スギ(Cryptomeria japonica)の人工林は、全国で約444万ha。これは人工林全体の4割強にあたり、単一の樹種としては日本でいちばん広い森林資源です。木がため込んでいる木材の量(蓄積)はおよそ28億m³で、人工林全体の蓄積の85%をスギ1種類で占めています。「日本の人工林=ほぼスギ」と言ってもそう外れていない、それくらい圧倒的な存在です。
ここでは、そのスギ人工林がどこに分布し、何年生の木が多く、いくらで売れて、どんな経済構造になっているのかを、林野庁の統計をもとに整理していきます。数字は多めですが、なるべく「だから何が起きているのか」が見えるように並べました。
どこに多い? 九州と東北に偏るスギ
スギ人工林は全国にまんべんなく、というわけではなく、九州と東北にはっきり偏っています。九州4県(宮崎・大分・熊本・鹿児島)で約95万ha、東北6県でも約100万haと、この2地域だけで全国のおよそ4割。県単位で最大は宮崎の約30万haで、秋田27万ha、岩手24万ha、大分・高知が各23万haと続きます。
こうした偏りは偶然ではなく、1955〜1975年ごろの「拡大造林」の名残です。当時、成長が早く苗木も手に入りやすいスギが各地で大量に植えられ、その中心が九州と東北でした。九州には暖地系(霧島・屋久島系統)、東北には寒地系(秋田・米代川系統)と、地域ごとに違う系統が植えられたため、いまのスギ資源は遺伝的にもけっこう多様です。
蓄積28億m³ ── 中身は「高齢の木」ばかり
スギの蓄積28億m³を面積で割ると、1haあたり約630m³。人工林全体の平均(約325m³/ha)のおよそ2倍で、ヒノキ(約530m³/ha)も上回ります。スギは成長が早く、密にため込む樹種なのです。この蓄積は1970年代の約7億m³から50年で4倍に膨らみました。戦後に植えた木がいっせいに育った結果です。
ところが、いまその中身を年齢別に見ると、かなり偏っています。51年生以上(11齢級以上)が全体の約75%、平均林齢は53年。標準的な伐り時とされる45〜50年をとっくに超えた「高齢林」が大半を占めているのです。
| 林齢 | 面積(万ha) | 構成比 |
|---|---|---|
| 〜25年(幼壮齢林) | 約25 | 約6% |
| 26〜50年(中齢林) | 約85 | 約19% |
| 51〜75年(高齢林) | 約240 | 約54% |
| 76年〜(過熟林) | 約94 | 約21% |
北欧の林業地では伐り時を超えた高齢林は1〜2割程度。それと比べると日本の75%は突出しています。なぜこんなに伐られず残っているのか──その答えは、次の「値段」の話につながります。
値段が4割の重み ── 40年続くデフレ
スギの素材価格(中丸太)は2023年で14,200円/m³。これ、決して安い数字に見えないかもしれませんが、1980年は約50,000円でした。40年あまりで72%下落しています。1990年代に3万円、2000年代に1.6万円と段階的に下がり、2021年のウッドショックで一時2万円台に跳ねたものの、結局また1.4万円台に戻ってきました。
もっと深刻なのが山元の立木価格(立っている木そのものの値段)で、2023年は2,800円/m³。1980年の約3万円から実に9割下落です。素材より立木の下落幅が大きいのは、伐り出して運ぶコスト(人件費・燃料費)が下がらないため。木が安くなった分のしわ寄せが、ほぼそのまま山主の取り分に来ている構図です。
下落の原因は複合的です。住宅着工が1990年の年170万戸から2020年代は80〜90万戸へほぼ半減し、構造材としての需要が縮小。そこに輸入材との競合と、戦後造林の木がいっせいに伐り時を迎える供給増が重なりました。需要減と供給増が同時に起きれば、値段が下がるのは当然の帰結です。
用途は変わりつつある ── 合板・燃料・輸出
