林野庁予算は2024年度(令和6年度)当初予算で3,001億円、これに東日本大震災復興特別会計分を加えると約3,070億円規模です。農林水産省全体予算2.27兆円の約13%、国の一般会計総額112兆円の約0.27%に相当します。林野庁予算の構成は、(1)森林整備事業1,250億円、(2)治山事業620億円、(3)国有林野事業特別会計4,800億円(独立特別会計)、(4)公共事業以外の林政推進費280億円、(5)東日本大震災・能登半島地震関連復興費70億円、の5本柱です。本稿では林野庁予算3,000億円の使途を、林政分野別に構造解剖し、林業政策の財政基盤を整理します。
この記事の要点
- 林野庁予算3,001億円(2024年度)は農水省予算13%、国一般会計0.27%。森林整備・治山が公共事業の主軸。
- 森林整備事業1,250億円が最大、造林補助・路網整備が中心。治山事業620億円で災害防止・復旧。
- 森林環境譲与税(別枠)は2024年度600億円、譲与税合計累計2,400億円超で別予算枠を構成。
目次
クイックサマリー:林野庁予算の主要数値
| 指標 |
数値 |
出典・備考 |
| 林野庁予算(2024) |
3,001億円 |
一般会計、当初 |
| 復興特別会計分 |
約70億円 |
東日本大震災復興・能登復興 |
| 森林整備事業 |
1,250億円 |
公共事業・最大 |
| 治山事業 |
620億円 |
公共事業・第2 |
| 国有林野事業特会 |
4,800億円 |
独立特別会計(事業収入含む) |
| 非公共事業(林政推進) |
約280億円 |
補助金・施策推進 |
| 森林環境譲与税(2024) |
600億円 |
別枠、市町村・都道府県 |
| 森林環境税(個人課税) |
1,000円/人・年 |
2024年度開始 |
| 農水省全体予算 |
2.27兆円 |
2024年度 |
| 国一般会計総額 |
約112兆円 |
2024年度 |
林野庁予算3,001億円の構成
林野庁予算3,001億円(2024年度)は、(1)公共事業(森林整備事業+治山事業)1,870億円、(2)非公共事業(補助金・施策推進)約840億円、(3)行政経費・委託費等290億円、の3本柱で構成されます。さらにこれと別建てで、(4)国有林野事業特別会計4,800億円、(5)森林環境譲与税600億円が運営されており、林政全体の総額は約8,500億円規模です。
図1:林政全体の予算構成(出典:林野庁予算資料・財務省「予算書」をもとに概算)
注目すべき点は、国有林野事業特別会計の規模が4,800億円と一般会計3,000億円を上回ることです。この特別会計は、国有林の伐採収入(年間約500億円)、国有林を活用した分収林事業収入、貸付料収入等を歳入とし、職員人件費・事業費を支出する形で運営されます。一般会計からの繰入金(職員給与・退職手当等)が約2,000億円、残り2,800億円が事業収入と借入金で成立する構造です。
森林整備事業1,250億円の内訳
森林整備事業(公共事業)1,250億円は、(1)造林補助(植栽・下刈り・除伐・間伐)約650億円、(2)林業基幹道整備(林道・作業道)約350億円、(3)保育・特定間伐等促進 約200億円、(4)その他(森林整備事業推進費等)約50億円、の構成です。造林補助は林家・森林組合・林業事業体が施業を行った場合の費用補助で、再造林・新植・主伐後造林等の項目別に補助単価が設定されています。
| 項目 |
標準単価 |
補助率 |
対象 |
| 人工造林(植栽) |
63〜80万円/ha |
68%(国補助) |
下刈り |
12〜15万円/ha |
68% |
枝打ち |
15〜20万円/ha |
68% |
除伐 |
10〜13万円/ha |
68% |
間伐(搬出) |
25〜35万円/ha |
68% |
林業基幹道(林道) |
2,500〜4,500万円/km |
50〜70% |
林業作業道 |
800〜1,500万円/km |
50% |
