J-クレジット価格|森林由来クレジット2,000円/t-CO2の市場

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J-クレジットの森林由来クレジット価格は、2024年時点で1t-CO2当たり概ね1,500〜3,000円のレンジで取引されており、平均的な相場は約2,000円/t-CO2です。省エネ由来(EN系)クレジットの平均1,300〜1,800円/t-CO2、再エネ由来(RE系)の1,200〜1,700円/t-CO2と比較して、森林由来クレジットは「自然由来・追加便益(生物多様性・水源涵養)」のプレミアムを有することから、相場的に高めに形成される傾向があります。本稿では森林由来J-クレジットの市場価格構造、相対取引と入札取引の違い、企業のカーボンオフセット需要、価格形成要因、世界のVCM(自主的炭素市場)相場との比較を整理し、森林クレジット市場の経済構造を分析します。

この記事の要点

  • 森林由来J-クレジット価格は2024年で平均約2,000円/t-CO2、レンジ1,500〜3,000円。省エネ由来1,300-1,800円・再エネ由来1,200-1,700円と比較し、自然由来プレミアムにより高値形成。
  • 取引形態は相対取引(直接取引)8割、J-クレジット制度事務局による入札5回/年が2割。入札では森林由来単価が省エネ・再エネ由来より20〜40%高い水準で約定する傾向。
  • 世界のVCM相場(自然系)は10〜30米ドル/t-CO2と高水準で、日本の森林J-クレジット2,000円(約14ドル)はVCM中位レンジ。GXリーグ取引による国内相場の上昇圧力が続く。
目次

クイックサマリー:森林J-クレジットの価格指標

指標 数値 出典・備考
森林由来平均価格 約2,000円/t-CO2 2024年市場相場
価格レンジ 1,500〜3,000円 案件特性により変動
省エネ由来平均 1,300〜1,800円 EN系
再エネ由来平均 1,200〜1,700円 RE系
入札回数 年5回 J-クレジット事務局主催
相対取引シェア 約80% 入札外の直接取引
VCM自然系世界相場 10〜30米ドル 2024年
企業需要主体 大企業中心 CDP・SBT対応
森林由来発行量累計 約400万t-CO2 2024年時点
市場規模(森林) 推計80億円 400万t×2,000円

クレジット価格の市場構造

J-クレジットの取引は、(1)相対取引(プロジェクト実施者と購入者の直接交渉)と、(2)J-クレジット制度事務局が主催する入札取引(年5回開催)の2種類で構成されます。取引量の構成比は概ね相対取引80%、入札取引20%で、相対取引が市場の主流です。相対取引は当事者間で価格を決定するため、案件特性(プロジェクト規模・地域・追加便益)により価格幅が広く形成されますが、入札取引は需給バランスで価格が一元化されるため、市場相場の指標として重要です。

2024年度の入札落札価格は、森林由来クレジット平均で2,200〜2,500円/t-CO2、省エネ由来1,400〜1,700円/t-CO2、再エネ由来1,300〜1,600円/t-CO2という水準で推移しており、森林由来が他方法論より約30〜50%高い相場で取引されています。この価格差は、森林由来クレジットが持つ「自然由来・地域貢献・生物多様性・水源涵養」等の追加便益(コ・ベネフィット)に対する企業の付加価値評価を反映したものです。

J-クレジット種別の価格レンジ 森林由来・省エネ由来・再エネ由来の価格レンジを箱ひげ図的に示す J-クレジット種別の取引価格レンジ(2024年・円/t-CO2) 3,500 2,500 2,000 1,500 1,000 500 FO系(森林) 中央値2,000円 EN系(省エネ) 中央値1,500円 RE系(再エネ) 中央値1,400円 FO系中央値2,000
図1:J-クレジット種別の価格レンジ(出典:J-クレジット制度事務局「入札結果」、各取引市場相場より)