スギの使い道は、製材(柱・梁などの構造材)が約6割でいまも主役。ただ、住宅着工の減少で製材需要は縮小傾向です。代わりに伸びているのが合板用材で、国産材合板に占めるスギ等の割合は2000年の約2割から2023年には約85%へ急上昇しました。さらにFIT制度(2012年〜)をきっかけにバイオマス発電向けの燃料材が拡大し、CLT(直交集成板)も少しずつ実用が広がっています。
輸出も新しい需要源です。2023年の木材輸出額は約470億円で、2010年比でおよそ10倍。中国向けの丸太が半分を占めます。中国は2017年に天然林の伐採を全面禁止して以降、外材依存を強めており、近くて安く安定供給できる日本のスギが評価されているのです。製材という従来の柱は細りつつも、合板・燃料・輸出という新しい柱が育ちはじめている、という見取り図になります。
1haでいくら儲かる? 答えは「ほぼトントン」
では実際、スギ林を1ha経営するとどれくらいの収支になるのか。ざっくり試算してみると、これがなかなか厳しい数字です。
立っている木の資産価値は1haで170〜220万円ほど。しかし伐って運ぶのに80〜120万円かかるので、山主の手取り(立木売却益)は50〜100万円に減ります。そこから次の世代を植える再造林に100〜120万円。補助金(最大68%)を使ってようやく、50年がかりで数十万円の利益が残る、年率にすれば1〜2万円という世界です。銀行預金より低い利回り。これが「伐っても次を植えない」林が増える、いちばんの理由です。
実際、主伐後にちゃんと植え直す再造林率は全国平均で3〜4割にとどまります。欧州の8〜9割、米国南部の7割台と比べて半分以下。残りは伐ったあと放置されたり雑木林に戻ったりしていて、これがスギ人工林がじわじわ縮む長期的な要因になっています。補助制度はあるのですが、上の収支を見れば、山主が「植え直そう」と思いにくいのも無理はありません。
経済資源であり、CO2吸収源でもあり、花粉でもある
スギ人工林のCO2吸収量は年間およそ2,000万t-CO2と推計され、日本の森林全体の吸収量(約4,800万t)の4割を占めます。脱炭素目標における最大の吸収源であり、J-クレジット制度の森林プロジェクトでもスギ由来が最大の比重。成長量1.5倍・雄花量半分以下の「エリートツリー」の植栽が、収益とCO2吸収の両立を狙う切り札として期待されています。
一方で、スギは花粉症の主要因という顔も持ちます。患者は3,000万〜4,000万人とも言われ、経済損失は年数千億円規模。無花粉・少花粉スギの開発が進み、新規植栽の約半分はすでにこうした品種に切り替わっていますが、既存の444万haを置き換えるには数十年単位の時間がかかります。当面は花粉とつき合いながら、少しずつ更新していくしかありません。
経済資源、気候変動対策、地域経済、国土保全──スギ人工林はこの4つの役割を同時に背負う、多機能な資源です。値段の長期低迷という重い課題を抱えつつも、合板・CLT・燃料・輸出という新しい需要と、次世代品種による若返りが進めば、これからの20年で構造はかなり変わっていくはずです。
よくある質問
スギ人工林の面積は増えている? 減っている?
この20年はほぼ横ばいから微減です。新しく植える面積(年3〜4万ha)より、伐られて減る面積(年5〜7万ha)のほうが多いため。再造林率が上がらない限り、長い目で見れば徐々に縮んでいく可能性があります。
1haの経営でどのくらい儲かる?
50年通しての山主のネット利益は補助金込みでも50〜80万円、年あたり1〜2万円ほどです。専業で生計を立てるには100ha以上の規模か、兼業が現実的。森林経営計画の認定による補助の上乗せが収益確保のカギになります。
主伐率1%だと何が問題なの?
欧州(年2〜4%)や北米(年1.5〜2%)の半分以下で、高齢の木がたまり続けて若返りが進みません。CO2をよく吸うのは成長期の若い木なので、このままだと吸収量も先細りに。再造林コスト・労働力・需要という3つの制約を同時に解く政策が必要とされています。
出典・参考:林野庁「森林資源の現況」/農林水産省「木材需給表」/農林水産省「木材価格」/林木育種センター

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