製材用材の自給率55%|合板用・パルプ用との需給比較

柱と梁の半分は国産に

「木材の自給率」と聞くと一つの数字を思い浮かべがちですが、じつは用途ごとにまったく顔が違います。木材需給表(2023年)でみると、製材用材の自給率は約56%、合板用材も約52%とほぼ半々。ところがパルプ・チップ用材はわずか17%、燃料材は6割前後です。同じ国産材なのに、なぜここまで開くのか——その理由をたどると、日本の林業の弱点と勝ち筋がくっきり見えてきます。

目次

用途で違う自給率:何が高くて何が低い?

まずは並べてみましょう。下のグラフのとおり、合板と燃料材は高く、製材は真ん中、パルプは最も低い。この差は「国産丸太でも商売が成り立つか」で決まります。

用途別自給率比較 製材・合板・パルプ・燃料材の自給率を棒グラフで比較 用途別自給率比較(木材需給表・2023年) 製材用材 製材 56% 合板用材 合板 52% 燃料材 燃料材 約60% パルプ・チップ パルプ・チップ 17% 合計 木材全体 43% 30% 60% 100%
図1:用途別自給率比較(出典:林野庁「木材需給表」を基に概算)

ここで注意したいのが合板用材の52%という数字です。国内の合板工場が使う原木は、いまや9割以上が国産のカラマツ・スギに入れ替わっています。にもかかわらず需給表の自給率が52%どまりなのは、日本の合板消費の半分近くをいまも輸入合板(南洋材合板など)が占め、それを丸太に換算して分母に含めるためです。燃料材が6割前後なのは、原料の丸太に求められる品質がそれほど厳しくなく、国産の曲がった木や間伐材でも使えるから。一方、製材用材が5割台で足踏みする理由は3つあります。ひとつは品質の壁。住宅の柱や梁は強度・含水率・寸法精度のすべてに厳しい規格があり、合板やチップとは要求水準が桁違いです。ふたつめはサプライチェーンの粘り強さ。輸入製材は1970年代から半世紀かけて、海外メーカー・商社・プレカット工場・住宅メーカーがガッチリつながった連鎖をつくってきました。これを国産材に置き換えるのは簡単ではありません。みっつめは仕入れ先を変えにくい習慣。工務店は決まった仕入れ先と長く付き合うため、少々の値動きでは取引先を変えないのです。

なお最も低いパルプ・チップ用17%は、紙パルプ業界が安価な輸入チップ(ベトナムのアカシア、チリ・豪州のユーカリなど)に深く依存している構造で、政策で短期間に動かすのはまず無理。逆にいえば、伸びしろがあって林業の儲けに直結するのは、製材用材と、国内工場の原木がすでに国産化した合板用材なのです。

55%にたどり着くまでの長い道のり

製材用材の自給率は、もともと高い数字でした。戦後すぐの1955年は約95%。それが木材輸入の自由化を境にずるずると下がり、2002年前後には約37%の底をつけます。そこから20年かけて、ようやく56%まで戻してきた——というのが大きな流れです。

製材用材自給率の長期推移 1990年から2024年までの製材用材自給率の推移を折れ線グラフで示す 製材用材自給率の長期推移(%) 100 75 50 25 0 1990 2002 2010 2015 2020 2024 45% 約37%底値 48% 56% さらなる引き上げが政策目標 2002年前後の底値から20年で約20ポイント回復。国内合板工場の原木国産化ほど急ではない。
図2:製材用材自給率の長期推移(出典:林野庁「木材需給表」を基に概算)

ただ、この回復は合板に比べるとずいぶん緩やかです。国内で生産する合板の原木は、2000年代のほぼ全量輸入から現在は9割超が国産へと入れ替わりましたが、製材の自給率は20ポイントの上積みどまり。底を打った2002年前後以降の主な後押しは、2010年の公共建築物等木材利用促進法、CLTの本格生産開始(2015年ごろ)、そして2021年のウッドショックでした。輸入材の価格が急騰したウッドショックは、皮肉にも国産材を見直す大きなきっかけになったのです。

