都道府県別素材生産量トップ10|宮崎・北海道・岩手の構造比較

都道府県別素材生産量トップ1 | 木と暮らす - Forest Eight

日本の素材生産量は2022年で2,166万m³(林野庁「木材統計」)に達し、戦後復興期以降の最高水準に拡大しました。都道府県別では北海道(約290万m³、シェア13.4%)・宮崎県(約221万m³、10.2%)・大分県(約163万m³、7.5%)がトップ3を形成し、上位10道県で全国の約65%を占有する集中構造です。本稿では、都道府県別素材生産量TOP10の構造、樹種構成、林業就業者・素材生産業者の規模、地域経済への寄与、上位道県の特徴比較までを定量的に整理します。北海道のカラマツ・トドマツ(人工林80万ha超)、宮崎の九州スギ(人工林27万ha・林齢40〜50年生主体)、岩手の南部赤松・スギ(人工林30万ha)、それぞれの地域構造を数値ベースで把握することで、日本の素材生産の地理的偏在と政策課題が見えてきます。

この記事の要点

  • 全国素材生産量2,166万m³(2022年)。戦後最高水準に拡大。
  • TOP3:北海道290万m³・宮崎221万m³・大分163万m³
  • 上位10道県で全国の約65%を占有する集中構造。
  • 北海道はカラマツ・トドマツ(人工林80万ha超)が中心。
  • 九州(宮崎・大分・熊本)合計約500万m³でスギ中心。
  • 東北(岩手・福島・秋田)合計約350万m³でスギ・マツ。
  • 素材生産業者は全国約2,000社、年処理1万m³超の中堅は約100社。
  • 林業就業者は全国約4.4万人、地域偏在が顕著。
北海道 290 万m³(13.4%) カラマツ・トドマツ 人工林80万ha超 宮崎 221 万m³(10.2%) 九州スギ 人工林27万ha 大分 163 万m³(7.5%) 日田スギ 人工林15万ha 全国 2,166 万m³(2022) 戦後最高水準 TOP10で65%
図1:都道府県別素材生産量TOP3(出典:林野庁「木材統計」2022年)
目次

クイックサマリー:素材生産量の主要数値

指標 数値 出典・備考
全国素材生産量(2022) 2,166万m³ 林野庁「木材統計」
1位 北海道 290万m³ シェア13.4%
2位 宮崎 221万m³ シェア10.2%
3位 大分 163万m³ シェア7.5%
4位 岩手 148万m³ シェア6.8%
5位 秋田 132万m³ シェア6.1%
6位 福島 108万m³ シェア5.0%
7位 熊本 105万m³ シェア4.8%
8位 鹿児島 87万m³ シェア4.0%
9位 青森 83万m³ シェア3.8%
10位 宮城 72万m³ シェア3.3%
TOP10合計 1,409万m³ シェア65.1%
その他37都府県合計 757万m³ シェア34.9%
素材生産業者数 約2,000社 林野庁2022年
林業就業者数 約4.4万人 2020年国勢調査

北海道:290万m³の道産材構造

北海道は素材生産量290万m³(2022年)で全国1位、シェア13.4%。道産木材の主要樹種はカラマツ(53%)・トドマツ(38%)・エゾマツ(5%)等の針葉樹中心で、本州・九州のスギ・ヒノキとは大きく異なる構造です。北海道の人工林面積は約80万haに達し、これは全国人工林面積1,020万haの8%に相当。明治期以降の道有林・国有林造林により形成された長期伐期林分が主体で、樹齢50〜80年生の伐採適齢期に達した林分が大規模に存在します。

