林業の経営収支|標準的な経営シミュレーション

林業の経営収支 | 樹を木に - Forest Eight

林業経営の収支は、スギ人工林1ha・50年伐期で粗収益約170〜220万円、コスト合計約180〜240万円の水準で推移しており、補助金抜きでは多くの場合赤字、補助金込みで概ね均衡〜小幅黒字となるのが標準的な姿です。林野庁「林業経営統計調査」によれば、林業所得(家族経営10ha以上)の平均は年90〜130万円、収支構造は「保有山林からの収入」と「請負・労務収入」で大きく異なります。本稿ではスギ人工林1ha主伐モデルの粗利・林業所得・補助金依存度を、林野庁・農林水産省「林業経営統計」・日本不動産研究所「山林素地及び山元立木価格調」をもとに数値ベースで構造化します。

この記事の要点

  • スギ人工林1ha・50年伐期粗収益170〜220万円、再造林込みコスト180〜240万円で補助金前は赤字水準。
  • 造林補助金(68%補助、改正後)込みで実質コスト50〜80万円に圧縮、ようやく粗利30〜100万円が出る構造。
  • 林業所得平均90〜130万円(家族経営10ha以上)、収支は保有山林型・請負労務型・複合型で構造が異なる。
目次

クイックサマリー:林業経営の主要数値

指標 数値 出典・備考
スギ人工林1ha・50年伐期粗収益 170〜220万円 蓄積450m³/ha・原木4,000円/m³
再造林込み総コスト 180〜240万円 伐採搬出+再造林
造林補助率 最大68% 2023年標準単価改定後
補助金込み実質コスト 50〜80万円/ha 再造林分概算
林業所得平均(家族経営10ha以上) 90〜130万円/年 林業経営統計
林業会社平均年収(労務収入) 3〜8億円 中堅事業体ベース
スギ立木価格(2023) 3,400円/m³ 日本不動産研究所
スギ立木価格(1980) 14,800円/m³ 同上、1980年比1/4
B/C比(補助込み・主伐) 1.1〜1.4 経営条件良好域
B/C比(補助なし・主伐) 0.7〜0.9 補助金抜きでは赤字

スギ人工林1ha・50年伐期の標準モデル

標準的なスギ人工林1ha(条件:傾斜30°程度、林道近接、蓄積450m³/ha)を50年で主伐した場合の収支を試算します。粗収益は450m³×原木価格(直近)約4,500円/m³=約200万円。ここから伐採搬出経費(70万円)、運搬・市場手数料(35万円)、再造林経費(120万円・補助前)、下刈り等保育費(累計40万円)を差し引くと、補助金前の粗利は約▲65万円となります。

スギ人工林1ha主伐の収支構造 粗収益200万円とコスト265万円の項目別積み上げを横棒で示す スギ人工林1ha・50年伐期主伐の収支構造(補助前) 粗収益(200万円) 原木販売 200万円(450m³×4,500円) コスト合計(265万円) 伐採搬出 70万円 運搬35 再造林 120万円 下刈り40 差引収支 ▲65万円(赤字) 補助金(造林補助68%+林業基幹道整備補助) 補助金交付 110万円 補助金込み収支 +45万円 補助金込みでようやく粗利が出る構造。経営条件・搬出効率により大きな変動。
図1:スギ人工林1ha・50年伐期主伐の収支構造(条件:傾斜30°・林道近接、蓄積450m³/ha)

この収支構造で重要なのは、再造林コスト120万円が主伐収入とほぼ同水準であり、補助金なしでは「主伐すれば再造林できない」という構造的なジレンマがある点です。森林・林業基本計画はこの構造を「主伐後再造林の確実性向上」の課題として明記し、造林補助68%(再造林の場合の標準補助率、2023年改定後)と森林環境譲与税の活用で実質負担を軽減する設計となっています。

立木価格の長期推移:1980年比1/4

スギ立木価格は1980年に14,800円/m³のピークから2023年の3,400円/m³まで、43年間で約1/4水準に下落しました。同期間でヒノキは76,000円/m³から12,000円/m³へ約1/6、カラマツは8,500円/m³から2,500円/m³へ約3/10と、いずれも大幅下落しています。この立木価格下落が、林業経営の悪化と森林組合合併の主因となっています。

立木価格の長期推移 スギ・ヒノキ・カラマツの立木価格推移を1970-2023年で示す 立木価格の長期推移(円/m³) 80,000 60,000 40,000 20,000 0 ピーク1980年 ヒノキ スギ カラマツ 1970 1980 1995 2005 2015 2023 スギは1980→2023年で1/4、ヒノキは1/6水準。再造林コストはむしろ上昇傾向。
図2:立木価格の長期推移(出典:日本不動産研究所「山林素地及び山元立木価格調」)

