「木材の自給率」と聞くと一つの数字を思い浮かべがちですが、じつは用途ごとにまったく顔が違います。製材用材(柱や梁など)の自給率は2024年で約55%。ところが合板用は90%、燃料材は85%、紙の原料になるパルプ用はわずか18%。同じ国産材なのに、なぜここまで開くのか——その理由をたどると、日本の林業の弱点と勝ち筋がくっきり見えてきます。
用途で違う自給率:何が高くて何が低い?
まずは並べてみましょう。下のグラフのとおり、合板と燃料材は高く、製材は真ん中、パルプは最も低い。この差は「国産丸太でも商売が成り立つか」で決まります。
合板や燃料材が高いのは、原料の丸太に求められる品質や規格がそれほど厳しくないから。国産の曲がった木や間伐材でも十分使えます。一方、製材用材が苦戦する理由は3つあります。ひとつは品質の壁。住宅の柱や梁は強度・含水率・寸法精度のすべてに厳しい規格があり、合板やチップとは要求水準が桁違いです。ふたつめはサプライチェーンの粘り強さ。輸入製材は1970年代から半世紀かけて、海外メーカー・商社・プレカット工場・住宅メーカーがガッチリつながった連鎖をつくってきました。これを国産材に置き換えるのは簡単ではありません。みっつめは仕入れ先を変えにくい習慣。工務店は決まった仕入れ先と長く付き合うため、少々の値動きでは取引先を変えないのです。
なお最も低いパルプ用18%は、紙パルプ業界が安価な輸入チップに深く依存している構造で、政策で短期間に動かすのはまず無理。逆にいえば、伸びしろがあって林業の儲けに直結するのは、この「真ん中」の製材用材なのです。
55%にたどり着くまでの長い道のり
製材用材の自給率は、もともと高い数字でした。戦後すぐの1955年は約95%。それが木材輸入の自由化を境にずるずると下がり、2002年には約35%の底をつけます。そこから20年かけて、ようやく55%まで戻してきた——というのが大きな流れです。
ただ、この回復は合板に比べるとずいぶん緩やかです。同じ20年で合板用材は15%から90%へと75ポイントも跳ね上がったのに、製材は20ポイントどまり。底を打った2002年以降の主な後押しは、2010年の公共建築物等木材利用促進法、CLTの本格生産開始(2015年ごろ)、そして2021年のウッドショックでした。輸入材の価格が急騰したウッドショックは、皮肉にも国産材を見直す大きなきっかけになったのです。
輸入1,100万m³と国産1,400万m³、その中身
製材用材2,500万m³のうち、国産が約1,400万m³、輸入が約1,100万m³。輸入の内訳は、欧州材と北米材がそれぞれ約3割を占めます。欧州材はオーストリアやドイツ、北欧産のホワイトウッド集成材。北米材は米松やSPF(ツーバイフォー材)。どちらも品質が安定し、流通の仕組みも完成しているのが強みです。
一方、国産1,400万m³の主役はスギ(約65%)とヒノキ(約20%)。供給地は九州中部(宮崎・大分・熊本)が最大で、宮崎県だけで素材生産量全国1位を誇ります。これに北海道のトドマツ・カラマツ、秋田・岩手など東北の杉、高知のヒノキが続きます。製材所は全国に約4,400社ありますが、年間1万m³以上を挽く中大型工場への集約が進み、品質と量の安定供給を支えています。
地政学リスクも構成を変えました。2022年以降のロシア材規制で、その穴をチリ産ラジアータパインや東欧産材が埋めています。こうした輸入材の再編局面は、国産材が需要を取り込むチャンスでもあります。ただし、品質と安定供給の壁を越えなければ一時的な置き換わりで終わってしまう、というのが現実です。
国産材の品質は、もう輸入材に負けていない
「国産材は強度が弱い」——これは1990年代の通念で、いまや事実とずれています。下の表を見てください。ヒノキは欧州ホワイトウッドより強く、カラマツに至っては大きく上回ります。JAS強度等級の認定、乾燥技術の向上、グレーディングマシン(強度を機械で測る装置)の普及により、国産材の実力はデータで裏づけられるようになりました。
| 樹種 | 気乾比重 | ヤング係数(標準域) | 主な構造材用途 |
|---|---|---|---|
| スギ | 約0.38 | E50-E70 | 柱・羽柄材・集成材ラミナ |
| ヒノキ | 約0.44 | E70-E90 | 通し柱・土台・高級造作 |
| カラマツ | 約0.50 | E90-E110 | 梁・桁・大断面集成材 |
| 参考:欧州ホワイトウッド | 約0.43 | E65-E75 | 集成材ラミナ |
つまり構造材市場では、国産材の品質は欧州集成材と肩を並べるところまで来ています。残る課題は、品質そのものより「安定して同じものを大量に届けられるか」のほうに移ってきました。
カギを握る集成材・CLTとプレカット工場
自給率を押し上げる最大のドライバーが、集成材とCLTの国産化です。集成材の生産量は2010年の100万m³から2024年には約200万m³へと倍増しました。原料となるラミナ(薄い板)も、かつては欧州ホワイトウッド頼みでしたが、いまは国産スギ・ヒノキの比率が40〜45%まで上昇。ウッドショック後の価格再編で、国産スギラミナが欧州材と同等かやや安い水準に収れんしてきたことが追い風です。CLT(中大規模木造の構造材)は生産能力5万m³とまだ小ぶりですが、ほぼ100%国産。量より「新しい木造建築を国産材で開く」というブランド効果が大きいパーツです。
もう一つの要が、木造住宅の構造材を工場加工するプレカット工場(全国約700工場)です。ここが国産材を選ぶか輸入材を選ぶかで、自給率は大きく動きます。大手プレカットの国産材比率は2010年代の20〜30%から、2024年には40〜55%へ。住宅メーカーからの「国産材指定」、地域産材認証の普及、2025年4月施行の改正クリーンウッド法による合法性確認義務化が、この流れを後押ししています。
2030年70%への現実的な距離
森林・林業基本計画は、2030年代に製材用材自給率70%を掲げています。いまの55%から15ポイント。これを国産製材の量に直すと、1,400万m³から1,750万m³へ、350万m³の増産が必要です。素材生産でいえば年70〜80万m³ペースの上積みを続ける計算で、決して楽ではありませんが、基本計画の素材生産目標の枠内では十分あり得る規模です。
狙うべき順番もはっきりしています。まずは欧州ホワイトウッド集成材を国産集成材で置き換える(年100〜150万m³規模)。次に北米SPFを構造用合板と国産集成材の組み合わせで代替していく。これを段階的に進めれば、70%は手の届く目標です。為替が円安基調で続けば輸入材の円建て価格は高止まりし、国産材の競争力はさらに増します。とはいえ最後にものを言うのは、やはり「品質を保ったまま、安定して大量に届けられるか」。製材用材の自給率は、日本の林業がその力を本当につけられるかを映す鏡なのです。

コメント