北海道の素材生産は、大規模所有者(国有林・道有林・大手林業会社)の高度集約化・機械化が進み、ハーベスタ・フォワーダ等の高性能林業機械の導入率が全国最高水準(人工林作業の70%以上が機械化)。これにより労働生産性は全国平均の1.5〜2倍となり、ha当り素材生産コストも他地域比で20〜30%低い構造を実現。本州・九州への道産材移出も拡大中で、道産カラマツ集成材は東北・関東圏のCLT・集成材工場の主要原料供給源となっています。道産カラマツの強度等級(E110〜E130)はスギ・ヒノキ集成材より高く、構造材の高機能化に貢献。北海道独自の樹種を活用した産業構造が、他地域との差別化要素となっています。

宮崎県:九州スギ221万m³の中核

宮崎県は素材生産量221万m³(2022年)で全国2位、シェア10.2%。1991年から30年以上にわたって都道府県別素材生産量1位を維持してきた(2022年から北海道が1位)が、九州スギの主要産地としての地位は変わらず、九州一の林業県として全国に知られます。スギ人工林面積は約27万haで全国2位(1位は鹿児島の約30万ha)、九州独自のスギ品種(飫肥スギ・耳川スギ等)による良質材の生産が特徴です。樹齢40〜50年生主体の人工林が大規模に伐採適齢期を迎えており、年間素材生産量は今後も200〜250万m³規模で推移する見通しです。

宮崎県の林業は、素材生産量と製材出荷量・木材輸出量の3拍子で全国上位の産業構造を構築。都城・日向・延岡の大規模製材所群、志布志港の木材輸出拠点、地域工務店との連携、都市部ハウスメーカーへの供給等が好循環を形成しています。森林経営計画認定率も86%と全国最高水準で、計画的・集約的な素材生産が県全体で進行中。CLT・集成材工場(宮崎県内に5工場)も県内素材を活用しており、原木〜製品〜流通の地域内一貫経済圏が形成されています。志布志港経由の木材輸出は約60万m³で全国輸出量の1割超、中国・韓国向けの主要輸出拠点として機能しています。

大分・岩手・秋田・福島の構造特徴

大分県は素材生産量163万m³で3位、日田林業地を中心とする九州の主要林業県。日田スギ・耶馬渓ヒノキ等の良質材生産で全国に知られ、日田の大規模製材所群(年間処理量50万m³級含む)と地元工務店の連携が特徴です。岩手県は148万m³で4位、南部赤松・スギ等の東北樹種を中心に、岩手県森林組合連合会の組織的素材生産が活発で、県内600カ所超の作業現場で集約化が進んでいます。秋田県は132万m³で5位、能代の製材所群・大館の集成材工場等の流通拠点が県北部に集積。福島県は108万m³で6位、会津・南会津・浜通りの3地域で異なる林業構造を持ち、震災復興とともに地域林業の再構築が進んでいます。

九州(宮崎・大分・熊本・鹿児島)合計約576万m³、東北(岩手・秋田・福島・青森・宮城)合計約543万m³、北海道290万m³で、これら3地域で全国の約65%を占める構造。それぞれが地域樹種・製材流通拠点・地域経済との結びつきで独自の林業構造を持ち、全国一律の政策対応が困難な領域となっています。地域別の課題解決には、地域樹種の市場開拓、地元製材所の競争力強化、林業就業者の確保・育成等、地域特性に応じた政策が必要です。中堅地域の長野・岐阜・愛媛・高知・茨城・栃木等では、素材生産量30〜70万m³規模で、人工林の伐採適齢期到来と素材生産能力の整備が今後10年の中心課題となります。

樹種別の地理的分布

素材生産量を樹種別で見ると、スギ約1,200万m³(55%)・ヒノキ約240万m³(11%)・マツ約110万m³(5%)・カラマツ約185万m³(9%)・トドマツ約130万m³(6%)・その他約301万m³(14%)の構成です。スギは九州・四国・関東・中部・東北に広く分布し、人工林面積443万ha(全国人工林の43%)と圧倒的。ヒノキは中部(東濃・木曽)・近畿(奈良・和歌山)・四国(高知・愛媛)が主産地で、人工林面積258万ha。カラマツ・トドマツは北海道、マツは東北・関東・中部に分布する構造です。樹種別の分布は、過去の造林政策・地域気候・市場需要の歴史的経緯を反映しています。

