地籍調査進捗率52%(林地48%)|境界明確化事業の進度分析

地籍調査進捗率52%(林地4 | 樹を木に - Forest Eight

地籍調査の全国進捗率は2023年度末時点で約52%、林地(土地区分上の山林)の進捗率は約48%に留まり、対象面積286,200km²のうち約140,000km²がいまだ未実施です。これは戦後1951年から続く境界明確化事業の70年余りの累積進捗で、年間の調査面積は概ね2,000〜2,500km²規模です。林地の境界不明確は、森林経営管理制度の意向調査・林地台帳の整備・森林経営計画の認定・主伐再造林の実行・J-クレジット申請といった現代林業政策のあらゆる場面で実装上のボトルネックとなっています。本稿では地籍調査52%・林地48%の構造を、対象別進捗・地域差・林地特有の難題・森林環境譲与税との連動の4軸から整理します。

この記事の要点

  • 地籍調査全国進捗率は2023年度末で約52%、未実施面積は概ね14万km²。林地の進捗率は約48%で、市街地(同97%超)・宅地(同90%超)と比べ大幅に遅れている。
  • 第7次国土調査事業十箇年計画(2020〜2029年度)では、進捗率を全国57%、林地で52%水準まで引き上げる目標。森林環境譲与税の境界明確化事業との連動が鍵。
  • 林地の境界不明確は、森林経営管理制度の意向調査、森林経営計画認定、主伐再造林の実行、J-クレジット申請等のあらゆる林政手続きの実装ボトルネックとなる。
目次

クイックサマリー:地籍調査の主要数値

指標 数値 出典・備考
調査対象面積(全国) 286,200km² 国土交通省2023
完了面積(累計) 約148,000km² 2023年度末
全国進捗率 約52% 2023年度末
林地(山林)進捗率 約48% 林地対象面積比
宅地進捗率 概ね80〜90% 人口集中地区上位
人口集中地区(DID)進捗率 概ね26% 大都市圏で低水準
年間調査面積(近年) 2,000〜2,500km² 国費・地方費合算
年間予算(国費・概数) 100億円規模 国土調査費補助
第7次計画期間 2020〜2029年度 10年計画
第7次計画目標進捗率 概ね57% 2029年度末目標
所有者不明土地率(推計) 約24% 国土審議会推計
林地の所有者不明率(推計) 約28% 林地相続未登記等

地籍調査の制度概要と進捗構造

地籍調査は、1951年制定の国土調査法に基づき、市町村が主体(一部は都道府県・国)となって実施する土地境界・所有者・地番・地目・面積の確定事業です。実施面積は対象国土286,200km²(北海道~沖縄、海域・公有水面・離島を除く)で、人口集中地区(DID)、宅地、農地、林地、原野等の土地区分ごとに進捗管理されています。70年以上の累積進捗で全国52%という水準は、欧州諸国(独・仏は近代地籍が18〜19世紀完成)と比べ大きく遅れており、特に林地・大都市部で進捗が顕著に遅延しています。

地籍調査の土地区分別進捗率 市街地・宅地・農地・林地・人口集中地区別の地籍調査進捗率を棒グラフで比較 地籍調査の土地区分別進捗率(%、2023年度末) 全国 52% 市街地 97% 宅地(DID除く) 80% 農地 74% 林地(山林) 48% 人口集中地区 26% 25% 50% 75% 市街地・宅地は高進捗、林地・人口集中地区が大きく遅延。林地48%は森林経営管理制度の主要ボトルネック。
図1:地籍調査の土地区分別進捗率(出典:国土交通省「地籍調査の実施状況」2023年度末)

進捗率の濃淡が示すのは、市街地・宅地は税収・取引・建築規制との関連で行政・住民双方のインセンティブが働き、戦後早期から重点的に進められてきた一方、林地・人口集中地区(DID)では地価が低い・所有者数が膨大・境界が不明確・所有者不明等の事情で停滞してきたという構造です。林地48%という水準は、面積比でみれば残り138万km²超(13.8万km²)が未実施で、現在の年間調査面積2,000〜2,500km²ペースでは、林地完了まで概算で50年超を要する計算になります。

