LiDAR点群解析|樹高・本数・材積の自動推定

LiDAR点群解析 | 森と所有 - Forest Eight

航空機LiDAR(Light Detection and Ranging)は、レーザーパルスを毎秒数十万発発射して地表・植生から反射した点群を取得する計測技術で、1ha当たり10〜100点/m²の密度で森林を3次元計測できます。林野庁の資源量把握調査では、従来のプロット法(地上計測)に比べて作業時間を約70%短縮し、樹高推定誤差±1.0m、本数密度誤差±10%以内、材積推定誤差±15%以内の精度が報告されています。本稿ではLiDAR点群解析の原理から、樹高・本数・材積を自動推定する標準ワークフロー、国内自治体の導入事例までを数値ベースで整理します。

この記事の要点

  • 航空機LiDAR点群の標準密度は10〜100点/m²で、DTM・DSM・CHMの3層から樹高・本数・材積を自動推定。樹高推定誤差は±1.0m以内が標準。
  • 林野庁「航空レーザ計測による森林情報整備マニュアル」に基づく単木抽出(局所最大値法)と材積推定(収穫表回帰)が国内標準ワークフロー。
  • 導入コストは1km²あたり約10〜30万円規模で、3年以上の経年解析・主伐対象地選定・路網設計への活用で投資回収可能。
目次

クイックサマリー:LiDAR点群解析の主要数値

指標 数値 出典・備考
航空機LiDAR標準点密度 10〜100点/m² 林野庁マニュアル推奨
樹高推定誤差(RMSE) ±0.5〜1.0m 森林研究整備機構実証
本数密度推定誤差 ±10% 単木抽出・スギ林分
材積推定誤差 ±10〜15% 回帰モデル使用時
DTM格子間隔 1m 国土地理院基盤標準
CHM(樹冠高)格子 0.5〜1m 単木抽出用
飛行高度(航空機) 1,000〜2,500m 国土地理院実績
地上計測との比較 約70%時間短縮 プロット法対比
LiDAR導入都道府県数 39都道府県以上 2024年時点の実績
取得波長 1,064nm 近赤外、植生反射に最適

LiDAR点群解析の原理と3層モデル

LiDARは、地表・植生にレーザーパルスを照射し、反射光が戻る時間から距離を計測する能動的なリモートセンシング技術です。森林では、樹冠の上面で1次反射、樹冠内部で多重反射、地表で最終反射と複数のリターン(マルチパルス)が得られ、1パルスから複数の点を取得できます。これにより、樹冠の上面・内部構造・地表面の3層を同時に計測できる点が、従来の写真測量に対する根本的な優位性です。

LiDARの3層計測原理(DSM・DTM・CHM) 航空機からのレーザーが樹冠と地表で反射し、DSM・DTM・CHMの3層を取得する模式図 航空機LiDARの3層モデル 航空機 地表(DTM) 樹冠上面(DSM) CHM = DSM − DTM(樹冠高モデル) マルチパルスにより、1発のレーザーで樹冠上面・樹冠内部・地表の複数点を取得。 DTM=Digital Terrain Model(地形)/DSM=Digital Surface Model(地表)/CHM=Canopy Height Model(樹冠高)
図1:LiDARの3層計測モデル(DTM・DSM・CHM)の概念(出典:林野庁「航空レーザ計測による森林情報整備マニュアル」)

標準的な航空機LiDARでは、波長1,064nmの近赤外レーザーを毎秒10万〜70万発射し、飛行高度1,000〜2,500mから地上を計測します。点密度は飛行速度・パルス周波数・スワス幅で決まり、林野庁の標準仕様では1m²あたり4点以上、近年の高密度仕様では20点以上が一般的です。点密度が高いほど単木抽出精度が向上し、特に樹冠閉鎖度80%以上の密生スギ林では10点/m²以上が必須となります。

DTM・DSM・CHMの3つのデジタルモデル

取得した点群は、地上点と非地上点(植生・建物等)に分類された後、DTM(Digital Terrain Model:地形モデル)、DSM(Digital Surface Model:地表モデル)、CHM(Canopy Height Model:樹冠高モデル)の3つのラスタデータに変換されます。CHMはDSMからDTMを減算して得られ、各ピクセルの値が森林の樹冠高(地表からの樹高)を表します。CHMの空間解像度は0.5〜1mが標準で、これが単木抽出・樹高推定の出発点となります。