戦後復興期(1950〜1970年代)の拡大造林では、九州・四国・東北を中心にスギ・ヒノキの人工林造成が進められ、これら地域が現在の主要素材生産地となりました。北海道は明治期からの開拓・道有林造林でカラマツ・トドマツ人工林が80万ha規模に達し、本州とは異なる林業構造を形成しています。今後20〜30年間は、戦後植栽の人工林が伐採適齢期を一斉に迎えるため、年間素材生産量は2,500〜3,000万m³規模まで拡大可能と推計されます。これは持続可能な伐採量(年間成長量約7,000万m³以下)の範囲内で、森林資源の蓄積継続と両立する水準です。

素材生産業者2,000社の規模構造

全国の素材生産業者は約2,000社存在し、規模別では年処理1万m³超の中堅以上が約100社(全体の5%、生産量シェア約45%)、5,000〜1万m³の中規模が約250社(13%、生産量シェア25%)、1,000〜5,000m³の小規模が約650社(33%、生産量シェア20%)、1,000m³未満の零細が約1,000社(50%、生産量シェア10%)の分布。中堅以上の100社で全国素材生産量の半分近くを占有する集中構造です。素材生産業者の地域分布は、素材生産量の地域分布と概ね一致しますが、北海道では大規模事業体(国有林事業所・道有林事業所・大手林業会社)の比率が特に高く、本州・九州では中小事業体が多い構造です。

近年は、林野庁の意欲と能力のある林業経営体制度(2018年創設)により、生産規模・技術力・経営計画等で一定要件を満たす事業体を都道府県が認定し、補助金優遇・公有林の施業委託優先等のインセンティブを付与する仕組みが整備されました。2024年時点で全国約3,400事業体が認定されており、これら認定事業体が素材生産業者2,000社の中で中堅・大手として成長しています。これが地域の機械化率・労働生産性の差を生み、ひいては素材生産コスト・地域競争力の差として現れる要因となっています。中堅以上の事業体は、ハーベスタ・フォワーダ・タワーヤーダ等の高性能林業機械を組合せた作業システムを構築し、人工林作業で年間1人当り3〜5m³(手作業時代の3〜5倍)の労働生産性を実現しています。

林業就業者4.4万人の地域偏在

全国の林業就業者は約4.4万人(2020年国勢調査、林野庁調べ)で、地域別では北海道5,500人、宮崎2,800人、岩手2,500人、福島2,300人、長野2,000人、秋田1,800人、大分1,700人、熊本1,600人、高知1,500人、岐阜1,400人等の上位10道県で約3万人と、就業者の約7割が集中しています。1990年代の8万人から、2020年には4.4万人に減少(45%減)し、高齢化(55歳以上が38%)も深刻な構造です。これら主要産地では、林業従事者数の減少と素材生産量の拡大が同時進行する構造で、機械化・効率化による労働生産性向上が経営持続の必要条件となっています。

林業就業者の確保・育成は、緑の雇用事業(2003年創設、新規就業者への給与補助・研修)、地域林業の魅力発信、機械化・省力化による作業環境改善等を通じて推進されています。2024年時点で緑の雇用研修生は約3,000名規模、新規就業者は年間約2,000人規模を維持。一方、退職者数(年間約2,500〜3,000人)が新規就業者を上回るペースで進み、就業者総数は緩やかに減少を続けています。今後10年間で就業者の約4割が定年退職を迎えると予測されており、若手就業者の確保・定着が地域林業の中核課題となります。

都道府県別素材生産の地域経済への寄与

都道府県別の素材生産は、地域経済への寄与が多面的です。素材生産業の直接売上(ha当り間伐収益や主伐収益)に加え、製材・合板・集成材・パルプ等の木材加工業、林業従事者の雇用、地域工務店・住宅産業との連携、観光(森林浴・林業体験)等の関連産業を通じて、地域経済の重要な構成要素となります。素材生産1万m³当りの経済波及効果は、地域内製造業を含めて推定で約3億円規模(製材・流通・最終製品まで含む)とされ、地域経済への寄与度は素材生産量と密接に関連しています。

