森林経営管理制度2019|市町村経営型の進捗と課題

森林経営管理制度2019 | 森と所有 - Forest Eight

森林経営管理法(2019年4月施行)は、所有者が経営困難な森林を市町村が経営委託として取り込み、意欲ある林業経営体に再委託する仕組みで、日本の森林管理体制を根本的に変える画期的な制度です。2024年度末までに市町村が経営権を取得した森林面積は累計約15万ha超意欲と能力のある経営体(再委託先)は約2,000事業体に達し、所有者高齢化・所有不明化・経営放棄という日本の森林の構造的課題への組織的な対応が進んでいます。対象となる森林は私有人工林663万ha中、所有者特定困難・経営困難なものが推定100万ha超と見込まれ、長期的には市町村経営委託の対象拡大が継続見込みです。本稿では、制度の背景・しくみ・運用実績・地域別進捗・国際比較・課題と展望を、数値ファーストで詳細に整理します。

この記事の要点

  • 森林経営管理法 施行:2019年4月。所有者経営困難森林の市町村経営委託制度。
  • 累計委託面積:約15万ha超(2024年度末)、年間2〜3万ha増加ペース。
  • 対象森林:私有人工林663万haのうち推定100万ha超が経営困難状態。
  • 意欲と能力のある経営体:約2,000事業体。森林組合・民間業者中心。
  • 市町村1718のうち約1,400市町村が制度運用に着手(2024年度末)。
  • 森林環境譲与税年500億円規模と連動した実施体制。
施行年 2019 年4月 5年経過 運用拡大期 委託面積 15 万ha累計 2024年度末 年2-3万ha増 対象森林 100 万ha推定 経営困難林 私有人工林663万ha中 経営体 2,000 事業体 意欲・能力ある 再委託先
図1:森林経営管理法の主要諸元(出典:林野庁、各市町村公表)
目次

制度の背景:日本の森林の構造的課題

日本の森林2,500万haのうち、私有林は約1,750万ha(約70%)を占めます。このうち人工林は約1,000万ha、特に戦後の拡大造林期に植林されたスギ・ヒノキ等の人工林は663万haに及び、現在伐期を迎えつつあります。しかし、(1)所有者の高齢化と相続発生、(2)所有者不明化、(3)経営の経済性低下、(4)林業意欲の喪失、(5)相続放棄や所有権関係の複雑化、などの構造的な問題から、これら人工林の多くが「経営困難状態」にあります。

課題 状況 影響
所有者の高齢化 所有者平均年齢70歳超 施業意欲低下
所有者不明森林 推定面積25%以上 連絡・管理困難
経済性低下 素材生産費 vs 木材価格 投資意欲喪失
分散小規模 平均所有2〜3ha 集約が必要
相続関係の複雑化 共有持分・相続争い 意思決定停滞
世代交代の停滞 後継者不在 森林荒廃

このような構造的問題に対応するため、(1)所有者の意思確認、(2)経営困難森林の市町村経営委託、(3)市町村による意欲ある林業経営体への再委託、(4)森林環境譲与税の活用、を組み合わせた包括的な制度として、森林経営管理法(2019年4月施行)が制定されました。

制度のしくみ:3段階の経営権移転

森林経営管理法の核心は、所有者→市町村→意欲ある経営体への3段階の経営権移転です。具体的な流れは以下の通りです。

段階 主体 主要活動
1. 所有者意向調査 市町村 森林所有者に経営意向を確認
2. 経営困難森林の特定 市町村 所有者の同意・意向に基づき選定
3. 経営権の市町村移転 市町村 経営管理権集積計画策定
4. 意欲ある経営体の選定 市町村 意欲と能力のある経営体登録制度
5. 再委託契約 市町村-経営体 森林経営管理実施権設定
6. 施業実施 経営体 間伐・主伐・路網整備等
7. 収益分配 市町村-経営体-所有者 木材売却収益の分配
8. 残置森林の自然管理 市町村 経営困難森林は公的管理へ

