かつて日本の森林は、ざっくり「木を伐って使う場所」として一律に扱われていました。それが2016年の『森林整備保全事業計画』改訂を機に、立地や役割に応じて森を3つに色分けする機能別ゾーニングへと舵を切ります。全国2,505万haの森林を、木材生産林・水土保全林・森林と人との共生林に分け、ゾーンごとに施業方針も補助制度も変える——という考え方です。
2024年時点のおおよその配分は、木材生産林が約1,000万ha(40%)、水土保全林が約1,300万ha(52%)、共生林が約200万ha(8%)。この記事では、それぞれのゾーンが何を担い、補助金がどう傾斜配分され、現場でどう運用されているのかを整理します。
なぜ「色分け」が必要になったのか
機能別管理の発想自体は、明治の保安林制度に遡ります。それが1964年の森林資源基本計画、2001年の森林・林業基本法改正を経て、2016年に3区分のゾーニングとして制度化されました。戦後の「木材生産優先」一辺倒から、水資源・防災・生物多様性・景観といった多面的機能を束ねて管理する方向への転換です。
背景には、戦後拡大造林による単一樹種人工林の偏り、管理放棄による荒廃、気候変動による災害リスクの増大、生物多様性への国際的関心の高まりがありました。すべての森を一律に「木材生産林」として扱うのではなく、立地・自然条件・社会的役割に応じて分ける——その必要に応える制度がゾーニングです。
3つのゾーン、それぞれの役割
| 機能区分 | 面積 | 主要機能 | 施業方針 |
|---|---|---|---|
| 木材生産林 | 約1,000万ha | 木材生産・林業適地 | 主伐+再造林・機械化・路網整備 |
| 水土保全林 | 約1,300万ha | 水源涵養・土砂流出防止 | 択伐・複層林化・保安林指定 |
| 森林と人との共生林 | 約200万ha | 生物多様性・景観・教育 | 保護・自然遷移・市民利用 |
木材生産林は、生産性の高い緩傾斜地や主要産地(九州・東北・北海道など)が中心。50〜60年を主伐サイクルとする集約施業、林道・作業道の優先整備、高性能林業機械の活用で、国産材供給の主力を担います。
水土保全林は、急傾斜地・水源地・河川上流域・崩壊危険地が中心。皆伐を制限して択伐・複層林化を進め、水源涵養保安林の重点指定や治山・治水事業の集中投資で、災害防止と安定的な水資源確保を支えます。森林の水源涵養機能は、林野庁・国交省の試算で年間約8兆円の貨幣価値があるとされ、ゾーニングのなかでもとくに面積の大きい「守りの森」です。
共生林は、特別な生態系・景観・歴史文化価値を持つ地域に限って区分されます。国立・国定公園内の森林、自然環境保全地域、緑の回廊や希少種の生息地、神社林・天然記念物指定地などが対象。面積こそ8%と限定的ですが、生物多様性の観点で重要な森が集まっています。
ゾーンごとに変わる補助制度
ゾーニングが実際に効いてくるのは、補助金の配分を通じてです。同じ事業でも、区分によって補助率や重点度が変わります。
| 補助制度 | 木材生産林 | 水土保全林 | 共生林 |
|---|---|---|---|
| 造林補助(再造林) | 標準補助率(70%) | 標準+10% | 原則対象外 |
| 路網整備補助 | 重点配分 | 限定的(保全道のみ) | 原則対象外 |
| 機械化補助 | 重点配分 | 緩傾斜地のみ | 原則対象外 |
| 治山事業 | 限定的 | 重点投資 | 限定的 |
| 保安林指定 | 少ない | 多い | 多い |
木材生産林には造林・路網・機械化が重点配分されて生産性向上を後押しし、水土保全林には間伐・治山・保安林指定が集中して防災・水源保全を支える。共生林は保護中心で経済補助は限定的——というメリハリです。限られた整備予算を、ゾーンの優先度に沿って効率配分する仕組みになっています。
実装の舞台は「市町村森林整備計画」
ゾーニングが現場に落ちる場が、市町村ごとに5年単位で策定される市町村森林整備計画です。市町村内の森林を3区分に当てはめ、面積と所在を地図に明示し、ゾーン別の施業方針・植栽樹種・補助制度を定め、林業事業体への指導指針とし、住民・関係機関と合意形成する——という実務計画です。
2024年時点で、全国約1,700市町村のうち約1,400市町村が策定済みで、全国実装率は約82%。未策定の市町村は森林面積が極端に小さい、専門職員が不足している、財政が厳しいといった事情を抱えますが、2019年創設の森林環境譲与税が策定・改訂の財政基盤となり、段階的に広がっています。
このゾーニングは、所有者・林業事業体が5年ごとに作る森林経営計画とも連動します。経営計画はゾーニングに整合した施業方針を盛り込み、認定されれば補助金・税制優遇やJ-クレジット等のカーボン認証の対象になります。林野庁は経営計画の認定率を、現状の約30%から2030年に全森林の50%まで引き上げることを目標にしています。
残る課題と、これからの方向
導入後、策定率の向上や補助金配分の効率化、防災機能の発揮といった成果が出る一方、課題も残ります。共生林比率8%は欧米の自然保護区比率(10〜30%)と比べて低めで、生物多様性保全の要請が高まるなか、拡大が政策テーマになっています。日本は「30 by 30」(2030年までに陸域・海域の30%を保護地域化)を国家戦略に掲げており、共生林の段階的な拡大(15%以上を目標に議論)が求められます。
もう一つの軸が、災害への動的対応です。2018年西日本豪雨では約7,000haの山地崩壊が発生し、その後も大規模な山地災害が毎年のように起きています。災害履歴データのGIS解析や崩壊危険度評価、AIによる崩壊予測を踏まえ、リスクの高い地域を重点的に保全する「リスクベース森林管理」へと、水土保全林の運用を進化させる動きが出ています。デジタル化(GIS・LiDAR・衛星画像)による情報精度の向上や、森林ESG・カーボンクレジットとの連動も、今後の高度化の柱です。
2016年のゾーニングは、「単一機能の木材生産」から「多面的機能の統合管理」へと日本の森林管理を転換した制度的な節目でした。木材生産林・水土保全林・共生林という3つの色分けは、限られた予算と人材を効率的に配るための土台です。次の数十年は、自治体・企業・市民・研究者が協働しながら、この枠組みをより精緻で柔軟なものへ育てていけるかが問われます。
よくある質問
Q. ゾーンは誰が決め、固定なのですか?
国(林野庁)が基本方針を示し、都道府県が地域指針を、市町村が森林整備計画で具体的な区分を決めます。固定ではなく、5年ごとの計画改訂で見直し可能です。森林の状況変化や災害履歴、社会的要請に応じて柔軟に対応します。
Q. 山主は自由に伐採できなくなる?
水土保全林・共生林では伐採制限がありますが、所有権・管理権は維持されます。ゾーン区分はあくまで補助金・公共調達・施業指導の方針を定めるもので、所有権を取り上げる制度ではありません。
Q. 保安林とゾーニングの関係は?
保安林は森林法に基づく法的指定で、伐採・開発に制限がかかります。水土保全林・共生林の多くは保安林に指定されており、両者は連動して運用されています。

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