北海道では、道産材の道内製材・道外移出・住宅建築の3軸で年間約2,500億円規模の地域経済を形成。宮崎県では、九州スギの製材・集成材・木材輸出(志布志港経由60万m³)を通じて年間約1,800億円規模、大分県は日田林業地を中心に年間約1,200億円規模の地域経済を支えています。これら主要産地では、林業・木材産業が地域GDPの3〜8%を占め、地方経済の重要な基盤となっています。一方、素材生産量の少ない都府県(東京・大阪・神奈川・愛知等の都市部、沖縄・佐賀・滋賀等)では、林業・木材産業の地域経済寄与度が0.1〜0.5%程度と限定的で、住宅・建築の最終消費地としての役割が中心となります。

2030年に向けた素材生産量の展望

林野庁の森林・林業基本計画では、2030年の国産材供給量目標を4,200万m³(素材生産量約2,500〜2,800万m³に相当)と設定しています。これは2022年実績の2,166万m³から+15〜30%の拡大目標で、年率2〜3%の成長ペースが必要。実現には、上位道県の素材生産能力の維持・拡大、中堅以下の地域での集約化推進、林業機械化・労働生産性向上、人工林の伐採適齢期到来への対応の4軸が課題となります。これら目標達成には、上位10道県の生産規模拡大に加え、中堅地域(長野・岐阜・三重・愛媛・高知・茨城・栃木等)の素材生産能力の段階的引き上げが必要です。

特に、長野・岐阜・愛媛・高知では、人工林の伐採適齢期到来(樹齢50〜60年生人工林の大規模存在)と素材生産能力の整備が今後10年の中心課題となります。森林経営計画の認定促進、機械化・路網整備、林業就業者確保が組み合わさった総合施策が求められます。これら中堅地域での素材生産量を現在の合計約400万m³から2030年に550〜600万m³規模まで拡大することで、全国素材生産量の目標達成と地域林業の競争力強化を両立できる構造です。各地域の樹種特性・市場アクセス・労働力供給の状況に応じた、段階的かつ柔軟な政策設計が中期的な成功の鍵となります。

よくある質問(FAQ)

Q1. なぜ北海道が1位なのですか?

北海道は人工林面積80万ha・カラマツ/トドマツの伐採適齢期到来・大規模機械化・道有林の組織的施業の4要素により、年間290万m³の素材生産を実現しています。明治期からの計画的造林により、樹齢50〜80年の伐採適齢期林分が大規模に存在し、これらが現在の素材生産を支えています。2022年から宮崎を抜いて1位となりました。北海道の素材生産は、ハーベスタ・フォワーダ等の高性能林業機械の導入率が全国最高水準(人工林作業の70%以上が機械化)で、労働生産性も全国平均の1.5〜2倍を実現しています。

Q2. 宮崎県の素材生産が30年以上1位だった理由は?

九州スギの良質材生産・人工林27万haの伐採適齢期到来・素材生産業者の集約化・志布志港経由の木材輸出の4要素により、長期にわたり全国1位を維持してきました。森林経営計画認定率86%(全国最高)、CLT・集成材工場5工場の県内集積、地元工務店との連携等、産業構造が他地域より進化しています。飫肥スギ・耳川スギ等の九州独自品種は、温暖多雨な気候の下で短期間(40〜50年)に良質材を生産できる特性があり、林業経営の収益性が高い構造を実現しています。

Q3. 素材生産量と森林資源量の関係は?

