林業の経営収支|標準的な経営シミュレーション

林業の経営収支 | Forest Eight

林業の経営は「儲かるのか、儲からないのか」がよく分からない世界だと言われます。理由はシンプルで、木が売れるまで50年かかり、その間ずっと費用が出ていくからです。ここでは年商1億円規模の標準的な事業体をモデルに、お金の流れを具体的に追ってみます。結論を先に言えば、本業の営業利益率はおおむね2〜5%、補助金を含めてようやく事業として回る——それが日本の林業の偽らざる収支構造です。

事業体平均売上 1.0 億円/年 中小事業体の 標準的水準 (全森連推計) 営業利益率 2〜5 % 業界平均 中小事業体は 赤字も多い 主伐1ha純収入 30〜120 万円 地形・樹齢・ 市場価格に 大きく依存 補助金比率 50〜80 %(造林・間伐) 国・都道府県 市町村の補助 合算
図1:林業事業体の標準的な経営諸元(出典:林野庁、全国森林組合連合会)
目次

1億円の売上から、利益はいくら残るのか

年商1億円、職員10名、素材生産2,500m³/年——これくらいが日本の中小林業事業体の標準像です。この規模の損益計算書を実態調査ベースで組み立てると、お金の出入りがはっきり見えてきます。

項目 金額(万円) 売上比
売上高(素材生産・販売) 10,000 100%
素材生産コスト(伐倒・造材・搬出) 5,500 55%
運送費 800 8%
市場手数料・販売経費 500 5%
減価償却(機械・車両) 700 7%
役員報酬・本社経費 1,200 12%
その他固定費 500 5%
営業利益 800 8%
+補助金収入(造林・間伐) 1,500
経常利益 2,100 21%

モデルでは営業利益率を8%に置きましたが、これはあくまで条件が整った場合の数字です。木材市況が下がれば利益はあっという間に2〜3%まで縮み、悪条件が重なれば赤字に沈みます。逆に、ここに造林・間伐の補助金1,500万円が乗ると経常利益率は20%近くまで跳ね上がる。つまり日本の林業事業体にとって、補助金は「あれば助かるもの」ではなく、経営そのものを支える生命線なのです。

コストの主役は素材生産費

費用の半分以上を占めるのが、木を伐って運び出すまでの素材生産費です。原木1m³あたりに分解すると、伐倒で1,500〜2,500円、造材で1,000〜1,800円、土場までの集材で2,000〜4,000円、市場までの運搬で1,500〜3,000円。合計すると6,000〜11,300円ほどかかります。

一方、原木の販売単価は2024年時点でスギが12,000〜15,000円、ヒノキが20,000〜30,000円。ここから生産費を引くと、山主に支払う立木代として残るのは1m³あたり1,500〜3,000円というのが標準的な姿です。木材価格のうち、実際に山の持ち主の手元へ届くのはごく一部にすぎません。

主伐1ha——伐っても手元に残らない現実

林業経営で最も大きな決断が「主伐」、つまり育てきった木をまとめて伐って売ることです。植栽から50年経ったスギ・ヒノキ林を1ha主伐したときの収支を追ってみましょう。

項目 金額(万円/ha) 備考
市場販売の粗収入 180〜350 蓄積300〜500m³想定
素材生産費 120〜200 伐倒・造材・搬出・運搬
市場手数料・諸経費 15〜25 粗収入の5〜8%
立木代(純収入) 30〜120 条件で大きく変動
再造林費(補助金後の自己負担) 30〜60 植栽・下刈・除伐
所有者の正味手残り 0〜60 再造林まで終えた実質利益

この表が突きつけるのは、せっかく得た立木代の多くが次の世代の木を植える再造林費に消えていくという厳しさです。山主の正味の手残りは、好条件でも40〜60万円、平均的には10〜30万円、条件が悪ければ赤字になります。「伐ったあとに植え直さない」山林が増え、主伐後の再造林率が30〜40%に留まっている背景には、この採算の苦しさがあります。

補助金という生命線、その光と影

日本の林業政策は長く強力な補助金で支えられてきました。再造林(植栽は国50%+都道府県20%で標準100万円/ha)、間伐(30〜70万円/ha)、林道・作業道の開設、高性能林業機械の購入(国費1/2以内)、そして近年は市町村に配分される森林環境譲与税。これらが造林・間伐費用の50〜80%をカバーし、木材価格に左右されない最低限の収入を事業体にもたらしています。

ただ、依存が深いことは裏返せば脆さでもあります。補助金が削られる局面では一気に経営が傾き、市場の価格メカニズムが歪み、本来なら淘汰されるはずの非効率な事業が温存される。業界では「補助金からの段階的な卒業」と「市場で稼げる収益力」の両立が、長年の宿題として語られ続けています。

規模で変わる経営の体力

同じ林業でも、規模によって経営の安定度はかなり違います。年商10億円超の大規模事業体は機械化と効率化で利益率3〜7%を確保しやすい一方、伐採する森林(事業地)の確保が頭打ちの要因になります。中規模は地域の森林組合や山主との関係づくりで事業を回し、小規模・零細になるほど経営基盤は脆く、廃業や統合が進んでいるのが現状です。自営林家の多くは、もはや林業単独では生計が難しく、農業や他産業との兼業で成り立っています。

機械化は救いか、固定費の罠か

働き手の減少と高齢化に対して、各事業体が頼るのが高性能林業機械です。伐倒と造材を一体でこなすハーベスタは2,500〜4,000万円で生産性が3〜5倍、林内の搬出を担うフォワーダは1,800〜3,500万円で2〜4倍。標準的な事業体はこうした機械を3〜5台、合計1〜2億円規模で抱えています。

ただし機械は買って終わりではありません。減価償却・燃料・整備・人件費を合わせた年間運用コストは機械価格の25〜35%にのぼり、年200日以上しっかり稼働させないと採算が合いません。事業地・労働力・需要が安定して確保できなければ、機械化はかえって固定費の重荷になる——ここが規模拡大の落とし穴です。

木材一本足から、収益の多元化へ

2030年に向けて、林業の収益構造は静かに変わり始めています。木材販売だけに頼ってきた山主の収入源に、新たな柱が加わりつつあるのです。代表格がJ-クレジットで、森林が吸収するCO₂をCO₂ 1tあたり1,500〜3,000円で売買できます。1ha・50年累計のCO₂吸収量200〜400tから、30〜120万円——木材販売と肩を並べる規模の収入が見込めます。

さらに森林ESG投資やグリーンボンド、生態系サービスの貨幣化といった動きも広がっています。林野庁は2030年に国産材自給率を50%(2024年実績42.4%)へ、林業生産額を年5,000億円規模へ高める目標を掲げており、これらが噛み合えば事業体の営業利益率は5〜8%まで改善する余地があります。補助金に頼る産業から、市場で成り立つ産業へ。日本の林業は今、その分かれ目に立っています。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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