輸入1,100万m³と国産1,400万m³、その中身

製材用材の需要は約2,180万m³(2023年)。うち国産が約1,230万m³、輸入が約950万m³です。輸入の内訳は、欧州材と北米材がそれぞれ3〜4割を占めます。欧州材はオーストリアやドイツ、北欧産のホワイトウッド集成材。北米材は米松やSPF(ツーバイフォー材)。どちらも品質が安定し、流通の仕組みも完成しているのが強みです。

一方、国産約1,230万m³の主役はスギ(約65%)とヒノキ(約20%)。供給地は九州中部(宮崎・大分・熊本)が最大で、宮崎県だけで素材生産量全国1位を誇ります。これに北海道のトドマツ・カラマツ、秋田・岩手など東北の杉、高知のヒノキが続きます。製材所は全国に約4,300社ありますが、年間1万m³以上を挽く中大型工場への集約が進み、品質と量の安定供給を支えています。

地政学リスクも構成を変えました。2022年以降のロシア材規制で、その穴をチリ産ラジアータパインや東欧産材が埋めています。こうした輸入材の再編局面は、国産材が需要を取り込むチャンスでもあります。ただし、品質と安定供給の壁を越えなければ一時的な置き換わりで終わってしまう、というのが現実です。

国産材の品質は、もう輸入材に負けていない

「国産材は強度が弱い」——これは1990年代の通念で、いまや事実とずれています。下の表のとおり、ヒノキは欧州ホワイトウッドと同等以上、カラマツはこれを上回ります。JAS強度等級の認定、乾燥技術の向上、グレーディングマシン(強度を機械で測る装置)の普及により、国産材の実力はデータで裏づけられるようになりました。

樹種 気乾比重 ヤング係数(標準域) 主な構造材用途
スギ 約0.38 E50-E70 柱・羽柄材・集成材ラミナ
ヒノキ 約0.44 E70-E90 通し柱・土台・高級造作
カラマツ 約0.50 E90-E110 梁・桁・大断面集成材
参考:欧州ホワイトウッド 約0.43 E65-E75 集成材ラミナ

つまり構造材市場では、国産材の品質は欧州集成材と肩を並べるところまで来ています。残る課題は、品質そのものより「安定して同じものを大量に届けられるか」のほうに移ってきました。

カギを握る集成材・CLTとプレカット工場

自給率を押し上げる最大のドライバーが、集成材とCLTの国産化です。集成材の生産量は2010年前後の約100万m³から近年は150万m³前後へ拡大しました。原料となるラミナ(薄い板)も、かつては欧州ホワイトウッド頼みでしたが、いまは国産スギ・ヒノキの比率が4割前後まで上昇。ウッドショック後の価格再編で、国産スギラミナが欧州材と同等かやや安い水準に収れんしてきたことが追い風です。CLT(中大規模木造の構造材)は生産能力で年10万m³超、実生産は数万m³とまだ小ぶりですが、ほぼ100%国産。量より「新しい木造建築を国産材で開く」というブランド効果が大きいパーツです。

もう一つの要が、木造住宅の構造材を工場加工するプレカット工場(全国約700工場)です。ここが国産材を選ぶか輸入材を選ぶかで、自給率は大きく動きます。大手プレカットの国産材比率は2010年代の20〜30%から、2024年には40〜55%へ。住宅メーカーからの「国産材指定」、地域産材認証の普及、2025年4月施行の改正クリーンウッド法による合法性確認義務化が、この流れを後押ししています。

国産材利用4,200万m³への現実的な距離

2026年に見直された森林・林業基本計画は、2035年に国産材の利用量を4,200万m³(2024年の約3,500万m³から+700万m³)へ引き上げ、木材自給率を49%程度まで高める姿を描いています。目標年は旧計画の2030年から5年延ばされ、人口減・住宅市場の縮小を織り込んで総需要の見通しも8,500万m³へ下方修正されました。

製材分野で狙うべき順番ははっきりしています。まずは欧州ホワイトウッド集成材を国産集成材で置き換える(年100〜150万m³規模)。次に北米SPFを構造用合板と国産集成材の組み合わせで代替していく。為替が円安基調で続けば輸入材の円建て価格は高止まりし、国産材の競争力はさらに増します。とはいえ最後にものを言うのは、やはり「品質を保ったまま、安定して大量に届けられるか」。製材用材の自給率は、日本の林業がその力を本当につけられるかを映す鏡なのです。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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