「林業がさかんな県は?」と聞かれて、多くの人は九州や東北を思い浮かべるかもしれません。ところが2022年、長年トップだった宮崎県を抜いて、素材生産量の全国1位になったのは北海道でした。全国の素材生産量は2,166万m³と戦後最高水準。その内訳を見ると、上位3道県だけで全国の3割、トップ10で約65%を占める、かなり偏った地図が浮かび上がります。この記事では、産地ごとに何が違うのか──樹種、機械化、地域経済とのつながり──を整理します。
この記事の要点
- 全国の素材生産量は2,166万m³(2022年)で戦後最高。トップ10道県で約65%を占める。
- 1位は北海道(290万m³)。カラマツ・トドマツが主役で、本州・九州のスギ中心とは構造が異なる。
- 2位宮崎(221万m³)は九州スギの中核。30年以上1位を守ってきた林業県。
1位・北海道──カラマツとトドマツの大規模林業
北海道の素材生産量は290万m³で全国シェア13.4%。本州・九州のスギ・ヒノキとは樹種がまったく違い、カラマツ(約53%)・トドマツ(約38%)といった針葉樹が主役です。明治期からの計画的な造林でできた人工林は約80万haにのぼり、いま樹齢50〜80年の伐りごろを大規模に迎えています。
北海道が強いもう一つの理由が機械化です。ハーベスタやフォワーダといった高性能機械の導入率は人工林作業の7割超と全国トップ。労働生産性は全国平均の1.5〜2倍、生産コストも他地域より2〜3割低く抑えられています。強度の高い道産カラマツ集成材は、東北・関東のCLT・集成材工場の主要原料として本州へ移出され、近年その存在感を一段と高めています。
2位・宮崎、3位・大分──九州スギの産地
宮崎県は221万m³で全国2位。1991年から30年以上にわたって素材生産量1位を守ってきた、九州を代表する林業県です。飫肥スギ・耳川スギといった九州独自の品種が、温暖多雨な気候のもとで40〜50年という比較的短い期間に良質材を育てます。森林経営計画の認定率は86%と全国最高で、計画的・集約的な生産が県全体で根づいているのが強みです。さらに志布志港経由の木材輸出が約60万m³と全国の1割超を占め、中国・韓国向けの輸出拠点にもなっています。
3位の大分県(163万m³)は、日田林業地を中心とする産地です。日田スギや耶馬渓ヒノキの良質材で知られ、年間50万m³級の大規模製材所と地元工務店の連携が地域経済を支えています。宮崎・大分・熊本・鹿児島の九州4県を合わせると約580万m³に達します。
4位以下・東北勢──スギとマツの産地
4位の岩手(148万m³)は南部赤松・スギが中心で、県森連を軸に600カ所超の現場で集約化が進んでいます。5位の秋田(132万m³)は能代の製材所群・大館の集成材工場が県北に集積。6位の福島(108万m³)は会津・南会津・浜通りの3地域で林業構造が異なり、震災復興とともに再構築が進みました。東北5県(岩手・秋田・福島・青森・宮城)を合わせると約540万m³。北海道・九州・東北の3地域で全国の約65%を占めるという、地理的にはっきり偏った構造です。
偏在を生む背景──樹種・事業者・担い手
こうした偏りは、戦後の造林政策の名残でもあります。樹種別に見ると、スギが約1,200万m³(55%)と圧倒的で、ヒノキ11%、カラマツ9%、トドマツ6%と続きます。スギ・ヒノキは1950〜70年代の拡大造林で九州・四国・東北に広く植えられ、それが今の主要産地になりました。北海道のカラマツ・トドマツは明治期の開拓造林に由来します。つまり「どこで林業がさかんか」は、半世紀前に誰が何を植えたかでかなり決まっているわけです。
担い手の側を見ると、素材生産業者は全国に約2,000社。うち年処理1万m³を超える中堅以上のわずか100社で、全国生産量のほぼ半分を占めます。林業就業者は約4.4万人ですが、北海道5,500人・宮崎2,800人・岩手2,500人といった上位10道県に約7割が集中。1990年代の8万人から半減し、55歳以上が38%という高齢化も進みます。人手が減りながら生産量が増えているのは、まさに機械化が下支えしているからです。素材生産1万m³あたりの経済波及効果は製材・流通まで含めて約3億円とされ、主要産地では林業・木材産業が地域GDPの3〜8%を占める基幹産業になっています。
2030年に向けて──カギは中堅地域
林野庁の森林・林業基本計画は、2030年の国産材供給量を4,200万m³(素材生産量で約2,800万m³)と見込んでいます。2022年の2,166万m³から15〜30%の上積みが必要な目標です。日本の森林資源は約62億m³あり、年間成長量7,000万m³に対して生産量はまだ2,000万m³規模。資源は今も増え続けており、伐採を増やす余地は十分にあります。
達成のカギを握るのは、長野・岐阜・愛媛・高知・茨城・栃木といった中堅地域です。これらの県では人工林がちょうど伐りごろを迎えつつあり、現在の30〜70万m³から60〜100万m³規模への拡大が見込まれます。木曽ヒノキ、東濃ヒノキ、久万のスギ・ヒノキなど、地域固有の銘木をどう活かすか。樹種・立地・労働力に応じた個別の成長戦略と、路網整備・機械導入・人材育成を組み合わせた施策が、これからの10年を左右します。
よくある質問
Q. なぜ北海道が宮崎を抜いて1位になったのですか?
人工林80万haが伐採適齢期を迎えたこと、機械化率7割超の高い生産性、そして道産カラマツ集成材の本州への移出拡大が重なった結果です。2022年に長年1位だった宮崎を抜きました。一方の宮崎も、九州スギの良質材生産と志布志港の輸出拠点という強みは変わっていません。
Q. 人手が減っているのに、なぜ生産量は増えているのですか?
機械化のおかげです。林業就業者は30年で半減しましたが、ハーベスタ・フォワーダを組み合わせた作業システムにより、1人あたりの生産性が手作業時代の3〜5倍に伸びました。とくに北海道や九州の中堅以上の事業体で、この効率化が進んでいます。
Q. これ以上、伐採を増やして大丈夫なのですか?
資源量の面では余裕があります。森林資源は約62億m³、年間の成長量は約7,000万m³に対し、素材生産量は2,166万m³。生産量が成長量を下回っているため森林は蓄積を続けており、2030年目標の2,800万m³も持続可能な範囲内です。

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