この3段階の経営権移転により、所有者は経営から事実上離れる一方、長期的な森林管理は市町村と経営体の連携で確保されます。木材売却収益は概ね、経営体(施業コスト分)→市町村(管理費)→所有者(残余分)の順で分配されます。

累計15万haの実績:地域別進捗

森林経営管理法の運用は、地域によって進捗に大きな差があります。林野庁の集計(2024年度末)に基づく地域別の主要な進捗は以下の通りです。

地域 累計委託面積(推計) 制度運用市町村数 主要特徴
北海道 約2.0万ha 140市町村中100超 大規模森林・道有林との連携
東北 約3.5万ha 200市町村中180超 戦後造林スギ林の対象拡大
関東 約1.0万ha 230市町村中170超 都市近郊で所有者不明多
中部・北陸 約2.5万ha 280市町村中230超 長野・岐阜が積極的
近畿 約1.5万ha 200市町村中160超 奈良・和歌山中心
中国・四国 約2.0万ha 290市町村中240超 過疎地域での対応
九州・沖縄 約2.5万ha 270市町村中220超 大分・宮崎が活発

累計15万ha超の委託面積は、対象見込面積100万haの約15%で、5年でこの規模の進捗は制度の根付きを示す重要な実績です。一方、市町村ごとの進捗には差があり、(1)地形・森林資源、(2)市町村の人材・体制、(3)所有者構成、(4)森林環境譲与税の活用度、(5)地域経営体の存在状況、により地域差が生まれています。

市町村の体制:1,400市町村が運用着手

2024年度末までに、全国1,718市町村のうち約1,400市町村が森林経営管理法の運用に着手しました。市町村にとっては、(1)森林行政の専門人材確保、(2)所有者調査の実施、(3)経営権集積計画の策定、(4)経営体との契約・契約管理、(5)モニタリング体制構築、などの新しい責務が生まれています。

運用段階 市町村数(推定) 主要活動
制度未着手 約300市町村 都市部・小規模森林市町村
所有者意向調査段階 約400市町村 調査実施中
経営権集積計画策定段階 約500市町村 具体的な計画作り
再委託・施業実施段階 約500市町村 実際の施業が始まる
本格運用・継続段階 約100市町村 長期的継続体制確立

市町村の体制構築には、(1)林業行政担当者の専門化(地域森林管理士・林業経営アドバイザー等)、(2)森林環境譲与税の人件費・調査費活用、(3)都道府県・林野庁による技術支援、(4)GIS・LiDAR等のデジタル技術活用、(5)地域大学・研究機関との連携、などが進められています。

意欲と能力のある経営体:2,000事業体の参加

市町村から再委託を受ける「意欲と能力のある林業経営体」は2024年度末で全国累計約2,000事業体です。これは都道府県知事による登録制度に基づき、(1)経営の継続性、(2)林業労働者の確保、(3)施業の確実性、(4)木材販売の能力、(5)財務基盤、などの要件を満たすものとして登録されます。

経営体類型 主な構成 事業体数(推計)
森林組合 市町村森林組合・都道府県森連 約700事業体
素材生産業 民間素材生産・流通業者 約500事業体
森林整備事業体 造林・育林事業者 約300事業体
林業経営者・自営大規模 大規模個人経営 約200事業体
その他(NPO・コンソーシアム等) 新規参入経営体 約300事業体

森林組合系が約35%、民間素材生産業が約25%、森林整備事業体が約15%という構成で、伝統的な林業組織と民間業者の混合状態が形成されています。意欲ある経営体の確保は、市町村経営委託の実効性を支える最も重要な要素で、これら経営体の育成・支援が制度成功の鍵となります。

森林環境譲与税:500億円規模の財源支援

森林経営管理法の実施には財源が不可欠で、これを支えるのが森林環境譲与税です。2019年導入のこの制度は、年間総額500億円規模を全国の都道府県(20%)と市町村(80%)に配分し、森林整備・路網整備・人材育成・木材利用・普及啓発等の事業に活用できます。

