日本の森林の3割は、私たちみんなのもの――つまり国有林です。面積にして758万ha、林野庁が直接管理する日本最大の単一所有森林で、北海道だけでその4割を占めます。この巨大な森をどう動かしているのか。骨格になるのが「国有林野管理経営基本計画」(10年)と「管理経営計画」(5年)という二段構えの計画です。2024年度の事業予算は約3,000億円、職員は約4,500人。意外なのは、収益が支出をはるかに下回り、差額を税金で埋めている点です。それは赤字経営の失敗ではなく、国有林が「儲ける事業」ではなく「公共財を守る事業」だから。その構造を数字で解きほぐします。
758万haはどこにあるのか
国有林は北海道に偏在しています。北海道が約300万ha(全体の40%)、東北が約180万ha(24%)。この2地域だけで国有林の64%を占めます。明治期の屯田兵地・官有地編入や、戦後の国有財産統合といった歴史的な経緯の産物です。蓄積は約12億m³で全森林蓄積の22%。面積比30%に対して蓄積比が22%と低いのは、国有林に天然林が多い(65%)ことの表れです。民有林が木材生産中心なのと対照的に、国有林は手つかずの自然林を多く抱えています。
地域ごとに表情も違います。北海道はトドマツ・エゾマツ・カラマツの針葉樹とミズナラなどの広葉樹が併存し、年間素材生産は約180万m³と他地域を圧倒。東北はブナ・ミズナラの天然林と戦後植えたスギ・カラマツ人工林が混在し、白神山地のような保護林の比率が高い。九州はスギ・ヒノキ人工林が約半分を占め、民間業者との共同施業が進む林業のフラッグシップ地域です。
計画は3階層で降りてくる
国有林の運営は、上から下へ計画が落ちていく構造です。最上位が農林水産大臣の「全国森林計画」(5年)で国全体の森林政策の基本を示し、それを受けて林野庁長官が「管理経営基本計画」(10年)で国有林全体の方向を定める。さらに森林管理局長が「管理経営計画」(5年)で森林計画区ごとの数値目標を落とし込み、最後に森林管理署長の「事業実施計画」(年度)で現場の伐採地点や造林が決まります。
最新の基本計画(2024〜2033年対象)では、主伐面積を年2.0万ha、素材生産量を年400〜450万m³、再造林率80%以上、エリートツリー・特定母樹由来苗の導入率を2030年までに30%以上、といった具体的な目標が掲げられています。
「6つの顔」を持つ森
国有林は機能別に6つの「機能類型区分」に分けられます。崩壊を防ぐ山地災害防止、原生林を守る自然維持、水を蓄える水源涵養、用材を生む木材等生産、そして快適環境形成・保健文化機能。それぞれに伐採制限や林相維持といった施業方針が紐づいています。
| 機能類型区分 | 面積 | 構成比 | 主な施業方針 |
|---|---|---|---|
| 山地災害防止 | 約220万ha | 29% | 択伐・複層林化・治山事業連携 |
| 自然維持 | 約190万ha | 25% | 原則禁伐・原生林保全 |
| 水源涵養 | 約160万ha | 21% | 伐期長期化・複層林 |
| 木材等生産 | 約140万ha | 19% | 主伐・再造林の集約施業 |
| 快適環境形成 | 約25万ha | 3% | 都市近郊・景観配慮 |
| 保健文化機能 | 約25万ha | 3% | レクリエーション・文化財 |
ここで注目したいのが、木材生産タイプはわずか19%(140万ha)しかないこと。残り81%は択伐や長伐期、天然林維持といった、収益にはなりにくい施業が中心です。この比率こそが、国有林を「公共財」たらしめている本質であり、次に見る収支構造を決定づけています。
なぜ税金で埋めるのか
国有林野事業は2013年度に特別会計から一般会計へと衣替えしました。背景にあったのは、特別会計時代に膨らんだ約1兆2,800億円の累積債務です。木材価格の低迷と人件費の増加で、木材販売だけで全コストを賄う独立採算は限界に達していました。
いま、収益(木材販売・分収林・貸付料)は年約650億円、支出は年約3,000億円。差額の2,350億円ほどを一般会計が負担します。一見すると深刻な赤字ですが、見方を変えれば当然です。この一般会計化が意味したのは、国有林を「独立採算事業」から「公共財管理事業」へと位置づけ直したこと。木材で全部を賄うという前提を捨て、治山・水源涵養・生物多様性といった公益機能の発揮にかかる費用は税で支える、と整理したのです。1947年に独立採算で発足し、高度成長期には黒字で1万人以上の現業職員を抱えた国有林事業が、半世紀かけて「収益から公共財へ」とパラダイムを転換した――その到達点が2013年でした。