林地の地籍調査が遅れる構造的要因

林地で進捗が遅れる要因は、(1)所有規模の零細性、(2)所有者不在・所有者不明の高頻度発生、(3)地形条件の険しさによる調査作業の困難、(4)境界の物理的な不明瞭さ(境界杭の劣化・倒木・雑木による視認困難)、(5)関係者立会の困難(共有林・財産区・社寺林等)、(6)立会調査時期の制約(積雪期・繁茂期・狩猟期等の制限)、(7)地価が低く調査優先度が低いと判断されがち、の7点に集約されます。

遅延要因 具体的な内容 対応技術・制度
所有規模の零細性 私有林の60%が5ha未満、所有者数が膨大 集約化施業・森林経営計画
所有者不在・不明 不在村所有者率24%、相続未登記等 不明者対応特例(2020年改正)
地形条件 急傾斜地・崖地・河川境界 航空レーザ測量・UAV測量
境界の物理的不明瞭 境界杭の劣化・倒木・植生繁茂 古地図照合・リモセン併用
関係者立会の困難 共有林・財産区・遠方所有者 代表者立会・郵送同意制度
作業時期の制約 積雪期不可・繁茂期視認難 航空レーザ測量の活用
地価の低さによる優先度低下 市町村予算編成での順位 森林環境譲与税の境界明確化枠

地籍調査の都道府県別格差

都道府県別の進捗率には大きな格差があります。最進捗県は沖縄(概ね99%)、佐賀(概ね96%)、青森(概ね86%)等で、ほぼ完了に近い状態です。一方、最遅進捗県は京都(概ね10%未満)、大阪(概ね11%)、奈良(概ね14%)、三重(概ね19%)、東京(概ね24%)等で、近畿圏・関東圏の都市部が顕著に遅延しています。林地のみで見ても同様の傾向で、近畿圏・関東圏の林地進捗率は20〜30%水準にとどまる県が多く、林業県(北海道・東北・九州)と比べると顕著な差があります。

都道府県別地籍調査進捗率の傾向 進捗高位県と低位県の対比、地域偏在を棒グラフで示す 都道府県別地籍調査進捗率(%、概算) 進捗高位県 沖縄 99 佐賀 96 青森 86 大分 79 熊本 76 進捗低位県 京都 8 大阪 11 奈良 14 三重 19 東京 24 沖縄99%、佐賀96%等の進捗高位県と京都8%、大阪11%等の進捗低位県の差は90ポイント超。
図2:都道府県別地籍調査進捗率の傾向(概算、出典:国土交通省「都道府県別地籍調査進捗状況」2023年度末)

進捗の地域差は、地形・所有規模・地価・行政の取り組み姿勢の組み合わせで生じています。沖縄が99%という高水準を示すのは、復帰時(1972年)の権利確定と高密度な集落構造が背景にあり、佐賀・大分・熊本等の九州諸県は早期に重点投入が進められた結果です。逆に近畿圏(京都・大阪・奈良等)は、戦後復興期に都市部の地籍調査が後回しになり、地価高騰期以降は権利関係が複雑化して調査困難となった経緯があります。

第7次国土調査事業十箇年計画の方針

2020年5月閣議決定の「第7次国土調査事業十箇年計画」は、2020年度から2029年度までの10年間の地籍調査推進方針を示しています。計画では、全国進捗率を52%から約57%へ、林地進捗率を48%から52%水準へ引き上げる目標が設定されました。重点施策として、(1)山村部の境界明確化推進(森林環境譲与税との連動)、(2)所有者不明土地に対応した調査手続の合理化(2020年国土調査法改正)、(3)航空レーザ測量・UAV・MMS等のリモートセンシング技術の活用、(4)市町村の体制強化(地域林政アドバイザー、市町村連携)、の4点が掲げられています。

2020年改正国土調査法の効果

2020年改正国土調査法は、所有者不明・所在不明の土地について、関係者の立会なしでも公的資料(旧公図・林班図・税務台帳・登記情報・空中写真等)に基づいて筆界(土地の境界)を確定できる特例を整備しました。これにより、相続未登記・所有者連絡不能の林地でも、市町村による境界確定が可能となり、林地特有の調査ボトルネックの緩和が期待されています。改正前は所有者立会が原則だったため、所有者不明の隣接地が1筆でもあれば調査が止まる構造でしたが、特例の整備によりこのボトルネックが部分解消されました。

