ジビエ|森林資源としての野生動物利用

ジビエ | 森と所有 - Forest Eight

日本のジビエ利用量は2023年度に2,189tに達し、2016年度比で約2.7倍に拡大しました。全国の野生鳥獣による農林業被害額は156億円(2022年度、農水省)で、捕獲頭数はシカ約72万頭・イノシシ約59万頭。捕獲した個体のうちジビエ利用されるのはシカ12%・イノシシ7%にとどまり、残り約8割は埋設・焼却処分です。本稿では、森林資源としての野生動物利用を、捕獲数・処理施設数・流通規模・経済価値の4軸から構造的に解剖します。シカ1,420t・イノシシ647tで94%を占めるジビエ市場、全国744食肉処理施設、国産ジビエ認証40施設、ペットフード300t(5倍増)、農林業被害156億円のうち森林被害60億円、シカ食害による下層植生破壊と造林苗木被害(年間120万本超)まで、政策・産業・生態系の3面から整理します。

この記事の要点

  • ジビエ利用量2,189t(2023年度)。2016年度比2.7倍に拡大。
  • シカ1,420t(65%)・イノシシ647t(30%)で94%を占有。
  • 食肉処理施設:全国744施設。国産ジビエ認証40施設のみ。
  • シカ捕獲72万頭・イノシシ59万頭(2022)。利用率10%未満。
  • 農林業被害額156億円のうち森林被害約60億円。
  • 残り90%は埋設・焼却処分。1頭処分コスト3,000〜8,000円。
  • 推計流通額約150億円(被害額とほぼ同額)。
  • ペットフード300t(2017年60tから5倍増)。
ジビエ利用量 2,189 t/年(2023) 2016年比 2.7倍 シカ65%イノ30% 捕獲数 131 万頭 シカ72+イノ59 利用率10%未満 処理施設数 744 施設 2023年度 認証は40施設 農林業被害 156 億円 2022年度 うち森林60億円
図1:ジビエの主要諸元(出典:環境省鳥獣統計、農水省ジビエ利用実態調査、林野庁森林被害統計)
目次

クイックサマリー:ジビエ利用の基本数値

指標 数値 出典・備考
ジビエ利用量(2023年度) 2,189t 農水省ジビエ利用実態調査
シカ利用量 1,420t 全体の64.9%
イノシシ利用量 647t 全体の29.6%
その他鳥獣 122t 全体の5.6%
食肉処理施設数 744施設 2023年度時点
国産ジビエ認証施設 40施設 2024年5月末時点
シカ捕獲数 72万頭 2022年度、環境省
イノシシ捕獲数 59万頭 2022年度、環境省
農林業被害額 156億円 2022年度、農水省
うち森林被害 約60億円 林野庁推計
処理シカ・イノシシ数 約13万頭 捕獲数の10%
推計流通額 約45〜150億円 農水省6次産業化推計
食肉用利用 1,889t(86.3%) 2023年度
ペットフード 300t(13.7%) 2017年比5倍
1頭処分コスト 3,000〜8,000円 埋設・焼却

ジビエ利用量2,189tの構造

農水省「野生鳥獣資源利用実態調査」によれば、2023年度のジビエ利用量は2,189tで、内訳はシカ1,420t(64.9%)・イノシシ647t(29.6%)・その他鳥獣122t(5.6%)です。シカ・イノシシで全体の94.5%を占めます。利用先別では、食肉が1,889t(86.3%)、ペットフードが300t(13.7%)。ペットフードの増加が近年の傾向で、2017年度の60tから5倍に拡大しました。

ジビエ利用量の推移2016-2023 ジビエ利用量推移 ジビエ利用量の推移(t) 2,500 2,000 1,500 1,000 0 2016 810 2017 1,083 2018 1,572 2019 1,887 2020 1,810 2021 1,943 2022 2,107 2023 2,189 2016〜2023年で約2.7倍に拡大。コロナ禍で一時停滞も2022年以降回復・拡大
図2:ジビエ利用量の推移(出典:農水省「野生鳥獣資源利用実態調査」)

