【シラカシ/白樫】Quercus myrsinifolia|関東平地の防風林・生垣の戦略樹種

シラカシ | 樹木図鑑 - Forest Eight

この記事の結論(先出し)

気乾比重0.83(0.80〜0.90)重硬・耐摩耗樹高20m(15〜25m)常緑高木葉長10cm(8〜13cm 披針形)葉裏は緑色ドングリ1.5cm(殻斗同心円状)秋成熟
図1:シラカシの主要スペック(含水率15%基準・代表値)
  • シラカシ(Quercus myrsinifolia)はブナ科コナラ属アカガシ亜属の常緑高木で、関東平地の屋敷林・防風林・生垣の代表樹種として利用されます。
  • 気乾比重0.80〜0.90(平均0.83)の重硬材で、武蔵野・関東平野の伝統的屋敷林の中核を担い、葉裏は緑色(ウラジロガシの白色と対比)。
  • 「白樫」の和名は心材の淡色(アカガシの赤褐色との対比)に由来し、農具柄・楔・木刀・木工旋盤材として伝統的に利用されてきました。

関東平地の屋敷林、神社境内、住宅生垣──関東で最も普通に植栽される常緑カシ類がシラカシ(学名:Quercus myrsinifolia Blume)です。「白樫」の和名は心材の淡色に由来し、アカガシ(赤樫)と対比される樹種です。耐寒性・耐潮性・剪定耐性に優れ、関東平地の屋敷林・防風林・生垣として古来重要な戦略樹種であり、武蔵野台地の防風林を代表する樹木として江戸期以来の景観を支えてきました。本稿では植物学・近縁カシ類との識別・関東屋敷林文化・木材特性・病害虫・現代の生垣需要まで網羅的に整理します。

目次

クイックサマリ:シラカシの基本スペック

和名 シラカシ(白樫、別名:クロカシ、ホソバガシ)
学名 Quercus myrsinifolia Blume
分類 ブナ科(Fagaceae)コナラ属(Quercus)アカガシ亜属(subgen. Cyclobalanopsis
英名 Bamboo-leaf Oak, Japanese White Oak, Chinquapin Oak
主分布 本州(福島県以南)〜九州、朝鮮半島南部、中国南部、ベトナム北部
樹高 / 胸高直径 15〜25m(最大30m) / 50〜80cm(最大1m超)
気乾比重 0.80〜0.90(平均0.83、重硬)
曲げヤング係数 12〜15GPa(高剛性、コナラ属上位)
長楕円状披針形、長さ8〜13cm、葉裏は緑色(重要識別点)
主要用途 屋敷林・防風林、生垣、街路樹、農具柄、楔、木刀、刀剣鍔、木工旋盤材
独自特徴 関東平地屋敷林の代表、葉裏緑色、心材の淡色(白樫)

植物学的特性

  • 葉:長楕円状披針形〜披針形(細長い、最大の識別ポイント)、長さ8〜13cm、幅2〜3.5cm、革質、葉縁の上半分に細鋸歯、葉裏は淡緑色〜緑色(ウラジロガシの白色とは明確に区別)、互生、葉柄1〜2cm。
  • 樹皮:暗灰色〜黒褐色、若木では平滑、老木で細かく縦に裂ける。アラカシより黒みが強く、別名「クロカシ」の由来。
  • 花:5月、雌雄同株、雄花序は新枝の基部から下垂、雌花序は新枝の上部に2〜3個の雌花。
  • 果実:ドングリ、長さ約1.5cm、径約1cm、卵状楕円形、殻斗は同心円状の輪紋(アカガシ亜属共通の特徴)、秋(10〜11月)成熟。
  • 樹形:直立性、樹高15〜25m(最大30m)、幹は通直、枝張りは中程度。
  • 根系:直根性で深根、耐風性に寄与。

シラカシの葉は披針形で細長く、英名「Bamboo-leaf Oak(笹葉樫)」の由来となっています。葉裏が緑色であることが他のカシ類との最大の識別点で、ウラジロガシ(葉裏白色)、アラカシ(葉裏淡緑〜白っぽい)、アカガシ(葉裏緑色だが葉は楕円形)と区別できます。アカガシ亜属の特徴である殻斗の同心円状輪紋は、コナラ亜属(コナラ・クヌギ等)の鱗片状殻斗と対照的です。