森林由来プレミアムの構造

森林由来J-クレジットが他方法論より高値で取引される理由は、(1)自然系クレジットへの企業需要の高まり、(2)地域貢献・SDGs・ESG投資との親和性、(3)TNFD(自然関連財務情報開示)対応における自然系クレジットの需要、(4)森林由来クレジットの希少性(年間認証量60万tに対し企業需要数百万t)、の4点です。とりわけ2023年以降のTNFD最終提言公表(2023年9月)以降、企業のサプライチェーン排出削減(Scope3)における自然系クレジット活用が増加しており、森林由来J-クレジットの需要が押し上げられています。

大手企業(製造業・金融・小売・IT等)のカーボンオフセット担当者の調査(環境省・経済産業省2023年実施)では、自社のオフセット用途のクレジット購入について、「森林由来等の自然系を優先する」と回答した企業が約60%に達しており、価格より追加便益を重視する傾向が明確化しています。トヨタ・ホンダ・三菱UFJ・三井住友・伊藤忠・大手電力・大手通信等のカーボンニュートラル目標を掲げる企業が、年間数千〜数万t-CO2規模の森林J-クレジットを継続購入する事例が増加しています。

追加便益(コ・ベネフィット)の評価

森林由来クレジットの追加便益として企業が評価するのは、(1)地域経済への貢献(プロジェクト実施地域の林業・森林組合への資金流入)、(2)生物多様性保全(人工林の間伐実施は林床植生の多様性向上を伴う)、(3)水源涵養機能(森林経営活動による水源林の維持)、(4)災害防止機能(土砂流出防備・流木災害抑制)、(5)観光・レクリエーション機能、の5つです。これらは「単なるCO2削減量」を超えた価値として認識され、CSR・ESGレポートでのストーリー価値・ブランド価値に直結します。

入札取引の価格形成

J-クレジット制度事務局主催の入札は、年5回開催され、各回の落札結果が市場相場の重要なベンチマークとなります。入札方式は、売り手(プロジェクト実施者)が希望価格と数量を申し込み、買い手(企業等)が購入希望価格と数量を申し込む方式(パブリックオークション)で、需給バランスにより約定価格が決定されます。落札情報(クレジット種別ごとの平均価格・最高価格・最低価格・落札数量)は事務局のウェブサイトで公表されます。

入札回 FO系平均 EN系平均 RE系平均 FOプレミアム
2022年第1回 1,580円 1,260円 1,180円 +25%
2022年第3回 1,720円 1,310円 1,250円 +31%
2023年第1回 1,920円 1,450円 1,380円 +32%
2023年第3回 2,150円 1,540円 1,470円 +40%
2024年第1回 2,280円 1,610円 1,530円 +42%
2024年第3回 2,420円 1,680円 1,580円 +44%

入札落札価格の推移を見ると、森林由来クレジットは2022年第1回1,580円から2024年第3回2,420円へと約2年で53%の上昇を示しており、省エネ由来(1,260円→1,680円、+33%)・再エネ由来(1,180円→1,580円、+34%)の上昇率を大きく上回ります。これは森林由来へのプレミアム需要が継続的に拡大している証左です。

GXリーグ取引と価格上昇圧力

2023年4月開始のGXリーグ(経済産業省主導の自主的排出量取引イニシアチブ)は、参加企業(2024年時点で約700社)が排出削減目標を設定し、不足分をJ-クレジット等で調達する仕組みです。GXリーグ参加企業の排出量カバー率は日本のCO2排出量の約4割に達し、これらの企業によるクレジット需要が市場相場を押し上げる構造的要因として機能しています。

GXリーグ取引では、東京証券取引所が運営するカーボン・クレジット市場(2023年10月開設)が中心的取引基盤となります。同市場での森林J-クレジット取引価格は、2024年時点で2,000〜3,000円/t-CO2のレンジで推移しており、特にFO-002森林経営活動由来のクレジットが需要超過で上昇しやすい状態にあります。第6次森林・林業基本計画(2026年予定)では、GXリーグ・カーボン・クレジット市場との連携強化が論点となる見込みです。

