【ユズリハ/譲葉】Daphniphyllum macropodum|代を譲る縁起木、正月飾りの戦略樹種

ユズリハ | 樹木図鑑 - Forest Eight

この記事の結論(先出し)

気乾比重0.65(0.60〜0.75)中重量・緻密樹高8〜15m最大20m級常緑広葉樹葉長10〜20cm革質・赤い葉柄常緑主用途正月飾り縁起木・庭木12月集中需要
図1:ユズリハの主要スペック(含水率15%基準・代表値)
  • ユズリハ(Daphniphyllum macropodum)はユズリハ科の常緑広葉樹で、新葉の展開後に旧葉が落ちる「世代交代の象徴」として正月飾りに用いられる縁起木です。樹高8〜15m、最大20m級にも達します。
  • 気乾比重0.60〜0.75の中重量材ですが、用材としての規模流通は限定的で、正月用枝葉と庭木需要が経済価値の中核です。葉・果実にダフニフィリン等のアルカロイドを含み、誤食で中毒を起こします。
  • 子孫繁栄・家系不滅」の縁起から正月のしめ飾り・鏡餅飾りに必須の文化財級樹種で、年末年始の需要集中型市場を持ちます。シマユズリハ・エゾユズリハ等の近縁分類群が存在します。

新葉が展開して若葉が育ったあと、古い葉が「子に座を譲る」ように落葉する独特の生育パターン──ユズリハ(譲葉、Daphniphyllum macropodum Miq.)は、その姿から「世代交代=家系不滅」の縁起を担ぎ、正月のしめ飾り・鏡餅飾りに必須の文化的樹種として日本人に親しまれてきました。万葉集にも「ゆづる葉の御井の上より鳴き渡り行くは」と詠まれ、奈良時代以前から日本文化に深く根づく樹種です。本稿では、植物学的位置づけ、気乾比重0.65前後の用材特性、ダフニフィリン系アルカロイドの薬理と毒性、シマユズリハ・エゾユズリハ・ヒメユズリハとの近縁種比較、正月需要の市場規模、社寺境内林の文化的価値まで、林政・薬学・民俗学の視点から横断的に整理します。

目次

クイックサマリ:ユズリハの基本スペック

和名 ユズリハ(譲葉、別名:ユズルハ、ユズリギ、オヤコグサ)
学名 Daphniphyllum macropodum Miq.
分類 ユズリハ科(Daphniphyllaceae)ユズリハ属(Daphniphyllum
英名 Yuzuriha, Japanese False Daphne, Macropodous Daphniphyllum
主分布 本州(福島県以南)〜九州・沖縄、台湾、中国南部、朝鮮半島南部
樹高 / 胸高直径 8〜15m(最大20m)/ 30〜60cm
気乾比重 0.60〜0.75(中重量、平均0.65)
葉長 / 葉柄長 10〜20cm / 3〜8cm(赤紫色が特徴)
耐朽性 中程度(屋内利用が中心)
主要用途 正月飾り、生垣、記念樹、薪炭材、寄木細工材
正月需要市場 枝物として12月集中型(年間需要の約8割が12月)
有毒成分 ダフニフィリン、ユズリミン等のアルカロイド(葉・果実・樹皮)
開花期 / 結実期 5〜6月(雌雄異株、無花弁)/ 10〜11月(黒紫色核果)

分類学的位置づけ:APG体系における独立科

ユズリハ科(Daphniphyllaceae)はかつてトウダイグサ科(Euphorbiaceae)に分類されていましたが、葉緑体DNAおよびrbcL遺伝子の分子系統解析の結果、APG分類体系で独立科として再編されました。1科1属(Daphniphyllum)で世界に約30種が分布し、東アジアから東南アジアの照葉樹林帯を中心に進化を遂げた古い系統に属します。日本国内には次の分類群が知られます。

分類群 学名 葉長 分布 特徴
ユズリハ D. macropodum 10〜20cm 福島以南〜九州 標準種、葉柄赤紫、葉裏白粉
ヒメユズリハ D. teijsmannii 6〜10cm 関東以南、海岸近く 小型、葉密集、耐潮性高い
エゾユズリハ D. macropodum subsp. humile 8〜15cm 北海道〜本州日本海側 多雪地適応の小型変種
シマユズリハ D. teijsmannii var. luchuense 5〜8cm 沖縄・南西諸島 島嶼適応、葉小型化