森林環境譲与税と境界明確化事業

2019年から市町村に配分が始まった森林環境譲与税(2024年度約500億円規模)は、使途として「森林整備」「人材育成・担い手の確保」「木材利用の促進」「普及啓発」とともに「境界明確化」を含めており、市町村の地籍調査・簡易境界明確化事業に充当されています。これにより、地籍調査の本格実施は国土調査事業として継続しつつ、その前段階の「林地境界の概略把握」を森林環境譲与税で並行的に進める二重構造が形成されています。

境界明確化事業の二重構造 国土調査事業と森林環境譲与税の境界明確化事業の関係を示す図 境界明確化事業の二重構造 国土調査事業(地籍調査) 国土調査法・国費補助 市町村が主体実施 筆界確定・登記簿への反映 対象:全土地区分 年間2,000〜2,500km² 本格的・登記反映あり 第7次計画 2020〜2029 森林環境譲与税の境界明確化 2019年〜・市町村配分 市町村が独自運用 概略境界把握・経営管理活用 対象:林地中心 2024年度500億円規模 簡易・経営管理用 森林経営管理制度と連動
図3:地籍調査と森林環境譲与税の境界明確化事業の二重構造(出典:国土交通省・林野庁資料をもとに作成)

森林環境譲与税の境界明確化事業は、地籍調査の代替ではなく「準備事業」「補助事業」として位置づけられます。地籍調査に正式着手する前に、市町村が森林経営管理制度の意向調査と並行して林地の概略境界・所有者を把握する作業に充てるケースが多く、後の地籍調査時には境界明確化事業の成果(航空レーザ測量データ、所有者リスト、概略境界図等)が活用される設計です。両事業の連動により、林地の境界明確化が加速する効果が期待されています。

地籍調査未実施が林政に及ぼす影響

地籍調査が完了していない林地では、以下のような実装上の制約が生じます。第1に、森林経営管理制度の意向調査において、所有者不明・境界不明の林地は経営管理権の集積対象から外れ、放置林化が進む構造があります。第2に、森林経営計画の認定要件(30ha以上の団地)の達成において、境界が不明確な林地を団地に組み込めず、計画認定が困難になります。第3に、主伐再造林の実行において、境界が不明確だと隣接地への誤伐・補助金不正受給のリスクが生じ、事業体が施業を回避します。

J-クレジットと境界明確化

J-クレジット制度(FO方法論:森林管理プロジェクト)でも、プロジェクト境界の確定は登録要件です。地籍調査未実施で境界が不明確な林地はプロジェクト対象に含めにくく、結果として森林由来J-クレジットの拡大の足かせとなっています。森林由来クレジットの認証件数・累積発行量は他の方法論(再エネ・省エネ)に比べ少ない水準にとどまっており、その背景には境界明確化のボトルネックがあります。今後、ESG投資・自然関連財務開示(TNFD)の進展とともに森林由来クレジット需要が拡大する見込みのなか、境界明確化の加速は経済政策上も重要性を増しています。

地籍調査の技術的進化:リモセン・UAV・GNSS

地籍調査の作業効率化は、リモートセンシング技術の進化と連動しています。航空レーザ測量(ALS)は、樹冠下の地表面を点群データとして測定し、林地の地形・既存境界杭・林相変化線を高精度で把握する基盤技術として普及しました。UAV(ドローン)測量は、特に小規模区域・急傾斜地での補助測量として活用が進み、ALSとUAVを組み合わせた林地測量パッケージが市場として形成されつつあります。GNSS測量は境界点の高精度位置計測の標準ツールで、現場での立会・確認作業の精度を高めています。

技術 主な用途 林地調査での効果
航空レーザ測量(ALS) 広域の地表・林相把握 境界線・地形・既存杭の把握
UAV(ドローン)測量 小規模区域・補完測量 急傾斜地・複雑形状の精密測量
GNSS測量 境界点の高精度位置決定 立会時の現地確認精度向上
古地図・公図照合 過去の境界情報復元 江戸期〜戦前の境界遡及
衛星リモートセンシング 広域の経年変化把握 林相変化・伐採履歴の検出
森林GIS 空間情報の統合管理 林地台帳・林班図との連携

