林業で働くと聞くと、チェーンソーを握って木を伐る姿を思い浮かべるかもしれません。でも、その先には意外なほど幅広い道が続いています。現場で技を磨くベテラン、施業計画を設計する技術者、所有者を支える行政の普及指導員、研究で支える研究者――林業のキャリアは大きく4つのトラックに分かれ、それぞれに目指せる資格が用意されています。この記事では、森林技術士・林業技士・林業普及指導員・フォレスターといった主要資格と、入職から20年でたどる道のりを整理します。
現場・技術・行政・研究、4つの道
林業のキャリアは、現場作業・技術職・行政職・研究職の4トラックに大別できます。必要な資格も経験も年収レンジも違いますが、互いに行き来できないわけではありません。実際、もっとも多いのは「現場から技術へ」の流れ。伐木・造材を10年以上経験した人が林業技士や森林情報士を取って施業設計に移る、というパターンです。技術職から市町村の林務職員へ転じる人もいますし、現場から普及指導員試験を経て行政に入る道もあります。研究職だけは博士課程を経るのが基本で、他トラックからの移動は限られます。
技術職の頂点:森林技術士と林業技士
技術職の最高峰が森林技術士です。技術士法に基づく国家資格で、森林部門は「林業」「森林土木」「森林環境」の3科目に分かれます。合格率は一次で10〜15%、二次で5〜10%という難関で、登録者は約2,400人。業務独占はないものの、公共事業の林道・治山設計の要件になったり、コンサルタント業務での信用になったりと、実務的な重みがあります。保有者の年収は600〜1,000万円が中心で、独立コンサルなら1,000万円を超える例もあります。
もう少し実務寄りなのが林業技士。日本森林技術協会が運営する民間資格で、累計登録者は約8,000人。実務経験5年以上で取得しやすく、林業経営・森林土木・森林評価・森林情報の4分野に分かれます。森林経営計画の認定書類づくり、森林環境譲与税事業の技術指導、森林経営管理制度の意向調査など、現場に近い場面で活躍する資格です。森林組合本所や林業コンサルに多く所属し、年収は450〜700万円が中心。ざっくり言えば、林業技士が中堅技術職、森林技術士が管理職・コンサル層の標準資格、という住み分けです。
行政を支える林業普及指導員とフォレスター
所有者や林業従事者を技術面で支えるのが林業普及指導員です。都道府県が配置する地方公務員の特別資格で、全国に約1,400人。仕事は所有者・従事者への技術指導、地域林業計画の策定支援、スマート林業の普及、緑の雇用研修生のフォローと多岐にわたります。なるには、都道府県の林業職として採用されたうえで資格試験に合格し、3段階の研修を修了する必要があります。年収は給与表に準拠して450〜850万円です。
2011年に林野庁が始めたフォレスター制度は、市町村の森林管理を担う人材を育てる認定研修です。森林情報管理・施業計画・路網設計・林業経営・地域連携の5領域を学び、修了者は累計約2,500人。とくに2019年施行の森林経営管理制度では、所有者の意向調査や経営委託契約の調整といった中核実務を担います。市町村職員・都道府県職員・森林組合職員・コンサルと、さまざまな立場の人が研修に参加するのが特徴です。なお現場の搬出実務では、スイングヤーダ等を指揮する林業架線作業主任者(累計取得者5万人超)や作業道作設オペレータ(累計約3,000人)が、ベテランの賃金交渉の根拠にもなる重要資格です。
入職から20年、年収はどう上がるか
多くの人がたどる道のりを20年で描くと、こうなります。20代で緑の雇用研修生として入職し、3年の研修でチェーンソーや刈払機など基本資格8種を取得。5年目までに林業架線作業主任者と車両系建設機械の技能講習を取り、中堅へ。10年目で職長教育と作業道作設オペレータ研修を終え、班長・職長に。15年目あたりで技術職に転じる人は林業技士を取り、20年目以降に管理職やコンサルを目指す人は森林技術士・フォレスターへ――という階段です。
賃金の形は大きく3種類。日給制(1日12,000〜18,000円、ベテランは20,000円超)、出来高制(素材生産量に応じた歩合)、固定給制(森林組合本所・大手林業会社)です。下の表に、職種・階層ごとのおおよその年収を整理しました。注目したいのは、出来高制のベテラン伐木手が600〜800万円に届くこと。技能を磨けば現場一筋でも高い賃金を得られるのが、この仕事の面白いところです。
| 職種・階層 | 年収レンジ | 主な所属先 |
|---|---|---|
| 緑の雇用研修生(1〜3年) | 280〜340万円 | 森林組合・林業会社 |
| 中堅作業員(5〜10年) | 380〜500万円 | 森林組合・素材生産業者 |
| 職長・班長(10〜15年) | 500〜650万円 | 森林組合・大手事業体 |
| ベテラン伐木手(出来高) | 600〜800万円 | 素材生産業者 |
| 技術職(林業技士) | 450〜700万円 | 森林組合本所・林業コンサル |
| 行政職(普及指導員) | 450〜850万円 | 都道府県・市町村 |
| 森林技術士 | 700〜1,000万円 | コンサル・独立 |
入口の緑の雇用、そして広がる選択肢
多くの人にとって入口になるのが、2003年度に始まった緑の雇用です。新規就業者を3年間の研修生として雇いながら、基本資格と技能を段階的に身につけさせる仕組みで、累計修了者は45,000人を超えました。研修生は月額18〜22万円の基本給を受けつつ修業し、研修費の一部は林野庁から事業体に補助されるため、雇う側の負担も軽くなります。修了後3年の定着率は60〜70%。林業大学校・林業アカデミーも全国に20校以上に増え、緑の雇用より理論を深く学べる入口として機能しています。
女性の就業も着実に進んでいます。2020年時点で女性林業就業者は約5,800人(就業者の約13%)。育林作業を中心に、機械オペレータや普及指導員でも女性が増え、林業大学校の女性入校率は20〜30%に達します。さらに視野を広げれば、森林インストラクター(約3,500人)や樹木医(約3,300人)といった周辺資格で、環境教育・公園管理・健康分野へキャリアを伸ばす道もあります。これからはスマート林業に対応したドローン・GISの専門資格や、クリーンウッド法・J-クレジット関連の実務者資格も整備されていく見通しです。チェーンソー一本から始まった道が、これだけ多方向に枝分かれしている。林業のキャリアは、思っているよりずっと懐が深いのです。

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