「山を持っている」と聞くと、なんとなく裕福なイメージがあるかもしれません。でも実際の数字を見ると、印象はかなり変わります。林業を営む「林家(りんか)」1戸あたりの林業所得は、2020年の農林業センサスで年30万円前後。農家の農業所得(約110万円)の3分の1以下です。一方で、林業会社に雇われて働く労働者の平均年収は約340万円。同じ「林業の稼ぎ」でも、自分の山を持つ林家と、雇われて働く人とでは、まるで構造が違うのです。この記事では、その二重構造を数字で解きほぐします。
25万戸の林家、本気は4,000戸だけ
林家とは「保有山林1ha以上の世帯」のこと。2020年で約25万戸あります。1980年の約100万戸から40年で4分の1に減りました。小規模な所有者が手放したり放棄したりしたのが主な理由です。そして、林業を主たる収入源とする「主業林家」は、そのうちわずか4,000戸(全体の1.6%)。残り99%は副業や兼業で、林業はあくまで家計の足し、という構図です。
主業林家4,000戸の所有面積は平均約100ha、林業所得は数百万円から1,000万円規模。いまの林業経営の中核プレイヤーです。準主業の13,000戸は20〜100ha規模で50〜200万円。残り93%の副業的林家は1〜20haの小規模で、所得は年数万円から30万円程度にとどまります。
なぜ平均30万円なのか
全体平均30万円の中身を見ると、立木・素材販売が約45%、造林・育林の補助金が約25%、しいたけや薪などの特用林産が約20%、残りが受託作業などです。
| 収入源 | 平均額 | 特徴 |
|---|---|---|
| 立木・素材販売 | 約13万円 | 単発・大規模 |
| 補助金(造林・育林) | 約7.5万円 | 継続的・面積比例 |
| 特用林産(しいたけ等) | 約6万円 | 継続的・労働集約 |
| その他収入 | 約3万円 | 受託作業等 |
| 合計 | 約30万円 | 年平均値 |
ここで大事なのは、この「平均30万円」が経営の実態をうまく映していないこと。林業は40〜60年という超長期のサイクルで動きます。木を伐る「主伐」の年には数百万円の収入がどんと入る一方、植えてから育てる30〜50年間は補助金収入くらいしかありません。年平均にならすと小さく見えるだけなのです。しかも立木価格3,500円/m³という水準では、伐採経費を引いた純収入がマイナスになることさえあり、補助金が再造林をかろうじて支えている——というのが今の構造です。
雇われて働く人の340万円
もう一方の「雇用される林業労働者」は、性格がまったく違います。平均年収は340万円。基本給は月20〜25万円、ボーナス2〜4か月分に出来高給や手当が加わります。経験による差が大きいのが特徴です。
新人(3年目まで)は250〜300万円、中堅(4〜10年)が350〜400万円、ベテラン(10年以上)になると450〜500万円。製造業・建設業の平均(450〜500万円)と比べると全体では低めですが、熟練オペレーターのベテラン層は他産業と同等水準に届きます。なお、新規就業者の多くは林野庁の「緑の雇用」制度を経て入ってきます。3年間の研修中に月20万円前後を受け取りながらチェーンソーや高性能林業機械の資格を取り、研修後の就業継続率は約70%。林業の若返りを支える人材供給チャネルになっています。
世帯で見れば450〜550万円、林業はその2割
では林家の暮らしはどう成り立っているのか。世帯の総所得は450〜550万円で、農家世帯(500〜600万円)よりやや低い水準です。ただし、このうち林業所得は10〜20%にすぎません。残りは給与所得や年金が大半。林家は昔から兼業が多く、世帯主が林業、妻が農業やパート、子世代が会社員——というふうに役割を分け、いくつもの収入を束ねて生活を安定させているのです。
| 所得源 | 金額 | 世帯所得シェア |
|---|---|---|
| 林業所得 | 30〜100万円 | 10〜20% |
| 農業所得 | 50〜100万円 | 10〜20% |
| 給与所得(兼業) | 200〜350万円 | 40〜60% |
| 年金・社会保障 | 50〜150万円 | 10〜25% |
| その他収入 | 20〜50万円 | 5〜10% |
| 合計 | 450〜550万円 | 100% |
立木価格の下落と補助金頼みの構造
林家の経営をいちばん左右するのが立木価格です。1990年に13,000円/m³だったものが、2010年代以降は3,000〜4,500円とおよそ3分の1〜4分の1に下落しました。
立木価格が3,500円/m³だと、伐採経費2,500〜3,000円を引いた手取りは1m³あたり500〜1,000円程度。これでは木を伐っても経済的にうまみがなく、まして伐った後にもう一度植える「再造林」は採算が合いません。だから補助金が必要になります。造林・育林・間伐・路網整備にかかる費用を、国・都道府県・所有者が分担し(森林整備事業なら国50%・県40%・所有者10%が標準)、林野庁の関連予算は年1,500〜2,000億円規模。この支えがあって、ようやく森林資源が世代を超えて維持されているわけです。とはいえ補助金頼みの高さは持続性の課題でもあり、立木価格の引き上げと施業の効率化で依存度を下げていくことが長期の方向性です。
所得を上げる4つの道
林業所得を底上げするには、おおむね四つの方向が議論されています。第一に集約化施業——バラバラの小規模所有を森林組合や事業体がまとめて引き受け、効率を上げる。第二に高性能林業機械の導入で素材生産の効率を高め、生産者への還元を増やす。第三にJAS認定や地域材ブランド、CLT・LVLといった高度利用で木材の付加価値を上げ、立木価格そのものを引き上げる。第四に労働者の処遇改善——最低保障給や社会保険の整備で、安定した人材確保につなげる。
実際に、九州・大分の500ha規模で世帯所得2,000万円超を実現する大規模主業林家、高知・四万十で地域材ブランドを武器に林業所得300〜500万円を得る準主業林家、地域おこし協力隊から入って集約化で50haを管理する移住者など、所得改善に成功した事例は各地にあります。共通するのは、規模の経済、施業の効率化、付加価値の獲得、地域連携の4つ。これらが噛み合えば、2030年代に主業林家の所得が1.5〜2倍に、労働者の平均年収が400万円超に届くことも期待されています。林業の稼ぎをどう立て直すかは、山の管理や地方の維持に直結する、長い取り組みです。

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