単木抽出と樹高推定の標準アルゴリズム

CHMから個々の樹木を抽出する処理を「単木抽出(Individual Tree Detection)」と呼び、最も普及している手法は局所最大値法(Local Maxima Filter)です。CHM上で一定半径(例:5m)の窓を移動させ、その窓内で最大値を持つピクセルを「樹頂点(Tree Top)」として検出します。窓サイズは林分の平均樹冠半径に応じて2〜6mで調整され、スギ・ヒノキ40〜50年生の標準樹冠半径2.5〜3mに対しては3〜4mが推奨されます。

LiDAR点群解析の標準ワークフロー 点群取得から単木抽出・材積推定までの6段階を示すフローチャート LiDAR点群解析の標準ワークフロー 1. 点群取得 10〜100点/m² 2. 地上点分類 CSF・PMFアルゴリズム 3. DTM/DSM生成 1mグリッド 4. CHM作成 DSM−DTM 5. 単木抽出 局所最大値法 6. 材積推定 回帰モデル 主要アウトプット ・単木位置(XY座標)と樹高 ・本数密度(本/ha) ・林分材積(m³/ha) ・上層木平均樹高、林分高、樹冠閉鎖率 ・地形傾斜・斜面方位(DTM由来) ・路網計画用の3次元地形モデル ・経年差分による成長量・伐採量 ・微地形マップ(崩壊危険地特定)
図2:LiDAR点群解析の標準ワークフロー6段階(出典:林野庁「航空レーザ計測による森林情報整備マニュアル」をもとに作成)

樹頂点が抽出されたら、各樹頂点のCHM値(地表からの高さ)が樹高として記録されます。森林研究整備機構の実証では、地上で計測した樹高(基準値)に対するLiDAR推定樹高のRMSE(二乗平均平方根誤差)はスギ45年生林分で0.7〜1.0m、ヒノキ50年生林分で0.6〜0.9mと報告されています。一方、最大樹高はLiDARが地上計測よりも0.5〜1.0m低めに推定する系統誤差があり、レーザーが樹冠の最頂点を完全に捉えにくい点群幾何の制約に由来します。

単木抽出の限界と分割割当法

局所最大値法は優勢木・準優勢木の検出には有効ですが、被圧木(樹冠が他の樹に覆われた中・下層木)の検出率は40〜60%に留まります。これを補うアプローチとして、点群の3次元構造を直接解析する「点群分割法(Point Cloud Segmentation)」や、深層学習を用いた樹種別単木抽出が研究されています。九州大学の実証では、PointNet++を用いた手法でスギ・ヒノキ混交林の樹種分類精度が85%以上に達した報告もあり、研究レベルでは精度向上が続いています。

材積推定の3つのアプローチ

LiDARから材積を推定する方法には、(A)単木ベース法、(B)林分ベース法(Area-Based Approach、ABA)、(C)複合法の3つがあります。林野庁マニュアルが標準とするのはABA法で、20m×20mのグリッド単位で点群統計量(平均樹高・最大樹高・点群密度等)を計算し、地上プロットの実測材積との回帰モデルを構築します。回帰式は対数線形モデル(log V = a + b・log H̄)が一般的で、決定係数R²=0.7〜0.9が得られています。

推定方法 原理 材積精度 適用場面
単木ベース法 樹高×収穫表で1本ごと推定 ±15〜20% 主伐対象地選定・本数管理
林分ベース法(ABA) グリッド統計量の回帰 ±10〜15% 広域材積推定・森林簿更新
複合法 単木抽出+ABA併用 ±8〜12% 高精度プロット推定
深層学習法 CNN・PointNetによる直接推定 ±5〜10% 研究段階・大量訓練データ要

ABA法の標準ワークフローでは、最低30〜50箇所の地上プロット(半径10m円形プロット)が必要で、その配置は林分の樹高・本数密度・樹種が偏らないよう層化抽出されます。プロットあたりの計測コストは交通費込みで2〜5万円規模、50プロットで100〜250万円が地上検証作業の標準予算となります。LiDAR取得費用そのものは1km²あたり10〜30万円規模であるため、小規模実証では地上検証費用がLiDAR本体費用と同等以上になる場合があります。

地上LiDARと航空機LiDARの使い分け

LiDARには搭載プラットフォームによって、(1)航空機LiDAR(ALS:Airborne Laser Scanning)、(2)ドローンLiDAR(UAV-LS)、(3)地上LiDAR(TLS:Terrestrial Laser Scanning)、(4)モバイルLiDAR(MLS:Mobile Laser Scanning)の4種があります。点密度・取得範囲・コストが大きく異なり、用途別の使い分けが定石です。