近縁カシ類5種比較表

葉形 葉裏 心材色 気乾比重 主分布
シラカシ 披針形 8〜13cm 緑色 淡色 0.83 関東平地中心
アラカシ 倒卵形 7〜12cm 淡緑〜白っぽい 赤褐色 0.85 関東以西山地
アカガシ 長楕円形 10〜18cm 緑色 赤褐色 0.97 本州〜九州山地
ウラジロガシ 披針形 8〜14cm 白色 淡褐色 0.80 本州〜九州山地
イチイガシ 長楕円形 8〜14cm 黄褐色毛密生 淡赤褐色 0.92 西日本暖帯

5種の中でシラカシは関東平地の代表種であり、葉裏が緑色で、葉が披針形で細長い点が識別の要です。ウラジロガシとは葉裏色(緑 vs 白)、アラカシとは葉形(披針 vs 倒卵)と分布(平地 vs 山地)、アカガシとは心材色(淡 vs 赤褐)で容易に区別できます。

関東平地の屋敷林・武蔵野文化

関東地方では江戸期以来、(1) 屋敷の北側・西側にシラカシを密植する「屋敷林」、(2) 武蔵野台地の防風・防砂林、(3) 街道沿いの並木、として広く植栽されてきました。武蔵野の冬は「からっ風」と呼ばれる乾いた北西風が吹き(最大風速15m/s超、平均風速5〜8m/s)、農地と屋敷を守るためにシラカシ・ケヤキ・スギを組み合わせた屋敷林が形成されました。シラカシは(1) 耐寒性、(2) 耐風性、(3) 常緑による年間防風、(4) 剪定耐性、(5) 火災時の延焼防止(葉の含水率が高い)、で関東の気候風土に最適化された樹種です。

江戸時代の武蔵野新田開発(享保期・1720年代以降)では、入植農家が屋敷の周囲にシラカシを植え、防風・防砂・防火・燃料供給・農具材供給を兼ねる多機能林として整備しました。屋敷林の典型構成は、(1) 北西側にシラカシ・ケヤキの高木、(2) その内側にスギ・ヒノキ、(3) さらに内側にウメ・カキ等の果樹、(4) 屋敷内に竹林、という4層構造で、シラカシは最外周の風除けの主役を担いました。

埼玉県川越市・所沢市、東京都三鷹市・武蔵野市・国分寺市、千葉県野田市・流山市等には現在も伝統的屋敷林が点在し、武蔵野の景観文化として保全対象となっています。三鷹市・小金井市の「はけ」(国分寺崖線)周辺ではシラカシを中心とする屋敷林が国定文化的景観の構成要素として位置づけられ、東京都「歴史と文化の散歩道」、埼玉県「武蔵野の落葉樹林」保全事業の対象となっています。所沢市三ヶ島の「三富新田」(江戸期開拓地)の屋敷林は国の重要文化的景観に選定されています。

屋敷林の維持管理は伝統的に「切り上げ剪定」と呼ばれる手法で、樹高を10〜15mに抑え、下枝を3〜4mまで打ち上げて風通しと採光を確保しました。剪定枝は薪・炭の原料、落葉は堆肥、間伐材は農具柄に利用される循環型資源管理の典型例です。近年は屋敷林所有者の高齢化と相続税負担で減少傾向にあり、東京都・埼玉県では屋敷林保全条例による補助制度が整備されつつあります。

用材としての特性

シラカシ材は気乾比重0.80〜0.90(平均0.83)の重硬材で、辺材は淡黄白色、心材は淡色(白っぽい黄褐色)。アカガシ(赤褐色)より明るい色調が和名「白樫」の由来であり、辺心材の境界も比較的不明瞭です。曲げヤング係数12〜15GPa、圧縮強度・せん断強度ともに高く、衝撃に対する靭性も優れます。年輪は環孔材で、春材の道管が連続的に並び、夏材は緻密。木理は通直〜やや交錯し、肌目は精で仕上がりは滑らか。

主要な物性値(含水率15%基準)は、曲げ強さ110〜130MPa、圧縮強さ(縦圧縮)55〜65MPa、せん断強さ13〜16MPa、衝撃曲げ吸収エネルギー0.9〜1.2J/cm³、ブリネル硬さ40〜50N/mm²と、いずれも国産材上位クラス。スギ(気乾比重0.38)と比較すると2倍以上の比重で、ケヤキ(0.69)より重く、アカガシ(0.97)には及ばないものの、コナラ(0.68)・ミズナラ(0.67)を上回る重硬材です。

