森林GIS(地理情報システム)は、国土地理院の基盤地図情報、林野庁の森林計画図、都道府県の森林簿、市町村の森林経営計画、現地踏査データを統合管理する空間データベース基盤です。日本の森林2,500万haをポリゴン単位で管理する標準スキームでは、林班・小班・林分の3階層で約350万小班規模のデータが格納され、各小班に樹種・林齢・面積・蓄積・地利・所有等の属性が紐付きます。本稿では森林GISの3層構造、基盤地図情報・森林計画図・森林簿の統合方法、林野庁の標準データ仕様、運用上の課題までを整理します。
この記事の要点
- 森林GISは基盤地図情報・森林計画図・森林簿の3層統合で構成され、全国約350万小班・2,500万haを管理。
- 林野庁「森林情報の標準化に関するガイドライン」がデータ仕様の標準で、Shapefile・GeoJSON・GeoPackageが標準フォーマット。
- 森林経営管理制度・森林環境譲与税の運用はGIS基盤の整備状況に依存し、市町村単位の整備格差が課題。
クイックサマリー:森林GISの主要数値
| 指標 | 数値 | 出典・備考 |
|---|---|---|
| 全国森林小班数 | 約350万 | 林野庁森林計画図ベース |
| 小班平均面積 | 約7ha | 2,500万ha÷350万小班 |
| 林班数 | 約16万 | 林班=小班の上位区分 |
| 基盤地図情報メッシュ | 5m DEM | 国土地理院基盤地図 |
| 森林簿レコード数 | 約350万件 | 小班単位の属性表 |
| 森林計画図縮尺 | 1:5,000 | 標準地形図縮尺 |
| 標準フォーマット | Shapefile/GeoJSON | 林野庁推奨 |
| 座標系 | JGD2011 | 平面直角19系 |
| 小班属性項目数 | 30〜80項目 | 都道府県により差 |
| 市町村森林整備計画数 | 約1,700 | 全市町村単位で策定 |
森林GISの3層構造
森林GISは、(1)基盤地図情報(背景地図・地形)、(2)森林計画図(行政区分・林班・小班ポリゴン)、(3)森林簿(小班ごとの属性データベース)の3層で構成されます。これらに加えて、現地調査結果・LiDAR派生データ・経年衛星画像・施業履歴等のレイヤーが重なり、最終的に十数〜数十のレイヤーを統合した空間データベースとなります。
レイヤー1:基盤地図情報
国土地理院が提供する基盤地図情報は、全国を網羅する公的な地理空間データ基盤で、5mメッシュ数値標高モデル(DEM)、道路・河川・建物・行政界等のベクタデータを無償公開しています。森林GISでは、5m DEMから生成した傾斜・斜面方位・微地形マップが、施業適否判定・路網設計・崩壊危険箇所抽出に必須です。基盤地図情報基本項目(道路縁、建築物、行政界、海岸線等)はShapefile・GMLフォーマットで配布され、全国一律の品質が保証されています。
レイヤー2:森林計画図
森林計画図は、林野庁・各都道府県森林計画課が作成・更新する1:5,000縮尺の地形図上に、林班・小班・国有林/民有林・保安林等の境界を示した行政地図です。林班は概ね40〜100ha規模の管理単位で、地形・所有界・道路で区分されます。小班は林班内をさらに樹種・林齢・施業区分で細分化した単位で、平均面積7ha、最小0.1ha〜最大数十haの範囲で設定されます。
レイヤー3:森林簿
森林簿は、小班ごとの属性情報を格納するデータベースで、各都道府県が管理しています。標準項目には、(1)樹種、(2)林齢、(3)面積、(4)立木材積、(5)地利級、(6)地位級、(7)所有形態(国有・公有・私有)、(8)所有者氏名・住所、(9)地区計画区分、(10)保安林指定、(11)施業履歴等があり、都道府県によっては80項目以上を管理しています。森林簿は森林経営計画認定・補助金交付・伐採届受理の根拠となる行政文書で、5年に一度の地域森林計画樹立時に全面更新されます。
森林計画図の階層構造
森林計画図の管理単位は、上から順に、(1)全国森林計画区分、(2)地域森林計画区域(流域単位、全国158)、(3)市町村森林整備計画区域(約1,700市町村)、(4)林班(約16万)、(5)小班(約350万)、(6)林分(小班内の林相変化単位)の6階層で構成されます。これにより、国レベルの森林政策から個別林分の施業計画まで、空間的に連続した管理が可能となっています。
各階層の責任分担は明確で、全国森林計画は林野庁、地域森林計画は都道府県、市町村森林整備計画は市町村、森林経営計画は森林所有者・森林経営管理者が策定します。これらの計画は森林法に基づく法定計画で、相互に整合を取る義務があり、各階層の計画を地理空間データとして繋ぎ込むのが森林GISの中核機能です。