LiDAR4種の特性比較 航空機・ドローン・モバイル・地上LiDARの取得範囲と点密度の特性 LiDAR4種の取得範囲・点密度マトリクス 10,000 1,000 100 10 1 点密度(点/m²) 0.1ha 10ha 1km² 100km² 取得範囲 TLS 地上1万点/m² MLS モバイル500点 UAV-LS ドローン200点 ALS 航空機10〜30点
図3:LiDAR4種の取得範囲と点密度の関係(出典:森林研究整備機構実証データをもとに概念整理)

航空機LiDARは1日で数百km²をカバーでき、都道府県レベルの広域森林資源調査に最適です。北海道・岐阜県・静岡県・宮崎県等は全県的なLiDAR計測を実施済みで、森林簿の更新・主伐対象地の抽出・路網計画策定に活用しています。ドローンLiDARは10〜100ha規模の単位流域を高密度(200点/m²以上)で計測でき、単木情報の精度が必要な施業計画地・実証林に向きます。地上LiDARは0.1〜1ha規模で点密度1万点/m²以上を達成し、研究用基準データ・森林資源量の検証用に使われます。

差分解析による成長量・伐採量の把握

LiDARの真価は、複数時点の点群を比較する「差分解析(Multi-Temporal Analysis)」にあります。同一地点でT1・T2の2時点のCHMを取得し、ピクセルごとの差分を取れば、成長量(CHMの増加分)と伐採量(CHMの大幅減少)を可視化できます。スギ・ヒノキ40〜60年生林分では年成長量0.2〜0.4m/年が標準で、5年後再計測すれば1〜2mの差として検出可能です。

経年差分解析による森林変化の把握 2時点のCHMから成長・伐採・新植の3パターンを抽出する模式図 CHM経年差分解析(T1=2018, T2=2023の例) T1: 2018年 平均樹高 18m T2: 2023年 伐採 平均樹高 20m(成長)+伐採地 差分(T2-T1) +1〜2m 成長 −15m以上 伐採検出 +0〜2m 新植・更新 変化なし 5年差分で年成長量0.2〜0.4m/年を検出。伐採地の総量と分布が即時把握可能。 違法伐採検出・再造林進捗確認・森林簿更新に活用。
図4:CHM経年差分解析による成長量・伐採量の検出(概念図)

静岡県では2010年・2018年・2023年の3時点で県内3,000km²のLiDAR計測を実施し、森林の成長量推計と違法伐採の即時把握に活用しています。年間成長量の県平均は約3.5m³/ha・年と算出され、林野庁の森林簿に基づく従来推計値と整合する結果が得られました。差分解析の特徴は、林分単位ではなく1mグリッド単位で変化を検出できる点で、点的な不法伐採(数十m²規模)まで捕捉可能です。

導入コストと投資対効果

航空機LiDAR取得費用は、計測面積100km²で約1,500〜3,000万円、500km²で5,000〜8,000万円規模です。1km²あたり10〜30万円が現在の市場相場で、点密度・解析オプション(CHM作成・単木抽出・材積推定)の有無で変動します。これに対し、従来のプロット法による森林資源調査は、20m×20m方形プロット1箇所3万円、200プロット必要として600万円ですが、得られる情報は林分平均値のみで、空間的な変動の把握は困難です。

LiDAR導入のROIは、(1)主伐対象地の選定精度向上、(2)路網計画の3次元設計、(3)経年差分による違法伐採監視、(4)森林環境譲与税の使途の説明責任、の4つが主軸です。岐阜県の試算では、5年間で約4億円のLiDAR投資に対し、施業効率化と再造林漏れ防止で同期間に8〜10億円の効果が試算されています。投資回収期間は概ね3〜5年とされ、都道府県レベルでは経済合理性が確保される事例が増えています。

LiDAR標準フォーマットと公開データ

LiDAR点群はLAS/LAZ(圧縮版)フォーマットが国際標準で、ASPRS(American Society for Photogrammetry and Remote Sensing)が定義する仕様に従います。点ごとにXYZ座標、反射強度(Intensity)、リターン番号、分類コード(地上点・植生・建物等)を保持し、ファイルサイズは1km²あたり1〜10GB規模です。国土地理院は基盤地図情報として全国の数値標高モデル(DEM)5mメッシュを公開しており、その多くがLiDAR由来です。