伝統的用途として、(1) 農具の柄(鍬・鎌・鋤・唐鍬)、(2) 楔(くさび)、(3) 木刀・木槌、(4) 刀剣の鍔(つば)下地、(5) 木工旋盤材、(6) 船材(特に櫓・櫂・梶棒)、(7) 建具・鉋台、(8) 太鼓のばち、(9) 機織り機の杼(ひ)、が挙げられます。アカガシより加工性が良く、入手も容易だったため、武蔵野の農村では日用工具材として重宝されました。乾燥は緩慢で割れ・狂いが出やすいため、長期間の自然乾燥(2〜3年)が伝統工法で、現代では人工乾燥(蒸煮+減圧乾燥)でも30〜45日を要します。

現代の用途では、(1) 高級木刀(剣道・古武道用、樫木刀の代表素材)、(2) 木製パターヘッド、(3) 工芸品(茶杓・茶筒・盆)、(4) フローリング(高耐摩耗床材)、(5) 家具部材(椅子の脚・座面)、(6) 太鼓のばち、として小規模ながら継続利用されています。木刀市場では宮崎県都城市が国内最大の産地で、シラカシ・アカガシ・ビワ材を主要素材としています。

都市部での街路樹・生垣採用例

シラカシは(1) 大気汚染耐性(SO₂・NOx耐性中〜高)、(2) 剪定耐性、(3) 常緑、(4) 病虫害が比較的少ない、(5) 直立性で街路空間に適合、の5要素で都市緑化に適しており、東京23区・埼玉県南部・神奈川県の街路樹として採用例が増加しています。国土交通省「街路樹の樹種別統計」では常緑広葉樹のうちシラカシは全国で約12万本(全街路樹の約1.5%)が植栽され、関東地方では常緑樹の街路樹採用率上位5種に入ります。代表的な街路樹採用事例として、東京都世田谷区の環状8号線、埼玉県さいたま市の旧中山道、神奈川県横浜市の青葉区一帯が挙げられます。

生垣としても、(1) 高さ1.5〜3mの目隠し、(2) 防火樹(葉の含水率が高く延焼を抑制、東京消防庁推奨樹種)、(3) 防音・防風、(4) プライバシー保護、の機能性で住宅地に普及しています。東京都「防火樹林帯整備事業」ではシラカシ・スダジイ・タブノキが推奨樹種として明記され、密集市街地の延焼遮断帯整備に活用されています。新興住宅地のシンボルツリーとしてもコブシ・ヤマボウシと並んで人気で、年間の苗木流通量は全国で50万本以上と推定されます。

植栽コストは、生垣用苗木(樹高1.5m)が1本2,000〜4,000円、街路樹規格(樹高3〜4m、根巻苗)が1本15,000〜30,000円、シンボルツリー級(樹高5〜7m)が80,000〜200,000円程度。維持管理は年2回の剪定で1m²あたり年間500〜1,000円のコストが目安です。

森林環境譲与税の活用

(1) 屋敷林・防風林の保全、(2) 街路樹・生垣の植栽更新、(3) 生物多様性保全林整備、(4) 国分寺崖線等の文化的景観保全、という観点から森林環境譲与税の活用対象となります。譲与税は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向を、J-クレジットは【J-クレジット制度森林管理プロジェクトとは】FO-001/002/003方法論を参照ください。

生態と林分構成

シラカシは暖温帯落葉広葉樹林(コナラ・クヌギ二次林)の常緑要素として、(1) 神社境内の社叢、(2) 屋敷林、(3) 平地の常緑樹林、(4) 河川敷の林縁、に分布します。自然林では関東平野・東海地方の沖積平野部に小規模な優占林を形成し、千葉県市原市・茂原市、埼玉県越谷市・春日部市の鎮守の森ではシラカシ-スダジイ群落が発達。樹冠下の林床にはアオキ・ヤツデ・キヅタ等の常緑低木、シダ類(ベニシダ・イノデ)が見られます。