項目 内容
創設 2019年(譲与税)、2024年(国の森林環境税本格課税)
年間税収 620億円(国税)、市町村譲与400億円・都道府県譲与100億円
配分基準 私有林人工林面積55%、林業就業者数20%、人口25%
使途 森林整備・路網・人材育成・木材利用・普及啓発
森林経営管理法との関係 市町村の運用財源として最重要

市町村は、所有者意向調査・経営権集積計画策定・経営体との契約・モニタリング等のコストを森林環境譲与税で賄うことができ、これが森林経営管理法の本格的な実施を可能にしています。両制度は「役割と財源の二重支柱」として機能しています。

所有者意向調査の現場:4類型への分類

市町村が実施する所有者意向調査では、森林所有者を以下の4類型に分類して対応します。

類型 所有者意向 市町村の対応
類型A:自ら経営する 経営意欲ある 経営計画策定支援・補助対象
類型B:意欲ある経営体に直接委託 意欲はあるが自ら経営困難 経営体マッチング支援
類型C:市町村経営委託に同意 経営困難・市町村経営に同意 本制度の対象
類型D:意向不明・所有者不明 連絡取れず・意向確認できず 不在所有者制度活用検討

類型Aは従来の森林経営計画制度で対応、類型Bはマッチングサポート、類型Cが森林経営管理法本来の対象、類型Dは特別な手続きで進めます。市町村は所有者意向調査を計画的に実施し、各類型の比率は地域により大きく異なります。一般的には、(1)類型A:10〜20%、(2)類型B:10〜20%、(3)類型C:30〜50%、(4)類型D:20〜40%、という分布が多く見られます。類型Cが最大ボリュームとなる地域が大多数で、まさに森林経営管理法の対象として重要な存在となっています。

不在所有者・所有者不明森林への対応

所有者不明森林は森林経営管理法の重要な対応対象です。所有者不明の主な要因は、(1)相続未登記、(2)共有持分の細分化、(3)海外移住者の連絡途絶、(4)戦災・災害による記録喪失、などです。林野庁の調査では、私有林の25〜30%が何らかの形で所有者特定に困難があると推計されています。

不明状況 対応手続 期間
相続登記未済 相続人特定調査・登記促進 数ヶ月〜数年
所在不明 住民票・戸籍調査・公告 1〜2年
共有関係複雑 持分法務調査・調停 1〜数年
完全所有者不明 不在所有者制度・公告手続 2年以上

不在所有者制度は、最終的な所有者特定が困難でも、公告手続きを経て市町村が経営権を取得できる仕組みで、森林経営管理法の重要な機能です。これにより、本来は管理が必要な森林を放置せずに、計画的な施業ができるようになります。

FAQ:森林経営管理法のよくある質問

Q1. 森林経営管理法で誰が変わるのですか?

A. 主に、(1)森林所有者(経営から離れる選択)、(2)市町村(経営権の保有者)、(3)林業経営体(再委託先として施業実施)、の3者の関係が変わります。長期的な森林管理体制が整備されます。

Q2. 所有者の同意なしに進められますか?

A. 原則として所有者の意向を確認・尊重します。所有者不明の場合は所有権を確認する手続きを経て、不在所有者制度を活用できます。完全に同意なしで進めるわけではありません。

Q3. 私有森林も対象ですか?

A. はい、私有人工林が主な対象です。所有者の同意のもと、経営困難な森林を市町村に経営委託する形で進められます。

Q4. 木材売却の収益はどう分配されますか?

A. 概ね、経営体(施業コスト・労務)→市町村(管理費)→所有者(残余)の順で分配されます。具体的な配分は契約により異なります。

Q5. 制度の進捗はどうですか?

