【モミ】Abies firma|極相林の重鎮、無臭で白い木肌の針葉樹

モミ(Abies firma)

クリスマスツリーといえば、欧米ではモミの木。日本のモミ(Abies firma)はその仲間で、本州から九州まで広く分布する針葉樹です。スギやヒノキのように香りで知られるわけではなく、むしろ「無臭であること」「真っ白であること」を最大の武器に、蒲鉾の板や卒塔婆といった他の木では代えのきかないニッチな場所で活躍してきました。地味だけれど、なくては困る——そんな縁の下の力持ちのような木です。

気乾比重0.44(0.35〜0.52)中庸曲げ強度55-75MPaスギに近い軽軟材材色白色純白〜淡黄白代表用途無臭材食品容器・葬祭具
モミの主要スペック(含水率15%基準・代表値)
目次

暗い森でじっと待つ「極相の木」

モミはマツ科モミ属の常緑針葉樹。日本のモミ属にはほかにウラジロモミ、シラビソ、トドマツなどがありますが、モミは最も暖かい土地(標高0〜1,000m)に育つ種です。深く肥沃で湿った谷筋や斜面の下を好み、樹高は30〜40mに達し、大きいものは幹の直径が2mにもなります。

面白いのはその生き方です。モミは耐陰性がとても高く、林の中の暗がり(相対照度5%以下)でも稚樹がじっと生き延びます。そして頭上の大木が倒れて光が差し込んだ瞬間、一気に上へ伸びる——森の遷移の最後に主役になる「極相種」なのです。この性質があるため、苗を植えなくても親木の下に自然と次の世代が育つ「天然更新」が可能で、低コストな森づくりと相性が良い樹種です。ただし根が深く張るぶん、苗木の移植は難しく、人工植栽はスギ・ヒノキより手こずります。

見分け方——葉先の「矢はず」

モミを見分ける最大のポイントは葉先です。若い枝の葉は先端が鋭くV字に二裂し、まるで矢のはずのよう。触るとチクッとします(老木では丸くなります)。葉の裏には2本の白い気孔帯がくっきり。球果(まつぼっくり)は長さ9〜13cmと大きめで、枝の上に直立し、熟すとバラバラに崩れて軸だけが残ります。端正な円錐形の樹形も特徴で、深く湿った谷筋に多く、乾いた尾根にはあまり出てきません。

寺院の境内にまっすぐ伸びるモミの大木
岐阜県揖斐郡大野町・光澤寺の境内に立つモミ。町の天然記念物に指定されている。端正な円錐形の樹形が特徴。写真: Kōunzan Kōtaku-ji Temple 20220321 08 by 先従隗始(CC0), via Wikimedia Commons(リサイズのみ・内容の改変なし)

スギより硬く、まっ白で無臭

モミ材は「軽軟」の部類ながら、気乾比重も曲げ性能もスギをやや上回ります。心材と辺材の色の差がほとんどなく、全体が淡い白色〜黄白色で、清潔感のある美しさが身上です。下のチャートでスギ・ヒノキとの位置づけがわかります。

モミと主要針葉樹の特性プロファイル気乾比重曲げ強度圧縮強度せん断強度耐朽性ヤング率モミスギヒノキスギを基準とした相対値(外側ほど高性能)
モミとスギ・ヒノキの力学特性比較

そしてモミ最大の個性が「無臭」であること。多くの針葉樹に含まれる香り成分(テルペン類)が際立って少なく、揮発性有機化合物の放散量もスギ・ヒノキよりはっきり低いとされます。だから食べ物に香りが移らず、近年は化学物質過敏症に配慮した医療・福祉施設の内装材としても見直されています。ただし弱点もあり、耐朽性が低いので屋外や水回りに使うなら防腐処理が前提。乾燥時に内部割れしやすく、白さを保つには伐採後すぐの製材と丁寧な乾燥が欠かせません。

蒲鉾板に卒塔婆——独占できるニッチ市場

モミの稼ぎ方は、スギやカラマツのような量産型とはまるで違います。鍵は「特級材の歩留まり」。無節でまっすぐな大径材は、高級スギ材を上回りヒノキに匹敵する値がつくこともあります。

具体的な用途を見ると、モミの強みがよくわかります。蒲鉾の板や素麺・和菓子の箱は、香りが移らない無臭材でないと務まらず、スギやヒノキでは物理的に代替できません。卒塔婆や棺、神事の祭具、漆器の木地も、白さと無臭、加工のしやすさが活きる伝統的な用途。とくに卒塔婆は規格寸法が決まっているので、ミリ単位で玉切りできるICTハーベスタとの相性が抜群です。流通量は多くないものの、需要が安定し価格が下がりにくいのが、ニッチ市場ならではの強みです。

100年かけて育てる、これからの森

モミの伐期は80〜100年とスギの約2倍。長く育てるぶん割引現在価値は目減りしますが、苗を植えずに天然更新できるのでコストを抑えられます。問題は更新が5〜7年に一度の豊作年(マスティング)に左右されること。最近はドローンで開花・結実を観察し、豊作の年に合わせて地面を掻き起こす——という「先回り」の技術研究が進んでいます。航空レーザ(LiDAR)と機械学習を組み合わせ、混交林に点在するモミを自動判別しながら1本ずつの成長を予測する技術の研究開発も進められています。

政策の追い風もあります。令和3年の森林・林業基本計画は、スギ・ヒノキ偏重から多樹種混交林への転換を掲げ、天然更新できる極相種としてモミを再評価。令和6年度に629億円規模となった森林環境譲与税は、天然林の保全にも使え、モミの天然更新補助に充てる自治体も出てきました。長寿命で大径化するモミはCO₂を長く蓄えるため、J-クレジット(森のCO₂吸収の売買)と組み合わせれば、木材収入と環境収入の両輪で100年計画を成り立たせられます。地味ながら奥の深い木、それがモミなのです。

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参考文献・出典

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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