高性能林業機械購入 |
機械種別 |
1/3〜1/2 |
治山事業の項目別予算配分
災害復旧治山・保安施設事業・地すべり防止・特定流域総合事業の配分を円グラフ風に示す
治山事業620億円の項目別配分
保安施設事業 280億円(45%)
予防治山・保安林整備
災害復旧治山 200億円
土砂災害復旧
地すべり
60億
流域
80億
主要事業の特徴
保安施設事業(45%)
渓流保全・治山ダム
山地災害予防
林地荒廃防止
気候変動対応増
災害復旧治山(32%)
災害発生後の復旧
補正予算で増額多
激甚災害指定対応
迅速施工要請
地すべり・流域(23%)
地すべり防止施設
流域総合管理
治山と治水連携
国交省連携あり
図2:治山事業620億円の項目別配分(出典:林野庁予算資料)
治山事業は補正予算で増額されることが多く、令和元年東日本台風(2019年)、熊本豪雨(2020年)、能登半島地震(2024年)等の災害発生時には数百億円規模の補正予算が組まれます。気候変動による豪雨災害の頻発化を背景に、治山事業の重点化は今後継続する見通しです。
非公共事業(林政推進)約280億円
非公共事業(林政推進)約280億円は、林政推進費・補助金・施策推進費の総称で、(1)林業労働力確保支援(緑の雇用事業等)約60億円、(2)林業成長産業化対策約50億円、(3)木材利用拡大・流通改善約40億円、(4)森林資源の高度利用(航空レーザ測量・林業クラウド)約30億円、(5)スマート林業構築約20億円、(6)森林・山村多面的機能発揮対策約30億円、(7)その他林政推進費約50億円、で構成されます。
これら非公共事業予算は、公共事業の補助金システムでは支援できない「ソフト施策」(人材育成・技術普及・流通改善・情報基盤整備)を担います。とりわけ緑の雇用事業(年間60億円規模)は林業労働力確保の中核施策として、新規就業者1,500人/年を支える基盤予算となっています。
国有林野事業特別会計4,800億円
国有林野事業特別会計は、国有林758万haの管理運営に係る独立特別会計です。歳入は(1)一般会計繰入金(職員給与・退職手当等)約2,000億円、(2)国有林事業収入(伐採収入・分収林・貸付料)約500億円、(3)借入金約2,000億円、(4)その他収入約300億円、で構成されます。歳出は(1)職員人件費約2,200億円(職員約4,800人)、(2)国有林整備事業費約2,000億円、(3)借入金償還・利子約500億円、(4)その他100億円、です。
図3:国有林野事業特別会計の歳入・歳出(出典:林野庁予算資料・財務省「特別会計予算書」)
国有林野事業特別会計は、(1)国有林758万ha(森林面積の30%)の管理、(2)水源涵養機能・公益機能の維持、(3)職員約4,800人の雇用維持、(4)林業政策の中核実装機能、を担います。一般会計繰入金2,000億円は実質的に「国有林の公益機能に対する国費負担」と整理でき、独立採算ではなく公益性を重視した運営方針です。
森林環境譲与税:別枠600億円
森林環境譲与税は2019年度創設の地方譲与税で、市町村と都道府県に9:1の比率で譲与されます。2019年度の200億円から段階的に増額され、2024年度から本則600億円(市町村540億円・都道府県60億円)規模となりました。財源は(1)2019〜2023年度は地方公共団体金融機構の公庫債権金利変動準備金、(2)2024年度以降は森林環境税(個人住民税1,000円/人・年)、に切り替わりました。
| 年度 |
譲与税額 |
財源 |
主な活用 |
| 2019 |
200億円 |
公庫債権金利準備金 |
2020 |
400億円 |
同上 |
2021〜2023 |
500億円 |
同上 |
2024 |
600億円 |
森林環境税1,000円/人 |
2025以降 |
600億円 |
同上 |
林野庁予算の経年変化
林野庁一般会計と森林環境譲与税の経年推移を折れ線で示す
林野庁関連予算の経年変化(億円)
4000
3000
2000
1000
0