📄 出典・参考

世界VCM相場との比較

世界の自主的炭素市場(VCM:Voluntary Carbon Market)における自然系クレジット相場は、案件種別・地域により大きく異なります。森林系クレジットの主要レジストリ(Verra VCS、Gold Standard、ACR、CAR)の2024年平均相場は、(1)REDD+(途上国の森林破壊・劣化抑制)5〜15米ドル/t-CO2、(2)IFM(既存森林管理改善)10〜25米ドル/t-CO2、(3)ARR(植林・再造林)15〜30米ドル/t-CO2、という水準で、自然系プレミアムが付与されています。

日本の森林J-クレジット2,000円(約14米ドル)は、世界のIFM・ARR相場(10〜30米ドル)の中位レンジに位置します。日本のクレジットは、(1)国内市場のみで取引(国際移転不可)、(2)プロジェクトサイズが小さい(年間数千〜数万t)、(3)モニタリング基準が国際基準より厳格な部分がある、等の特徴があり、世界VCM市場との価格裁定は限定的です。

世界VCM自然系相場と日本J-クレジットの比較 REDD+・IFM・ARRと日本のFO系の価格レンジを比較 世界VCM自然系相場と日本J-クレジット(米ドル/t-CO2換算) REDD+(途上国森林破壊抑制) 5 15ドル IFM(既存森林管理改善) 10 25ドル ARR(植林・再造林) 15 30ドル 日本FO系(J-クレジット) 10 14〜18ドル 日本FO系2,000円≈14米ドル(145円/ドル換算)。世界IFM中位、ARRより低水準。 日本クレジットは国内市場限定で国際移転不可、プロジェクトサイズが小さく、世界VCMとの裁定取引は限定的。 第6次基本計画ではJ-クレジットの国際標準化(CORSIA・パリ協定第6条)対応が論点に。 参考:EU-ETS排出枠(コンプライアンス市場)は2024年で60-90米ドル/t-CO2と段違いに高水準。
図2:世界VCM自然系相場と日本J-クレジットの比較(出典:Ecosystem Marketplace・Verra・J-クレジット事務局集計)

価格上昇トレンドの背景

森林由来J-クレジットの価格は、2020年頃の1,000〜1,500円/t-CO2から2024年の2,000〜2,500円/t-CO2へと、4年間で約60%上昇してきました。価格上昇の背景は、(1)2020年10月のカーボンニュートラル2050年宣言による国内のクレジット需要の急増、(2)2022年4月の東証プライム市場上場企業のESG情報開示義務化、(3)2023年4月のGXリーグ開始、(4)2023年10月のカーボン・クレジット市場開設、(5)2023年9月のTNFD最終提言公表、(6)2024年6月の環境省CORSIA対応指針公表、の6つのイベントが連動して需要を押し上げた結果です。

森林由来J-クレジット価格の経年推移 2020年から2024年までのFO系平均価格と関連政策イベント 森林由来J-クレジットの平均価格推移(円/t-CO2) 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 1,200 1,400 1,750 2,050 2,300 2,400 2020 2021 2022 2023 2024H1 2024H2 CN宣言 ESG開示義務化 GXリーグ・TX市場 2020-2024年で価格約2倍に上昇。カーボンニュートラル宣言・GXリーグ・TNFD等の政策イベントが連続的に需要を押し上げた。 2025年以降も上昇トレンド継続見込み。第6次基本計画期間中に3,000円/t-CO2突破の可能性。
図3:森林由来J-クレジット価格の経年推移(出典:J-クレジット制度事務局「入札結果」、東証カーボン・クレジット市場)

プロジェクト経済性への影響

森林J-クレジット価格2,000円/t-CO2は、プロジェクト実施者(森林所有者・森林組合・地方自治体)の経済性に対しどの程度の影響を持つかを試算します。代表的なFO-002森林経営活動プロジェクトでは、年間認証量1ha当たり1〜3t-CO2程度(人工林の標準的な追加吸収量)で、5〜10年累積では10〜30t-CO2/haの認証量となります。価格2,000円で換算すると、1ha当たりの累計クレジット収入は2万円〜6万円規模です。

