森林経営管理制度2019|市町村経営型の進捗と課題

森林経営管理法2019

持ち主が高齢で山に手が回らない、相続が重なって誰の山か分からない、伐っても採算が合わない——日本の森林が抱えるこうした「経営困難」を、市町村が橋渡し役になって解こうとする仕組みが森林経営管理法です。2019年4月に施行され、経営が難しい森林を市町村がいったん預かり、意欲ある林業経営体に再委託する。所有権はそのままに、経営だけを動かす——その点で日本の森林管理を大きく変える制度です。

施行から数年。意向調査に着手した市町村は全国1,718のうち大多数に広がり、再委託先となる「意欲と能力のある経営体」も各都道府県で登録が進みました。一方で、市町村が実際に経営権を取得して施業に結びついた面積は、対象と見込まれる規模に比べればまだ一部にとどまります。この記事では、制度のしくみと進捗、収益の分け方、そして残る課題を整理します。

施行年 2019 年4月 5年経過 運用拡大期 経営権の集積 初動段階 施業に結びつく 対象規模の 一部にとどまる 対象森林 経営困難林 が広く分布 高齢化・相続・ 採算難が背景 経営体 登録が進む 都道府県知事 意欲・能力ある 再委託先
図1:森林経営管理法の主なポイント(林野庁の情報より)
山並みに広がる森林と霧
山岳林の俯瞰 (Photo by Paul Summers on Unsplash)
目次

なぜこの制度が必要だったのか

日本の森林2,500万haのうち、民有林が約1,740万ha(約70%)で、そのうち私有林が約1,450万ha。戦後の拡大造林で植えられたスギ・ヒノキなどの私有人工林が、いままさに伐期を迎えつつあります。ところが現実には、その多くが手をつけられない状態にあります。所有者の平均年齢は70歳を超え、相続のたびに共有持分が細分化し、所有者不明の森林は私有林の2割超にのぼると推計されます。平均所有規模の零細さも、集約しなければ採算が立たない原因です。

こうした森林を放置すれば荒廃が進み、土砂災害や水源機能の低下を招きます。所有者の意思を確認し、経営困難な森林を市町村が預かり、意欲ある経営体に再委託する——この包括的な仕組みとして生まれたのが森林経営管理法です。

3者をつなぐ経営権の移転

制度の核心は、所有者 → 市町村 → 意欲ある経営体へと経営権を渡していく流れにあります。市町村がまず所有者の意向を調べ、経営困難な森林を特定して経営管理権を集積し、登録された経営体に再委託する。施業で得た木材売却収益は、経営体・市町村・所有者の順で分配されます。

段階 主体 主な活動
1. 所有者意向調査 市町村 森林所有者に経営意向を確認
2. 経営権の市町村集積 市町村 経営管理権集積計画を策定
3. 経営体の選定・再委託 市町村=経営体 登録経営体に実施権を設定
4. 施業実施 経営体 間伐・主伐・路網整備など
5. 収益分配 3者 木材売却収益を分配

経営的な施業がそもそも難しい急峻地や木材価値の低い森林は、無理に伐らず残置森林として自然な状態で管理する選択肢もあります。保安林指定やJ-クレジットの吸収源として、水源涵養・土砂崩壊防止といった公益機能を発揮させる——経済価値だけでなく環境価値も尊重する考え方です。

所有者を4タイプに分けて対応する

市町村が行う意向調査では、所有者を次の4つに分類して対応します。森林経営管理法が本来ターゲットとするのは、経営が難しく市町村経営に同意する「類型C」です。

類型 所有者の意向 市町村の対応
A:自ら経営する 経営意欲あり 経営計画策定支援・補助対象
B:経営体に直接委託 意欲はあるが自ら困難 経営体マッチング支援
C:市町村経営委託に同意 経営困難・委託に同意 本制度の対象
D:意向不明・所有者不明 連絡が取れない 不在所有者制度の活用