標準データ仕様とフォーマット
林野庁は2018年に「森林情報の標準化に関するガイドライン」を策定し、データ項目・属性コード・フォーマット・座標系の標準化を進めています。標準フォーマットはShapefile(.shp)、GeoJSON(.geojson)、GeoPackage(.gpkg)の3種で、座標系はJGD2011(日本測地系2011)平面直角座標系の19系統を使用します。属性コードは林野庁の「森林情報整備事業」で定義された統一コード体系に従い、樹種・林齢・施業区分・所有形態等が国レベルで統一されています。
| 項目 | 標準コード例 | 備考 |
|---|---|---|
| 樹種 | 001=スギ、002=ヒノキ、003=アカマツ、010=カラマツ | 林野庁全国統一 |
| 所有形態 | 1=国有、2=都道府県有、3=市町村有、4=私有 | 森林法準拠 |
| 保安林 | 17区分(水源涵養・土砂流出防備等) | 森林法第25条 |
| 地利級 | 1〜5級 | 搬出経済性 |
| 地位級 | 1〜5級 | 立木成長条件 |
| 林齢 | 年単位(齢級は5年刻み) | 主伐齢の判定基準 |
| 座標系 | JGD2011平面直角座標系(19系) | EPSG:6669-6687 |
森林経営管理制度とGISの中核的役割
2019年4月施行の森林経営管理制度は、所有者の経営意欲が低下した私有林を市町村が経営委託を受けて運営する仕組みで、その実装はGIS基盤の有無に大きく依存します。市町村は、(1)経営管理意向調査の対象林の特定、(2)経営委託契約締結、(3)再委託先(林業経営者)の選定、(4)施業実行・管理・収益分配、の各ステップでGISを活用します。
意向調査対象の特定では、森林簿から「私有人工林・主伐期到達・搬出可能な地利級」のフィルタリングをGIS上で実施し、対象数千〜数万小班の優先順位付けを行います。施業実行では、施業地の位置・面積・路網からの距離・予定材積等をGIS上で集計し、林業経営者への再委託案件としてパッケージ化します。市町村森林整備計画と森林経営管理制度の運用を連動させるGIS基盤整備が、林野庁・都道府県・市町村の中心課題となっています。
森林環境譲与税の活用とGIS
2019年度から始まった森林環境譲与税(森林環境税の市町村譲与分、年間約500億円)の使途は、「森林の整備、人材育成・担い手の確保、木材利用の促進、普及啓発」と定められ、その執行管理にもGISが不可欠です。譲与税を充当した整備実績(間伐面積、再造林面積、路網延長等)を地理情報として記録し、年次報告・住民への説明責任を果たすため、市町村ごとのGISダッシュボード整備が進んでいます。
WebGISと住民への情報公開
近年、森林GISのWebGIS化が進み、市町村職員・林業事業体・住民・所有者が共通のプラットフォームで情報を参照する体制が整いつつあります。岐阜県の「ぎふ森林情報マップ」、北海道の「林班界WebGIS」、長野県の「信州森林マップ」等が代表事例で、ブラウザから森林計画図・森林簿の主要属性・LiDAR派生情報を閲覧可能です。所有者には専用ログインで自己所有林の詳細情報を提供し、施業意向の把握や情報伝達の効率化に寄与しています。
WebGIS基盤としては、商用のArcGIS Online、ArcGIS Enterprise、オープンソースのQGIS Server+GeoServer+Leafletの組合せが主流です。林野庁は「森林情報共有プラットフォーム」(仮称)の整備を進めており、全国レベルでの一元的な森林情報共有基盤の構築が検討されています。
森林簿の更新と精度
森林簿は5年に一度の地域森林計画樹立時に更新されますが、5年間の変化(伐採・成長・被害)はリアルタイムには反映されません。実態として、20〜30年前の植栽以降未更新の小班が一定割合存在し、立木材積の値は実際よりも大幅に小さい場合があります。林野庁の調査では、20年以上未更新の森林簿に対し、LiDAR計測値は平均で20〜40%大きい結果が報告されています。
この精度問題への対処として、(1)LiDAR一斉計測による森林簿の全面更新、(2)伐採届・施業実績のリアルタイム反映、(3)成長量モデルによる林齢経過に伴う材積自動更新、の3つのアプローチが進められています。岐阜県・宮崎県・静岡県等は航空機LiDARを定期計測し、森林簿の主要属性をLiDAR値で置換する運用を始めています。
データ標準化と相互運用性の課題
森林GISの普及における最大の課題は、都道府県・市町村ごとのデータ仕様の違いです。林野庁ガイドラインがあるものの、属性項目・コード体系・更新頻度・公開ポリシーは都道府県ごとに異なり、複数自治体にまたがる事業(流域単位の施業、広域災害対応等)では相互運用性に問題が生じます。森林経営管理制度では、所有者情報を含むため個人情報保護の制約も加わり、市町村間の情報共有が進みにくい構造があります。