森林研究整備機構は林分材積推定の参照データセット「J-FORSAT」、林野庁は「森林情報整備事業」で都道府県ごとの計測実績を公開しています。点群そのものは自治体ごとの公開ポリシーに依存しますが、CHM・DTMの派生プロダクトは地理院地図・各都道府県オープンデータポータルで広く公開されています。研究用としては森林研究整備機構の試験地(茨城・北海道・四国)でベンチマーク用LiDARデータが研究機関向けに提供されています。

LiDAR解析の限界と今後の展開

LiDAR点群解析は強力ですが、限界も明確です。第1に、被圧木・下層植生の検出精度が低く、上層木中心の情報に偏ります。第2に、樹種分類はLiDAR単独では困難で、ハイパースペクトル画像やRGB画像と統合する必要があります。第3に、急峻な地形(傾斜35度以上)ではDTM精度が低下し、樹高推定に系統誤差を生みます。第4に、葉のないシーズン(落葉広葉樹)では樹冠形状の捕捉が変わり、樹種別の補正係数が必要です。

これらの課題への対処として、(1)RGB・マルチスペクトル画像との融合(センサーフュージョン)、(2)深層学習による単木抽出・樹種分類の高度化、(3)地上LiDAR・モバイルLiDARによる下層情報の補完、(4)衛星LiDAR(NASAのGEDI、ICESat-2)との組合せ、が研究・実装の最前線です。森林研究整備機構の最新研究では、LiDAR+ハイパースペクトル+深層学習の組合せでスギ・ヒノキ・広葉樹の樹種分類精度90%以上が報告されており、5年内に実用化が見込まれます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 航空機LiDARとドローンLiDARはどちらが精度高いですか?

点密度ではドローンLiDARが200〜500点/m²と航空機LiDARの10〜30点/m²を大きく上回り、単木抽出の精度では優位です。ただし取得範囲は0.1〜1km²規模に限られ、広域では航空機LiDARが必須です。10〜100km²規模の自治体所有林では航空機、10ha〜数ha規模の実証地・施業計画地ではドローンと使い分けるのが標準です。

Q2. LiDAR計測の最適な季節はいつですか?

常緑針葉樹林(スギ・ヒノキ・カラマツ)では年中可能ですが、落葉広葉樹林を含む場合は葉の有無で精度が変わります。葉のある夏季(6〜9月)は樹冠形状の把握に、葉のない冬季(12〜3月)は地表点取得とDTM精度に有利です。林野庁マニュアルは樹冠把握目的では葉あり期、地形把握目的では葉なし期を推奨しています。

Q3. LiDARで樹種を判別できますか?

LiDAR単独では困難です。点群の幾何構造(樹冠形状・分枝パターン)から針葉樹・広葉樹の大別は可能ですが、スギとヒノキの判別は精度50〜70%程度に留まります。RGB画像・マルチスペクトル画像と統合する「センサーフュージョン」により、3〜4樹種の分類で精度80〜90%が達成可能です。

Q4. 既存の森林簿とLiDAR推定値の差はどう扱いますか?

LiDAR推定値は実測値、森林簿値は施業計画作成時点の推計値であり、両者には系統的な差があります。林野庁の調査では、20年以上未更新の森林簿に対しLiDAR材積は平均で20〜40%大きい値を示します。LiDAR導入を機に森林簿の全面更新を行う自治体が増えており、岐阜県・宮崎県等では既にLiDAR値を森林簿の正式値として運用しています。

Q5. オープンソースで使えるLiDAR解析ソフトはありますか?

LAStools(無償版あり)、CloudCompare、PDAL、R言語のlidRパッケージ、PythonのPDAL/laspy等が広く使われています。商用ではTerraSolid、Global Mapper、Trimble Inpho等が標準で、林業特化ではLiDAR360(中国GreenValley社)も普及しています。研究・小規模実証ではOSSで十分対応可能で、商用は大規模・常用運用時に検討するのが一般的です。

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まとめ

航空機LiDAR点群解析は、点密度10〜100点/m²から樹高±1m・本数±10%・材積±15%の精度で森林資源を自動推定できる技術として、39都道府県以上で導入が進んでいます。DTM・DSM・CHMの3層モデル、局所最大値法による単木抽出、ABA法による材積推定が国内標準ワークフローです。1km²あたり10〜30万円の取得コストに対し、主伐対象地選定・路網計画・経年差分による違法伐採検出等の用途で投資回収期間3〜5年が見込まれ、林業のDX基盤として確立しつつあります。

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