これまで林業は「林分」という単位――同じ林齢・樹種・施業履歴をひとまとめにした集団――で森林を管理してきました。けれど林分の平均値だけでは、一本一本の成長差やばらつきは見えてきません。そこで近年広がっているのが、樹木それぞれにIDを付け、樹高・胸高直径・座標・樹種・健全性・施業履歴を個体単位で記録する「単木情報管理」です。LiDARや高精度GNSSが普及したことで、一本ずつのデータベース化が現実のものになりました。
一本ごとに、どんな情報を記録するのか
単木情報管理では、樹木それぞれに固有IDを付け、次のような属性を計測してデータベース化します。
| 属性 | 計測手法 | 標準精度 |
|---|---|---|
| 樹高 | LiDAR・UAV写真測量 | ±0.3〜0.5m |
| 胸高直径(DBH) | 地上LiDAR・スマホLiDAR | ±1〜2cm |
| 位置(XY座標) | RTK-GNSS・SLAM | ±0.1〜0.3m |
| 樹種 | 分光画像・AI判定 | 正答率85〜95% |
| 健全性 | ドローン分光・AIモデル | 枯損・損傷検出95% |
| 枝下高・幹曲がり | LiDAR点群解析 | ±0.3m / ±0.5度 |
| 材積(個体) | 樹高×DBH×形数式 | ±5〜10% |
1haのスギ人工林(密度1,500〜2,500本/ha)なら、データベースには2,000レコード規模が含まれます。林分平均×本数で材積を出す従来法に比べ、推計精度は2〜5倍に向上し、施業計画や収穫予測がぐっと正確になります。
計測はどうやる――3つのLiDAR
この技術の要がLiDARです。レーザー光を発射し、反射が戻る時間から距離を測る仕組みで、林冠から地面までの3次元構造を点群として記録します。国内で使われる主なプラットフォームは3種類です。
地上LiDAR(TLS)は三脚で林内に設置し、半径20〜50mを高密度(1,000〜10,000点/m²、サブmm精度)で計測します。幹を直接捉えられるので胸高直径も±1〜2cmで自動算出できますが、1ha計測に5〜10回のセットアップが必要で、データ量も2〜10GB/haと重め。UAV LiDARはドローンに搭載して林冠を上空から計測し、1haを10〜30分でカバー。急峻地や路網の少ない林分でも使えるのが強みですが、幹を直接捉えにくいため胸高直径は樹高との回帰式で推定します。スマホLiDARはiPhone Pro系・iPad Pro系のスキャナを専用アプリで使うもので、精度は地上LiDARに劣るものの、本体+アプリ(数万円〜10万円程度)でエントリーでき、小規模林業者や森林組合員でも導入しやすいのが魅力です。
条件ごとの使い分けはおおむね、精緻林業や研究なら地上LiDAR、50ha以上の大規模林分や急峻地ならUAV LiDAR、毎木調査の代替や小規模・自伐型ならスマホLiDAR、という形に落ち着きます。2025年時点ではUAV LiDARが500万円台のセットも市場に出てきて、中規模事業体でも導入が進んでいます。
点群から一本を切り出す
LiDAR点群から個体を識別する基本ロジックは、DSM(林冠表層モデル)からDTM(地形モデル)を引いてCHM(樹冠高モデル)を作り、そこから樹頂を抽出する流れです。樹頂検出はガウシアンフィルタで平滑化した後にLocal Maxima(局所最大値)を探す手法が標準で、検出半径はスギ・ヒノキ林で1.5〜3.0m、広葉樹林で3〜6m。小さすぎると枝先を樹頂と誤認し、大きすぎると複数の木を一本に統合してしまうため、林分タイプごとの調整が要ります。樹冠分割にはWatershed法やRegion Growing法に加え、近年はPointNet++・3D U-Netといった深層学習モデルが使われ、針広混交林でも90%以上の精度を達成した例が報告されています。これらはlidR(R)やPDAL、Open3D(Python)などオープンソース化が進み、導入のハードルは年々下がっています。
従来の毎木調査と何が変わるか
人手で1本ずつ巻尺と直径計を当てる毎木調査では、1haに2〜5人日かかっていました。LiDARベースの単木管理なら、現地計測は0.5〜1日。さらに取得した点群は恒久的に保存・再利用でき、経年比較や成長解析にも回せます。コスト・精度・収穫品質を従来法と並べると、改善幅がはっきり見えてきます。
| 効果項目 | 従来法 | 単木情報管理 | 改善幅 |
