林業改善資金|低利融資制度の利用実態

林業改善資金 | Forest Eight

林業の世界には、銀行のプロパー融資ではまず組めないような「無利子・超長期・据置あり」の融資制度があります。それが林業改善資金です。1976年制定の林業改善資金助成法に基づき、都道府県が運営する低利融資で、機械の購入や労働安全装備、新規就業時の生活費などに最大1,800万円まで貸し付けます。年間の貸付件数は200〜400件、残高はおおむね100億円規模。地味ですが、市場の論理だけではお金が回りにくいところに政策的に資金を届ける、林業金融の土台のひとつです。

目次

用途で分かれる3つの資金

林業改善資金は、使い道によって大きく3種類に分かれます。

ひとつめが林業生産高度化資金。チェーンソーやハーベスタ、フォワーダといった林業機械、製材機械や育苗施設への投資に使います。最大1,800万円・年0.4〜1.0%で、3つのなかで最も件数が多く、全体の6〜7割を占めます。ふたつめが林業労働改善資金。防護服やヘルメット、通信機器といった安全装備、休憩所や健康診断の費用など、就労環境の質を底上げする資金です。最大600万円・無利子。みっつめが青年林業者就業準備資金。新規就業者の生活費や研修費に充てられる、家賃や食費まで対象になる珍しい枠で、最大1,200万円・無利子・償還20年と破格の条件です。

林業改善資金の3類型 3類型の融資限度額・利率・償還期間・対象を比較 林業改善資金の3類型 林業生産 高度化資金 限度1,800万円 利率0.4〜1.0% 償還10〜15年 林業機械 育苗施設 加工機械 林業労働 改善資金 限度600万円 無利子 償還10年 安全装備 休憩所 健診費用 青年林業者 就業準備資金 限度1,200万円 無利子 償還20年 研修費 生活資金 機械購入 出典:林業改善資金助成法、林野庁「林業改善資金制度」
図1:林業改善資金の3類型

たとえば生産高度化資金は、ハーベスタ(1台2,500万円規模)やフォワーダ、プロセッサといった高性能機械の頭金や複数台導入の組み合わせに使うのが典型です。償還10〜15年・据置3年が標準ですが、機械の実際の寿命は5〜10年。つまり返済が終わる前に次の機械への更新を迫られる――この構造的なミスマッチが、後述する「使いにくさ」の一因になっています。

国2/3、県1/3で回す「めぐるお金」

運営の主体は都道府県です。融資の元手は国が2/3、県が1/3を負担して積み立て、回収した元金をまた次の融資に回す「リボルビング・ファンド」方式で動いています。一度仕組みが回り出せば、追加の国費なしで融資を続けられるのが利点です。

林業改善資金の運営フロー 国・県・林業者間の資金フローを示す 林業改善資金の運営フロー 国(林野庁) 原資2/3補助 都道府県 原資1/3負担 林業者・事業体 融資申請・受給 補助金 融資 特別会計 リボルビング 元利償還 原資は補助金として国から県へ。県が積立てて融資の元手とする。 融資→元利償還で再度融資原資として循環するリボルビング・ファンド方式。 融資審査は県の林業改善資金審査委員会で実施。 出典:林業改善資金助成法、林野庁「林業改善資金制度の解説」
図2:林業改善資金の運営フロー

申請は、まず県の林務課や地方林業事務所への事前相談から始まります。対象になるか、融資枠は空いているか、何を揃えればいいかを確認したうえで、事業計画書(投資内容・見積書・収支計画)を作り込む。機械購入なら、年間稼働日数や搬出見込みまで書いた稼働計画を求められるのが普通です。審査委員会は年4〜6回の定例で、申請から実行まではおおむね2〜3ヶ月。導入機械の納期から逆算して、最低でも半年前には動き出すのが安全です。

他制度との使い分け

林業者向けの公的金融は、これひとつではありません。新規就業者の研修を支える緑の雇用事業(助成金)、日本政策金融公庫の各種融資など、それぞれ得意分野が違います。ざっくり言えば、林業改善資金は小規模・個人・労働改善、公庫の林業基盤整備資金は中規模・法人・大きな設備投資、緑の雇用は新規就業という棲み分けです。

制度名 運営主体 融資限度 利率 主な使途
林業改善資金 都道府県 1,800万 無〜1.5% 機械・労働改善
緑の雇用事業 林野庁 −(助成) 新規就業研修
農林漁業セーフティネット 日本政策金融公庫 1,500万 0.5〜1.0% 経営安定資金
林業基盤整備資金 日本政策金融公庫 2億円 1.0〜1.5% 中規模設備投資
森林整備事業補助金 林野庁 −(補助) 造林・間伐