シラカシのドングリは秋(10〜11月)に大量に落下し、(1) ツキノワグマ・イノシシ・タヌキの秋季食物、(2) リス・ヤマガラ・カケスの貯食対象、(3) ネズミ類の越冬食料、として森林生態系の重要な物質循環を担います。カケスは1羽あたり年間数千個のドングリを貯食し、忘れた個体が発芽することで自然更新が促進されます。シラカシの年間ドングリ生産量は成木1本あたり数千〜数万個に達し、豊凶周期は3〜5年。

動物相としては、(1) シラカシハバチ(葉食)、(2) ウラジロガシハバチ、(3) シラカシキジラミ、(4) ハイイロチョッキリ(ドングリ穿孔)、(5) シギゾウムシ類(ドングリ食)、等の昆虫類が固有・準固有のシラカシ依存種として知られます。鳥類ではシジュウカラ・メジロ・ヒヨドリが樹冠で採餌・営巣に利用し、都市部の屋敷林ではフクロウ・アオバズクの営巣樹としても重要です。

気候変動と分布動向

暖温帯〜冷温帯下部の樹種で、年平均気温10〜18℃、年降水量1,000〜2,500mmの地域が適地です。温暖化下では分布の北上が予想され、環境省の生物多様性総合評価(JBO)でも常緑カシ類の分布北限が過去50年で約100km北上したと報告。東北南部(福島県・宮城県南部)・新潟県中越での植栽実績も増加しています。耐寒性は−10℃程度まで耐え、関東以北での街路樹・生垣としての展開が現実的になっています。一方で夏季の高温乾燥には弱く、近年の都市ヒートアイランド下では夏期の灌水が必要なケースも報告されています。森林総合研究所の気候変動シナリオ(RCP8.5)では、2100年までにシラカシの潜在分布域が東北中部まで北上する予測が示されています。

栽培・管理のポイント

シラカシを生垣・シンボルツリーとして導入する際の実用ガイドラインをまとめます。

  • 植栽適期:3〜4月(萌芽前)または10〜11月(休眠期入り)。真夏・厳冬期は活着不良のため避ける。
  • 用土:水はけの良い壌土〜砂壌土を好む。重粘土では植穴底に砂利・腐葉土を混入し排水改善。pH 5.5〜6.5の弱酸性が最適。
  • 植栽間隔:生垣は40〜60cm間隔、シンボルツリーは隣接樹から3m以上、街路樹は8〜10m間隔が標準。
  • 初期灌水:植栽後1〜2年は週1回(夏期は週2回)の灌水が必要。3年目以降は降雨に任せて可。
  • 施肥:2月の寒肥(油粕+骨粉)、9月の追肥(化成肥料)の年2回が標準。過肥は徒長を招くため控えめに。
  • 剪定:年2回(5〜6月、9〜10月)。強剪定にも耐えるが、極端な切り戻しは樹形崩れの原因となるため、毎年の軽い刈り込みが望ましい。
  • 支柱:植栽後2〜3年は二脚鳥居支柱・八ツ掛け支柱で固定。風による揺れで根の活着が阻害される。

病害虫リスク

  • ナラ枯れ(カシノナガキクイムシ媒介):ミズナラ・コナラを主対象とするが、シラカシも被害事例あり。胸高直径30cm超の老木が被害を受けやすく、屋敷林の高齢木はリスク要注意。林野庁の被害報告では2023年度全国被害量約14万立方メートル。
  • うどんこ病:新葉に白色粉状の菌叢が発生。風通しの良い剪定で予防可能。
  • シロアリ・キクイムシ:伐採後の材に発生。早期の製材・乾燥で被害を抑制。
  • カイガラムシ・アブラムシ:都市部の街路樹で発生。すす病を併発するため定期的な薬剤散布が必要。
  • テッポウムシ(カミキリムシ幼虫):幹に穿孔。穿孔部から雨水侵入で腐朽進行。

