ドローンRGBオルソフォトは、UAVに積んだ可視光カメラで連続写真を撮り、Structure from Motion(SfM)という技術で正射投影画像(オルソフォト)に仕立てる手法です。地上分解能(GSD)2〜10cm、平面精度±10cm以内の高精細画像が得られ、ナラ枯れ・松枯れ・気象害・違法伐採といった森林被害の判読に使われます。林野庁の害虫被害調査では、人手の現地踏査に比べて調査時間を80%以上短縮し、面積把握は±5%以内とされています。LiDARに比べて機材が1/5〜1/10と安く、被害判読を主目的とする現場では第一選択の技術です。
オルソ画像はSfMでつくる
オルソフォトとは、空中写真の中心投影歪みを取り除き、地図と同じ正射投影に直した画像のこと。ドローンが普及する前は有人機での専門撮影と高価な図化機が要りましたが、SfM技術のおかげで汎用カメラの連続写真からも高精度なオルソが作れるようになりました。SfMはコンピュータビジョンの一手法で、複数視点の写真から特徴点を自動マッチングし、カメラ位置と3D形状を同時に推定します。
処理は、特徴点検出 → 画像間マッチング → バンドル調整(カメラ位置・姿勢・レンズ歪みを推定) → 密点群生成(MVS) → DSMとテクスチャによるオルソ生成、の5段階。30ha・対地150mの撮影なら300〜500枚の写真から数千万点の密点群が生まれます。RGB単独でも色相変化(緑→黄→褐)を捉えればナラ枯れ・松枯れの後期は十分判読でき、コスト効率からRGB単独運用も広く採られています。近赤外を取れるマルチスペクトルカメラ(Parrot Sequoia、MicaSense RedEdge等)を足せばNDVIで初期被害まで拾え、判読精度が10〜15ポイント上がると森林研究整備機構が報告しています。
撮影設計とGSDの決まり方
標準パラメータは、対地高度100〜150m・前方オーバーラップ80%・横60〜70%・カメラは鉛直下向き(Nadir)・速度5〜8m/s。1フライト約30分で30〜50ha、長時間飛行機なら80ha規模をカバーできます。
GSDは対地高度・焦点距離・センササイズ・画素数で決まります。DJI Mavic 3 Enterprise(1インチ・2,000万画素)なら対地100mでGSD約2.7cm、150mで約4.1cm。被害判読ではナラ枯れの単木検出にGSD 5cm以下、松枯れの群状被害の境界把握にはGSD 10cm以下が目安です。絶対位置を合わせるには地上基準点(GCP)を5〜10箇所置くか、RTK搭載機を使います。森林内に標識を置くのは煩雑なので、RTK機(DJI Phantom 4 RTK等)でGCPなし±5cmを狙うのが現実的です。
どんな被害が判読できるか
RGBオルソは森林被害の早期発見・面積把握・経年モニタリングに広く使われます。主な対象は、ナラ枯れ、松枯れ、風倒・雪倒、違法伐採、山火事跡地、獣害の6つ。被害ごとに判読の手がかりと適期が異なります。
| 被害種別 | RGBでの判読特徴 | 判読適期 | 面積把握精度 |
|---|---|---|---|
| ナラ枯れ | 夏季に葉が赤褐色化 | 7〜9月 | ±5% |
| 松枯れ | 針葉が黄変→赤褐色 | 8〜11月 | ±5〜8% |
| 風倒・雪倒 | 樹冠の倒伏・林床露出 | 直後〜1年 | ±3% |
| 違法伐採 | 伐根・切株・林床露出 | 通年 | ±2% |
| 山火事跡地 | 炭化・植生消失 | 直後〜数ヶ月 | ±2〜3% |
| 獣害(剥皮) | 樹冠衰弱・部分枯死 | 夏季〜秋 | ±10〜15% |
ナラ枯れはカシノナガキクイムシが媒介するナラ菌で、ミズナラ・コナラが集団枯死する病害。林野庁集計で2023年の被害材積は19万m³と高水準です。夏(7〜9月)に被害木の葉が一斉に赤褐色〜橙色へ変わるため、健全木の濃緑との色相差で判別しやすい。山形・新潟などの重篤地では毎年8〜9月に100〜500ha規模を集中撮影し、被害木のマッピングと駆除計画に使っています。
深層学習による自動判読
かつては専門技術者の目視判読が主体でしたが、深層学習の進展で自動判読の精度が飛躍的に上がりました。U-Net、Mask R-CNN、YOLOといったセグメンテーション・物体検出モデルにより、ナラ枯れ被害木の検出はIoU 0.7以上、F1スコア0.85〜0.92に達しています。森林研究整備機構と新潟大学の共同研究では、新潟県のナラ枯れ被害地でMask R-CNNを訓練し、Recall 92%・Precision 88%・F1=0.90を達成。林野庁の保護林管理でも導入が進み、目視判読に比べ作業時間を90%削減した事例があります。ただしAIは地域・季節・樹種が変わると精度が落ちるため、都道府県・被害種別ごとの再訓練(ファインチューニング)が前提になります。
