 1990年 | 2,200 | 住宅減速・国産材衰退 |
| 2002年 | 1,600 | 戦後最低記録・自給率18.8% |
| 2010年 | 1,800 | 国産材政策強化・需要回復 |
| 2024年 | 2,200 | 主伐期到来・需要拡大 |
| 2030年(目標) | 3,200 | 自給率50%目標 |
2024年の生産量はちょうど1990年の水準まで戻りましたが、数字が同じでも中身は様変わりしています。林野庁の『森林・林業基本計画』は、2030年に3,200万m³・自給率50%・林業生産額5,000億円という三本柱の目標を掲げています。
回復を生んだ最大の理由は「森が育ったから」
回復の最大の原動力は、意外にシンプルです。戦後の拡大造林期(1950〜80年)に大量に植えられたスギ・ヒノキが、いよいよ主伐に適した樹齢55〜65年を迎えたのです。現在の人工林面積1,020万haの約半分はこの時期の植栽で、立木の蓄積は約60億m³、毎年の自然成長で約7,000万m³ずつ純増しています。
つまり、年に2,200万m³伐っても、それは成長量7,000万m³のわずか3割。資源の観点では「まだ使い切れていない」のが実情です。林野庁が3,200万m³(成長量の約46%)を目標に据えるのは、森林を持続的に使いながら、高齢林の主伐と若齢林の育成で森を若返らせ、CO₂吸収力も高めようという狙いがあります。
もちろん供給側だけでなく、需要側の後押しもありました。住宅メーカーの国産材活用拡大、公共建築の木造化(2010年の木材利用促進法以降、累積1,000棟超)、合板の国産化(輸入比率98%だったものが国産比率約40%へ)、バイオマス発電所の急増です。こうして国産丸太の使い道が建築用材だけでなく、合板・パルプ・燃料・CLTなどへ広がり、安定した需要基盤ができてきました。
樹種はスギが6割、産地は九州・東北・北海道
何が、どこで採れているのか。まず樹種を見ると、スギが圧倒的です。
| 樹種 | 生産量(万m³) | シェア | 主要用途 |
|---|---|---|---|
| スギ | 約1,330 | 60.5% | 建築構造材・羽柄材・建具 |
| ヒノキ | 約290 | 13.2% | 高級建築材・神社仏閣 |
| カラマツ | 約240 | 10.9% | 合板・建築構造材・電柱 |
| トドマツ | 約170 | 7.7% | パルプ・建築・梱包材 |
| 広葉樹ほか | 約170 | 7.7% | 家具・床材・楽器・薪炭 |
スギは人工林面積でも最大(約450万ha、全人工林の45%)で、拡大造林期の植栽林が主伐適期を迎えています。ヒノキは高級材ですが面積・生産量ともスギの4分の1ほど。カラマツは北海道・東北・中部で合板原料・構造材として需要が伸びています。
地域別では、三大産地に生産が集中しているのが特徴です。
| 地域 | 生産量(万m³) | シェア | 主要産地・樹種 |
|---|---|---|---|
| 九州 | 約550 | 25.0% | 宮崎・大分・熊本のスギ・ヒノキ |
| 東北 | 約440 | 20.0% | 秋田・岩手・福島のスギ・カラマツ |
| 北海道 | 約290 | 13.2% | カラマツ・トドマツ・エゾマツ |
| 中部 | 約280 | 12.7% | 長野・岐阜・静岡のスギ・ヒノキ |
| 中国・四国 | 約220 | 10.0% | 岡山・愛媛・高知のスギ・ヒノキ |
| 関東・近畿・北陸 | 約420 | 19.1% | 吉野・熊野などのブランド産地 |
最大産地の九州、なかでも宮崎県は年間200万m³超と単独で群を抜きます。スギ造林面積が全国1位(約36万ha)で、平地に近い緩傾斜地形、製材・合板工場の集積、「宮崎スギ」ブランド戦略、住宅メーカーとの長期協定が揃い、全国を牽引しています。これら主要産地に共通するのは、豊富な森林資源・加工産業の集積・地域材ブランド戦略という強みです。
残された課題と3,200万m³への道
回復基調とはいえ、課題は少なくありません。とくに気がかりなのが主伐後の再造林率で、全国平均は約30〜40%にとどまります。再造林費(補助後でも30〜60万円/ha)が山主の負担となるため、伐ったまま植え直さない「再造林放棄」が進む地域もあるのです。低密度植栽やコンテナ苗によるコスト削減で改善が図られています。
担い手の確保も正念場です。林業就業者は約4.4万人で、平均年齢53歳と高齢化が進行中。「緑の雇用」制度で年間約3,000人の新規参入を支えていますが、退職者を補いきれていません。だからこそ、レーザ計測・GIS・高性能林業機械・電子取引といったデジタル林業による省人化と生産性向上(最先端では1人日あたり10〜15m³)が鍵を握ります。
3,200万m³という目標は、単なる増産ではありません。人材育成、路網整備、機械化、需要拡大、地域連携、デジタル化を束ねて初めて届く数字です。そして森を若返らせることはCO₂吸収力の向上にもつながり、伐った木を建築物として使えば、その中に炭素を数十年単位で固定できます。補助金頼みの産業から、持続可能性の時代の成長産業へ——日本の林業は、いままさにその転換点に立っています。
出典・参考
- 林野庁「木材需給表」「木材統計」
- 農林水産省「森林・林業基本計画」(2021年6月閣議決定)
- 農林水産省「農林業センサス2020」
- 各都道府県林業統計年報

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