一般会計3,001
譲与税600
合計3,601
1990
2000
2010
2019
2022
2024
2019年の森林環境譲与税創設で林政総額は拡大基調へ。
図4:林野庁関連予算の経年変化(出典:林野庁・財務省予算資料をもとに概算)
林政予算の今後の論点
林政予算の今後10年の論点は、(1)森林環境譲与税の安定運用と使途の拡充、(2)気候変動対応の治山事業継続増額、(3)スマート林業・林業DXへの非公共事業予算配分拡大、(4)国有林野事業特別会計の借入金償還計画、(5)J-クレジット森林吸収源プロジェクトの財政支援、の5軸です。とりわけ森林環境譲与税は2024年度から個人住民税からの財源切替が実施され、年間600億円が長期安定的に確保されたため、市町村森林行政の中核財源として機能拡大が進む見通しです。
林政予算の絶対額は3,000億円水準で長期横ばいですが、内容は「公共事業中心」から「森林環境譲与税・スマート林業・人材育成」を含む総合政策パッケージへとシフトしています。気候変動対応・森林経営管理制度実装・スマート林業推進の3軸が、今後10年の予算配分の主要論点となります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 林野庁予算はどのくらいの規模ですか?
2024年度当初予算で3,001億円(一般会計)、復興特別会計を加えて約3,070億円規模です。これと別建てで国有林野事業特別会計4,800億円、森林環境譲与税600億円があり、林政全体では約8,500億円の予算枠が運営されています。
Q2. 林野庁予算で最大の事業は?
森林整備事業1,250億円が最大で、林野庁一般会計の42%を占めます。その内訳は造林補助(植栽・下刈り・除伐・間伐)約650億円、林業基幹道整備約350億円、保育促進約200億円、その他50億円です。次いで治山事業620億円が公共事業の第2位です。
Q3. 森林環境譲与税とは何ですか?
2019年度創設の地方譲与税で、市町村・都道府県に9:1で配分される仕組みです。2024年度から本則600億円規模となり、財源は森林環境税(個人住民税1,000円/人・年)に切替されました。用途は森林整備・人材育成・木材利用・普及啓発の4分野で、市町村裁量で配分されます。
Q4. 国有林野事業特別会計の規模は?
2024年度で4,800億円規模、林野庁一般会計の約1.6倍の規模を持つ独立特別会計です。歳入は一般会計繰入金2,000億円・事業収入500億円・借入金2,000億円・その他300億円、歳出は人件費2,200億円・国有林整備2,000億円・償還500億円・その他100億円の構成です。
Q5. 林野庁予算は今後増えますか?
一般会計の絶対額は3,000億円水準で長期横ばい見通しですが、森林環境譲与税(600億円安定確保)の追加で「林政総額」は拡大基調にあります。気候変動対応・スマート林業・森林経営管理制度実装の3軸で予算配分の重点が動く予想で、今後10年で公共事業比率が低下し、ソフト施策・新技術導入予算が拡大する見通しです。
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まとめ
林野庁予算3,001億円(2024年度)は森林整備事業1,250億円・治山事業620億円・非公共事業約280億円を3本柱に、林業政策の財政基盤を担います。これに国有林野事業特別会計4,800億円、森林環境譲与税600億円を加えた林政総額は約8,500億円規模で、気候変動対応・森林経営管理制度実装・スマート林業推進の3軸が予算配分の重点となっています。森林環境譲与税の財源切替(2024年度から森林環境税)により600億円が長期安定確保され、市町村森林行政の中核財源として機能拡大が見込まれます。林政予算は「公共事業中心」から「総合政策パッケージ」へとシフトする10年が始まっています。
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