同じ「木を伐り出す」仕事でも、日本の林業作業員が1日で生産する木材は約7m³。ところがオーストリアやドイツでは約20m³、フィンランドやスウェーデンでは約25m³、アメリカでは約30m³に達します。日本は欧米の3分の1から4分の1。これはサボっているからでも技術が劣っているからでもありません。山の地形と、そこに通された道の量の違いです。本稿では、この大きな差がどこから来るのかを掘り下げます。
1日7m³という現実
林業の労働生産性は「人日当たり伐出量(m³/人日)」、つまり作業員1人が1日に伐って運び出す木材の量で測ります。日本は主伐(まとめて伐る皆伐など)で約7m³、間伐で約4.5m³。これを主要国と並べると、その差は一目瞭然です。
ただ、悲観一辺倒ではありません。日本も2010年の3.7m³から2022年の約7m³へと、12年で約1.9倍に伸びています。年率5%超という成長率は、製造業の労働生産性(年1〜2%)を大きく上回ります。問題は、欧州も同時に前進しているため、絶対差がなかなか縮まらないこと。追いつくには10〜20年がかりの継続投資が要る、ということです。
差を生む正体は「道の量」
日本7m³に対しドイツ20m³という3倍の差を要因分解すると、路網密度の差が約40%、機械化率の差が約25%、林分構造(樹種・齢級・地形)が約20%、熟練度・組織運営が約15%と推計されます。半分以上が「道」と「機械」という物理的・構造的な要因で、ここは政策投資で動かせる部分です。
なかでも最大の犯人が路網密度——森林1haあたりに通っている道の長さです。下のグラフを見てください。
日本は23m/ha、ドイツは118m/haで実に5倍の開き。道が少ないと、伐った木を道端まで運ぶ「集材」の距離が伸びます。日本の現場では集材距離が平均120〜180mですが、路網が密な現場では40〜60mに縮み、集材作業の手間は約半分に。さらに道が密だとハーベスタやフォワーダといった自走式の大型機械が林の奥まで入れるので、人力に頼る架線集材が機械に置き換わる。道は、距離短縮と機械活用の両方に効く要なのです。
北欧は道が少ないのに、なぜ速い?
ここで不思議に思うかもしれません。フィンランドやスウェーデンの路網密度は12〜15m/haと、むしろ日本より少ない。なのに生産性は25m³/人日です。答えは地形。北欧は傾斜10度未満の緩やかな土地が大半で、大型ハーベスタを直接林に乗り入れられます。立木を倒し、枝を払い、定尺に玉切りするまで機械が一気に処理する「CTL方式」が標準なのです。
対して日本は森林の約6割が傾斜30度以上の急斜面。北欧型の機械乗り入れは難しい。だから日本が手本にすべきは、同じく山岳地形を抱えるオーストリア(路網89m/ha)です。急傾斜地ではタワーヤーダ(鋼鉄の塔から架線を張る集材機)で安全に吊り下げ搬出する。林野庁の研修や視察もオーストリア・スイスに重点が置かれています。下の表に、各国の数字と伐出方式をまとめました。
| 国 | 主伐生産性 (m³/人日) |
路網密度 (m/ha) |
主な伐出方式 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 7 | 23 | 中型機械+架線系 |
| ドイツ | 20 | 118 | 大型ハーベスタ主流 |
| オーストリア | 20 | 89 | 山岳地架線+機械 |
| フィンランド | 25 | 15 | 大型ハーベスタ(緩傾斜) |
| 米国(PNW) | 30 | 25 | フェラーバンチャー |
じつは「日本全体」の問題ではない
ここが本稿で一番伝えたいところです。日本の生産性が低いのは、国全体が一様に遅れているからではありません。事業体の規模による格差が大きいのです。下の表のとおり、家族経営の小規模(年1,000m³未満)は4.5m³/人日にとどまる一方、年5万m³以上の超大規模では約12m³/人日と、すでに欧州中位に並んでいます。
| 事業体規模 | 年間生産量 | 主伐生産性 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 小規模 | 〜1,000m³ | 約4.5 | 家族経営・人力主体 |
| 中規模 | 1,000〜1万m³ | 約7 | 中型機械・常雇 |
| 大規模 | 1万〜5万m³ | 約9 | 複数班・直送比率高 |
| 超大規模 | 5万m³〜 | 約12 | 大型ハーベスタ・ICT管理 |
実際、年1万m³以上の認定林業事業体(全国約470)だけを取り出すと、平均生産性は約9.5m³/人日。欧州並みまであと半分の距離です。つまり日本の課題は「全員が遅い」ことではなく、「速い少数」と「遅い多数」に分かれていること。生産性を底上げするカギは、優良事業体への集約と、小規模層の組織化(森林組合・森林経営管理制度)を同時に進めることにあります。
欧州並みは、地形を言い訳にせず達成できる
では現場では何が起きているのか。宮崎県南部のある素材生産会社(年8万m³、約60名)は、2023年度に主伐生産性14m³/人日へ到達し、欧州中位にほぼ並びました。秘訣は3つ。平均180haという連続した事業地を確保して機械の移動ロスをなくし、年間稼働日数を195日超に押し上げたこと。ハーベスタとフォワーダを3台ずつ揃え、3班並行で休止時間を最小化したこと。そして伐採から出荷までを自社クラウドで管理し、スマホ入力で日々の生産性を見える化して班どうしの改善競争を回したことです。
北海道では、緩傾斜のカラマツ・トドマツ林で北欧型のCTL方式を本格導入した協業体が18m³/人日を記録。岩手の県有林では、急峻地形でもタワーヤーダと路網整備(15年で25→55m/ha)の組み合わせで10〜11m³/人日を安定達成しています。地形が厳しくても、やり方次第で届くのです。
2030年へ、3つのレバーを同時に
林野庁は2030年に主伐10m³/人日(現状から約4割増)を目標に掲げます。そのための政策レバーは3つ。路網密度を平均38m/haへ倍増させること、急傾斜地対応の機械(小型ハーベスタ・タワーヤーダ等)を普及させること、そして1団地100ha以上の集約施業地を確保することです。
この3つは互いに支え合っています。機械だけ入れても道が細ければ大型機は使えず、集約しなければ機械の稼働率が上がらない。だから「3つ同時に」が鉄則です。路網整備の費用対効果も明確で、森林作業道はおおむね5〜10年で投資を回収でき、20年以上使えます。優良事例が示すとおり、路網50m/ha・100ha集約・大型機械という3条件がそろえば、日本の急峻な地形でも欧州並みの生産性は十分に手が届く。生産性向上は、林業で働く人の賃金を上げ、若い担い手を呼び込むための土台でもあるのです。

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