シカ72万頭・イノシシ59万頭:捕獲の構造

環境省「鳥獣統計」によれば、2022年度の捕獲数はシカ約72万頭・イノシシ約59万頭、合計131万頭に達します。これは1990年代の捕獲数(年間20〜30万頭規模)の4〜5倍に拡大した水準で、シカ・イノシシの個体数増加と農林業被害の深刻化を反映しています。シカの北方系の個体群(北海道・東北)と南方系の個体群(九州・四国・近畿)の双方で、戦後の生息域拡大が継続しています。

区分 捕獲数 処理施設での利用 利用率
シカ 約72万頭 約8.8万頭 約12%
イノシシ 約59万頭 約4.1万頭 約7%
合計 約131万頭 約13万頭 約10%
残り(埋設・焼却) 約118万頭 処分コスト3〜8千円/頭

捕獲数の急増にも関わらず、ジビエ利用率は10%程度にとどまり、残り90%は埋設・焼却処分されます。利用率の低さの主要原因は3つあります。第1に処理施設の地域偏在:744施設は全国に分散していますが、捕獲現場と施設の距離が遠い地域(北海道・東北・四国の山間部)では、捕獲後の搬送が困難です。第2に捕獲のタイミング・処理状態:くくり罠・銃猟による捕獲は処理施設に持ち込むまでの時間制約(4時間以内)があり、これを満たせない捕獲が多い。第3に流通・販路の限定性:ジビエの食肉小売・外食市場は依然限定的で、処理量と需要のミスマッチがあります。

食肉処理施設744施設の構造

2023年度時点で全国の野生鳥獣食肉処理施設は744施設です。北海道(66施設)、長野(49施設)、岐阜(41施設)、兵庫(40施設)、京都(37施設)等が上位で、シカ・イノシシ生息密度の高い県と一致します。施設規模は年間処理頭数100頭未満の小規模施設が約60%、500頭以上の大規模施設は5%程度で、概ね小規模分散型の構造です。

都道府県(上位) 食肉処理施設数 主要処理対象
北海道 66施設 エゾシカ・ヒグマ
長野 49施設 ニホンジカ・イノシシ
岐阜 41施設 ニホンジカ・イノシシ
兵庫 40施設 ニホンジカ・イノシシ
京都 37施設 ニホンジカ・イノシシ
大分 33施設 ニホンジカ・イノシシ
三重 29施設 ニホンジカ・イノシシ
島根 28施設 ニホンジカ・イノシシ
高知 26施設 ニホンジカ・イノシシ
奈良 22施設 ニホンジカ

国産ジビエ認証制度(2018年農水省創設)は、食肉処理施設の衛生基準・トレーサビリティ・処理工程を認証する仕組みで、2024年5月末時点で40施設が認証取得しています。認証施設のジビエは、ホテル・レストラン・百貨店等の高級流通チャネルで取り扱われ、価格プレミアムが付きます。一方、認証取得施設は全食肉処理施設の5.4%にとどまり、品質保証の制度的浸透は道半ばです。

農林業被害156億円とその構造

農水省「野生鳥獣による農作物被害状況」によれば、2022年度の農林業被害額は156億円に達します。このうち農作物被害は約96億円、林業被害は約60億円。林業被害の内訳は、造林苗木の食害(年間約120万本被害、被害額20億円)、新植地の踏付・剥皮被害(30億円)、特用林産物(しいたけ等)の被害(10億円)等が含まれます。

農林業被害の構造 農林業被害156億円の被害種別構成 農林業被害156億円(2022)の構造 水稲被害 36億円 野菜被害 25億円 果樹被害 20億円 その他作物 15億円 林業(造林) 30億円 林業(剥皮等) 20億円 林業(その他) 10億円 林業被害60億円のうち造林苗木食害が最大、年120万本苗木被害
図3:農林業被害の構造(出典:農水省「野生鳥獣被害」、林野庁森林被害統計)

森林被害の中でも特に深刻なのはシカによる新植地の食害です。スギ・ヒノキ等の苗木をシカが食べることで、再造林の成功率が低下します。シカ生息密度の高い地域(北海道・東北・四国・九州)では、新植地に防護柵(高さ2m)を設置せざるを得ない状況で、設置・維持コストは1ha当たり50〜100万円規模に達します。これが再造林経済を圧迫する大きな要因となっています。