分類学的にはD. macropodumD. teijsmanniiの2種を基本とし、エゾユズリハはD. macropodumの積雪適応亜種、シマユズリハはD. teijsmanniiの変種として位置づけられます。ただし葉サイズには連続変異があり、地域系統間の交雑も報告されているため、研究者間で扱いが異なる場合があります。

形態的特徴の詳細

  • 葉:長楕円形〜倒披針形、長さ10〜20cm、幅3〜5cm、革質。葉柄は3〜8cmと長く、赤紫色を帯びる(最大の識別特徴)。葉裏は灰白色〜青白色の蝋質粉に覆われ、撥水性を持つ。
  • 樹皮:灰褐色〜暗褐色で平滑、樹齢を重ねても深い縦溝は形成されない。若枝は赤紫色を帯びる(葉柄と同色系)。
  • 花:5〜6月、雌雄異株。葉腋に小花を多数つける。花弁・がく片を欠き、雄花は赤紫色の葯のみ、雌花は緑色の子房と突き出た花柱からなる地味な構造。
  • 果実:楕円形の核果、長さ8〜12mm、10〜11月に黒紫色〜青黒色に熟す。鳥散布型で、ヒヨドリ・ツグミ等が摂食する。
  • 樹形:整った卵形〜広円錐形。葉が枝先に集中する独特の樹形(傘状葉序)で、観賞性が高い。
  • 根系:主根性で深く張る。耐風性に優れ、台風常襲地でも倒伏しにくい。

「ユズリハ」の名前の由来と生育リズム

「ユズリハ」の和名は、新葉が完全に展開し成長した後に、前年の葉が役目を譲るかのように落葉する独特の葉交代パターンに由来します。多くの常緑樹では新旧の葉が混在する期間が長いのに対し、ユズリハは新葉成長と旧葉落葉が時間的に明確に分離するため、「親が子に座を譲る」「世代交代が滞りなく行われる」象徴として古来より縁起木とされてきました。生理学的には、新葉の光合成能力が定常状態に達した5〜6月頃に旧葉のクロロフィル分解と養分転流が一斉に起こり、6〜7月に集中落葉する仕組みです。

正月飾り市場と文化的価値:12月集中需要の構造

需要構造と季節性

ユズリハの経済価値の中核は、年末年始の正月飾り需要です。鏡餅の下に敷く「裏白(ウラジロ)」とともに、しめ飾り・鏡餅・床の間飾りに用いられ、12月の集中需要が市場を形成します。神社のしめ縄・正月飾りでも標準的に使用され、年間需要の推計約8割が12月15日〜30日の2週間に集中する典型的な季節集中型市場です。流通形態は次の通りです。

流通形態 用途 特徴・価格帯
枝物(小束) 家庭の鏡餅・しめ飾り 3〜5本の小枝束、500〜1,500円/束
枝物(大束) 神社・寺院の正月飾り 業務用、ロット単価2〜10万円
苗木(記念樹) 家庭の縁起木植栽 樹高1〜2m、5,000〜2万円
大型シンボルツリー 住宅庭園・社寺境内 樹高3m以上、10〜30万円
盆栽・造形木 愛好家・贈答用 1〜10万円、葉形が整う鉢栽培

主要産地は静岡県・和歌山県・三重県・高知県等の暖地で、年末向け収穫体制を組んでいます。多くは農家副業や山林副産物として収穫され、JA・市場経由で京阪神・首都圏の花き卸売市場に出荷されます。輸送中の葉枯れ防止のため、湿度管理付きの保冷コンテナで運ばれるのが標準です。近年は高齢化による収穫労働力不足が深刻で、産地によっては林業ボランティア・地域おこし協力隊との連携で年末収穫体制を維持する事例も増えています。

市場規模を金額ベースで概算すると、卸売段階で年間数十億円程度、小売段階では100億円規模に達すると見られます。ただし統計が取りづらい地場流通・直販分が大きいため、実態は推計値の幅が大きいのが現状です。林野庁の特用林産統計でも独立項目では把握されておらず、「その他枝物」として一括集計される位置づけに留まります。価格は天候による収穫量の年変動が大きく、台風・大雪被害年には2〜3倍に高騰する事例もあります。

