同じスギ林でも、どれくらい間伐するかで40年後の姿はまるで違ってきます。本数の2割を抜く控えめな間伐から、半分以上を伐る強度間伐まで、選択肢は思いのほか広い。日本のスギ人工林は約450万ha、ヒノキは約260万haに及び、その大半が間伐期を迎えています。ここでの判断ひとつが、森の経済価値も、災害への強さも、気候変動への適応力も左右する。気候変動という新しい条件のもとで「強く間伐する」考え方がなぜ広がっているのか、強度をどう決めるのか、技術や制度はどう支えるのかを、数値とともに見ていきます。
間伐しないと共倒れする
間伐の目的は、残す木の成長を促し、林分の構造を整えることです。放っておくと樹冠が閉じて光合成効率が落ち、互いに競り合って共倒れし、細くて品質の低い材しか採れなくなります。長期試験では、適正に間伐した林分は無間伐の林分より1本あたりの直径が大きく、良質材の割合も高くなることが繰り返し示されています。
では強度はどう決まるか。中心になるのは林齢と樹種です。若齢期は除伐中心の弱間伐、中齢期に収入を兼ねた中〜強間伐、壮齢期に強間伐や主伐前間伐へと移ります。陽樹のマツ・カラマツは強い間伐によく応え、ヒノキやブナはやや控えめ、モミ・ツガのような陰樹は弱間伐が無難です。これに地力(よい立地ほど強間伐に耐える)、高品質材かバイオマスかという経営目標、風害・雪害リスク、そして搬出を左右する路網密度が絡みます。路網がよく整った林分ほど強めの間伐や利用間伐が成り立ち、路網の乏しい林分では強度が制約されます。
- 林野庁 森林・林業基本計画、間伐実施ガイドライン
- 森林総合研究所(FFPRI) 長期収穫試験データ
強さで変わる効果
間伐強度を4段階に分けると、残す木の成長や林床環境、リスクがおおむね次のように対応します。
| 強度 | 本数間伐率 | 残存木成長 | 林床環境 | リスク |
|---|---|---|---|---|
| 弱間伐 | 20%以下 | 限定的 | 暗い・閉鎖 | 間伐遅れ |
| 標準間伐 | 20-40% | 中 | 中程度 | 標準的 |
| 強間伐 | 40-50% | 大 | 明るい | 風害リスク微増 |
| 超強間伐 | 50%超 | 極大 | 極明・草本侵入 | 形質低下リスク |
強く間伐するほど残った木1本あたりの直径成長は速まりますが、そのぶん林分全体の材積は一時的に減り、超強度では幹が細く高くなった木の形質低下や風害のリスクが出てきます。
樹種ごとの勘どころも押さえておきたいところです。速生のスギは若いうちから積極的な間伐(標準30〜40%)によく応え、15〜20年生で1回目、以降5〜10年おきに3回ほど入れて50〜60年で主伐するのが定番です。材価の高いヒノキは長伐期の高品質材生産が中心で、陰樹寄りのため急に強く間伐すると表皮焼けを起こします。だから20〜30%で段階的に。陽樹の代表カラマツは強間伐への適応性が高く、落葉して林床を明るくするため混交樹種を呼び込みやすい反面、風に弱いので強間伐後は林縁の防風帯確保が欠かせません。
列で伐るか、一本ずつ選ぶか
間伐の手法は大きく二つ。列状間伐は植栽列を一定間隔で機械的に伐る方式で、選木がいらないぶん作業時間が単木選別の6割ほどで済み、機械化との相性も抜群です。北欧・北米で主流で、日本でも2010年代以降広がりました。ただし優良木も無差別に伐ってしまうため、林分の質的な選別はできません。低質林や急傾斜地、労働力不足の現場、バイオマス用材に向きます。
一方の単木選別間伐は、一本ずつ評価して形質の悪い木や被圧木を選んで伐る、日本の伝統的なやり方です。高品質材づくりに有利で生物多様性にも配慮できますが、選木の技術者が要り、作業時間も人件費もかさみます。近年は、作業道沿いを列状で開けてから隣接列を選別する折衷方式が、森林組合の標準施業に採り入れられつつあります。なお間伐材を市場に売る利用間伐では1ha当たり10〜80万円の収入が見込めますが、それには末口14cm以上の径級と搬出コストの回収が前提で、結局は路網整備の状況が経済性を決めます。
