日本の人工林1,020万haのうち、51年生以上(11齢級以上)の林が約590万ha、面積の58%を占めています。これは戦後の拡大造林期(1950〜1970年代)に一斉に植えられた木々が、いま揃って伐りごろを迎えているということ。年間に育つ量(成長量)が約7,000万m³もあるのに、実際に伐り出される量は2,200万m³どまり——「資源はたっぷりあるのに使いきれていない」という、いまの日本の森を象徴する構造がここにあります。その中身を見ていきましょう。
なぜ齢級がこんなに偏ったのか
日本の人工林の林齢分布は、現在11〜18齢級(51〜90年生)に極端に山が寄った、いびつな形をしています。原因ははっきりしていて、戦後復興期の住宅・坑木需要を背景に、1957年に始まった拡大造林政策のもとで集中的に植林が行われたからです。1950年代後半から1970年代前半の約20年間、年20〜35万haというペースで植え続けられ、累計500万ha以上が新たに人工林になりました。その「植栽のピーク」が、そのまま現在の林齢の山として残っているのです。
逆に1980年代以降は植林が急減し、1990年代以降は年2〜4万ha水準まで落ち込みました。木材価格の長期低迷、林業従事者の減少、伐採後に植え直しを断念する林家の増加が重なった結果です。そのため25年生以下の若齢林(1〜5齢級)は全体の約10%しかありません。各齢級が均等に並ぶ理想の森と比べると、若い木が足りず高齢の木が余るという、極端にアンバランスな姿になっています。
樹種ごとに見ると山の位置が少しずつ違います。スギは拡大造林の主役だったため11〜14齢級が突出して厚く、平均林齢は約53年。標準的な伐期45〜50年をすでに超えた「過熟林」の状態です。ヒノキはやや遅れて植えられたため平均49年で、今後20年で大規模な主伐期を迎えます。カラマツも平均54年と高めで、北海道・長野では伐採の遅れが資源の停滞を生んでいます。
「持続可能伐採量」の半分も使えていない
では、毎年どれだけ伐っていいのか。林野庁の試算では、人工林の蓄積33.1億m³を標準伐期70年で割った約4,700万m³/年が持続可能な伐採量とされ、面積にすると年70万ha程度の主伐が物理的には可能です。ところが実際の主伐面積は年7万ha——試算量の10分の1にすぎません。
このギャップは「資源が余っている」という意味ではありません。木材市場の需要、伐採コスト、路網の密度、労働力という4つの制約が、伐採量を縛っている結果です。立木価格は1980年比でスギ約1/4、ヒノキ約1/3まで下がり、所有者にとって伐っても利益が出にくい。さらに伐ったあとの再造林には1ha100万円規模のコストがかかります。伐採と再造林の経済性が成り立たないことが、伐採が進まない根っこにあるのです。
若齢林10%が突きつける宿題
25年生以下の若い人工林は約100万ha、全体の10%。理想の平準林なら20%は欲しいところで、その半分しかありません。これは過去20年、主伐後に植え直されなかったか、新規の造林が止まっていたことの裏返しです。主伐面積に対して再造林された面積の割合(再造林率)は地域差が大きく、推計で30〜50%程度。半分以上の伐採地が植え直されないまま放置されている可能性が指摘されています。
障害はやはり経済性です。1ha当たりの再造林コスト(地拵え・植栽・下刈10年分など)はおよそ100〜120万円。造林補助金(標準補助率68%)を使っても、林家が30〜40万円を負担しなければなりません。立木の売却益が低いため、伐採で得たお金から植え直し費用を捻出できない——この構造が再造林率を押し下げています。フィンランドやスウェーデンが再造林率95%以上を保っているのは、木材価格が日本の2〜3倍と高く、補助金に頼らず自立的に植え直せるからです。
地域でこんなに違う林齢
都道府県別の林齢構成は驚くほど差があります。スギの主産地である南九州(宮崎・熊本・大分・鹿児島)は平均林齢が約45〜50年と全国平均より若く、伐って植え直す回転が早い。一方、東北・関東・近畿の山岳部は平均55〜65年と高齢化が進み、過熟林の比率が大きくなっています。
この差が、地域ごとの優先課題を分けます。短伐期の循環が定着した南九州は、コンテナ苗や自動植栽機の先進導入地で、苗木・植栽機械の需要が大きい。一方、過熟林を抱える北日本・東北は、伐り出して運ぶための高密度路網と大型林業機械の整備が重点になります。
植え直しを支える新しい技術
主伐期590万haの再造林を担う技術として、林野庁はエリートツリーとコンテナ苗の普及を進めています。エリートツリーは育種で選抜した母樹由来の苗で、スギでは成長量・CO2吸収量が1.5倍以上。伐期を50年から35〜40年へ短縮できる可能性があり、林齢の平準化を早める効果が期待されます。2024年時点の年間出荷は約1,000万本、植栽全体の1割ほどに達しました。
コンテナ苗(プラグ苗)は、根鉢付きで植栽時期の制約がゆるく夏でも植えられ、植栽の労働生産性が約1.5倍に上がります。2023年時点で出荷苗の約60%がコンテナ苗となり、自動植栽機と組み合わせて再造林を機械化する前提技術になっています。エリートツリーとコンテナ苗を合わせると再造林コストを20〜30%下げられる見込みで、再造林率の経済的な壁をやわらげるパッケージとして期待されています。林野庁は2030年までに再造林率60%への引き上げを目標に、補助率の上乗せ、低密度造林、シカ防護柵への補助加算、森林経営管理制度による集約化、J-クレジットによる環境価値のマネタイズなどを組み合わせて進めています。
よくある疑問
「齢級」って何ですか?
林齢を5年単位でまとめた区分です。1齢級が1〜5年生、2齢級が6〜10年生、11齢級が51〜55年生となります。森林簿や森林経営計画の標準的な集計単位で、林の成熟度や主伐期の判定基準として使われます。
主伐期の人工林を全部伐ったらどうなる?
11齢級以上の590万haを年70万haずつ伐れば8〜9年で一巡しますが、現実の主伐は年7万ha。需要・労働力・コスト・路網の制約が伐採速度を決めているので、急に主伐を増やせば供給過剰で価格暴落を招くリスクがあります。資源量より、それを使いきる需要とインフラのほうがボトルネックなのです。
エリートツリーで偏りは解消できる?
成長が1.5倍速いぶん伐期を短縮でき、主伐の回転を早めて林齢の平準化を助ける効果はあります。ただ現状の出荷は年1,000万本(植栽の1割)どまり。今後20年で年5,000万本〜1億本規模まで増やす必要があり、種苗の生産能力を強化できるかが鍵になります。万能薬ではなく、機械化や路網整備と組み合わせて初めて効いてくる技術です。
関連記事
出典・参考:林野庁「森林資源の現況」/林野庁「森林・林業白書」/林野庁「森林・林業統計要覧」/林木育種センター/林野庁「エリートツリー」

コメント