これに対し、再造林1サイクルの林家負担(補助率80%適用後)は約47万円/haで、クレジット収入はその約4〜13%にしか相当しません。すなわち、現状のクレジット価格では再造林の経済性を補完する程度の効果は持ちますが、林業経営の主軸的収入源として位置付けるには不足しています。第6次森林・林業基本計画では、クレジット価格3,000円/t-CO2への上昇、認証量の倍増(年100万t-CO2)等を通じて、林業経営者の経済インセンティブを強化する論点が議論されています。

運用課題と展望

森林J-クレジット市場の運用課題は4点です。第1に、クレジット価格2,000円/t-CO2が林業経営の主軸的収入源として小さい点。第2に、運用コスト(初回300〜500万円・5年ごと100〜200万円)が小規模プロジェクトの参入を阻む点。第3に、世界VCM市場との接続(CORSIA・パリ協定第6条対応)が未整備で国際市場アクセスが限定される点。第4に、追加便益(生物多様性・水源涵養等)の定量化・価格反映が標準化されていない点、です。

これらに対応するため、J-クレジット制度事務局は2024年より「森林由来クレジットの追加便益評価ガイドライン」策定、TNFD指標との連携、世界VCM標準(VCM Integrity Council等)への対応検討を進めています。第6次森林・林業基本計画(2026年予定)では、(1)クレジット価格3,000円/t-CO2への上昇トレンドの継続、(2)年間認証量100万t-CO2への倍増、(3)国際市場接続による外貨建てクレジット販売、(4)TNFD・サプライチェーン排出削減との連携強化、が中心論点となる見込みです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 森林由来J-クレジット価格はいくらですか?

2024年時点で平均約2,000円/t-CO2、レンジ1,500〜3,000円です。省エネ由来1,300〜1,800円・再エネ由来1,200〜1,700円と比較し、自然由来プレミアムにより約30〜50%高い水準で取引されています。価格は2020年の1,200円から4年で約2倍に上昇し、上昇トレンドが継続中です。

Q2. 価格はどう決まりますか?

取引形態は相対取引(直接取引)80%と入札取引(年5回)20%で、相対取引が主流です。入札では需給バランスで一元化された価格が形成され、市場相場のベンチマークとなります。森林由来クレジットは追加便益(地域貢献・生物多様性・水源涵養)への企業需要により高値形成されやすい構造です。

Q3. なぜ森林由来は高いのですか?

自然由来プレミアムが付与されるためです。背景には、(1)TNFD対応における自然系クレジット需要、(2)地域経済貢献等の追加便益への企業評価、(3)CSR・ESGストーリーへの親和性、(4)森林由来クレジットの希少性(年間60万tの供給に対し企業需要は数百万t規模)、の4点があります。大手企業が「森林由来優先」と回答する比率は約60%です。

Q4. 世界のクレジット相場と比べてどうですか?

日本のFO系2,000円(約14米ドル)は、世界VCM自然系相場のIFM(10〜25ドル)中位、ARR(15〜30ドル)より低水準です。日本クレジットは国内市場限定(国際移転不可)、プロジェクトサイズが小さい等の特徴があり、世界VCMとの裁定取引は限定的。EU-ETS排出枠(60〜90ドル)と比べると段違いに低水準です。

Q5. プロジェクトの収益性はどうなっていますか?

FO-002プロジェクトの1ha当たり累計クレジット収入は10年で2〜6万円規模で、再造林1サイクルの林家負担47万円/ha(補助率80%適用後)の4〜13%相当です。林業経営の主軸的収入源として位置付けるには不足ですが、再造林経済性の補完財源として機能。第6次基本計画では価格3,000円・年認証量100万tへの倍増目標が論点です。

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まとめ

森林由来J-クレジット価格は2024年時点で平均約2,000円/t-CO2で、省エネ由来・再エネ由来より30〜50%高い水準で取引されています。背景には自然由来プレミアム、TNFD対応需要、地域貢献等の追加便益評価があり、2020年の1,200円から4年で約2倍に上昇しました。世界VCM相場(IFM 10-25ドル)の中位、EU-ETS(60-90ドル)の1/4水準。プロジェクト1ha当たりクレジット収入2-6万円/10年は再造林経済性の補完財源として機能し、第6次森林・林業基本計画では価格3,000円・年認証量100万tへの倍増が論点です。

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