判読精度はGSDと直結します。森林研究整備機構の実験では、ナラ枯れ単木の検出精度はGSD 5cmでF1=0.92、10cmで0.85、20cmで0.72と、粗くなるほど急落。逆にGSD 2cm以下なら葉一枚レベルまで解像でき、葉枯れ進行度(軽度・中度・重度)の判別もできます。
違法伐採・気象害の即時把握
定期的な経年撮影を続けると、違法伐採や気象害の即時把握にも効いてきます。北海道では2022年の暴風被害(最大瞬間風速50m/s超)後、ドローン撮影で倒木被害面積800haを2週間以内に把握し、被害材積40万m³規模の搬出計画に活用しました。地上調査なら同規模の把握に2〜3ヶ月かかっていたところで、復旧計画の早期化により風倒木が劣化する前のサルベージ伐採の歩留まりが大きく改善しています。違法伐採の検出では、月次・四半期次の撮影を計画的に行い、前回画像との差分解析でha単位の伐採地を抽出。境界が複雑な民有林・国有林境界の監視に有効で、林野庁の保護林モニタリングでは年2回のオルソ撮影+AI差分解析が標準化されつつあります。
コストと内製化の目安
機材はエントリー機で15〜25万円、業務機(DJI Mavic 3 Enterprise)で60〜80万円、専用RTK機で100〜200万円。これに解析ソフト(Pix4D Mapperで30〜80万円、Metashape Professionalで20万円程度)と高性能PC(30〜50万円)を足して、業務一式200〜350万円が標準的な参入コストです。LiDARの1/5〜1/10で済むのが大きい。撮影単価は外注で1ha 1〜3万円、内製なら1万円以下に抑えられ、年100ha以上の需要があれば3年以内の投資回収が一般的です。県森連や大規模森林組合では、LiDARとRGBオルソの両方を持って用途で使い分ける運用が定着しつつあります。
運用には航空法・電波法・プライバシー配慮がついて回ります。100g以上のUAVは登録義務(2022年)、人口集中地区上空や150m以上は許可が必要。森林域は大半が人口集中地区外で日中・目視内なら許可不要のケースが多いものの、飛行日誌の保存と第三者賠償責任保険(最低1億円)の加入が業界標準です。私有地や人物の映り込みには配慮が要ります。
よくある質問
RGBオルソとLiDARはどう使い分けますか?
RGBオルソは色情報による被害判読・林相把握に強く、安価で参入しやすい。LiDARは樹高・本数・3次元構造の把握や樹冠下の地形計測に強いです。被害判読・面積把握・違法伐採検出ならRGBで十分、施業計画・路網設計・材積推定にはLiDARが必要。両者を組み合わせるのがベストです。
撮影に最適な天候は?
晴天〜薄曇り・風速5m/s以下・降雨なしが理想。強い直射日光は影が濃くなって判読精度が下がるので薄曇りが最良です。早朝・夕方は影が長くSfMの特徴点マッチングが落ちるため、太陽高度の高い10〜14時が推奨です。
撮影面積に上限はありますか?
バッテリー容量と解析PC性能で決まります。1フライト30〜80ha、1日複数フライトで200〜500haが現実的な上限。500ha以上では画像が3,000枚を超え、SfM処理に12時間以上かかるため、PC性能とディスク容量がボトルネックになります。
マルチスペクトルとの組み合わせ
RGB単独では植物活性度・水分ストレス・初期被害の検出に限界があります。これを補うのがマルチスペクトル(赤・緑・青・近赤外・レッドエッジの4〜10バンド)カメラ。NDVIやNDREの算出で、色が変わる前の萎凋といった初期被害まで拾えます。数十〜数百バンドのハイパースペクトルは樹種判別や葉緑素推定までできますが、価格1,000万円超・解析難度が高く研究用途が中心です。林業現場の標準は「RGB+マルチスペクトル+LiDAR」の3点セットへと発展しつつあり、撮影頻度はRGBが年2〜4回、マルチスペクトルが年4〜6回、LiDARが3〜5年に1回という設計が一般化しています。

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