A. 2024年度末までに累計15万ha超の委託面積、約1,400市町村が運用着手と、5年で重要な進展がありました。今後の長期的な拡大が期待されます。

Q6. 森林経営管理法と森林経営計画の違いは?

A. 森林経営計画は所有者・経営者が自主的に策定する計画、森林経営管理法は市町村経営委託の制度です。両者は補完関係にあり、複合的に活用されます。

Q7. 意欲ある経営体になるには?

A. 都道府県知事への登録申請が必要で、経営継続性・労働者確保・施業能力・財務基盤等の要件を満たす必要があります。森林組合・林業経営体・新規参入者などが登録できます。

Q8. 環境保全はどう確保されますか?

A. 経営権集積計画には森林管理計画・施業計画の整合が要求され、生物多様性・水源涵養・景観保全等の多面的機能の維持が確保されます。森林認証取得との連携も進められています。

Q9. 国際的な比較は?

A. 欧州(オーストリア・スイス)の森林整備協同組合、北米(カナダBC州)の州政府による森林管理など、各国に類似制度はありますが、日本の市町村経営委託は所有権を維持しつつ経営権だけを移転する独自性があります。

Q10. 今後はどうなりますか?

A. 累計委託面積は今後10年で50万ha以上に拡大する見込みです。森林環境譲与税との連動、森林J-クレジット活用、デジタル技術導入で運用効率が向上するとされます。

先進事例:北海道下川町・愛媛県内子町

森林経営管理法の運用が特に進んでいる先進事例から、運用上のポイントを学べます。

1. 北海道下川町:人口3,000人規模の小規模町ですが、町有林・町森林組合・林業専門人材が連携し、森林経営管理法の運用が早期に始まりました。累計委託面積は数千ha規模、独自の森林環境戦略と組み合わせて運用しています。SDGs先進都市としても認知され、森林管理と地域経済の連動モデルとして注目されています。

2. 愛媛県内子町:人口1.5万人の中山間地域で、ヒノキ・スギ人工林が多く、所有者高齢化が顕著です。町・森林組合・地域林業経営体が連携し、所有者意向調査を計画的に実施、累計委託面積で全国上位に位置します。森林経営管理法と森林環境譲与税の組合せ事例として、林野庁のモデル地区にも選定されています。

3. 長野県根羽村:人口900人の小村ですが、村有林管理の100年の歴史を持ち、村有林・私有林・森林組合の連携が最も進んだ事例の一つです。村全体での森林経営管理法の本格運用、独自の森林整備5カ年計画、若手後継者育成プログラムなどが特色です。

4. 大分県津久見市・宮崎県諸塚村:九州の林業先進地域で、原木生産日本一を支える基盤としての森林経営管理法運用に積極的です。森林組合の集約事業、意欲ある経営体への再委託、森林環境譲与税の活用が体系的に進められています。

都道府県の役割:技術支援・人材育成

森林経営管理法の運用は市町村が中核ですが、都道府県も重要な支援役を担っています。主な役割は以下の通りです。

役割 主要内容
意欲ある経営体登録 知事による経営体の登録・管理
市町村への技術支援 森林整備・経営計画策定への助言
人材育成 市町村職員・経営体への研修
都道府県森林税の活用 独自財源での整備推進
森林情報整備 森林簿・GIS・LiDAR等のデータ提供
市町村連携協議会 地域共通課題の対応
大規模災害時の対応 復旧復興事業との連携

都道府県の体制構築には、(1)林業普及指導員の専門化、(2)林業大学校での人材育成、(3)研究機関との連携、(4)森林環境譲与税都道府県分の活用、(5)市町村との定期協議の場づくり、などが進められています。

制度の課題と展望

森林経営管理法には、(1)市町村の人材・体制不足、(2)所有者特定の困難さ、(3)経営体の確保困難な地域の存在、(4)木材販売の経済性、(5)長期管理の継続性、などの課題があります。一方、(1)森林環境譲与税の継続支援、(2)森林J-クレジットでの追加収益確保、(3)デジタル技術による効率化、(4)森林認証材の活用、(5)地域経済との連動による持続性、などの方向で改善が進められています。