立木価格下落の主因は、(1)住宅着工戸数の減少(1990年170万戸→2023年82万戸)、(2)外材輸入による国内材価格圧縮、(3)住宅構造の変化(在来工法→ツーバイフォー・鉄骨造)、(4)製材・流通の集約化に伴う買い手の価格交渉力強化、の4要因です。同期間で再造林コストは1ha100万円水準で大きく変わらず、立木価格下落分が経営にダイレクトに圧迫として効く構造になっています。

林業所得の実態:年90〜130万円

林業経営統計調査(林野庁、家族経営10ha以上)によれば、林業所得の平均は年90〜130万円で推移しています。これは家計を支えるには明らかに不足する水準で、多くの林家は林業以外の所得(兼業、年金、農業、不動産賃貸等)と組み合わせて生計を立てています。林業所得が500万円超の専業林家は全体の3〜5%に留まる、極めて限定的な存在です。

所有林規模 林業所得平均 構成比 経営類型
5ha未満 ▲10〜30万円 約75% 不在山林所有・実質非経営
5〜20ha 30〜80万円 約18% 兼業林家中心
20〜100ha 120〜250万円 約6% 兼業+一部専業
100〜500ha 300〜600万円 約1% 専業林家・自伐林業
500ha以上 700〜2,000万円 約0.3% 大規模林業経営体

所有林5ha未満が全林家の約75%を占める一方、その林業所得は実質マイナス(管理コストが収入を上回る)の構造で、これが「不在山林化」「経営放棄」を生む根本原因です。一方で、500ha以上を所有する大規模林家は全体の0.3%に過ぎませんが、林業所得は700〜2,000万円と中堅企業並みで、ここに林業の二極化が表れています。

3類型の経営収支:保有山林型・請負労務型・複合型

林業経営は所得源により(1)保有山林型(自社所有林の伐採販売)、(2)請負労務型(他者所有林の作業受託)、(3)複合型(両方)の3類型に分類できます。それぞれで収支構造が大きく異なります。

林業経営3類型の収支構造 保有山林型・請負労務型・複合型の売上構成・粗利率・経営特性を縦並びで示す 林業経営3類型の収支構造比較 保有山林型 自社林の伐採販売 主収入: 立木販売・原木販売 粗利率:30〜50% 補助金依存:低〜中 資産:森林・土地 代表例:大規模林家 所有林:100ha以上 課題: 立木価格下落直撃 資産は固定的 請負労務型 他者林の作業受託 主収入: 造林・間伐請負費 粗利率:5〜15% 補助金依存:高 資産:機械・労働力 代表例:素材生産業者  森林組合作業班 課題: 機械投資負担大 補助単価変動リスク 複合型 山林+請負+川下 主収入: 山林+請負+木材加工 粗利率:15〜30% 補助金依存:中 資産:複合多角 代表例:森林組合  大手林業会社 課題: 経営多角化の負担 人材確保
図3:林業経営3類型の収支構造比較(出典:林野庁・農林水産省「林業経営統計」をもとに整理)

請負労務型は粗利率5〜15%と低水準で、機械投資の減価償却・労務費・補助金事業の出来高変動が経営を不安定化させます。一方で固定資産(森林)を抱えないため、機動性は高く、新規参入も比較的容易です。複合型は山林経営・請負作業・木材加工(製材所運営等)を組み合わせ、リスク分散と粗利率向上を実現する経営類型です。森林組合・大手林業会社の多くが複合型を採用しています。

主伐再造林一貫経営のシミュレーション

主伐再造林一貫経営(主伐後ただちに再造林する標準モデル)の50年シミュレーションを示します。条件:スギ人工林50ha、平均蓄積450m³/ha、林道密度20m/ha、機械化率70%、補助金活用前提。

期間 主要作業 支出 収入 補助金
1〜3年 主伐50ha・再造林 ▲13,250万円 10,000万円 +4,080万円
4〜10年 下刈り・除伐 ▲2,000万円 0 +1,000万円
11〜20年 枝打ち・除伐 ▲500万円 0 +250万円
21〜35年 間伐3回・搬出 ▲4,500万円 +3,000万円 +1,500万円
36〜50年 間伐2回・主伐準備 ▲3,000万円 +5,000万円 +800万円
50年累計 主伐再造林一貫 ▲23,250万円 18,000万円 +7,630万円

50年累計で支出23,250万円・収入18,000万円・補助金7,630万円、差引2,380万円の黒字(50ha=1ha平均48万円)が見込めます。ただしこれは(1)50年間の補助金制度継続、(2)原木価格の維持、(3)労働力確保、(4)気象災害なし、の4条件すべて成立した場合のベースケースで、現実の経営はもっと変動が大きくなります。

B/C比による経営判定

林業経営の判定指標として、B/C比(Benefit/Cost ratio、便益÷費用比)が用いられます。50年伐期スギ人工林の標準モデルでのB/C比は、補助金込み主伐で1.1〜1.4、補助金なしでは0.7〜0.9と算出され、「補助金なしでは赤字、補助金込みでようやく黒字」の境界に集中しています。経営条件(傾斜・林道密度・機械化率・蓄積)により大きく変動し、好条件域(傾斜25°以下、蓄積500m³/ha以上、林道近接)ではB/C比1.5超、悪条件域(傾斜35°以上、蓄積300m³/ha以下、奥地)では補助金込みでも0.9〜1.1程度に留まります。