地域文化と方言名

地域によっては「オヤコグサ」「ユズルハ」「コソダテグサ」等の方言名で呼ばれ、子育て・家督継承の象徴として親しまれてきました。沖縄では「ユイハ」、東北の一部では「ヨユリ」と発音されることもあります。京阪神・北陸の伝統行事「とんど焼き」「左義長」では、正月飾りを焼く際にユズリハの枝も一緒に燃やす慣習があり、煙とともに一年の無病息災を祈願する民俗行事として現在も継承されています。

家紋・文化財としての位置づけ

「譲葉紋」は日本の家紋の一つとして50以上の家系で使われ、特に武家では家系継承の象徴として尊重されてきました。三つ葉譲葉、丸に譲葉、抱き譲葉など意匠のバリエーションも豊富で、家紋研究では「植物紋」の中でも比較的古い系統に分類されます。京都・奈良の伝統的庭園、社寺境内では、世代を超えた継承性を象徴する樹木として記念植樹に選ばれる事例が多数あり、京都御苑・春日大社・伊勢神宮の周辺林にも由緒ある古木が現存します。

用材としての特性と利用

ユズリハ材は気乾比重0.60〜0.75(平均0.65前後)の中重量材で、辺材・心材ともに淡黄白色〜淡褐色、緻密で均質な木目を持ちます。樹幹が比較的細く曲がりがあるため、構造材としての規模流通はほとんどありません。小ロットでは(1) 寄木細工の素材、(2) 茶道具・小物家具、(3) 薪炭材、(4) 床柱として用いられてきました。緻密な木目を活かして、京指物の象嵌素材や寄木細工の白〜淡褐色担当樹種としても重宝されます。

物理特性 数値 備考
気乾比重 0.60〜0.75 含水率15%基準、平均約0.65
収縮率(接線方向) 約7〜8% 中程度、乾燥変形は穏やか
収縮率(半径方向) 約3〜4% 異方性比は約2倍
圧縮強度(縦) 約45〜55N/mm² 同比重材の標準値
曲げ強度 約75〜90N/mm² 緻密材、衝撃にも強い
耐朽性 屋外利用には防腐処理推奨

現代では用材市場での流通量は限定的で、銘木店で小材として扱われる程度です。年間流通量は推計100〜500m³規模と見られ、ヒノキ・スギ等の主力造林樹種と比較すると桁違いに小さい市場です。一方、その希少性ゆえに茶道具・伝統工芸の素材として高値で取引される事例もあります。

ダフニフィリン系アルカロイド:薬理と毒性

ユズリハ属植物は化学的に極めてユニークなアルカロイドを生産することで知られ、20世紀後半から21世紀にかけて天然物化学の主要研究対象の一つとなってきました。ユズリハから単離・構造決定されたアルカロイドは300種以上に達し、ダフニフィリン(daphniphylline)、ユズリミン(yuzurimine)、ダフニマクリン(daphnimacrine)、コダイシン(codaisine)、メチルホモセコダフニフィレート等が代表的成分です。

主要アルカロイド 分子式 所在 備考
ダフニフィリン C₃₀H₄₇NO₂ 葉・果実・樹皮 骨格命名の基本構造
ユズリミン C₃₀H₄₇NO₅ 葉・種子 D-secoダフニフィレート系
ダフニマクリン C₃₀H₄₇NO₃ 樹皮・幹 マクロポダン系骨格
コダイシン C₂₂H₃₃NO₂ 果実 低分子量誘導体

ヒトの推定致死量はダフニフィリン換算で数百mg〜1g規模とされ、葉数枚の誤食でも嘔吐・呼吸困難・心拍異常等の急性中毒症状を引き起こします。中毒の主機序は中枢神経系への作用と心筋電気活動の撹乱で、消化器症状(吐気・腹痛・下痢)に続いて重症例では血圧低下・痙攣・意識障害に進展します。家畜(ウシ・ヤギ・ヒツジ)の誤食事例も古くから報告され、放牧地周辺での植栽は避けるのが原則です。