実務では、これらを組み合わせる「制度ミックス」が定番です。新規就業して独立する局面なら、緑の雇用の研修助成(月15万円程度)に青年就業準備資金を重ねて生活費と初期機材を賄う。機械を更新するなら、生産高度化資金で1,800万円までを低利調達し、残りを補助金と公庫融資で組む。労働環境を刷新するなら、労働改善資金で安全装備を、休憩棟は補助金で――といった具合に、規模と局面に応じて財源を束ねるのがコツです。

条件は良いのに、なぜ使われないのか

無利子や年1.5%という破格の条件にもかかわらず、利用率は林業従事者比で1〜2%程度にとどまります。理由は主に3つ。申請手続きが煩雑で事業計画書づくりの負担が大きいこと、担保・保証人が原則必要で零細林業者には壁が高いこと、そして前述の機械の更新サイクルと融資期間のミスマッチです。

林業改善資金 用途別配分 年間貸付の用途別構成を示す 林業改善資金 年間貸付の用途別配分(概念) 林業機械購入 50% チェーンソー・ハーベスタ等 育苗施設 18% コンテナ苗生産設備 木材加工 14% 小規模製材機械 労働安全 10% 防護服・通信機器 就業準備 8% 新規就業者生活費 高性能林業機械(ハーベスタ・フォワーダ)の購入が貸付の中心。 育苗施設は近年の主伐再造林推進と連動して件数増加。 出典:林野庁「林業改善資金の活用実績」、概念的構成
図3:林業改善資金の用途別配分

地域差も大きく、北海道・宮崎・岩手・秋田・大分などの林業県では年20〜40件規模で動く一方、林業の盛んでない県では年5件未満も珍しくありません。これは林業活動の規模差だけでなく、申請を伴走する林業普及指導員の手厚さ、つまり行政側の支援体制の差を映しています。

担保についても、山林を差し出そうにも地形や林齢構成で評価額が伸びず、住宅などの追加担保を求められるケースがあります。これに対し、いくつかの県では林業信用基金と連携した保証付き融資や、森林組合が連帯保証する組合員向けパッケージを用意して、個人担保の不足を補っています。申請前に、利用できる保証スキームを県の林務課で確認しておくと話が早く進みます。

「機械金融」から「グリーン林業投資」へ

制度は1976年の制定以来、時代に合わせて姿を変えてきました。当初は生産技術の近代化が主目的で、1990年代の労災多発を受けて労働改善資金が拡充され、2003年の緑の雇用創設に合わせて青年就業準備資金が加わりました。近年はスマート林業の流れで、ドローンやレーザ計測機器、GNSS搭載の機材などへと融資対象が広がっています。再造林の自動植栽機や、森林環境クレジット創出に必要な計測機材なども、いずれ対象に整理されていくでしょう。脱炭素・グリーン成長戦略との接続が進めば、この資金は「機械金融」から「グリーン林業投資金融」へと軸足を移していくはずです。

使い勝手を上げる課題もはっきりしています。申請のデジタル化、林業信用基金や県保証協会と連携した保証メカニズムの拡充、そして地銀・信金が市中側を、改善資金が政策側を担う協調融資。このあたりが進めば、運転資金から設備資金まで一気通貫で支えられるようになり、件数の底上げが期待できます。

よくある質問

誰が利用できる?

年間60日以上林業に従事する個人、林業を主業とする法人、森林組合、認定林業事業体などが対象です。新規就業者は青年林業者就業準備資金の枠で、別途の要件が設定されています。

緑の雇用との併用はできる?

できます。緑の雇用は研修期間中の助成金、改善資金(青年就業準備)は同時期の生活費・機械の融資。両者を組み合わせて新規就業者の基盤づくりを支える設計で、地域おこし協力隊や移住支援金と重ねる自治体パッケージも各地で運用されています。

申請から実行までどのくらい?

都道府県によりますが、おおむね2〜3ヶ月。事業計画書の作成、書類提出、審査委員会の承認、契約締結というステップを踏みます。機械故障など緊急性が高い場合は早まることもありますが、計画的な投資を前提とした制度なので、納期から逆算して早めに事前相談を始めるのが安全です。

まとめ

無利子・超長期・据置あり――民間ではまず組めない条件で、機械や安全装備、新規就業の生活費までカバーする。それが林業改善資金です。年200〜400件、残高100億円という規模はけっして大きくありませんが、市場の論理だけでは資金が回りにくい零細・新規・労働改善といった領域を、政策金融として下支えしています。条件の良さに反して利用が広がらないのは、手続きの煩雑さと担保のハードル、機械寿命とのミスマッチが理由。だからこそ、緑の雇用や公庫融資、補助金と束ねる「制度ミックス」の発想が、これからの林業金融活用の鍵になります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次