森というと「変わらず静かにそこにあるもの」というイメージがありますが、じつは日本の森は毎年もりもりと太っています。新しく育つ立木の量、いわゆる年間成長量は約7,000万m³。それに対して切り出して使う量は2,200万m³ほど。つまり、育つ量の3分の1しか使っていないのです。差し引き毎年4,800万m³ずつ、木が貯まり続けている——これが今の日本の森の姿です。この「使いきれないほど豊かな資源」の収支を、数字でほどいてみます。
育つ木の半分近くはスギ
年間成長量7,000万m³のうち、人工林が約4,000万m³、天然林が約3,000万m³。樹種ごとに見ると、ぐっと偏りが出ます。なんといってもスギが約3,000万m³で全体の4割超を占め、続いて広葉樹天然林2,500万m³、ヒノキ700万m³、カラマツ400万m³という構成です。
1haあたりに直すと、スギは年6.8m³、ヒノキ2.7m³、カラマツ4.0m³、天然林2.2m³。スギの成長の速さが頭ひとつ抜けています。限られた面積から大量の木材を生み出せる——これこそ、戦後の拡大造林がスギを主役に選んだ大きな理由でした。
52年で蓄積は2.7倍に
森に貯まっている立木の総量(森林蓄積)も、その成果を物語っています。1970年代に約20億m³だったものが、2022年には55.6億m³へ。52年で2.7倍です。とくに人工林は7億m³から33億m³へと約4.7倍に膨らみました。戦後に植えたスギ・ヒノキ・カラマツが、ちょうど育ちざかりを迎えているのです。
「使えるのに使っていない」のが日本の森
資源の収支はシンプルです。育つ量から、切り出す量と自然に枯れる分を引いた残りが、毎年積み上がっていく。日本の場合は次の通りです。
| 収支項目 | 年間量(万m³) | 説明 |
|---|---|---|
| 年間成長量(+) | +7,000 | 人工林4,000+天然林3,000 |
| 年間素材生産(−) | -2,200 | 主伐・間伐による搬出 |
| 枯損・自然消費(−) | -数百 | 立木の枯損・消失 |
| 年間蓄積純増 | +4,800 | 差し引き |
森を痩せさせずに最大限切り出せる量(持続可能伐採量)は、人工林蓄積33億m³を70年の伐期で割って約4,700万m³/年と試算されます。ところが実際の素材生産は2,200万m³。つまり持続的に切れる量の47%しか使っていません。林野庁は2030年代に素材生産を4,000万m³(利用率85%)まで引き上げる目標を掲げており、そのためには施業の集約化、高性能機械、路網整備、人材確保、市場開拓を同時に進める必要があります。
森が吸うCO2は排出量の4.4%
毎年積み上がる4,800万m³の木材は、CO2に換算すると約4,800万t-CO2を吸収・固定したことになります(木材1m³あたり約1t-CO2)。これは日本の年間CO2排出量11億tの約4.4%。決して小さくない数字で、パリ協定の「2013年比46%削減」を達成するうえで、森林吸収源は欠かせないピースです。とくに育ちざかりの人工林が炭素をぐんぐん固定しており、吸収量の3分の2は人工林由来とされています。
森が高齢化すると、成長は鈍る
ただし、この豊かさはずっと続くわけではありません。問題は森の年齢構成です。戦後に一斉に植えられた人工林は、いまや50〜60年生に集中しています。スギ人工林では11齢級(51年生)以上が42%を占め、その多くがすでに伐りどきを迎えています。木は若い頃ほど勢いよく育ち、高齢になると成長が鈍る(樹齢60年超のスギはピークの5〜7割程度)ので、このまま高齢化が進むと、成長量そのものが落ちていきます。実際、2030〜2040年には7,000〜6,500万m³程度まで下がると見込まれています。これを防ぐ唯一の道は、計画的に伐って、伐った跡にきちんと植え直すこと。世代交代を回し続けることです。
地域でこんなに違う利用率
同じ日本でも、森の使われ方は地域でまるで違います。利用率(成長量に対する素材生産の割合)を並べると、その差がはっきりします。
| 県 | 年間成長量(万m³) | 年間素材生産(万m³) | 利用率 |
|---|---|---|---|
| 宮崎 | 250 | 200 | 約80% |
| 大分 | 180 | 120 | 約67% |
| 熊本 | 180 | 110 | 約61% |
| 北海道 | 700〜800 | 約400 | 約50% |
| 秋田 | 250 | 110 | 約44% |
| 長野 | 220 | 50 | 約23% |
| 新潟 | 180 | 30 | 約17% |
九州の宮崎・大分・熊本は利用率60〜80%と全国でも飛び抜けています。スギ人工林の密度が高く、伐る・運ぶ・売るの流通体制が整っているからです。一方、北日本は森も成長量も大きいのに利用率は40〜50%どまり。せっかく育っても、それを運び出して売るしくみが追いついていない——そんな構図が透けて見えます。
世界に比べると、まだまだ控えめ
世界の林業国と並べると、日本の特徴がよく分かります。森林率67%はフィンランドやスウェーデンに次ぐ高水準で、蓄積も国土面積比では世界トップクラス。それなのに、年間伐採量2,200万m³は、森林面積がほぼ同じフィンランド(7,000万m³)の3分の1にすぎません。急峻な山岳地形、林業労働力の高齢化、流通の制約——いろいろな事情はありますが、北欧の使い方に学ぶ余地はまだ大きいと言えそうです。
| 国 | 森林面積(万ha) | 森林率 | 年間伐採量(万m³) |
|---|---|---|---|
| 日本 | 2,510 | 67% | 2,200 |
| フィンランド | 2,240 | 74% | 7,000 |
| スウェーデン | 2,800 | 69% | 9,000 |
| ドイツ | 1,140 | 32% | 5,500 |
これからの森との付き合い方
日本の森は、いま「資源を貯める時代」から「資源を使い、回す時代」への転換点にあります。育ちざかりを過ぎた人工林を計画的に伐り、跡地に植え直して若い森に更新する。CLTや木造ビル、木質バイオマス発電など新しい使い道を広げる。小さな所有を束ねて機械化で効率を上げ、森林由来のCO2吸収をクレジットとして再造林の財源に変えていく。豊かに貯まった55.6億m³を、痩せさせずに賢く活かしていけるか——それが、これからの日本の林業に問われている課題です。

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