「林業の担い手はもう増えないのでは」とよく言われますが、数字を追うと少し違った景色が見えてきます。林業労働者は2020年で約4.4万人。1990年の10.8万人から30年で6割減ったのは事実ですが、平均年齢は56歳から53歳へと逆に若返り、新規就業者も年3,000人台で安定しています。この若返りを支えてきたのが、2003年に始まった「緑の雇用」事業です。この記事では、林業の担い手をめぐる現状と、それを支える政策の中身を、就業者を考えている人・地域の林業関係者の目線で整理します。
この記事の要点
- 林業労働者は2020年で約4.4万人(1990年比6割減)。ただし平均年齢53歳・35歳未満が2割と、農業より若い構成。
- 「緑の雇用」(2003年〜)は累計約2万人を研修。3年定着率は75%まで改善した。
- 最大の課題は労働災害。死傷千人率28.6は全産業平均の約12倍で、若年層が二の足を踏む一因になっている。
30年で6割減った担い手、でも下げ止まりつつある
林業労働者数は1980年の約14万人をピークに、1990年10.8万人、2000年6.7万人、2010年5.1万人、2020年4.4万人と減り続けてきました。背景にあるのは木材価格の長期低迷と、山村の過疎・高齢化です。ただ、2003年の緑の雇用導入あたりから減少ペースははっきり鈍り、近年は下げ止まりの局面に入っています。
見落とされがちなのが生産性です。機械化が進んだ結果、1人当たりの素材生産量は1990年の300m³から2023年は500m³へと1.7倍に伸びました。人数は減っても、1人が生み出す木材の量はむしろ増えているわけです。
年齢構成も変わりました。35歳未満の比率は1990年の8%から2020年は20%へ。同じ期間に農業就業者の平均年齢が60歳→67歳と高齢化したのと対照的で、林業は若い人の入職が続いている数少ない一次産業です。就業形態も、安定した通年雇用(年180日以上)の割合が40%から55%へ増え、社会保険や福利厚生が整った働き方が広がっています。
「緑の雇用」が変えた入職のかたち
担い手の若返りを語るうえで外せないのが緑の雇用事業です。2003年スタートで、未経験者でも3年間の体系的な研修を受けながら林業に就ける仕組みです。研修中の賃金(月20万円程度)と研修費を国が補助し、雇う側の事業体の負担を抑える設計になっています。年間予算は約60億円、累計の受講者は約2万人に達しました。
研修は3年で段階を踏みます。1年目はチェーンソーや伐倒、下刈りといった基礎技術と安全。2年目はフォワーダ・プロセッサ・ハーベスタといった高性能機械の操作と施業計画。3年目は原価・品質・安全の管理や後輩指導まで踏み込み、現場監督候補を育てます。さらにフォレストワーカー→フォレストリーダー→フォレストマネージャーという3段階のキャリアの道筋も用意されています。研修を受けた人の3年定着率は約75%で、これは研修なしの入職者よりはっきり高い水準です。
研修だけでは続かない──暮らしと安全をどう支えるか
人を呼んでも、住む場所や生活が成り立たなければ定着しません。そこで緑の雇用の周りには、機械化・路網整備・林業大学校・地域定住支援といった施策が束になっています。これらを合わせた地域林業活性化対策は年400億円規模。林業大学校は2010年代以降に各県で設立が進み、2024年で全国約25校が若手の供給源になっています。2019年創設の森林環境譲与税(年500〜600億円)も、研修施設や住居支援の財源として市町村レベルで使われ始めました。
そして最大の壁が労働災害です。林業の死傷千人率は28.6(2023年)で、全産業平均2.5の約12倍、建設業5.8の約5倍。死亡者は年30〜40人規模で、伐倒木の下敷き・チェーンソーの切創・斜面からの転落が主因です。この危険性が、若い人が林業を選ぶ際のいちばんのためらいになっています。
対策の柱は機械化です。ハーベスタによる無人に近い伐倒や、フォワーダ・プロセッサの普及で、人が危険な姿勢で作業する場面そのものを減らしています。高性能林業機械の保有台数は2023年で約12,000台と20年で3倍超。これに受け口・追い口といった伐倒方向制御の徹底、衝撃検知やGPS通報機能を備えたICTヘルメットの試験導入が加わり、2030年代に千人率を半減(28.6→15以下)させる目標が掲げられています。
新しい担い手──女性・外国人材・スマート林業
担い手の裾野も広がっています。女性林業者は2020年で約3,500人(全体の8%)と、20年前から倍増しました。機械化で体力面のハードルが下がり、「林業女子会」のようなネットワークも各地で生まれています。林野庁も女性活躍推進に年約3億円を投じています。
外国人材は、技能実習が2017年から林業に対象拡大され、現在は全国で数百人規模。特定技能はまだ林業が正式な指定産業ではありませんが、2025年以降の追加が見込まれています。受入には言語に対応した安全教育や、山間地の住居・医療の整備が前提になります。
もう一つの流れがスマート林業です。航空レーザ測量による森林資源の3D把握、ドローンによる林相判定や苗木運搬、ICT機械による生産量の自動記録などが現場に入りつつあります。ドローンの苗木運搬は人力の5分の1の労力、伐採適地のデジタル選定は踏査時間を3分の1に短縮するなど、労働強度を下げる効果も大きく、年齢や性別を問わず参入しやすい環境づくりにつながっています。
これからの担い手構造
気がかりなのは年齢構成です。50代以上が全体の約6割を占め、今後10年で半数以上が退職期を迎えます。退職者は年2,000〜2,500人と見込まれ、新規就業3,000人とほぼ均衡というのが現状です。林業基本計画は2025年以降、新規就業を年4,000人規模へ引き上げ、労働者数の減少を反転させる目標を掲げています。技能やノウハウをどう次世代へ継承するか、そして地域の先進事例──宮崎県諸塚村、北海道下川町、岡山県西粟倉村のように若年比率3割超を実現した自治体──の手法をいかに横展開するかが鍵になります。所得の改善・安全の向上・暮らしの基盤づくりは、どれか一つでは効かず、連動して初めて担い手の安定につながります。
よくある質問
Q. 「緑の雇用」は未経験でも受けられますか?
はい。林業未経験者を主な対象とした制度で、森林組合や素材生産業者などに雇用される形で、3年間の研修と賃金補助を受けながら技術を身につけられます。年間の受講者は2,500〜3,000人規模です。
Q. 林業の収入はどのくらいですか?
2023年の平均所得は約350万円/年で、全産業平均(約490万円)より低めです。月額賃金は20〜30万円が中心、ベテランや現場管理責任者で35〜45万円程度。研修期間中は月20万円の補助に事業体支給が上乗せされ、生計を立てられる水準が確保されます。
Q. 林業はやはり危険な仕事ですか?
労働災害の千人率は全産業平均の約12倍と高く、危険性は正直に言って小さくありません。ただ、機械化・安全教育・防護具の徹底で改善は進んでおり、ハーベスタによる伐倒のように人が危険にさらされる場面を減らす取り組みが広がっています。就業を考える際は、事業体の安全教育体制を確認するのがおすすめです。

コメント