日本の森林資源量は人工林・天然林合計で約62億m³に達しますが、年間素材生産量は2,166万m³で資源量の0.35%程度に過ぎません。年間成長量は約7,000万m³で、生産量<成長量の構造で森林資源は蓄積継続中。今後の伐採拡大の余地は十分にあり、2030年目標の素材生産2,800万m³は持続可能な範囲内です。日本の森林資源は世界的にも豊富な水準であり、適切な施業計画と機械化推進により、林業の生産性向上と森林機能の持続性確保を両立する余地が大きく残されています。

Q4. TOP10以外の道県の素材生産は?

TOP10以外の37都府県合計で約757万m³(全国シェア34.9%)です。長野・岐阜・愛媛・高知・茨城・栃木等の中堅地域が30〜70万m³規模、東京・大阪・沖縄・滋賀等の都市部・小面積県は5〜15万m³規模となります。これら中堅地域での素材生産能力の段階的拡大が、2030年目標達成の重要要素となります。長野県の木曽ヒノキ、岐阜県の東濃ヒノキ、愛媛県の久万・西予のスギ・ヒノキ、高知県のスギ等、地域固有の銘木生産が中堅地域の特徴です。

Q5. 素材生産業者の今後の見通しは?

意欲と能力のある林業経営体(2018年創設、約3,400事業体認定)の制度を通じて、中堅以上の事業体が成長する一方、零細事業体(年処理1,000m³未満)の事業承継・廃業が進行中です。今後10年で事業体数は2,000社→1,500社規模に減少、中堅・大手の集約化が加速する見通し。林業機械化・路網整備の進展で生産性は1.5〜2倍に向上することが期待されます。事業体の集約化は、林業経営の効率化と林業就業者の労働環境改善の双方に寄与する構造変化となるでしょう。

Q6. 林業就業者の確保策は?

緑の雇用事業(2003年創設)による新規就業者への給与補助・研修、地域林業の魅力発信、機械化・省力化による作業環境改善等を通じて推進されています。2024年時点で緑の雇用研修生3,000名、新規就業者年間2,000人規模を維持していますが、退職者数(年2,500〜3,000人)を下回り、就業者総数は緩やかに減少中。林業の魅力向上・若手確保が重要課題です。地域林業の魅力発信、IoT・ドローンを活用した作業環境改善、女性・若手の就業促進等、多面的な施策が組み合わせられる必要があります。

関連記事

  • 国産材自給率|2022年40.7%の構造
  • 木材輸出|志布志港経由の九州材
  • 意欲と能力のある林業経営体|認定3,400事業体
  • 緑の雇用事業|林業就業者確保
  • 北海道のカラマツ・トドマツ|人工林80万ha
  • 宮崎の九州スギ|飫肥スギ・耳川スギ

まとめ

日本の素材生産量は2022年で2,166万m³(戦後最高水準)に達し、都道府県別では北海道290万m³(13.4%)・宮崎221万m³(10.2%)・大分163万m³(7.5%)がトップ3で、上位10道県で全国の約65%を占有する集中構造です。北海道はカラマツ・トドマツ(人工林80万ha)、宮崎・大分はスギ(九州スギの良質材)、岩手・秋田・福島は東北樹種(赤松・スギ)が中心。樹種別ではスギ55%・ヒノキ11%・カラマツ9%等の構成。素材生産業者2,000社のうち中堅以上100社で生産量の45%を占有、林業就業者は4.4万人で地域偏在が顕著。2030年の素材生産目標は約2,800万m³(自給率50%)で、上位道県の生産能力拡大、中堅地域の段階的引き上げ、機械化・路網整備、林業就業者確保の4軸が課題です。地域樹種・製材流通拠点・地域経済との結びつきで独自構造を持つ各産地の特性に応じた政策設計が、今後の日本林業の競争力強化と持続可能性確保の鍵となります。

素材生産量の歴史的推移と背景

日本の素材生産量は、戦後復興期の1960年代に約5,000万m³規模のピークを迎えた後、1970〜1990年代の住宅着工低迷・木材輸入拡大・林業労働力減少等により大幅に縮小し、2000年代初頭には1,500万m³規模まで減少しました。2010年代以降、戦後植栽の人工林の伐採適齢期到来、住宅建築用国産材回帰、CLT・集成材の生産拡大、木質バイオマス発電の燃料需要拡大等の追い風を受けて、素材生産量は段階的に回復し、2022年に2,166万m³に達しました。これは2010年比で約30%、2000年比で約45%の拡大に相当します。