解決策として、(1)林野庁による全国統一仕様の徹底、(2)個人情報を分離した公開可能データのレベル分け、(3)API連携によるデータ参照型の運用、(4)国レベルの統合プラットフォームの構築、が議論されています。EUのINSPIRE指令(地理空間情報の共通仕様)を参考にした、日本版の森林情報相互運用フレームワーク策定が今後の課題です。
森林GIS運用の人材・スキル
森林GIS運用には、(1)GISソフトの操作スキル(QGIS、ArcGIS)、(2)空間データの取扱い(座標系、フォーマット変換)、(3)森林計画・森林法の知識、(4)データベース運用(PostgreSQL/PostGIS)、(5)WebGIS構築(任意)、の5領域のスキルが求められます。市町村レベルでは、専門スタッフの不足が深刻で、林野庁・都道府県は集合研修・地域コンソーシアム形式での人材育成を進めています。
森林組合・林業コンサル・地理情報システム企業等が連携する地域GIS支援チームの整備が進み、複数市町村の業務を共通基盤で支援する協同モデルも普及しつつあります。GIS資格としては技術士(応用理学・建設)、測量士補・測量士、GIS上級技術者(GISA認定)等があり、林業×GISの専門人材の輩出が期待されています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 森林簿は誰でも閲覧できますか?
森林簿は森林法に基づく行政文書で、所有者氏名・住所等の個人情報を含むため、原則として一般公開されません。所有者本人または利害関係者は都道府県森林管理事務所で閲覧可能です。一方、所有者情報を匿名化した公開版森林簿(樹種・林齢・面積等の客観属性のみ)は、一部都道府県でWebGIS経由の閲覧が始まっています。
Q2. 森林計画図と地籍図の違いは何ですか?
森林計画図は森林管理のための行政地図(林班・小班区分)で、所有界とは一致しません。地籍図は法務局・市町村が管理する土地の境界・所有を示す公的な台帳図で、所有者特定の根拠となります。森林経営管理制度では両者の突合(GIS上のオーバーレイ解析)が必要で、地籍未調査地(森林域では約3〜5割)が施業計画策定のボトルネックとなっています。
Q3. オープンソースGISは森林業務に十分使えますか?
QGIS、PostGIS、GeoServer等のオープンソースは、機能面では商用ソフト(ArcGIS Pro等)と同等またはそれ以上で、林業実務の大半をカバー可能です。市町村レベルでの森林GIS基盤の8割以上はQGISベースで構築されています。一方、サポート体制・技術者不足が課題で、商用ソフトとの併用または外部支援が一般的です。
Q4. 森林GISのデータ容量はどれくらいですか?
都道府県全域の森林計画図+森林簿で5〜50GB規模、LiDAR派生レイヤーを含めると数百GB〜数TB規模となります。基盤地図情報(DEM・道路・河川等)は全国分で約100GB、Sentinel-2の年次合成画像が10GB程度です。市町村単位の運用では、数十〜数百GBのストレージで実用十分です。
Q5. 林班・小班番号の付け方に全国ルールはありますか?
林班番号は都道府県ごとに独自体系で運用されています(例:北海道は管轄区分+連番、長野県は流域+林班番号)。小班番号は林班内の連番(1, 2, 3,…)または記号(い, ろ, は,…)で運用され、これも都道府県により異なります。林野庁ガイドラインでは「林班コード+小班コードの一意識別子」を推奨していますが、全国統一は未達成の状況です。
関連記事
- QGISの林業活用|OSSによる森林管理の低コスト化
- ArcGIS Pro林業拡張|行政GISの主流ソフト
- LiDAR点群解析|樹高・本数・材積の自動推定
- 衛星リモートセンシング|Sentinel-2・ALOS-3活用
- 林業ICT|現場端末・電子野帳・クラウド連携
- ドローンRGBオルソ|森林被害判読への活用
まとめ
森林GISは、国土地理院基盤地図情報・森林計画図・森林簿の3層統合により、全国2,500万ha・350万小班・16万林班を空間的に管理する林業政策の基盤インフラです。林野庁ガイドラインに基づくJGD2011・Shapefile/GeoJSONフォーマットの標準化が進み、森林経営管理制度・森林環境譲与税・施業計画・被害対応の4業務領域で中核的役割を果たしています。LiDAR・衛星・ドローンの派生レイヤーを統合し、WebGIS化と住民への情報公開を進めることで、林業のDX中核として今後さらに進化していくフェーズにあります。

コメント