保護林・緑の回廊|国有林の生物多様性保全エリア構造

保護林・緑の回廊 | Forest Eight

日本の森を守る仕組みは、ひとつの法律でできているわけではありません。森林法の保安林、自然公園法の国立公園、林野庁の保護林や緑の回廊、世界自然遺産――目的の違う制度が同じ山に何重にも重なって、結果として広大な保全エリアを形づくっています。2030年までに陸と海の30%を守る「30 by 30」という国際目標に向けて、いま日本でもこの多層構造の見直しと拡張が進んでいます。本稿では、その全体像を主な数字でたどってみます。

保安林1,225万ha全森林の49%国立公園34カ所・219万ha国土の5.8%緑の回廊24回廊・58.4万ha国有林指定30 by 30目標30%陸海保全2030年目標
図1:日本の森林保護区主要諸元(出典:林野庁・環境省「生物多様性国家戦略2023-2030」)
目次

森を守る制度は何層にも重なっている

森林の保護区は、目的や厳しさに応じていくつもの層に分かれています。いちばん広いのが森林法に基づく保安林の1,225万haで、これだけで全森林の49%。次に自然公園法の国立公園34カ所(約219万ha)・国定公園58カ所(約147万ha)・都道府県立自然公園310カ所(約191万ha)が景観と生態系を守ります。さらに学術的価値の高い場所を守る自然環境保全地域、国有林の中で厳格に保全する保護林が約70万ha、それらをつなぐ緑の回廊が58.4万ha。加えてラムサール条約の登録湿地が53カ所(約15.5万ha)あります。

注意したいのは、これらが互いに重なって指定される点です。たとえば同じ山が保安林であり、かつ国立公園の特別保護地区でもある、ということが珍しくありません。だから面積を単純に足し算しても国土に対する保全割合は出ません。下の図は、その重なりを意識しながら主な区分の面積感をならべたものです。

保護区階層と面積(万ha)保安林 1,225万ha(全森林の49%)国立公園 219万ha国定公園 147万ha県立自然公園 191万ha保護林 70万ha緑の回廊 58万ha注:制度が重複指定される場合あり、合計は単純合計でない
図2:保護区階層と面積概観(出典:林野庁・環境省統計)

いちばん広い保安林、いちばん有名な国立公園

面積で群を抜くのが保安林です。水源涵養(913万ha)、土砂流出防備(260万ha)を中心に17種類があり、伐採の許可制や開発制限がかかる代わりに固定資産税の軽減などの優遇があります。一度指定されると解除は公益上やむを得ない場合に限られ、しかも代替地の確保が求められるため、保全ネットワークとしての永続性が高いのが特徴です。

一方、私たちが「自然を守る場所」と聞いてまず思い浮かべるのは国立公園でしょう。日光、尾瀬、中部山岳、知床、屋久島など34カ所。中身は厳しさに応じて、伐採が全面禁止の特別保護地区(公園面積の約13%)、伐採が制限される特別地域、届出制の普通地域に分かれています。年間の来訪者は全国立公園あわせて約3億人にのぼり、富士山や尾瀬、屋久島では踏み荒らしやゴミといったオーバーユースが問題化し、入山料や利用調整の導入が進んでいます。守ることと使うことのバランスが、いまの自然公園の最大のテーマです。

点を線でつなぐ「緑の回廊」

保護区をぽつぽつと点で守るだけでは、生きものの行き来が途切れてしまいます。そこで林野庁は、国有林の中の保護林どうしを生態的につなぐ「緑の回廊」を全国24カ所・58.4万ha指定しています。奥羽山脈(青森〜福島)、中央アルプス、四国山地、九州中央山地といった縦走系が代表例で、野生動物の移動経路と遺伝子の流れを確保するのが狙いです。

背景には、孤立した小さな森ほど生物多様性が下がりやすいという生態学の知見があります。森が道路や開発で細切れになると、縁辺部では風や光、温度が内部と変わってしまう「エッジ効果」が広がり、オオタカやクマタカのように広い森を必要とする種から姿を消していきます。回廊はこの分断を縫い合わせる試みで、知床や大雪山、四国の高速道路区間ではエコブリッジ(動物用の陸橋)といった具体策も導入されています。保護林自体は1915年の「学術参考保護林」に起源を持ち、いまは森林生態系保護地域31カ所などとして原生的な森を厳格に守っています。

世界に認められた5つの自然遺産

国際的に認められた日本の自然として、世界自然遺産が5カ所あります。屋久杉の原生林をもつ屋久島(1993年)、世界最大級のブナ原生林が広がる白神山地(1993年)、海と陸の生態系がつながる知床(2005年)、海洋島で固有種が進化した小笠原諸島(2011年)、そしてアマミノクロウサギやイリオモテヤマネコが暮らす奄美・沖縄(2021年)。いずれも国際機関への定期報告やモニタリング、観光管理が義務づけられ、保全状況が国際的にチェックされる仕組みになっています。

30 by 30とOECMs──民間の森も守る側へ

近年の大きな動きが、2022年のCBD COP15で採択された「2030年までに陸海の30%を守る」という30 by 30目標です。日本は「生物多様性国家戦略2023-2030」にこれを明記しました。日本の保護地域率はいま陸20.5%・海13.3%。残りを埋める切り札と期待されているのがOECMs(保護区以外で保全に貢献する地域)で、日本では「自然共生サイト」として2023年から認定が始まり、2024年時点で全国184カ所が認定されています。

対象は、法的な保護区ではないけれど生物多様性が豊かな私有地・社有地・寺社林・里山など。トヨタの森やサントリーの森といった企業の社有林、明治神宮や春日大社の社叢林などが候補にあがっており、企業にとってはESGやTNFD(自然関連財務情報開示)への対応として価値向上にもつながります。環境省は、こうしたOECMsの認定を広げることで2030年に30%到達が見込めると試算しています。「守る場所」を行政だけでなく企業や地域、寺社まで広げていく――それがこれからの森林保全の方向性です。

よくある質問

Q. 保安林と国立公園は何が違うの?
保安林は森林法に基づく機能の保全(水源や防災など)、国立公園は自然公園法に基づく景観・生態系の保全です。目的が違うので、同じ森が両方に指定されることもあります。

Q. OECMs(自然共生サイト)とは?
法的な保護区ではないものの、効果的に生物多様性を守っている地域のこと。日本では社有林や里山、寺社林などが「自然共生サイト」として認定され、30 by 30目標の達成を後押ししています。

Q. 私有林も保護区になりますか?
なります。保安林の指定や自然共生サイトの認定を受ければ、所有権は残したまま管理に一定の制約が加わる形で保護対象になります。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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