国産ジビエ認証と品質保証

国産ジビエ認証制度(2018年農水省創設)は、食肉処理施設の衛生基準・トレーサビリティ・処理工程を国が認証する仕組みで、認証取得は施設の信頼性向上・販路拡大・価格プレミアムの根拠となります。認証要件は、HACCPに基づく衛生管理、捕獲から処理までの時間管理(4時間以内が原則)、トレーサビリティ記録、衛生講習受講等です。

認証要件 具体内容
HACCP衛生管理 食品衛生上の重要管理点設定・モニタリング
時間管理 捕獲から処理まで4時間以内(季節により2時間)
トレーサビリティ 捕獲日時・場所・捕獲者・処理工程の記録
衛生講習 処理担当者の衛生・解体技術の研修
施設基準 処理場の構造・設備・洗浄能力
定期検査 農水省・自治体による定期立入検査

認証取得済40施設のジビエは、ホテル・レストラン・百貨店等の高級流通チャネルで取り扱われ、シカモモ肉キロ単価3,000〜5,000円・イノシシバラ肉キロ単価2,500〜4,000円のプレミアム価格で流通します。認証なし施設のジビエは、地元飲食店・直売所・個人購入が中心で、価格はキロ1,500〜2,500円水準となります。

ペットフード市場の急成長

ジビエのペットフード利用は2017年度の60tから2023年度の300tへ約5倍に急成長しました。ペットフード化は、食肉に比べて衛生・処理基準が緩く、捕獲後の処理時間制約も柔軟なため、利用拡大の余地が大きい分野です。シカ肉の高タンパク・低脂肪特性が犬猫の高齢化対応・アレルギー対応フードとして評価されており、健康志向のペットオーナーから注目されています。

ペットフード市場 2017年度 2020年度 2023年度
利用量 60t 180t 300t
主要対象 犬・猫 犬・猫・小動物
主要製品 生ジャーキー レトルト・缶詰 多様な製品ライン
価格帯(kg) 2,000〜3,000円 2,500〜4,000円 3,000〜5,000円

ペットフード市場の拡大は、捕獲したシカ・イノシシの利用率向上に大きく寄与する可能性があります。食肉として基準を満たさない部位(内臓・骨等)も、ペットフード原料として活用可能で、捕獲個体の総合的活用が進む構造になっています。北海道・長野・岐阜等の主要捕獲地では、食肉処理施設にペットフード加工施設を併設するケースが増加中です。

シカ食害と森林生態系への影響

シカの個体数増加(北海道で約60〜70万頭、本州・四国・九州合計で約200万頭超)は、森林生態系に深刻な影響を及ぼしています。下層植生の食害による生物多様性低下、新植地・天然更新地の食害、森林土壌の踏圧・流出等、多面的な影響が指摘されています。

シカ食害の影響 主要内容 定量化
下層植生破壊 シダ・草本・低木層の消失 「ディアラインの形成」(地上1m以上に植生がない)
新植苗木食害 スギ・ヒノキ植栽苗の食害 年間120万本被害
樹皮剥皮(角擦り) 成木の皮剥ぎ被害 年間20億円規模
土壌流出 下層植生消失による表土流出 急斜面での顕著な流出
生物多様性低下 下層植生依存種の減少 多様性指数の低下

シカの個体数管理は、農林業被害の軽減と森林生態系の維持の双方から、重要な政策課題となっています。環境省・林野庁・農水省は連携して個体数管理計画(年間捕獲目標の設定)、食害対策(防護柵・忌避剤・植栽法工夫)、ジビエ利用促進(処理施設整備・販路拡大)の3軸を推進中です。

地域別の取り組み事例

ジビエ振興の先進地域として、北海道・長野・大分・兵庫・京都等が個性的な取り組みを進めています。各地域の特徴的な事業モデルを整理します。

地域 特徴的な取り組み 効果・規模
北海道(エゾシカ) 大型処理施設・通年処理体制、エゾシカ協会 年間処理量400t超、観光資源化
長野県(南信州) 「南信州ジビエ」ブランド化、レストラン連携 年間処理200t、観光・教育連動
大分県(豊後) 食肉処理施設30超、給食・社員食堂利用 処理100t超、学校給食月1回
兵庫県(但馬・丹波) 「但馬鹿」ブランド、高級料亭流通 キロ単価5,000円超、首都圏販路
京都府(北部) 「京丹波ジビエ」、地域団体商標 百貨店・通販・ふるさと納税
島根県(中山間地) 地域おこし協力隊によるハンター育成 若手ハンター50人超
高知県(嶺北) イノシシ専門処理、ペットフード加工併設 処理70t、フード加工20t
静岡県(伊豆) 「伊豆ジビエ」、観光・温泉宿連動 処理60t、宿泊・グルメ連動