地籍調査52%・林地48%が示す政策的含意

地籍調査52%(林地48%)という進捗水準は、日本の土地制度・所有制度の基底に存在する未完成の課題を示します。林地48%は森林経営管理制度・森林経営計画・主伐再造林・J-クレジット・自然共生サイト(OECM)といった現代林政のあらゆるツールの実装基盤となるため、林地の地籍調査加速は林政全体の制度的可能性を広げる効果を持ちます。同時に、第7次計画期間(2020〜2029年度)で林地進捗率を52%水準まで引き上げる目標も、現在の年間ペースでは達成困難な水準で、(1)森林環境譲与税の境界明確化事業の量的拡大、(2)市町村体制強化、(3)リモセン技術活用、(4)所有者不明特例の積極運用、を組み合わせた構造的取り組みが必要です。

制度として地籍調査は完了することが望ましいものの、「全てを完了するまで他制度を動かさない」という運用は現実的でなく、不完全な情報基盤の上で森林経営管理制度・林地台帳・森林経営計画を動かしながら、徐々に境界明確化を進める戦略が現実解です。林班・小班体系、森林簿、林地台帳、地籍調査の4つの情報基盤を並行整備し、相互に補完しながら精度を高める「複線型情報整備」が、今後10〜20年の林政の実装基盤を支える方向性となります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 地籍調査と登記簿の関係は?

地籍調査の結果(境界・地番・地目・面積等)は、調査終了後に法務局へ送付され、不動産登記の表題部に反映されます。これにより、調査前の登記簿(多くは明治期の地租改正時点の情報のまま)が現代の境界・面積情報に置き換わり、土地取引・建築・課税の基礎情報が更新されます。地籍調査未実施の地域では、登記簿上の面積と実測面積に大きな乖離が生じるケースが少なくありません。

Q2. 地籍調査の費用は誰が負担しますか?

国費補助50%、都道府県費25%、市町村費25%が標準的な負担割合です(特別交付税を含めると地方負担は実質的に5%程度に圧縮)。市町村が事業主体となり、外注業者(測量会社・地籍調査専門業者)に委託して実施する形が一般的です。林地に対しては森林環境譲与税の境界明確化事業が市町村負担分の補完財源としても活用可能です。

Q3. 林地48%という進捗率は林業政策上どんな問題を生んでいますか?

林地境界が不明確な区域では、(1)森林経営管理制度の意向調査が困難、(2)森林経営計画の30ha以上要件の充足が困難、(3)主伐時の隣接地誤伐リスクで事業体が施業を回避、(4)J-クレジットのプロジェクト境界確定が困難、(5)補助金申請時の面積確認が困難、等の問題が生じます。境界明確化は林業政策の前提インフラであり、48%という水準は実装上の主要なボトルネックとなっています。

Q4. 第7次計画では林地進捗率を何%まで引き上げる目標ですか?

第7次国土調査事業十箇年計画(2020〜2029年度)では、林地進捗率を48%から52%水準へ引き上げる目標です。10年間で4ポイントの上乗せという数値は、年平均0.4ポイントの進捗を意味し、現在のペースを維持しつつ森林環境譲与税の境界明確化事業との連動・リモートセンシング活用・所有者不明特例運用で達成を目指す設計となっています。

Q5. 所有者不明林の境界はどう決めますか?

2020年改正国土調査法により、関係者の立会が困難な場合でも、公的資料(旧公図、林班図、空中写真、税務台帳、地籍簿等)に基づき市町村が筆界を決定できる特例が整備されました。これは林地で特に有効で、相続未登記・連絡不能の所有者に依存せずに境界明確化を進められる仕組みです。決定後は所有者・権利者から異議申立てを受け付ける期間が設けられ、適正な手続きが担保されます。

関連記事

まとめ

地籍調査は2023年度末で全国52%、林地48%の進捗率にとどまり、林地で約14万km²が未実施です。市街地97%・宅地80%・農地74%と比較した林地48%という遅れは、私有林の零細性・所有者不明・地形条件・境界の物理的不明瞭等の構造要因の集積です。森林経営管理制度・森林経営計画・J-クレジット等のあらゆる林政手続きが境界明確化の精度に依存するため、第7次国土調査事業十箇年計画と森林環境譲与税の境界明確化事業の連動、リモセン技術活用、所有者不明特例の積極運用によって、向こう10年で実効性のある林地進捗を確保することが課題となります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次