|---|---|---|---|
| 計測コスト(1ha) | 3〜10万円 | 1〜3万円 | 1/2〜1/3 |
| 計測時間(1ha) | 2〜5人日 | 0.5〜1人日 | 1/3〜1/5 |
| 材積推計精度 | ±15〜20% | ±5〜10% | 2〜3倍 |
| 間伐木選定 | 主観的判断 | 客観的属性ベース | 定量化 |
| 木材グレード歩留まり | 基準値 | +10〜20% | 大幅向上 |
50ha規模の事業体なら、システム導入の初期投資(200〜500万円)は3〜5年で回収可能と見込まれます。間伐・主伐時の木材品質改善・歩留まり向上による売上増が、累積で年間数百万円規模に達したケースも報告されています。
長期に効く――個体の成長履歴がわかる
単木管理の最大のメリットは、個体ごとの成長履歴を継続的に蓄積できることです。同じ林分を5〜10年間隔で再計測すれば、樹高・直径・材積の成長量を一本単位で追えます。FFPRIや東京大学の長期試験地では、同じ林分内でも樹高成長量に2〜3倍の個体差があること、谷部の個体は尾根部より15〜25%成長量が大きいこと、間伐実施後3年で残存木の直径成長率が30〜50%増えること、などの知見が得られています。こうしたデータは、間伐の時期・本数・位置の最適化や、優良個体(エリートツリー)の選抜に直結します。実際、競合圧を表すHegyi指数が高い被圧木を優先的に間伐対象とする「競合度ベース間伐」は、経験則による間伐より残存木の成長率を10〜25%向上させることが実証されています。
主伐時の収益にも効きます。個体ごとの樹高・直径・幹曲がり・健全性のデータから、A材/B材/C材といった木材グレードを事前推定でき、最適な造材計画を立ててA材歩留まりを最大化できます。FFPRIの試験では、地上LiDAR取得済みの林分でA材歩留まりが従来の30〜40%から45〜55%へ改善した例も。A材はB材の1.5〜2倍、C材の3〜4倍の市場価格なので、10〜20ポイントの歩留まり改善は大きなインパクトを持ちます。
政策と現場の広がり
林野庁は2018年度から「スマート林業構築普及展開事業」を展開し、単木情報管理を含む林業DXの現場実装を支援しています。2025年時点で全国50カ所超のモデル地域で実証が進み、単木管理は中核技術と位置づけられています。2019年施行の森林経営管理制度とも連動し、市町村が森林資源を客観的に把握する基盤として、所有者への意向調査前の資源評価や経営委託先の選定などに活用が広がっています。FFPRIは長期試験地での精度検証を主導し、樹高±0.3m・胸高直径±1.5cm(地上LiDAR)、個体識別率はスギ人工林95%・ヒノキ93%・針広混交林80〜90%といった成果を標準化作業に反映しています。
現場では、北海道下川町がUAV LiDARで町有林の単木DBを構築、奈良県吉野が高密度植栽(10,000本/ha)の単木計測を実証、岡山県西粟倉村が村役場で単木DBを管理して移住者の小規模林業者に提供、住友林業が自社人工林でUAV LiDARによる資源量精緻化を進める――といった実装が積み上がっています。「全件高精度計測」と「サンプル計測×AIで全林分推計」のハイブリッド運用が、現実的な解として広がりつつあります。
残る課題
普及には課題も残ります。地上LiDAR一式300〜800万円、UAV LiDARシステム500〜1,500万円という初期投資の高さ、GB級データの処理時間、地方林業現場での点群処理技術者の不足、事業者ごとにばらつく個体識別アルゴリズムの標準化の遅れ、急峻地・濃密な下層植生でのUAV計測の難しさ――こうした壁です。一方で、スマホLiDARの普及でエントリーレベルの計測が一般化し、クラウド処理の標準化やAIアルゴリズムのオープン化も進んでいます。スマホLiDARとオープンソースの組み合わせなら初期投資を10万円台に抑えつつ自分の山の成長データを蓄積でき、林業を「経験と勘」から「データドリブンな経営」へ移す動きが、担い手の裾野まで広がりはじめています。
- 林野庁「スマート林業構築普及展開事業」
- 森林研究・整備機構(FFPRI)研究成果
- 日本森林学会『日本森林学会誌』各号、東京大学・京都大学・北海道大学等の単木計測関連論文

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