私有林の所有規模|山の4分の1は「0.46人」のもの、だから集約化が要る

山の4分の1を持つのはわずか0.46人

「日本の私有林は、みんなが少しずつ持っている」。よく聞く説明だが、半分しか合っていない。「みんな」は確かにいる。「少しずつ」ではない。

山を1ha以上持つ世帯(林家)は、2020年に69.0万戸。持っている山は459万ha。数が大きすぎて実感がわかないので、両方を100に縮めて、ひとつの村にしてみる。

100人の村にすると、山の4分の1を持つ人は「0.46人」林家69.0万戸と保有山林459万haを、それぞれ100に縮めた(2020年)人(100世帯)山(100区画)← 101人目。100ha以上の世帯は「0.46人」で、1人に届かない現実の村に0.46人は住んでいないが、統計の世界では人は割り切れる1〜3ha:人56.5%・山13.9%3〜5ha:人17.7%・山9.5%5〜20ha:人20.7%・山27.3%20〜50ha:人3.8%・山16.1%50〜100ha:人0.8%・山8.0%100ha以上:人0.46%・山25.3%
図1:出典:農林水産省「2020年農林業センサス」(林野庁「森林・林業統計要覧2024」表47)。林家は保有山林1ha以上の世帯で、会社・社寺・財産区などの林業事業体は含まない。割合(%)を1人=1%、1区画=1%に丸めて並べた(最大剰余法)。100ha以上の世帯は0.46%で1人に届かないため、人形の左46%だけを塗り、残りを点線で示した。

村には100人がいる。うち56人は1〜3haの持ち主で、山の14区画を分け合っている。一方、山の25区画、つまり4分の1を持っているのは100ha以上の層だ。その人数は0.46人である。

0.46人とは何か。半分に満たない人だ。寄り合いに0.46人の席は用意できないし、回覧板も回しようがない。だが統計の世界では人は割り切れる。実数に戻せば、3,157世帯が116万haを持っている。岐阜県の面積(約106万ha)より広い。1世帯あたりの平均は368haになる。

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「林家」と「林業経営体」は、別の入口から数えられている

先に断っておくことがある。いま見た69.0万戸・459万haは、すべて世帯の数字だ。会社も森林組合も財産区も、最初から入っていない。

センサスの用語解説によれば、林家は保有山林1ha以上の世帯。林業経営体のほうは保有山林3ha以上で森林経営計画などの要件を満たす者、または委託を受けて育林・素材生産を行う者(素材生産は年200m³以上)を指す。経営体は1世帯で営む家族経営体と、それ以外の組織経営体に分かれ、組織経営体はさらに会社(株式会社・合名合資会社・合同会社)、各種団体(森林組合・生産森林組合・農協・林業公社)、その他の法人、地方公共団体・財産区に区分される。

同じ「山を持っている人」を数えているのに、1haの門と3haの門がある。どちらをくぐったかで、その人は世帯になったり経営体になったりする。この記事でも途中から主語が経営体に替わるので、替わるたびに断ることにする。

偏りの大きさを、所得格差の物差しで測る

偏りを1つの数字にする道具に、ジニ係数がある。全員が同じだけ持っていれば0、1人が全部持っていれば1。ふつうは所得格差に使うが、山の面積にも使える。小さい林家から順に並べて、世帯と面積の累積を結んだのが図2のローレンツ曲線だ。線が対角線から下にたるむほど、偏っている。

山のジニ係数は0.64。15年でさらに偏ったローレンツ曲線:小さい林家から順に並べ、世帯と面積の累積割合を結んだ線0050%50%100%100%世帯の累積(小さい林家から)面積の累積下位56%の世帯で面積は14%完全に平等なら、この線2020年0.642005年0.58参考:日本の世帯の当初所得(再分配前・2021年)0.5700に近いほど平等、1に近いほど偏り
図2:出典:農林水産省「2005年・2020年農林業センサス」(森林・林業統計要覧2024 表47)から編集部が計算。保有規模6区分の境目だけで線を結ぶため、区分の中は全員同じ面積とみなしている。実際の偏りはこれより大きく、ジニ係数は下限の値。参考値は厚生労働省「令和3年 所得再分配調査」の世帯単位・当初所得のジニ係数。保有1ha未満の世帯は林家に含まれない。

計算すると、2020年の林家の山林保有のジニ係数は0.64。2005年は0.58だった。規模の区分の中は全員同じ面積とみなす計算なので、本当の値はこれより大きい。