歴史的には葉や樹皮を煎じた民間薬としてシラミ駆除・寄生虫駆除・皮膚疾患治療に用いられた記録がありますが、安全な使用量の幅(治療域)が極めて狭く、現代の生薬・漢方処方には組み込まれていません。中国本草書では「虎皮楠(こひなん)」の名で記載され、外用として疥癬・白癬の治療に使われた記述がありますが、これも内服は推奨されていません。一方、ダフニフィリン骨格の特殊な五員環縮合構造は有機合成化学の挑戦的標的として価値が高く、京都大学・東北大学等で全合成研究が進められてきました。誘導体の一部は抗がん作用・神経保護作用のスクリーニング対象となっており、創薬リード化合物の供給源としての潜在価値が指摘されています。

現代の薬学誌(YakugakuZasshi、和漢医薬学雑誌等)に掲載された近年の研究では、ユズリハ属由来アルカロイドの一部に神経成長因子(NGF)様作用、抗炎症作用、特定がん細胞株への増殖抑制作用が報告されています。特に2010年代以降、超低濃度域での生理活性スクリーニングが進み、構造活性相関(SAR)研究も活発化しています。ただし臨床応用までの道のりは遠く、現時点では基礎研究段階に留まります。野生個体からの大量採取は資源保全上問題があるため、合成化学的供給または培養系開発が今後の研究テーマとされています。

誤食事故と救急対応

厚生労働省の自然毒リスクプロファイルでも、ユズリハは誤食危険植物として注意喚起されています。年間の中毒事例は数件規模ですが、子供が鏡餅飾りのユズリハを口にする事故、家畜(特にヤギ)が剪定枝を食べる事故、観賞用果実を食用と誤認するケースが典型例です。救急対応の原則は次の通りです。(1) 摂取量を確認、(2) 意識・呼吸・心拍を観察、(3) 嘔吐させず速やかに医療機関を受診、(4) 食べた葉・果実を持参して医師に提示、(5) 可能なら活性炭投与を含む対症療法を受ける──の5点です。重症化は稀ですが、小児・高齢者・基礎疾患保有者は特に注意が必要です。

近縁種比較:シマユズリハ・エゾユズリハ・ヒメユズリハ

ユズリハ属の日本産分類群は、葉サイズと分布地の組み合わせで概ね判別できます。下図は、葉長と分布北限・標高の関係を示したものです。庭木選択や林業現場での識別に役立つ要点を比較表でまとめました。

ユズリハ属4分類群の葉長比較(cm)20cm10cm0ユズリハ10〜20cmヒメユズリハ6〜10cmエゾユズリハ8〜15cmシマユズリハ5〜8cm
図2:ユズリハ属4分類群の代表的な葉長範囲

ヒメユズリハ(D. teijsmannii)はユズリハより葉が小型(6〜10cm)で密集する樹形を持ち、関東以南の海岸近くに自生します。耐潮性が高く、海岸防風林や臨海公園の植栽に向きます。エゾユズリハ(D. macropodum subsp. humile)は積雪適応の小型変種で、本州日本海側の多雪地林床に這うように分布し、樹高2〜4mに留まります。シマユズリハ(D. teijsmannii var. luchuense)は沖縄・南西諸島に固有の島嶼変種で、ヒメユズリハよりさらに小型化しています。庭木としての流通は主にユズリハ・ヒメユズリハの2種で、近年は省スペース化に伴いヒメユズリハの選択が増えています。

生態と動物との関係

ユズリハの黒紫色核果は10〜11月に成熟し、ヒヨドリ・ツグミ・シロハラ・ヒレンジャク等の鳥類による被食散布が主要な分布拡大経路です。果実中の種子は鳥の消化管を通過しても発芽能を保ち、糞とともに散布されます。哺乳類による種子散布はほとんど報告されておらず、果実中のアルカロイドが哺乳類に対する忌避効果を持つ可能性も指摘されています。鳥類は肝臓のアルカロイド代謝能が哺乳類より高く、これが選択的散布者となる進化的背景と考えられています。

葉の食害昆虫はごく限定的で、革質で硬い葉とアルカロイドの存在が植食昆虫の進入を阻んでいます。ユズリハ属を専食する種としてユズリハハマキガ(小型ガ類)が知られますが、生態的影響は小さく、林業害虫として問題視される事例は皆無です。林床植生に対しては、葉が分厚く分解しにくい特性から落葉のアレロパシー的影響(他植物の発芽抑制)が示唆されており、ユズリハ純林に近い場所では下層植生が貧弱になる傾向があります。