観察ポイント・季節別の見どころ

シラカシ観察の最適時期と着目点をまとめます。

  • 春(4〜5月):新葉の展開と開花。新葉は淡黄緑色で柔らかく、3〜4日で革質に変化。雄花序は5〜7cmの紐状で下垂し、雌花序は新枝の上部に2〜3個目立たない。花粉は風散布だが量は少なく、花粉症の主要原因にはならない。
  • 初夏(6〜7月):幼果(ドングリ)の発達期。前年の雌花から成熟した果実が約1.5cmまで肥大。同時期に新枝が硬化し、樹冠が深い緑に。
  • 盛夏(8月):葉色は濃緑、夏鳥(メジロ・シジュウカラ)の樹冠採餌が観察できる。ヒートアイランド下では葉先のしおれが見られ、灌水の判断時期。
  • 秋(10〜11月):ドングリ落下のピーク。樹下に殻斗(同心円輪紋)と種子が散乱し、リス・カケスが貯食活動を行う観察適期。常緑樹のため紅葉はせず、古葉が翌春に交替する。
  • 冬(12〜2月):葉裏の緑色を確認しやすい時期。落葉樹が葉を落とすため、屋敷林・神社境内でシラカシの林冠が目立つ。樹皮の暗灰色・縦裂模様の観察適期。

葉裏が緑色であることを確認すれば、シラカシ・アカガシ系統(葉裏緑)と、ウラジロガシ(葉裏白)・アラカシ(葉裏淡緑〜白っぽい)を一次選別できます。葉形が披針形で細長ければシラカシ、大型で楕円形ならアカガシと判別可能です。

歴史・民俗──武蔵野の白樫伝承

シラカシは古来より関東の人々の生活基盤と密接に結びつき、(1) 武蔵国府(東京都府中市)の鎮守の森、(2) 鹿島神宮(茨城県)・香取神宮(千葉県)の社叢、(3) 江戸城外堀の防火樹、として歴史的に活用されてきました。江戸幕府は享保年間に「御林(おはやし)」制度でシラカシ・ケヤキ・スギの保全を命じ、農具材・武具材の供給源として確保しました。

民俗的には、(1) 屋敷神(屋敷の鎮守)の依代として古木を残す慣習、(2) 「かしの木」を家系の長寿の象徴とする伝承、(3) ドングリを子供の遊び道具(独楽・首飾り)とする風習、が関東各地に残ります。剣道・古武道の世界では、シラカシ製の木刀は「白樫木刀」と呼ばれ、アカガシより軽量で扱いやすく、初心者から上級者まで広く使われる定番素材として位置づけられています。茶道具では茶杓・茶筒・蓋置の素材として、淡色心材の上品な木目が好まれます。

識別のポイント(Field Guide)

  • 葉:長楕円状披針形(細長い、最大の識別ポイント)、8〜13cm、葉縁の上半分に細鋸歯、葉裏は緑色(ウラジロガシの白色との対比)
  • 心材:淡色(アカガシの赤褐色と対比、和名「白樫」の由来)
  • 樹皮:暗灰色〜黒褐色、平滑〜細裂(別名「クロカシ」の由来)
  • 樹形:樹高15〜25m、直立性、幹通直
  • ドングリ:長さ1.5cm、殻斗は同心円状輪紋(アカガシ亜属共通)
  • 分布:関東平地・里山に普通、屋敷林・神社境内に多い
シラカシの主用途(伝統〜現代)1屋敷林・防風林2生垣・防火樹3街路樹4農具柄・楔5木刀・鍔6旋盤・船材
図2:シラカシの主用途。伝統工具材から現代街路樹まで

よくある質問(FAQ)

Q1. シラカシとアラカシの違いは?

(1) 葉形(シラカシ=披針形で細長い、アラカシ=倒卵形で幅広)、(2) 葉縁鋸歯(シラカシ=細かい、アラカシ=粗い)、(3) 心材色(シラカシ=淡色、アラカシ=赤褐色)、(4) 分布傾向(シラカシ=関東平地中心、アラカシ=関東以西山地中心)。詳細は【アラカシ】Quercus glauca|西日本山林の代表カシを参照ください。

Q2. シラカシとウラジロガシの違いは?

葉裏の色が決定的に異なります。シラカシは葉裏が緑色、ウラジロガシは白色(蝋質)。手に取って葉を裏返せば一瞬で識別できます。分布もシラカシが関東平地中心、ウラジロガシは本州〜九州の山地中心と異なります。

Q3. なぜ関東で屋敷林に使われるのですか?

(1) 耐寒性、(2) 耐風性、(3) 関東の冬の北西風(からっ風)への適応、(4) 常緑による年間防風、(5) 剪定耐性、(6) 葉の含水率が高く防火性に優れる、の6要素で関東気候風土に最適です。武蔵野の歴史的屋敷林・防風林の中核樹種で、現代でも住宅生垣の標準素材として利用されます。

Q4. なぜ「白樫」なのに葉裏は白くないのですか?