4,500人で動かす――組織と民間活用
管理組織は、林野庁本庁から7森林管理局+7支局(計14局)、98森林管理署、森林事務所という4階層。職員約4,500人のうち3,500人ほどが現場の署・事務所に配置されています。かつて1980年代には約3万人いた職員が7分の1まで減ったのは、直営の伐採・造林を民営化し、定員管理を厳しくしたから。いまや素材生産も造林も大部分を民間に委託し、林野庁職員は計画策定・契約管理・監督検査といった業務が中心です。
その民間活用には、5つのスキームがあります。
とくに森林共同施業団地は、国有林と隣接する民有林をまとめて施業計画に組み込み、路網・伐採・搬出を一体化する仕組みで、2024年時点で全国136団地・約24万haが指定されています。路網の共同利用で1m³あたり1,000〜2,000円の運材コスト削減につながり、国有林の発注が安定することで民間業者も機械投資の判断がしやすくなる。地域の製材工場の操業安定にも効く、win-winの連携です。
気候変動と生物多様性の最前線
国有林は日本の森林CO2吸収量の約3割を担います。2030年度の全国目標3,800万t-CO2のうち、国有林分は約1,200万t-CO2の見込み。再造林率80%以上、エリートツリー・無花粉スギの導入、間伐促進でこれを達成しようとしています。森林吸収J-クレジットによる国有林クレジットの創出も始まり、2023年度は約3万t-CO2が認証されました。
生物多様性の面でも国有林は要です。保護林は2024年時点で660地区・98万haあり、生物の移動経路を確保する「緑の回廊」(24箇所・57万ha)とともに自然維持機能の中核を成します。知床・白神山地・屋久島といった世界自然遺産も国有林に含まれます。これらは、2030年までに陸と海の30%を保全する「30by30目標」に向けた日本版OECM(保護地域以外の保全手段)としても国際的に重視されています。
民有林と並べてみると
国有林の性格は、民有林と比べるとより鮮明になります。
| 項目 | 国有林 | 民有林 |
|---|---|---|
| 面積 | 758万ha(30%) | 1,747万ha(70%) |
| 人工林比率 | 30% | 50% |
| 天然林比率 | 65% | 45% |
| 主機能 | 公益機能(81%) | 木材生産(高い比率) |
| 素材生産量 | 400万m³/年(18%) | 1,800万m³/年(82%) |
| 運営 | 林野庁直営+民間委託 | 所有者+森林組合・素材業者 |
国有林の素材生産は年約400万m³で、国内の18%。決して主役ではありません。それでも国産材の安定供給の「底」を支え、公益機能をまとめて引き受けている。民有林が経営の効率を追うのに対し、国有林は採算に乗らない仕事をあえて担う――この役割分担が、日本の森林全体のバランスを保っています。
よくある質問
国有林事業はなぜ赤字なの?
収益約650億円に対し支出約3,000億円で、差額の約2,350億円を一般会計で補填しています。これは自然維持・水源涵養・山地災害防止といった公益機能林が国有林の80%超を占め、もともと収益事業性が低いため。2013年度の一般会計化で、公益機能の発揮を税で支える形に整理されました。
民間が国有林を活用する方法は?
5つのスキームがあります。素材生産の委託(年400万m³)、分収林制度(造林・育林の収益分配)、レクリエーションの森(観光業)、フィールド貸付(風力・太陽光・通信など)、森林共同施業団地(民有林との一体施業)です。年間貸付料は約60億円規模です。
機能類型区分はいくつ?
6区分です。山地災害防止・自然維持・水源涵養・木材等生産・快適環境形成・保健文化機能に分かれ、それぞれ施業方針が紐づきます。木材生産タイプは19%(140万ha)にとどまり、残り81%は公益機能を主体とする施業が行われます。
まとめ
国有林758万haは、10年・5年の二段構えの計画で運営される日本最大の森です。職員4,500人・14局98署体制で、6つの機能区分に応じた施業を行い、その8割は採算に乗らない公益機能林。だからこそ収支の差額を税で埋める「公共財管理事業」として、2013年に位置づけ直されました。CO2吸収1,200万t-CO2(2030年度)、保護林98万ha、緑の回廊57万ha――気候変動と生物多様性の最前線を担いながら、共同施業団地や分収林で民間とも手を組む。儲けではなく、未来の森を守る。国有林の本質は、その一点にあります。

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