Brock Commons Tallwood House:UBC学生寮53m18階の北米Mass Timber先駆

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カナダ・バンクーバーのUBC(ブリティッシュコロンビア大学)構内に、ちょっと変わった学生寮があります。高さ53m・18階・404室のBrock Commons Tallwood House(ブロック・コモンズ・トールウッド・ハウス)。2017年7月の完成当時、世界でいちばん高い木造ハイブリッド建築でした。いまでこそMjøstårnetやAscent MKEに高さの記録は譲りましたが、この建物が果たした役割は「記録」では測れません。北米とカナダの建築基準を書き換える引き金になった、最初の一棟だからです。

所在地 カナダBC州バンクーバー、UBC構内
用途・規模 学生寮 404室/高さ53m・18階
構造 RCコア2基+集成材柱+5層CLT床のハイブリッド
木材使用量 約2,700m³(CLT 2,233+集成材464ほか)
設計・構造 Acton Ostry Architects/Fast + Epp
完成 2017年7月(着工2015年11月)
目次

なぜ「学生寮」だったのか

世界初の挑戦をする建物に学生寮が選ばれたのには、ちゃんと理由があります。UBCが進めていた木造高層の研究プログラム「Tallwood Initiative」の中核として、大学自身が事業主になれば実証リスクを引き受けやすい。しかも学生寮は同じような部屋がひたすら繰り返される構成なので、工場でつくって現場で組み立てるプレファブ方式と相性が抜群です。完成後も入居者にアンケートやモニタリングへ協力してもらいやすい——研究材料としてこれ以上ない題材でした。背景にはBC州森林省やカナダ林産業の「木材を高付加価値化したい」という政策的な後押しもありました。

木で18階を建てる構造の工夫

構造は北米の高層木造でいまや定番となった「木の重力系+RCの水平抵抗系」という割り切った組み合わせです。建物の重さは集成材の柱とCLTの床が受け持ち、地震や風で横に揺らそうとする力はエレベーターや階段を内蔵した2基の鉄筋コンクリート(RC)コアが引き受ける。木造部分を「上からの荷重を支えるだけ」に役割限定することで、設計も行政の承認もぐっとシンプルになります。

床は5層・169mm厚のCLTパネルを、梁を介さず柱の頭で直接受ける「フラットスラブ」方式。梁がないぶん配管が通しやすく、階の高さも抑えられます。柱は工場で4階分をまとめてプレファブし、ダグラスファー=ラーチの集成材を使用。CLTと集成材を合わせて約2,700m³もの木材が使われ、これは約679トンのCO2を建物の中に固定した計算になります。

Brock Commons Tallwood 構造概念図 RCコア+集成材柱+CLT床のハイブリッド18階建て。 Brock Commons Tallwood 構造概念図 RCコア 構造 2-18階:木造  集成材柱+CLT床 中央:RCコア×2 1階:RC基礎 用途 404戸学生寮 UBC構内 仕様 高さ53m 18階 木材2,700m³ 完成 2017年7月 66日で 構造体完了 完成時 世界最高木造高層・北米Mass Timber先駆 出典: UBC, Acton Ostry Architects, Structurlam
図1:Brock Commons Tallwood 構造概念図(出典:UBC、Acton Ostry Architects等)。

66日で18階——施工スピードの衝撃

この建物がいちばん世界を驚かせたのは、じつは「速さ」でした。2階より上の木造構造体は、実働わずか約9.5週間(66日)で建ち上がっています。ペースにすると週に2階以上。CLT床と集成材柱はすべて工場で完全にプレファブし、一枚一枚・一本一本に個別のIDを振って、必要なぶんだけを必要なタイミングで現場へ搬入するJIT方式を徹底しました。CLT床は1,300枚以上、集成材柱は600本以上。設計段階でBIMモデルに全部材を入れ込み、CNC加工機へデータを直接送ったので、現場での切断や穴あけはほぼゼロ。タワークレーン1台で淡々と積み上げていく作業でした。

朝に柱を建て、昼にCLT床を敷き、夕方に外壁パネルを取り付ける——この1日サイクルを繰り返す。作業に慣れてくる終盤の数階は、当初想定より2〜3割速く建ったといいます。同規模のRC高層と比べて約4ヶ月の工期短縮にあたり、その金利・機会損失の差が、木造ゆえのコスト増を一部相殺しました。

火を「石膏で包む」という答え

木造高層でいちばん神経を使うのが火災安全です。Brock Commonsが選んだのは「encapsulated mass timber(被覆型)」という考え方。すべての木質構造材を厚さ計38mm以上のType X石膏ボード3層で完全にくるみ、木材表面が炎にさらされるのを約2時間遅らせる方式です。これに全フロアのスプリンクラー、住戸ごとの防火区画、独立2系統の避難階段を重ねた多重防御で、2時間の耐火性能を実証しました。

この「木を石膏で包んで隠す」アプローチは、木目を見せられないというデメリットと引き換えに、既存の防火基準や保険規定への適合が容易という大きな利点があります。そしてこの設計思想こそが、後述するアメリカの建築基準IBC 2021で新設された「Type IV-A(最大18階・全被覆)」という分類の原型になりました。ちなみに日本の木造高層は、わざと表面を炭化させて構造を残す「燃えしろ設計」が主流で、こちらは意匠的に木目を見せやすい。同じ木造高層でも、国によって火への向き合い方がまるで違うのが面白いところです。

「最初のドミノ」としての功績

完成当時のBC州建築基準は木造6階が上限でした。UBCはそれを超えるために「Site-Specific Regulation(個別案件規制)」を申請し、火災・構造・施工品質・運用維持の4領域で専門委員会の審査を約2年かけてクリア。このとき集められた耐火試験・施工・振動・居住者アンケートのデータが、その後の規制改正を直接動かしました。カナダのNBC 2020は12階建て木造を標準化し、アメリカのIBC 2021はMass Timberの3類型(IV-A/B/C)を新設。いずれもBrock Commonsの実証データが根拠の一つです。

後続への影響も濃厚で、米ミルウォーキーのAscent MKE(86.6m・25階)はRCコア+集成材+CLTという基本構成をそのまま受け継いだ「直系の発展形」。住友林業のW350構想も2018年の発表時にBrock Commonsを「現時点の最先端」と参照し、「これを大きく超える」と宣言しました。国内では大林組Port Plus(横浜・44m・11階)が最も近い規模です。高さの記録こそ更新されていきましたが、大規模木造ハイブリッドを本気でスケールアップした最初の一棟——その歴史的な座は揺るぎません。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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