「白樫」の「白」は葉ではなく心材の色に由来します。アカガシ(赤樫)の心材が赤褐色であるのに対し、シラカシの心材は淡黄白色〜淡色で明るく、その対比から「白樫」と呼ばれます。葉裏が白いのはウラジロガシで、別の樹種です。

Q5. 庭木として育てられますか?

関東以南で広く植栽可能。耐寒性・耐潮性・耐剪定性に優れ、生垣・シンボルツリー・防風林として現代でも人気が高い樹種です。植栽適期は3〜4月または10〜11月、深植えを避け、植栽後2年は灌水が必要です。

Q6. 生垣にするときの剪定時期は?

年2回(5〜6月と9〜10月)が理想です。新芽の伸長後と秋の生育終了前に刈り込むことで、密で美しい生垣を維持できます。強剪定にも耐えるため、樹形作りは比較的容易です。

Q7. ナラ枯れの被害は受けますか?

主にミズナラ・コナラが対象ですが、シラカシでも被害事例があります。胸高直径30cm超の老木がリスク。屋敷林の高齢木は予防的な薬剤注入や穿入孔のチェックが推奨されます。林野庁の防除事業での補助対象にもなります。

Q8. ドングリは食べられますか?

渋み(タンニン)が強く生食には適しませんが、水でアク抜きすれば食用可能です。縄文時代の主要食料の一つで、粉にして団子・ドングリ豆腐に加工された記録があります。野生動物(リス・カケス・ネズミ)の重要餌資源でもあります。

Q9. シラカシの寿命はどのくらいですか?

200〜400年程度。屋敷林の老木では樹齢300年超の個体も記録されており、神社境内の御神木として保存されている例もあります。

Q10. 木材として現代でも入手できますか?

関東地方で屋敷林の更新時に少量流通しますが、一般市場には少なく、農具柄・木刀の専門店で取り扱われます。アカガシより安価で加工性も良好なため、自然乾燥材は木工愛好家に人気です。

Q11. 雌雄同株ですか?

雌雄同株(一個体に雄花序と雌花序がつく)です。5月に開花し、雄花序は新枝の基部から下垂、雌花序は新枝の上部に2〜3個つきます。風媒花で、花粉症の原因にはなりません。

Q12. 神社の社叢で見かけるのは何故ですか?

関東地方の神社では鎮守の森(社叢)の構成樹としてシラカシ・スダジイ・ケヤキが多用されます。常緑であること、長寿であること、火災に強いこと、神聖視されてきた樹種であることが理由で、千葉県・埼玉県の鎮守の森ではシラカシ優占林が多く見られます。

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シラカシの経済価値と現代の課題

シラカシ材の現代経済価値は、用材としての市場規模は縮小したものの、(1) 木刀・剣道具市場(年間推定2〜3億円)、(2) 高級床材・家具部材(年間1〜2億円)、(3) 苗木・造園資材(年間20〜30億円)、(4) 屋敷林の景観価値(保全条例による評価額)、と多角化しています。一方で課題として、(1) 屋敷林の相続税負担、(2) 高齢所有者の管理放棄、(3) 都市再開発による伐採、(4) ナラ枯れの北上、(5) 街路樹の老朽化更新、が挙げられ、自治体・所有者・専門家の連携した保全戦略が求められます。森林環境譲与税の活用、屋敷林保全条例、文化的景観指定、市民参加型の管理組織化が解決の方向性となっています。

まとめ

シラカシは、(1) 関東平地の屋敷林・防風林の代表樹種として武蔵野の景観文化を支える、(2) 葉裏が緑色で披針形の細長い葉を持つ独自の識別形態、(3) 心材の淡色(白樫)でアカガシと対比される、(4) 気乾比重0.83の重硬材として農具柄・楔・木刀・木工旋盤材に伝統利用、(5) 都市の街路樹・生垣として防火・防風機能を発揮、(6) ナラ枯れ等のリスク管理を要する、という六層の価値とリスクを併せ持つ樹種です。武蔵野の屋敷林、神社の社叢、住宅街の生垣として、関東の人々の暮らしと最も近い距離にある常緑カシ──それがシラカシです。

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