各地域の取り組みに共通するのは、地域ブランド化・流通連携・観光連動・人材育成の4要素の統合です。単なる食肉処理だけでなく、観光・教育・地域経済再生と連携することで、ジビエの経済価値が地域全体に波及する構造を構築しています。これら先進事例は、他の捕獲多発地域への展開モデルとして、農水省・地域おこし協力隊事業・ふるさと納税等で広く参照されています。

ジビエ流通・小売の構造

ジビエの流通は、業務用(飲食店・ホテル・社員食堂)と家庭用(直売所・通販・百貨店・スーパー)の2チャネルが主流です。業務用は高級レストラン・ホテルでの利用が多く、シカモモ肉キロ3,000〜5,000円、シカヒレ肉キロ8,000〜12,000円のプレミアム価格で取引されます。家庭用は冷凍ブロック・スライス・ソーセージ・ハンバーグ等の加工品で、キロ2,000〜3,500円水準です。

流通チャネル 主用途 価格帯(kg)
高級レストラン・ホテル 業務用、シカモモ・ヒレ等 3,000〜12,000円
社員食堂・学校給食 業務用、シカ・イノシシミンチ等 1,500〜2,500円
百貨店・専門店 家庭用、ブランド品 3,000〜6,000円
スーパー 家庭用、加工品 2,000〜3,500円
直売所・道の駅 家庭用、地元向け 1,500〜2,500円
通販・ふるさと納税 家庭用、ギフト・贈答 2,500〜5,000円
ペットフード(業務・小売) 犬猫向け 2,000〜5,000円

ふるさと納税のジビエ商品は、近年急成長分野で、年間流通額20〜30億円規模に拡大しました。北海道・大分・京都・兵庫・島根等の主要捕獲地では、ふるさと納税のジビエ返礼品が地域経済の重要な収入源となっています。これは消費者にとっては地域支援と健康志向食品購入の両立、自治体にとっては地域の特産品としてのアピール機会という、双方メリットの構造です。

ハンター(狩猟者)の構造と高齢化

シカ・イノシシ捕獲を担う狩猟者(ハンター)は全国約20万人で、うち実際に活動するアクティブハンターは約10万人と推計されます。1970年代の約60万人から大幅に減少し、平均年齢は約66歳と高齢化が著しい状況です。一方、近年は地域おこし協力隊・若手移住者の参入で30〜40代のハンターが少しずつ増加しています。

ハンター動向 1970年代 2000年 2023年
狩猟免許所持者 約60万人 約20万人 約20万人(横ばい)
実活動ハンター 約15万人 約10万人
平均年齢 約45歳 約58歳 約66歳
30代以下比率 約30% 約10% 約8%
女性比率 1%未満 約2% 約4%

ハンターの高齢化・減少は、シカ・イノシシ個体数管理の継続性に関わる重大な課題です。猟友会・地域おこし協力隊・若手育成事業を通じて、20代・30代の新規参入を促進する取組みが各地で進められています。「狩りガール」と呼ばれる若手女性ハンターの増加(年4%)も、業界の活性化として注目されています。

ジビエ料理と食文化

ジビエは伝統的に「狩猟肉」として日本の食文化に組み込まれていました。江戸時代の「ぼたん鍋」(イノシシ鍋)、東北・北海道の「鹿汁」、九州の「鹿刺し」等、各地に郷土料理として伝承されています。現代のジビエは、これら伝統料理に加えて、フレンチ・イタリアン・中華・洋食ハンバーグ・ソーセージ等の多様な調理法が登場しています。

