「日本の森林」とひとくちに言っても、その持ち主はバラバラです。国が持つ国有林と、それ以外が持つ民有林——この2つでは、面積も役割も、抱えている課題もまるで違います。全体2,505万haのうち国有林は758万ha(30.3%)、民有林は1,747万ha(69.7%)。本稿では、この所有のかたちが森林経営にどう効いているのかを、林野庁の統計をもとにほどいていきます。
まず全体像:森林は3つの所有に分かれる
森林の持ち主は、大きく3つです。国(林野庁)が持つ国有林758万ha、都道府県や市町村が持つ公有林307万ha、そして個人や法人が持つ私有林1,440万ha。このうち公有林と私有林を合わせたものが「民有林」と呼ばれます。つまり民有林とは「国のもの以外」のひとくくり、というわけです。
この線引きは明治時代までさかのぼります。1899年の国有林野法を境に、開発の難しい奥山や原野は国の財産として組み込まれ、人里に近い里山は私有のまま残されました。「国有林は奥山に、民有林は人の暮らしの近くに」という空間的な役割分担が、このとき形づくられたわけです。だからこそ、いま木を切り出すのは主に民有林、森を守る役目は主に国有林、という現代の構造が生まれています。
国有林758万haはどこにある?
国有林は北海道に偏っています。1道だけで約230万ha、国有林全体の3割。これに東北6県の約180万haを足すと、もう半分を超えます。続いて中部山岳が約120万ha、近畿の紀伊半島と九州がそれぞれ約60万ha。北海道への集中ぶりは、明治以降の北海道開拓と原野国有化の名残です。
管理体制も独特です。林野庁は全国に7つの森林管理局と98の森林管理署を置き、約4,800人の職員が運営にあたっています。ただし、これだけ手をかけていても国有林からの木材生産は年200万m³ほど。というのも、国有林の役割は木を売ることより森を守ることに置かれているからです。機能区分でいうと、治山・水源涵養といった山地災害防止タイプや、保護林などの自然維持タイプが大半を占め、純粋な木材生産タイプは約70万ha、国有林全体の1割にも届きません。ここが民有林と決定的に違うところです。
民有林1,747万ha:83万人がバラバラに持つ
民有林の内側はさらに複雑です。公有林307万haは都道府県有林130万ha・市町村有林175万ha・財産区有林2万haに分かれ、北海道道有林52万haのような大規模なものから、町村合併や入会林野の名残で生まれた小さなものまで様々です。
そして私有林1,440万ha。これを持っているのは約83万戸で、ここに日本の林業最大の悩みが凝縮されています。下の表のように、所有者の数では小さな土地を持つ人が圧倒的に多く、面積では大きな地主にぐっと偏る——この「人数と面積のねじれ」が、まとめて施業しにくい根本原因になっています。
| 所有規模 | 所有戸数 | 面積 | どんな層か |
|---|---|---|---|
| 5ha未満 | 約50万戸 | 約145万ha | 兼業・里山の零細林家 |
| 5〜20ha | 約17万戸 | 約324万ha | 地域の中核を担う層 |
| 20〜100ha | 約5万戸 | 約360万ha | 中規模の専業林家 |
| 100ha以上 | 約1万戸 | 約611万ha | 山林地主・企業所有林 |
戸数では5ha未満の零細層が6割を占めるのに、面積では100ha以上の大規模層が私有林の4割超を抱える。林業政策を「人」で見るか「面積」で見るかで、打つべき手がまるで変わってくるのです。大規模所有のなかには住友林業など企業の社有林、比叡山延暦寺や高野山金剛峯寺といった寺社林、旧家の山林、そして入会林野(共有山林)が含まれます。
木を切るのは民有林、森を守るのは国有林
所有のかたちの違いが最もはっきり出るのが、木材生産です。全国の素材生産2,200万m³のうち、民有林が約2,000万m³(91%)、国有林はわずか200万m³(9%)。国有林は面積で3割を占めるのに、木材生産では1割に届かない。逆に保安林などの保全機能は国有林が大きく担う——この役割分担が、所有別の最大の特徴です。
蓄積(森にたまっている木の量)で見ると、1ha当たりは国有林158m³に対し民有林246m³と、民有林のほうが5割以上多い。これは民有林の人工林率(45%)が国有林(32%)より高いためです。スギ・ヒノキを植えた人工林は、自然のままの天然林より単位面積あたりの木の量が多くなる。だから「木を産み出す力」は民有林に集まっているわけです。国産材自給率42.4%の行方も、結局は民有林がどれだけ木を出せるかにかかっています。
それぞれが抱える、別々の宿題
同じ森林でも、国有林と民有林では悩みの種類が違います。
国有林の宿題は、限られた木材生産タイプの収益性をどう確保するか、巨大な保安林・保護林の管理コストをどう負担するか、そして約4,800人の職員の高齢化と後継育成です。林野庁は2019年に国有林野管理経営法を改正し、民間事業者に最大50年の施業権を与える「樹木採取権」を導入しました。事実上、国有林の一部を民間に経営委託するモデルで、所有のかたちが経済合理性に応じて動き始めた象徴といえます。
民有林の宿題は、なんといっても零細所有の集約化です。これに不在村所有者(私有林の2〜3割が地元に住んでいない)と相続未登記森林(約290万ha)の問題が重なります。2019年に始まった森林経営管理制度は、経営意欲のない私有林を市町村がいったん預かり、意欲ある林業経営者に再委託する仕組み。その財源を支えるのが森林環境譲与税です。
森林環境譲与税という燃料
森林環境譲与税は2019年創設の地方財源で、年間500億円規模が市町村・都道府県に配られます。配分基準は私有林人工林面積(55%)・林業就業者数(20%)・人口(25%)の加重平均。つまり私有林の多い山間部ほど多くもらえる設計で、境界の明確化や人材育成、木材利用に重点投入されます。ちなみに国有林はこの譲与税の対象外で、林野庁の一般会計予算で別建てに整備されます。同じ森でも財布が違う、というのもまた所有別構造の現れです。
世界と比べると、日本の森は何が特殊なのか
国際比較でみると、日本の国有林比率30%はちょうど真ん中あたり。カナダは77%、ロシアは100%(全林公有)、中国55%と公有が多い国がある一方、フランス11%、ノルウェー13%と少ない国もあります。日本の本当の特徴は国有林比率そのものではなく、民有林の所有規模が極端に小さいこと(平均6ha程度)、私有林比率が58%と先進国の中でかなり高いこと、そして木材生産が民有林に91%も偏っていること。この3点が、日本の林業政策に独特の難しさを与えているのです。
国有林は奥山で森を守り、民有林は人里で木を産む。この補完関係を前提に、零細な私有林をどう束ねていくか——森林経営計画の認定面積400万ha、市町村の経営管理制度の実施率82%という数字は、その答え探しが今まさに実装段階に入っていることを示しています。森の持ち主が誰かという問いは、これからの林業を左右する一番根っこの論点なのです。

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