比べる相手として、厚生労働省の「所得再分配調査」(2021年)によれば、日本の世帯の当初所得(税や社会保障で再分配する前の所得)のジニ係数は0.570。山の持ち方は、再分配前の所得よりも偏っている。しかも、15年で偏りが大きくなった。

もっとも、所得のほうには税と社会保障という後工程がついている。0.570はあくまで工程の入口の数字だ。山の面積には、その後工程がない。

15年で減ったのは、小さい山だけ

2005年から2020年にかけて、林家は92.0万戸から69.0万戸へ25%減った。保有面積は518.7万haから459.1万haへ、11.5%の減少にとどまる。減ったのが小さい山だったからだ。

右を向いた矢印は、100ha以上の1本だけ規模別の保有山林面積(万ha)。○が2005年、矢印の先が2020年50万ha100万ha150万ha1〜3ha87→64万ha(−26%)3〜5ha59→44万ha(−26%)5〜20ha161→125万ha(−23%)20〜50ha91→74万ha(−19%)50〜100ha44→37万ha(−17%)100ha以上77→116万ha(+50%)
図3:出典:農林水産省「2005年・2020年農林業センサス」(森林・林業統計要覧2024 表47)。増減率は編集部の計算。100ha以上は戸数がほぼ同じ(3,239戸→3,157戸)で、面積だけが77.4万ha→116.0万haに増えた。

1〜3haと3〜5haは、面積が約26%減った。20〜100haの層も17〜19%減っている。右を向いた矢印は100ha以上の1本だけで、77.4万haから116.0万haへ5割増えた。戸数は3,239戸から3,157戸と、ほぼ同じなのにだ。

そして、この記事でいちばん効くのは地味な数字のほうだ。1〜3ha層の1世帯あたり平均面積は、2005年も2020年も1.64ha。小数第2位まで動いていない。15年で13.7万戸が名簿から消えたのに、残った小さい山は1アールも大きくなっていない。小さい山は、減りはしたが、まとまってはいない。一方、100ha以上の平均は239haから368haに膨らんだ。なぜ増えたのか(売買か、相続による集約か、回答の仕方の変化か)は、統計表からは区別がつかない。

大きな山の持ち主は、山ではなく時間で稼ぐ

ここから主語が経営体に替わる。「規模が大きいほど儲かる」は、どの物差しで測るかで答えが変わる。農林水産省の「林業経営統計調査」(平成30年)で、保有20ha以上の家族経営体を規模別に見ると、1経営体の林業所得は67万円(20〜50ha)から463万円(500ha以上)まで、たしかに増える。

山が大きいほど、1haでは稼がず、1時間で稼ぐ保有山林20ha以上の家族経営体(平成30年)。縦軸は対数目盛1,000円3,000円10,000円08,00016,00024,000保有山林1ha当たりの林業所得(円)→↑ 労働1時間当たりの林業所得最低賃金 874円(2018年度・全国加重平均)20〜50ha 1時間1,093円50〜100ha 1時間1,764円100〜500ha 1時間3,258円500ha以上 1時間11,386円
図4:出典:農林水産省「平成30年林業経営統計調査」(家族経営体・保有山林面積規模別)、最低賃金は厚生労働省(平成30年度地域別最低賃金の全国加重平均)。集計経営体数は20〜50ha 121、50〜100ha 68、100〜500ha 45、500ha以上7。林業所得には造林補助金を含む。林業所得は賃金とは性質の違う数字で、最低賃金の線は大きさの目安として引いた。

ところが保有山林1ha当たりの林業所得は、22,087円から6,798円へ、3分の1以下に下がる。大きな山ほど、1haあたりではむしろ稼いでいない。上がるのは労働1時間当たりの林業所得で、1,093円から11,386円へ10倍になる。1経営体の年間労働時間は702時間から1,348時間と2倍弱しか増えないのに、所得は約7倍だからだ。

目安として、同じ2018年度の最低賃金(全国加重平均)は874円だった。20〜50haの1時間当たり林業所得はその1.25倍、500ha以上は13倍にあたる。ただし500ha以上は7経営体だけの平均だ。

この2本の線の向きが逆なことが、のちの話の土台になる。効いているのは「広い山を持っていること」ではなく、1回の出動でまとめて触れる面積があることのほうだ。山を買い集めなくても、手入れをまとめれば近づける側の数字である。

なお、この統計の対象は保有20ha以上の経営体だ。村の100人でいえば、20ha未満の95人は対象の外にいる。村の多数派の家計簿は、この公的統計には載っていない。載っていない95人の山について語るときは、載っている5人の数字を借りることになる。