気候変動と分布動向

ユズリハは暖温帯下部の指標樹種で、北限が福島県付近とされてきましたが、近年は新潟県下越・宮城県南部でも野生化個体が確認されています。温暖化に伴う照葉樹林帯の北上の一指標として観察されており、植物地理学的研究の対象としても注目されています。庭木需要の観点では北東北での植栽可能性が拡大する可能性があり、青森・岩手の一部地域でも実生苗の越冬成功事例が報告されています。一方、降雪荷重への耐性が低いため、多雪地での植栽はエゾユズリハ系統を選ぶ必要があります。気象庁データを用いた将来予測(RCP4.5シナリオ)では、2070年代までに分布北限が現在より100〜200km北上し、北東北沿岸部から北海道渡島半島南部までが潜在分布域に含まれるとの試算もあります。

栽培・育成のポイント

ユズリハの育成は実生(種子繁殖)と挿木の2系統があります。実生は10〜11月の完熟果実から種子を取り出し、果肉を洗い落としてから2℃前後で4〜6か月間湿層処理(冷蔵庫保管可)した後、3〜4月に播種します。発芽率は新鮮種子で60〜80%、貯蔵が古いと急速に低下します。雌雄判別が開花年(5〜10年後)まで困難なため、雌株を確実に得るには挿木が推奨されます。挿木は梅雨期(6〜7月)に当年枝を10〜15cmで採取し、発根剤処理後に赤玉土小粒に挿します。発根率は40〜60%程度です。

植え付けは3〜4月または9〜10月の冷涼期が適期で、半日陰〜日向の腐植質に富む湿潤土壌を好みます。耐陰性があるため建物北側や常緑樹林下にも植栽可能ですが、強い乾燥には弱いため、夏期の灌水管理が重要です。施肥は2〜3月の寒肥として有機質肥料を株元に施す程度で十分です。剪定は新葉展開後の7〜8月、または落葉期の終わった2〜3月に行い、徒長枝・枯れ枝を整理します。樹形を維持する程度の弱剪定が基本で、強剪定すると翌年の正月需要枝の収穫に影響が出ます。

森林環境譲与税の活用余地

ユズリハは用材生産に偏らない多面的森林機能の樹種であり、社寺境内林・里山林・特用林産物供給林の整備対象として森林環境譲与税の活用余地があります。年間譲与総額629億円規模の財源の一部は、こうした文化的・伝統的樹種の保全と活用にも投入可能です。市町村段階では(1) 正月飾り原料の地域内循環、(2) 神社仏閣境内の文化財林の管理、(3) 里山広葉樹林の多様性維持、といったプログラムにユズリハ植栽が組み込まれる事例があります。譲与税の制度設計と市町村活用事例の詳細は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向を参照ください。

識別のポイント(Field Guide)

  • 葉柄:赤紫色(最大の識別ポイント)。シャクナゲ類と類似するが、葉柄色で区別可能
  • 葉:長楕円形〜倒披針形、10〜20cmと大型、革質、葉裏が白っぽい蝋質粉で覆われる
  • 葉の配列:枝先に集中、傘状に広がる独特の樹形
  • 果実:楕円形、黒紫色〜青黒色、長さ8〜12mm、10〜11月成熟
  • 樹皮:灰褐色で平滑、若枝は赤紫色
  • 葉交代:新葉展開後(5〜6月)に旧葉が一斉に落ちる──最終確証はこの生育リズム
ユズリハの主用途1正月飾り2生垣3記念樹4薪炭材
図3:ユズリハの主用途。樹種特性が決定する経営的位置づけを示す

よくある質問(FAQ)

Q1. ユズリハとヒメユズリハはどう違いますか?

同属の別種で、最大の識別点は葉の大きさです。ユズリハの葉は10〜20cmと大型ですが、ヒメユズリハ(D. teijsmannii)は6〜10cmと小型です。ヒメユズリハは温暖な海岸近くに分布し、葉が密集する樹形が特徴で耐潮性に優れます。庭木としては「コンパクトな樹形」「狭い庭への適性」を理由にヒメユズリハを選ぶ事例も増えています。葉柄の赤色はユズリハの方が強く出る傾向があります。

Q2. なぜ正月飾りに使われるのですか?