素材生産量の地域構造も、この30年で大きく変化しました。1990年代までは九州(特に宮崎・大分・熊本)が生産量の中心で、東北・北海道は次位を占める構造でしたが、2010年代以降は北海道のカラマツ・トドマツ生産量が急拡大し、2022年には北海道が宮崎を抜いて1位となる地殻変動が起きました。これは、北海道の人工林80万haの伐採適齢期到来と、本州・九州への道産材移出の拡大が重なった結果です。今後10年で、道産カラマツ集成材は本州CLT・集成材市場の主要原料供給源として、さらに地位を高める見通しです。

素材生産業の地域構造変化に伴い、地域経済の構造も変化しています。1990年代の九州林業が県内製材所中心の自己完結型構造だったのに対し、2020年代の地域林業は、県内製材所+県外CLT/集成材工場+全国住宅メーカー+海外輸出の重層的な販売チャネルを持つ構造へと進化しました。これにより、地域林業の市場リスクは分散され、需要変動への耐性が向上した反面、地域内の付加価値の一部が県外・国外に流出する課題も同時に存在します。地域林業の高度化と地域経済への寄与の最大化のバランスが、今後の政策課題となります。

地域別の機械化・路網整備の状況

素材生産量の地域差は、機械化率・路網密度の地域差とも密接に関連します。北海道では人工林作業の機械化率が70%超で、ハーベスタ・フォワーダの組合せによる効率的な作業システムが定着。林道・作業道の路網密度はha当り30m以上に達し、全国最高水準です。宮崎・大分・熊本の九州主要林業県は、機械化率55〜65%、路網密度ha当り22〜28mで、北海道に次ぐ高水準を維持しています。岩手・秋田・福島の東北主要林業県は機械化率45〜55%、路網密度ha当り18〜22mで、改善余地が残されています。

機械化・路網整備の地域差は、素材生産コストの地域差として現れます。労働生産性が全国最高の北海道では、ha当り素材生産コストが他地域比で20〜30%低く、これが道産材の価格競争力・移出拡大の基盤となっています。一方、機械化率・路網密度が中位の地域では、生産性向上の余地が大きく、林野庁の補助事業(路網整備・機械導入支援)の活用により、今後10年で生産コストの15〜25%削減が期待されます。これら効率化の進展が、2030年の素材生産2,800万m³目標達成と、地域林業の経営持続性確保の両面で重要な役割を果たすでしょう。

都道府県別素材生産の今後の競争構造

2030年に向けた都道府県別素材生産の競争構造は、北海道の優位性持続、九州・東北の安定的拡大、中堅地域の急成長の3軸で展開する見通しです。北海道は人工林80万haの伐採適齢期持続・大規模機械化・道産集成材の本州移出拡大の3要因により、年間280〜310万m³規模を維持・拡大する可能性が高い。宮崎・大分・熊本の九州主要県は、九州スギ品種の良質材生産・大規模製材所群・木材輸出拠点の3軸で200万m³前後の生産水準を維持し、地域経済への寄与を継続するでしょう。

中堅地域の長野・岐阜・愛媛・高知・茨城・栃木等は、人工林の伐採適齢期到来と機械化推進・路網整備の進展により、現在の30〜70万m³規模から2030年に60〜100万m³規模への拡大可能性があります。これら中堅地域の成長が、全国素材生産2,800万m³目標達成の鍵を握る構造です。各地域の樹種特性・立地条件・労働力供給に応じた個別の成長戦略の設計と、林野庁の補助事業・地域経営計画の認定支援・人材育成の重層的施策が、今後10年の地域林業の発展を支える政策軸となります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次