主要ジビエ料理 地域・由来 主要食材・特徴
ぼたん鍋 兵庫・丹波篠山等 イノシシ肉、味噌仕立て
しし鍋・しし汁 東日本各地 イノシシ・シカ肉、汁物
鹿刺し 九州・四国 シカモモ・ヒレの薄切り、わさび醤油
鹿の竜田揚げ 長野・山梨 シカモモを揚げ調理
シカステーキ レストラン業務用 シカヒレ・モモ、レアミディアム
シカワイン煮 フレンチ料理 赤ワイン・香味野菜で長時間煮込み
イノシシソーセージ 地元製造 地元向け加工品
シカハンバーグ 給食・家庭用 子供向け、健康食

ジビエの食文化の広がりは、地域の食イベント(ジビエフェア・ジビエ料理コンクール)、レストラン・ホテルでの提供、料理学校でのジビエ調理講座、家庭料理本の出版等で進んでいます。健康志向(高タンパク・低脂肪)と食文化保全(伝統料理の継承)の両面から、ジビエは現代の日本食文化の一部として再評価されつつあります。

シカ・イノシシ以外の狩猟動物

ジビエの主流はシカ・イノシシですが、その他の狩猟動物も地域ごとに利用されています。北海道のヒグマ、本州のツキノワグマ、北日本のキジ・カモ・カラス、九州・沖縄のイノシシ亜種・特殊な野鳥等、地域固有の野生動物資源が存在します。これらの利用量は合計122t(2023年度、ジビエ全体の5.6%)と少ないですが、地域文化・観光・食文化の側面で重要な役割を果たします。

狩猟動物 主な地域 年間捕獲数(推計) 主用途
ヒグマ 北海道 約700〜1,000頭 食肉、毛皮、工芸品
ツキノワグマ 本州・四国 約2,000〜3,000頭 食肉(限定)、駆除中心
カモ類 全国 数十万羽 食肉、ジビエ料理
キジ 本州 約3〜5万羽 食肉、文化的
ウサギ 全国 数万羽 食肉(限定)
カラス 全国 有害駆除中心 ペットフード等
キョン(特定外来) 千葉・伊豆大島 数千頭 食肉・駆除
アライグマ(特定外来) 全国 約7万頭 処分中心

特定外来生物(キョン・アライグマ・ハクビシン等)の駆除も進んでおり、これらは食肉利用が限定的ですが、ペットフード・肥料利用の研究・実証が行われています。生物多様性保全と地域経済の双方向から、多様な狩猟動物の総合的活用が政策・産業の課題として議論されています。

処理施設の経営構造

食肉処理施設の経営は、地域・規模によって大きく異なります。年間処理数100頭未満の小規模施設は地域の趣味・副業的運営が中心、500頭以上の大規模施設は専業事業者として安定経営、その間の中規模施設は補助金活用と地域連携で経営を維持しています。経営収支の標準モデルを整理します。

規模区分 年間処理頭数 年間売上 主要経営課題
小規模 50〜100頭 500〜1,000万円 収益性低、副業中心
中規模 200〜500頭 2,000〜4,000万円 処理頭数の確保、販路拡大
大規模 500〜2,000頭 5,000万〜2億円 HACCP維持、流通体制
特大規模 2,000頭超 2億円超 多角化(ペットフード等)

処理施設の主要コストは、設備減価償却(HACCP対応設備で数千万円〜1億円超)、人件費、衛生管理コスト、廃棄物処理(残渣・骨等)、保管・冷凍設備運営費等です。これに対して売上は、食肉販売、ペットフード販売、観光体験プログラム等で構成されます。経営の安定化には、年間処理頭数500頭超の規模、複数販路の確保、地域・観光連動の付加価値化が重要要素となります。

ジビエ振興政策の3軸

ジビエ振興政策は、主に農水省・林野庁・環境省の連携で進められています。

  • 第1に処理施設整備支援:農水省「鳥獣被害防止総合対策交付金」により食肉処理施設の整備・改修・機械導入を支援。2018〜2023年で全国200施設以上が新設・改修されました。
  • 第2に流通・販路拡大:「ジビエ消費拡大プロジェクト」により学校給食・社員食堂・自衛隊食堂等での利用促進、首都圏での消費拡大キャンペーンを展開。
  • 第3に認証・ブランド化:国産ジビエ認証制度・地域ブランド登録(伊豆ジビエ・但馬鹿等)により、品質保証と価格プレミアム獲得を促進。

これら3軸の連携により、2030年度のジビエ利用量は3,500〜4,000tの目標が設定されています。これは2023年度比で約60〜80%の拡大で、捕獲利用率を10%から15〜20%に引き上げる構造を目指しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. ジビエ利用率はなぜ10%しかないのですか?