地域差は大きいものの、類型Cが最大ボリュームになる市町村が多くを占めます。所有者不明の類型Dには、相続人特定調査や戸籍・住民票調査、公告手続きを経て、最終的に特定が困難でも市町村が経営権を取得できる不在所有者制度が用意されています。これにより、放置されがちだった森林にも計画的な施業の道が開けました。仕組みとしては、探しても所有者が判明しない森林について、市町村が一定期間の公告(異議申立期間)を経れば経営権を集積でき、後日所有者が現れた場合には施業収益から相当額を供託して権利を守ります。ただし戸籍調査には専門性とコストがかかり、小規模な森林ほど探索費が収益に見合わないという壁があります。

こうした実務を補うのが「地域林政アドバイザー」です。県職員OBや普及指導員OB、森林組合の経験者などから市町村が選任し、意向調査票の設計や経営計画の策定支援、経営者の公募要綱づくりといった実務を支えます。専門人材を自前で抱えにくい小規模市町村にとって、制度を回すための現実的な補完策になっています。

再委託先と財源——制度を支える2本柱

市町村から再委託を受ける「意欲と能力のある経営体」は、都道府県知事の登録制度に基づきます。経営の継続性、林業労働者の確保、施業の確実性、財務基盤といった要件を満たすことが条件で、全国で登録が進んでいます。内訳は森林組合系と民間素材生産業が中心で、伝統的な林業組織と民間業者が混在しています。こうした担い手をどう確保・育成するかが、制度の実効性を左右する最大の鍵です。

運用の財源を支えるのが森林環境譲与税です。2019年に導入され、国の森林環境税(2024年から本格課税、年620億円規模)を原資に、市町村と都道府県へ配分されます。配分基準は私有林人工林面積55%・林業就業者数20%・人口25%。市町村はこの財源で意向調査・集積計画策定・契約管理・モニタリングのコストを賄えるため、森林経営管理法と森林環境譲与税は「役割と財源の二本柱」として噛み合っています。

木材を売ったら、所有者にいくら戻るのか

所有者にとって気になるのが収益の分け方です。施業して木材を売り、その収益を分配する基本構造は次のとおりです。

分配の主体 取り分の内容 概算割合
経営体(再委託先) 施業コスト・労務・機械償却・利益 大部分
市町村 経営権管理費・モニタリング費 一部
森林所有者 残余分(純利益) 残り

この配分は森林の生産性・木材価格・地域条件で大きく動きます。大径良質材の主伐なら所有者の取り分が増え、小径間伐材中心だと経営体・市町村の取り分が大きくなる。作業道整備などの初期投資があれば、当初は所有者分が小さくなることもあります。長期的には複数年・複数施業の累積で、所有者に相応の還元が確保される設計です。これに森林由来J-クレジットを組み合わせれば、木材収益に加えてクレジット収益を得られる可能性もあります。

残る課題と、これからの見通し

実際に施業に結びついた面積は、対象と見込まれる規模のまだ一部にとどまります。市町村の人材・体制不足、所有者特定の難しさ、経営体を確保しにくい地域の存在、木材販売の採算、長期管理の継続性——課題は山積みです。一方で、森林環境譲与税の継続支援、J-クレジットによる追加収益、GIS・LiDAR・ドローン・AI画像解析といったデジタル技術による効率化が、改善の方向を示しています。

森林は数十年から数百年かけて育つ長期の資源で、その管理体制も同じ時間軸で築く必要があります。2026年の新しい森林・林業基本計画は、民有人工林の集積・集約化を2030年に210万haへ広げる目標を掲げました。これを現実にするには、市町村の人材育成、地域経営体の確保、財源の継続、デジタル活用、そして地域住民の理解と協力が、同時に整っていくことが欠かせません。森林経営管理法は、次の世代へ森を引き継ぐための土台であり、社会全体で支えていくべき仕組みです。

よくある質問

Q. 所有者の同意なしに進められる?

原則として所有者の意向を確認・尊重します。所有者不明の場合は所有権を確認する手続きを経て不在所有者制度を活用しますが、完全に同意なしで進めるわけではありません。

Q. 森林経営管理法と森林経営計画はどう違う?

森林経営計画は所有者・経営者が自主的に作る計画、森林経営管理法は市町村が経営委託を受ける制度です。両者は補完関係にあり、組み合わせて使われます。

Q. 環境保全はどう確保される?

経営権集積計画には森林管理計画・施業計画との整合が求められ、生物多様性・水源涵養・景観保全などの多面的機能の維持が確保されます。森林認証取得との連携も進められています。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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