なぜいま「強度間伐」なのか
本数の4〜6割を伐る強度間伐が、ここ数年の現場で注目されています。国内外の長期実証で、林分のレジリエンス(回復力)と経済性の両面での利点が示されてきたからです。残す木の成長が加速する、林床が明るくなって広葉樹が侵入し混交化が進む、間伐収入を早い段階で得られて経営が回りやすくなる、といった効果が並びます。
とりわけ気候変動下で効いてくるのが乾燥耐性です。立木どうしの競争が緩むと1本あたりが使える土壌水分が増えるため、猛暑・少雨の年でも間伐された林分のほうが枯損が少ないことが、各地の観察で報告されています。実践では、将来の主伐木になる健全・通直な個体を「フューチャーツリー(目標木)」として選び、その周囲を強く伐る方式が普及しています。一度に超強度にせず、林分の反応を見ながら段階的に強めること、尾根筋や卓越風方向には防風帯を残すことが、風害を抑える勘どころです。
LiDARとAIが選木を変える
2020年代に入り、リモートセンシングが間伐計画を効率化しています。航空機搭載のLiDARを使えば、立木1本ごとの位置・樹高・直径の推定値が広範囲で得られます。林野庁の高度化事業で航空レーザ計測の対象地は年々広がっており、森林資源のデジタル情報が間伐計画の土台になりつつあります。ドローンを使えば林分単位でさらに高解像度の計測ができます。
研究機関や民間企業が開発するAI選木システムは、LiDARの点群から樹冠形状や隣接木との競合を自動評価して、伐採候補木を抽出します。熟練技術者の判断に近い結果を短時間で出せるため、中山間地で深刻な高齢技術者不足への解決策として期待されています。衛星データはより広域の林分密度や健全度のモニタリング、補助金の実施確認、違法伐採の監視にも使われています。
気候変動と炭素クレジットが背中を押す
気候変動は、間伐の最適解そのものを動かしつつあります。乾燥化が進む地域では低密度の林分のほうがストレスに強く、間伐が干ばつによる枯死を減らすことが、米国西部などの研究で示されています。一方で台風は将来的に強度が増すと見込まれており、強間伐後の風害リスクとのバランスが問われます。単純林の脆さを補うために広葉樹を混ぜる選木、温暖化で被害域が北上するナラ枯れやマツ材線虫病に備えて弱った個体を優先的に伐る「衛生間伐」も重要性を増しています。
こうした間伐を経済的に後押しするのが炭素クレジットです。J-クレジット制度では、森林経営活動によるCO2吸収量が認証されてクレジットになり、間伐の収支を補う付加収入になります。間伐材をバイオマス燃焼ではなくCLTや集成材といった長期木材製品(HWP)に固定すれば、国の吸収量目録上の貢献度も上がります。森林環境譲与税(近年で年600億円超)や造林・保育の補助(森林経営計画認定地では加算あり)とあわせ、制度面の支えは厚くなっています。それでも実施を縛る根本要因は、大きく減った林業労働力、欧州に遠く及ばない路網密度(全国平均24m/ha前後)、そして高額な高性能林業機械の3点です。
よくある疑問
間伐回数は何回が標準?
植栽から伐採までの40〜60年で3〜5回が標準です。施業開始は10〜15年生からで、5〜10年間隔で入れます。80年以上の長伐期施業では4〜7回に増えます。
スギとヒノキで強度は違う?
違います。陽樹的なスギは標準30〜40%の強間伐に適応しますが、やや陰樹寄りのヒノキは20〜30%で段階的に。ヒノキを急に強く間伐すると表皮焼け(日焼け被害)が出ることがあります。
間伐が遅れた林分はどう挽回する?
一気に50%超を伐ると風害・倒伏のリスクが高いので、数年間隔で2〜3回に分けて段階的に強めるのが安全です。間伐遅れの林分は幹が細く高い(形状比が高い)ため、最初は本数率2割程度の弱めから始めます。

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