木を植えてから伐るまで、何年待つか。この「伐期(ばっき)」の選び方ひとつで、林業の経営収益も、森が果たす公益的な役割も大きく変わります。日本ではおおむね、標準伐期の40〜50年(スギ・ヒノキ)、長伐期の60〜80年、超長伐期の100年以上、そして早生樹を使う短伐期20〜35年──この4つの型に整理できます。戦後に全国へ植えられたスギ・ヒノキの多くがいま主伐期を迎えるなか、「50年で伐るか、80年まで育てるか」は、現場のリアルな選択になっています。
伐期4類型──何を狙って、どこまで待つか
伐期の選択は、収益重視か公益重視かという経営目的、傾斜や林道距離・気象といった施業地の条件、そして短期回収か長期保有かという所有者の意向──この3つの軸で決まります。標準伐期は柱材・板材を回転よく出す基本パターン。長伐期は梁・桁や大断面集成材といった高付加価値の大径木を狙う型。超長伐期は寺社建築用の特殊大径木・銘木に特化したケースで、短伐期はセンダンやコウヨウザンなどの早生樹を合板・チップ向けに回す新しい施業です。
50年か80年か──収益はどう変わる
同じスギ人工林1haを、50年で伐る場合と80年まで育てる場合で比べてみます。長伐期のほうが立木の蓄積は450m³/haから650m³/haへ増え、平均直径も22〜26cmから32〜38cmへと太くなります。太い丸太には「大径木プレミアム」がつき、原木単価は2割ほど上がります。間伐収益や補助金も含めた累計の純利益は、50年伐期が約100万円、80年伐期が約230万円。差し引き130万円ほど、長伐期のほうが多くなる計算です。
ただし、ここで注意が要ります。80年伐期は文字どおり30年余計に待つわけで、年あたりに直すと2.0万円/年と2.9万円/年、増加幅は45%ほどにとどまります。しかも待つ期間が長いほど、台風による風倒、病虫害、山火事といった気候変動リスクを背負う時間も延びます。森林総合研究所の試算では、80年伐期の災害損失の期待額は50年伐期の1.5〜2倍。リスクを織り込むと、経済的な優位は意外に縮むのです。「太く育てれば必ず得」とは言い切れない、というのがこの比較の肝です。
成長は止まる──「いつ伐るか」の理屈
立木の太り方は、若いうちが急で、歳をとるほど鈍ります。スギなら若齢期(1〜20年)は年20〜30%も成長しますが、50年を過ぎると2〜5%、80年以降はほぼ横ばいです。林学では、その年の成長量(CAI)と、植えてからの平均成長量(MAI)が交差する点が「成長量を最大化する伐期」とされます。スギではおおむね45年前後がその点です。
もっとも、現実の経営は成長量だけでは決まりません。大径木の市場価値、気候変動リスク、資金回転、そして所有者の世代計画──これらを重ねて判断します。50年伐期は成長・市場価値・リスク管理のバランスをとった標準解、80年伐期は大径木プレミアムや公益機能を重く見た選択、と整理できます。
長伐期が成り立つ条件
長伐期施業(70〜80年)の認定面積は全国で累計約120万ha、人工林の約12%にまで広がりました。水源林・保安林・国有林に集中し、東京都・神奈川県・高知県・京都府など、水源林を重視する自治体が積極的に進めています。京都北山のヒノキ、奈良・吉野のスギ・ヒノキ、高知・魚梁瀬の木曾ヒノキといった伝統的な銘木産地では、太く育てた大径木を特殊用途の高値で売る市場が機能し、長伐期を支えています。直径50cm超の良質ヒノキ銘木は1m³あたり数十万円から100万円超で取引されることもあります。
長伐期を経営として成立させる鍵は「低コスト育林」との組み合わせです。コンテナ苗の活用で植栽密度を3,000本/haから2,000本/haへ下げ、下刈りを省略し、枝打ちは高付加価値木に絞る。こうして育林の累計コストを1haあたり100万円から60万円へ圧縮できれば、長伐期の経済合理性はぐっと高まります。加えて、80年伐期は50年伐期の約1.6倍のCO2を蓄積するため、J-クレジット制度による追加収益(1haあたり数十万円規模)も見込め、水源涵養・土砂災害防止・生物多様性保全といった公益機能を長く発揮できる点も評価されます。
最大の壁は「世代を越えられるか」
長伐期の本当の難しさは、お金よりも時間にあります。80年といえば、植えてから伐るまでに所有者が2〜3世代入れ替わる長さです。代替わりのたびに方針がぶれれば、計画は途切れてしまう。2019年に始まった森林経営管理制度は、市町村が所有者から経営管理権の委託を受け、森林組合や認定事業体に再委託することで、世代を越えた経営の継続を担保する仕組みです。さらに森林信託や森林ファンド、ESG投資と結びついたグリーンボンドなど、所有者の代替わりに左右されない長期経営の枠組みも検討が進んでいます。
気候変動への備えとしては、人工林に広葉樹を混ぜる混交林化、同じ林分に多様な樹齢を混在させる齢級分散、スギ一辺倒にしない樹種多様化が推奨されます。これらは「単一の伐期」から「多様な伐期の組み合わせ」へと、施業の発想そのものを広げる方向につながっています。太く長く育てる価値と、長く待つリスク──その両方を見据えて伐期を選ぶことが、これからの林業経営には求められます。

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