3つの要因があります。第1に処理施設の地域偏在で、捕獲現場と施設の距離が遠い地域での搬送が困難。第2に捕獲後4時間以内の処理時間制約。第3に流通・販路の限定性で、需要と処理量のミスマッチ。これら課題の解消に向け、施設整備支援・流通促進・認証ブランド化の政策が進められています。

Q2. 国産ジビエ認証とは何ですか?

2018年農水省創設の認証制度で、食肉処理施設のHACCP衛生管理、4時間以内の処理時間管理、トレーサビリティ、衛生講習等の要件を満たす施設が認証取得できます。2024年5月末時点で全国40施設が認証取得済で、ホテル・レストラン・百貨店等の高級流通チャネルで取り扱われ、価格プレミアム(食肉キロ3,000〜5,000円)が付きます。

Q3. シカ・イノシシ捕獲はだれが行うのですか?

主に都道府県・市町村に登録された猟友会会員(約10万人)が、有害鳥獣捕獲許可・狩猟免許に基づいて行います。一部は専門的な野生鳥獣管理事業体(民間会社)が、市町村からの委託で集中的捕獲を実施します。捕獲後の処理は、現場埋設・焼却が大部分(90%)、食肉処理施設への搬送が10%です。

Q4. ジビエは安全ですか?

国産ジビエ認証施設で処理されたジビエは、HACCPに基づく衛生管理が徹底されており、安全性が確保されています。一方、自家消費・直接購入のジビエは、E型肝炎ウィルス・寄生虫等のリスクがあり、十分加熱(中心温度75℃で1分以上)が必要です。冷凍保存後の解凍・加熱を徹底することが推奨されます。

Q5. ジビエの主な味・特徴は?

シカ肉は高タンパク(20〜25%)・低脂肪(2〜5%)・低カロリーで、赤身が中心。鉄分が牛肉の2倍以上。イノシシ肉は脂肪含量が高く(15〜20%)、特に背脂・バラ肉は濃厚な風味。両者とも独特の野生味があり、香辛料・赤ワイン・煮込み調理との相性が良いとされます。和食では鍋料理・炊込みご飯・郷土料理(ぼたん鍋・しし鍋)として親しまれます。

Q6. ペットフード市場の今後は?

2017年60tから2023年300tへ5倍成長で、年率20〜30%の高成長が続く分野です。シカ肉の高タンパク・低脂肪特性が犬猫の高齢化対応・アレルギー対応フードに適し、健康志向ペットオーナーの需要が拡大中。北海道・長野・岐阜等の主要捕獲地でペットフード加工施設の新設が相次いでおり、捕獲個体の総合的活用に大きく寄与する見通しです。

関連記事

  • シカ個体数管理|本州・北海道の200万頭超
  • イノシシ農林業被害|地域別の構造
  • 国産ジビエ認証|2018年制度創設
  • 有害鳥獣捕獲|猟友会10万人体制
  • ペットフード市場|ジビエ活用の急成長
  • 食害対策の防護柵|1ha 50〜100万円

まとめ

日本のジビエ利用量は2023年度2,189tで2016年度比2.7倍に拡大、シカ1,420t(65%)・イノシシ647t(30%)が中心です。全国744食肉処理施設、国産ジビエ認証40施設、シカ72万頭・イノシシ59万頭の捕獲(合計131万頭)に対し、利用率は10%にとどまり、残り90%は埋設・焼却処分(1頭3,000〜8,000円のコスト)です。農林業被害156億円のうち森林被害60億円(造林苗木年120万本食害含む)、シカ食害による下層植生破壊・生物多様性低下が深刻な状況。ペットフード市場は2017年60tから2023年300tへ5倍成長で利用率向上に寄与。処理施設整備・流通販路拡大・認証ブランド化の3軸政策で、2030年度の利用量3,500〜4,000t目標が設定されています。シカ個体数管理と森林生態系維持の双方から、ジビエ振興は中期的に重要な政策課題となります。

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