B/C比による経営条件評価 経営条件(傾斜・林道距離・蓄積)別のB/C比をマトリックスで示す 経営条件別B/C比(補助金込み・主伐) 蓄積300m³/ha 蓄積400m³/ha 蓄積500m³/ha 蓄積600m³/ha 傾斜≤20° 1.2 1.4 1.6 1.8 傾斜21〜30° 1.0 1.2 1.4 1.5 傾斜31〜35° 0.9 1.1 1.2 1.4 傾斜36°以上 0.7 0.9 1.1 1.2 緑:B/C>1.2(経営良好)、淡緑:1.0〜1.2(境界)、赤:1.0未満(赤字)
図4:経営条件別B/C比マトリックス(条件:林道近接・補助金込み・スギ50年伐期)

このマトリックスから、林業経営が成立する条件は「傾斜30°以下、蓄積400m³/ha以上、林道近接、補助金活用」の4条件すべてが揃う場合に集中することが分かります。日本の人工林の約3割がこの好条件域に該当し、残り7割は条件が劣る域です。林業の経営合理性を高めるには、補助金制度の継続に加え、(1)路網密度の向上、(2)機械化による搬出効率向上、(3)原木価格の安定化、の3軸での改善が必要です。

収支改善の主軸:機械化・大規模化・木材加工統合

林業経営の収支改善は、(1)機械化による搬出効率向上(高性能林業機械でm³あたり伐採搬出コストが30〜40%減)、(2)大規模化による規模の経済(年間素材生産1万m³超で機械稼働率上昇)、(3)木材加工統合による垂直統合利益の獲得、の3軸で進行しています。これらは個別林家には実装困難で、森林組合・大手林業会社・素材生産業者の事業体が中核を担います。

木材加工統合は特に有効で、製材所・合板工場・チップ工場を併設すると、原木価格に依存しない加工マージンを獲得でき、立木価格下落の影響を緩和できます。住友林業・王子木材・中国木材等の大手林業会社が垂直統合経営を採用しているのはこのためで、近年は森林組合でも製材工場併設のケースが増加しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. スギ人工林1haの主伐収益はどのくらい?

標準条件(蓄積450m³/ha、原木4,500円/m³)で粗収益200万円程度です。これに対し伐採搬出70万円、運搬・市場手数料35万円、再造林120万円、下刈り保育40万円のコストを差し引くと、補助金前は▲65万円の赤字。造林補助金68%(再造林部分)込みでようやく+45万円程度の黒字となります。

Q2. 林業の平均所得はどのくらいですか?

家族経営10ha以上の林家平均で年90〜130万円です。所有林5ha未満(全林家の75%)では実質マイナス、500ha以上の大規模林家(0.3%)でようやく700〜2,000万円。大半の林家は林業所得だけでは生計を維持できず、兼業・年金・農業等と組み合わせています。

Q3. 立木価格はなぜ下がったのですか?

1980年比でスギは1/4、ヒノキは1/6水準まで下落しました。主因は(1)住宅着工の減少(170万戸→82万戸)、(2)外材輸入による国内材価格圧縮、(3)住宅構造の変化、(4)製材・流通の集約化に伴う買い手交渉力強化、の4要因の複合効果です。

Q4. 林業経営のB/C比はどのくらい?

補助金込み主伐で1.1〜1.4、補助金なしでは0.7〜0.9と算出されます。経営条件(傾斜・林道距離・蓄積)により大きく変動し、好条件域(傾斜30°以下・蓄積500m³/ha以上)ではB/C比1.5超、悪条件域では補助金込みでも0.9〜1.1程度に留まります。

Q5. 林業経営の収支改善はどのように進めるべき?

(1)機械化による搬出効率向上(m³コスト30〜40%減)、(2)大規模化による規模の経済(年間素材生産1万m³超)、(3)木材加工統合による垂直統合利益、の3軸が中核です。個別林家には実装困難で、森林組合・大手林業会社・素材生産業者などの事業体が中心となって進めるアプローチです。

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まとめ

林業経営の収支は、スギ人工林1ha・50年伐期で粗収益170〜220万円、コスト180〜240万円という補助金前赤字水準が標準で、造林補助金68%込みでようやく+30〜100万円の粗利が出る構造です。立木価格の長期下落(1980年比1/4)と再造林コストの維持・上昇により、林業所得平均は家族経営で年90〜130万円に留まります。経営類型は保有山林型・請負労務型・複合型の3種で、収支改善の主軸は機械化・大規模化・木材加工統合の3軸です。B/C比1.0超を実現するには、傾斜30°以下・蓄積400m³/ha以上・林道近接・補助金活用の4条件が必要で、これは日本の人工林の約3割に該当します。

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