新葉が展開した後に旧葉が「役目を譲る」ように落葉する生育リズムが、「親から子へ家督を譲る=家系不滅・子孫繁栄」の縁起を象徴するためです。古事記・万葉集の時代から記録があり、平安時代の宮廷儀礼でも正月飾りに用いられた歴史があります。神社本庁が公開する標準的な正月飾り解説でも、ユズリハは裏白・橙とともに「三種の植物素材」として位置づけられています。

Q3. 庭木としての管理難易度は?

低めです。耐陰性・耐潮性に優れ、剪定耐性も中程度。年1〜2回の軽剪定で美しい樹形を維持できます。寒冷地(東北以北の内陸部)では越冬困難なため、植栽地の選定が重要です。雌雄異株のため、果実観賞を期待するなら雌株を選ぶ必要があります。実生苗は雌雄判別が開花まで難しいため、庭木店では成株の挿木苗を選ぶのが確実です。

Q4. ユズリハには毒性があると聞きましたが、庭木として大丈夫ですか?

葉・果実・樹皮にダフニフィリン等のアルカロイドが含まれ、誤食すると嘔吐・呼吸困難・心拍異常等の中毒を起こします。皮膚接触では問題ありませんが、子供・ペットの誤食防止のため、低位置の枝の管理と落葉・落果の清掃に注意が必要です。一般的な庭木としての植栽は問題なく、伝統的な日本庭園では広く採用されてきました。家畜飼育地・放牧地の周辺植栽は避けるべきです。

Q5. シマユズリハ・エゾユズリハとの違いは?

シマユズリハ(D. teijsmannii var. luchuense)は沖縄・南西諸島の島嶼変種で、葉が5〜8cmとさらに小型化しています。エゾユズリハ(D. macropodum subsp. humile)は本州日本海側多雪地の積雪適応亜種で、樹高2〜4mに矮性化し、林床を這うような樹形をとります。庭木流通の主流はユズリハとヒメユズリハで、シマユズリハ・エゾユズリハは現地のみで観察される傾向があります。

Q6. ユズリハ材は家具・建材に使えますか?

気乾比重0.65前後で適度な硬さがありますが、樹幹が比較的細く曲がりがあるため、規模流通する建材としては使われません。小ロットでは茶道具、寄木細工、床柱、薪炭材として利用されてきました。緻密で均質な木目を活かして、京指物の象嵌素材としても評価されます。年間流通量は推計100〜500m³規模と見られます。

Q7. 正月飾りはいつから準備すればよいですか?

伝統的には12月13日の「事始め」以降〜12月28日までに飾り付けるのが正式とされ、29日(苦立て)と31日(一夜飾り)は避けるのが慣習です。市場流通は12月15日頃から年末に集中し、新鮮な枝を入手するなら12月20〜26日が適期です。生鮮品のため、購入後は涼しい場所で水切り・湿度保持により1〜2週間程度持たせる管理が必要です。

Q8. 譲葉紋(家紋)の由来は?

武家・公家に広く採用された植物紋の一つで、家系の継承・子孫繁栄の願いを込めた意匠です。三つ葉譲葉、丸に譲葉、抱き譲葉等、50以上のバリエーションが家紋大鑑に記録されています。江戸時代には家督相続の儀式に譲葉が用いられた記録もあり、武家社会の継承儀礼と密接に結びついていました。

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まとめ

ユズリハは「世代交代=家系不滅」の縁起を担ぐ文化的樹種として、年末年始の正月飾り需要を中心に独自の経済価値を形成しています。気乾比重0.65前後・樹高8〜15mの常緑広葉樹であり、用材としての規模流通は限定的ですが、(1) 12月集中型の枝物市場、(2) 家紋文化と武家社会の継承儀礼、(3) ダフニフィリン系アルカロイドの天然物化学・創薬研究素材、(4) 照葉樹林帯の指標種としての気候変動研究、(5) 社寺境内林・伝統庭園の文化財的価値、という複数の側面から、林政・薬学・地域経済・植物文化研究の各領域で再評価が続く樹種です。シマユズリハ・エゾユズリハ・ヒメユズリハとの近縁分類群と合わせて、東アジア照葉樹林帯の生物多様性を象徴する系統として、保全と活用の両面から今後も注目が続くでしょう。

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