所得の増えた分より、補助金の増えた分が大きい

新しい数字も見ておく。令和5年の林業経営統計調査(個人経営体・全国平均)では、粗収益466.5万円、林業所得144.5万円。このうち造林補助金が134.5万円で、粗収益の28.8%を占める。5年前の平成30年は64.8万円(17.1%)だった。

所得は40.7万円増えた。補助金はそれより多く増えた1経営体当たり林業所得の変化を、造林補助金とそれ以外に分けた(万円)050100150200103.8平成30年の所得+69.7造林補助金の増加−29.0それ以外の収支144.5令和5年の所得※平成30年は家族経営体、令和5年は個人経営体の全国平均(調査の対象が変わっている)
図5:出典:農林水産省「林業経営統計調査」(平成30年・令和5年)。造林補助金は平成30年64.8万円(粗収益の17.1%)→令和5年134.5万円(28.8%)。「それ以外の収支」は、所得の増加(+40.7万円)から造林補助金の増加(+69.7万円)を引いた残りで、編集部の計算。補助金は造林の費用とセットで動くため、補助金が所得を押し上げたとまでは言えない。

林業所得は103.8万円から144.5万円へ、40.7万円増えた。同じ5年で、造林補助金は69.7万円増えている。所得の増えた分より、補助金の増えた分のほうが大きい。差し引きすると、補助金以外の収支は29.0万円悪くなった計算になる。これを「経営が上向いた」と呼ぶかどうかは、算数ではなく語彙の問題だ。

ただし、補助金は造林の費用とセットで出るので、「補助金のおかげで所得が増えた」とまでは言えない。令和5年調査から対象が「家族経営体」から「個人経営体」に変わっているので、厳密な比較でもない。言えるのは、林業所得という数字の中で、補助金の重みが増したことだ。

持つ人と、手入れする人は、すでに分かれ始めている

小さな山を、持ち主が自分で経営する形は崩れつつある。2020年の農林業センサスでは、林業経営体(ここも経営体の数字だ)が他人の山を一括して任されている面積が約98万haあった。うち森林組合が約53万ha、民間事業体が約35万ha(令和3年度森林・林業白書)。持ち主は山を持ったまま、手入れは別の主体に預ける形だ。

この流れを市町村が制度として進めるのが、2019年施行の森林経営管理制度だ。仕組みは森林経営管理制度の記事に、財源は森林環境譲与税の記事にまとめた。複数の山をまとめて手入れする考え方は集約化施業の記事で扱っている。

それでも、集約化を進めたほうがいい

ここまで並べた数字から、編集部の立場を書いておく。所有を均すことより、施業をまとめることに手数をかけたほうがいい。理由は3つある。

  1. 放っておいても、まとまらない。1〜3ha層は15年で13.7万戸減ったのに、1戸あたりは1.64haのまま動かなかった。持ち主が減ることと、山がまとまることは、まったく別の出来事である。
  2. 規模で効くのは面積ではなく、1時間あたりの生産性。1haあたりの所得は大きい山ほど低く、1時間あたりの所得は大きい山ほど高い。所有権を買い集めなくても、まとめて施業できれば近づける数字だ。
  3. 分散したままなら、公費の比重が増える。造林補助金は粗収益の17.1%から28.8%になった。小さい山を小さいまま手入れする費用は、どこかが払うことになる。

そして、所有の偏りそのものを均す制度は、公表資料のなかには見当たらない。相続土地国庫帰属制度は国が土地を引き取る出口であって、山をまとめる入口ではない。入口のほうに用意されているのは、森林経営管理制度と集約化施業だ。ない制度を待つより、ある制度を使うほうが早い。

山を相続した人が、先に見るもの

  • 相続登記:2024年4月1日から義務化された。相続を知った日から3年以内に申請する。
  • 相続土地国庫帰属制度:2023年4月27日に始まった。相続などで取得した土地を、一定の要件と負担金のもとで国に引き渡せる。要件は法務省のページで確認してほしい。
  • 森林経営管理制度:市町村が所有者に意向を確認し、経営管理を任せる道がある。連絡の取れない所有者の問題は不在村森林所有者の記事を。

山は、平等に配られていない。そして2005年より、さらに偏った。配り直す仕組みは、統計表のどこにも載っていない。載っていないものを待つ時間で、56人の山を1枚の施業図面にまとめたほうがいい。0.46人を増やす話ではなく、そちらが本題である。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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