2030年代の展望としては、(1)累計委託面積50万〜70万ha規模への拡大、(2)市町村経営委託モデルの定着、(3)森林経営の多角化(木材・カーボン・観光等)、(4)デジタル林業の本格化、(5)国際的な森林経営モデルとしての評価、などが想定されます。

木材売却収益の分配と所有者への還元

森林経営管理法の運用で、所有者にとっての関心事の一つが木材売却収益の分配です。市町村経営委託のもと、施業実施→木材販売→収益分配という流れの中で、所有者への還元はどのように行われるのでしょうか。基本的な分配構造は以下の通りです。

収益分配の主体 取り分の内容 概算割合
意欲ある経営体(再委託先) 施業コスト・労務費・機械償却・利益 木材売却額の60〜70%
市町村 経営権管理費・モニタリング費・調整費 10〜15%
森林所有者 残余分(純利益) 15〜30%

この分配比率は森林の生産性・木材価格・地域条件により大きく変動し、(1)大径良質材の主伐では所有者の取り分が増える、(2)小径間伐材中心の場合は経営体・市町村の取り分が大きくなる、(3)作業道整備等の追加投資があると初期は所有者取り分が小さい、などの調整があります。長期的には、複数年・複数施業を通じた累積配分で、所有者にとって相応の収益還元が確保される設計となっています。

森林J-クレジット連動:追加収益化の可能性

森林経営管理法と森林由来J-クレジットの連動は、市町村経営委託の収益化を補強する重要な仕組みです。市町村が経営委託を受けた森林について、(1)経営活動による吸収量を算定、(2)J-クレジット申請、(3)認証クレジットを企業に販売、(4)クレジット収入を森林管理コストに充当、という流れで運用されます。

市町村経営委託森林からのJ-クレジット認証は、(1)森林管理体制が制度的に確立、(2)長期施業計画と整合、(3)モニタリング体制が整っている、ため申請が比較的容易です。これは木材売却収益+J-クレジット収益の二重収益化を可能にし、市町村経営の経済的持続性を高めます。例えば100haの委託森林で年間200t-CO₂のクレジット認証、これが1t-CO₂あたり5,000円で売却できれば、年間100万円の追加収益が期待できます。

デジタル林業との連動:GIS・LiDAR・AI

森林経営管理法の運用効率化には、デジタル技術の活用が不可欠です。主なデジタル技術と活用事例は以下の通りです。

技術 主な活用 効果
GIS(地理情報システム) 森林簿・所有者情報・施業履歴の管理 意思決定の効率化
LiDAR(航空・地上) 森林資源量の精密測定 計画策定の精度向上
ドローン 現地調査・モニタリング 作業効率向上
AI画像解析 樹種・林齢・健全性の自動判定 調査時間短縮
衛星データ 広域モニタリング 長期変化の把握
森林経営管理システム 市町村レベルの統合管理 業務一元化

これらの技術活用は、(1)市町村職員の負担軽減、(2)所有者特定の効率化、(3)施業計画策定の精度向上、(4)モニタリングコスト削減、(5)他制度(森林環境譲与税・J-クレジット)との連携、などに大きく寄与します。林野庁・各都道府県・国立研究機関がデジタル林業推進の支援体制を整備しています。

まとめ:森林管理体制の構造改革

森林経営管理法(2019年施行)は、累計15万ha超の委託面積、約2,000事業体の意欲ある経営体、約1,400市町村の運用着手という主要数値で表現される、日本の森林管理体制の構造改革の中核です。所有者経営困難森林を市町村が経営委託として取り込み、意欲ある林業経営体に再委託する仕組みは、所有者高齢化・所有不明化・経営放棄という日本の森林の根本的問題に対する組織的な解決策として機能しています。森林環境譲与税の財源支援、森林J-クレジットの収益化、デジタル林業の効率化、森林認証材のブランド化と組み合わせることで、長期的な持続可能性が確保されつつあります。森林経営管理法は単なる法令ではなく、日本の森林を次世代に引き継ぐための21世紀型の森林管理モデルとして、日本の地方創生・気候変動対策・国土保全の根幹を担う重要な制度として、これからも進化し続けていく必要があります。

