【アカガシ/赤樫】Quercus acuta|超重量・超高剛性の伝統工具・武具材

アカガシ | Forest Eight

日本に生える木の中で、いちばん重くて硬い部類に入るのがアカガシ(学名 Quercus acuta)です。気乾比重は0.85〜1.05、平均で0.95──水に入れると沈むものもあるほどの重さ。心材が赤褐色に染まることから「赤樫」と呼ばれ、その重さと硬さ、衝撃への強さを買われて、日本刀の柄や剣道の木刀、農具の柄として古くから珍重されてきました。関東以南の山地林や神社の社叢に、ひときわ重厚な巨木として静かに立っています。

気乾比重0.95(0.85〜1.05・日本産最重量級)重硬・耐摩耗曲げ強度130-160MPa高強度曲げヤング率14-18GPa高剛性耐朽性★★★★☆D2級中〜高
図1:アカガシの主要スペック(含水率15%基準・代表値)

分類はブナ科コナラ属アカガシ亜属。シラカシ・アラカシ・ウラジロガシと同じグループですが、葉はカシ類でいちばん大きく(8〜15cm)、ふちはほぼ全縁か、ごく浅い波状になる程度。葉裏には淡褐色の細かい毛があり、春の新葉が赤褐色を帯びるのも特徴です。本州は宮城県あたりを北限に、九州まで分布します。耐陰性が非常に高く、林床でじっと更新の機会を待つ「先延ばし戦略」の常緑樹です。

目次

刀の柄、木刀──最重量・最強度の材

アカガシ材の真価は、その圧倒的な力学性能にあります。曲げ強度130〜160MPa、ヤング係数14〜18GPaはカシ類でも最高水準。スギと比べると比重で2倍以上、曲げ強度も2倍超、表面の硬さは針葉樹の3〜4倍に達します。この「重い・硬い・たわまない・衝撃に強い」という組み合わせが、武具・工具材として理想的でした。

代表が日本刀の柄(つか)です。江戸期の刀工銘鑑にも「柄材は赤樫を最上とす」と記され、近世の武具産業を支えました。剣道用の木刀(赤樫木刀)は今も全日本剣道連盟公認用具として生産が続き、宮崎県都城市が全国シェア約6割、大分県とあわせて年間30〜50万本規模が作られています。ほかにも鍬・斧・大ハンマー(玄翁)・鳶口といった、衝撃と摩耗に同時に耐える必要のある農具の柄はほぼアカガシの独壇場でした。ただし乾燥に時間がかかり、生材から使えるようになるまで5〜10年のシーズニングが必要なため、良材は銘木店経由で1m³あたり30〜80万円というプレミアム価格で取引されます。

釘を使わない建築を支えた込栓

もう一つ見逃せないのが、伝統建築での働きです。柱と梁の継手にアカガシ製の込栓(こみせん)を打ち込んで固定する──金物を使わない「木組み」建築の要となる部材でした。重く硬く摩耗に強いアカガシの込栓は、本体のヒノキやケヤキより長持ちすることも多く、500年級の社寺の解体修理で込栓だけが再利用される例も報告されています。和船の世界でも、塩水で腐らず板を固定する木栓・木釘として、千石船一隻に2〜5m³も使われた戦略部材でした。

千年を生きる御神木

アカガシは樹齢500〜1,000年級の巨木になり、天然記念物として全国に約30件が指定されています。鹿児島県の蒲生八幡神社のアカガシは推定樹齢600年、幹周7.8m、樹高28mという九州を代表する御神木です。常緑で寿命が長く、心材の赤色が神道で魔除けや生命力の象徴とされたことから、社叢林(鎮守の森)の主役として、しめ縄を巻かれて祀られてきました。神社の境内で「ひときわ重厚で大きな常緑樹」を見かけたら、まずアカガシを疑ってよいでしょう。

近縁カシとの見分け方

項目 アカガシ シラカシ アラカシ ウラジロガシ
葉長 8〜15cm(最大) 7〜12cm 5〜12cm 6〜12cm
葉縁 全縁〜微鋸歯 上半分に鋭鋸歯 上半分に粗鋸歯 上半分に鋭鋸歯
葉裏 淡褐色微毛 淡緑・無毛 粉白色 白色(顕著)
心材色 赤褐色 淡黄褐色 淡褐色 淡黄褐色

決め手は「葉裏の色+心材の色」です。葉裏が白く目立てばウラジロガシ、淡褐色の微毛があればアカガシ、粉白色ならアラカシ、無毛の淡緑ならシラカシ。倒木や伐採跡で切り口が見えるなら、明らかに赤いのがアカガシ、ほかは淡い黄褐色系です。葉がカシ類で最大級で、若葉が赤みを帯びるのもアカガシのサインです。

アカガシの主用途1刀剣の柄2木刀3船舶部材4農具の柄5建築用木栓6薪炭材
図2:アカガシの主用途

見分け方のポイント

  • 葉:カシ類で最大級の8〜15cm、ふちは全縁〜ごく浅い波状。裏に淡褐色の微毛
  • 若葉:春の新葉が赤褐色を帯びる
  • 心材:赤褐色〜暗赤褐色(決定打、「赤樫」の由来)
  • 樹形:樹高20〜30m、千年級では幹周5〜8m。神社の社叢に重厚な巨木として残る

よくある質問

なぜ刀の柄に使われるの?
重くて硬く、衝撃を吸収し、削り出しの精度が高く、経年で飴色に美しく変化する──柄材としての条件をすべて備えているからです。白鞘にはホオノキ、柄にはアカガシ、と昔から使い分けられてきました。

木刀はどう選べばいい?
全日本剣道連盟の公認品を選び、木目がまっすぐで節が少なく、心材が均一に深い赤褐色のものが良品です。宮崎県都城市・大分県の産地製が標準で、価格は普及品5,000円〜、上級品は3万〜5万円ほどです。

庭木にできますか?
樹高20〜30mになる大型樹なので住宅の庭には大きすぎますが、広い敷地・公園・神社境内の記念樹には向きます。長い年月をかけて赤い心材を育む、腰を据えて付き合う木です。

ドングリは食べられる?
渋みが強く生では食べられません。3〜7日の水さらしでアク抜きすれば食用になりますが、風味ではスダジイなどのシイ類が勝るため、昔からそちらが優先されました。イノシシやクマ、リスにとっては大切な秋の食料です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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