2019年からの5年間で15万haという実績は、対象見込面積100万haの15%に過ぎません。今後10年で50万ha、20年で100万haへ拡大していくことが現実的なシナリオであり、この長期的な進展のためには、市町村の人材育成、地域経営体の確保、財源の継続性、デジタル技術の活用、地域住民の理解と協力という多面的な要素が同時に整う必要があります。

森林は数十年・数百年単位で育つ長期的な資源であり、その管理体制も同様に長期的な視点で構築・運用していく必要があります。森林経営管理法はその第一歩であり、これからの世代に引き継ぐべき重要な制度的基盤として、社会全体で支えていくべき仕組みです。森林を守り、活かし、次世代へとつなぐための未来の羅針盤として、これからも発展を続けていくでしょう。

残置森林の自然管理:経営困難林の取り扱い

森林経営管理法では、市町村が経営権を取得した森林の中でも、経営的な施業が困難な森林は「残置森林」として自然な状態で管理する選択肢があります。これは、(1)急峻地形で施業が困難、(2)木材価値が低く経営収支が成り立たない、(3)生物多様性・水源涵養機能が高い、などの森林に対して、無理な施業を行わず公益機能を重視して管理するアプローチです。

残置森林として管理される森林は、(1)保安林指定の対象、(2)森林J-クレジットの吸収源として活用、(3)水源涵養・土砂崩壊防止の公益機能を発揮、(4)長期的なバイオマスの蓄積、などの多面的機能で社会に貢献します。これは、森林の経済価値だけでなく、環境価値・社会価値を尊重する成熟した森林管理の姿勢を示しています。

国際比較:欧州・北米のモデルとの違い

森林経営管理法は日本独自の制度ですが、国際的にも類似の仕組みがあります。代表的な比較は以下の通りです。

国・地域 類似制度 主要特徴
オーストリア 森林整備協同組合制度 所有者が組合に整備委託
ドイツ 森林管理協会・連邦森林 協会単位の集約管理
スイス 森林政策2020 所有者・施業者の連携強化
カナダBC州 州政府による森林管理 大部分が公有林
米国オレゴン・ワシントン 州森林管理体制 州・私有混合管理

日本の森林経営管理法の独自性は、(1)所有権を維持しつつ経営権だけを移転、(2)市町村が経営権の保持者、(3)民間経営体への再委託を組み込む3層構造、にあります。これは、所有権の概念を強く尊重する日本社会の特性と、地方分権の文脈で生まれた独特のモデルです。

地域住民との連携:森林を守る共同体作り

森林経営管理法の運用は、市町村行政・経営体・所有者だけで完結するものではなく、地域住民との連携も重要な要素です。多くの先進市町村では、(1)住民への制度説明会、(2)森林整備活動への住民参加、(3)森林環境教育プログラム、(4)森林公園・遊歩道の整備、(5)地域マルシェでの木材製品販売、(6)森林ボランティア募集、などの取組が実施されています。これらは住民が森林を「自分たちのもの」と感じる意識を醸成し、長期的な森林管理体制を支える社会的基盤となっています。

地域住民との連携を通じて、森林管理は単なる林業活動ではなく、地域コミュニティの共有資産を守り育てる「共同体的事業」へと発展しています。子どもたちの森林体験、高齢者の森林散策、若者のIターン就業、地域企業の森林CSR活動、観光客の自然体験など、多世代・多主体の関わりが、森林を中心とする地域づくりにおける、これからの大切で具体的な基盤となっていきます。

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